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第八十九話 それでも旅は続いていく

王様との面会を無事に終えた僕とビンスさんは、お城で用意してくれた帰りの馬車をお断りしてのんびりと雑談をしながら歩いて帰路についた。


「思えば、ビンスさんと二人だけって今までなかったですね」

「ナオ様のお近くはいつも賑やかですからな。騒がしい我が息子と娘はご迷惑をお掛けしておりませんか?」

「迷惑どころか、凄くお世話になっています。ランスさんは細やかな気配りをしてくださっていますし、リンスさんはなんていうか、場の空気を明るくして下さいます」

「…… そうですか。その様に仰っていただけると光栄でございます」


ふと会話が途切れた、その時。

ビンスさんがまっすぐに僕を見つめながら問いかけてきた。


「ナオ様。もしも、陛下があの男…… 王子をかばい続けていたら。本当にこの国を亡ぼすおつもりだったのですか?」


ビンスさんはこの国を何百年も見守り続けてきたんだ。やっぱりそこは気になるよね。


「王の罪は国の罪…… というのがユニコーンさん達の価値観ですが、僕はそこまで割り切れてはいないです」

「ただ、僕のせいでミリアさんや皆さんにご迷惑をお掛けするのだけは絶対に許容できないので、それを口にした人は絶対に許すわけにはいかなかったんです。言い方は悪いですけど、見せしめは必要だと思っていました」

「……」

「最終的には王様が認めなくても無理やりにでもあの結果に持っていこうと思ってましたけど…… 他にどうしようもなくなったら、やったでしょうね」


そんな事態は全力で避けるつもりだったけど。


「そうですか…… そこまでナオ様に思われているミリア嬢たちが、少し羨ましくもありますな」

「え? ビンスさんもですよ?」


僕がそう返すと、ビンスさんは少し驚いたような顔をして、


「それは…… とても光栄でございます」


そう穏やかにほほ笑んだ。

その笑顔が、なんだか初めて見る表情で、とても印象的だった。





「おかえりー、ナオッチ。どうだった?」

「おかえりなさい、ナオ様。聖剣はご覧になれましたか?」


ビンス邸に戻るとランスさんたちが迎えてくれた。

すぐに他の皆さんも集まってくださったので、城での出来事を話しながら、少し早めの夕食を頂くことになった。




「ナオッチに剣を向けるとか、どんだけバカなんだ、あの王子様!」

「いや、それより聖剣で斬られて、逆に聖剣砕くとか……」

「危なかった。ギリギリでみんな死んでたかも」



あー、やっぱり聖剣折っちゃったのは気になるよねぇ。

多分国宝とかなんだろうし。僕が悪いわけじゃないけど、ちょっと罪悪感はある。


「そういえば、他にも聖剣とか神器とかあるんですか?」


詳しく聞いたことなかったけど、この世界では上位存在の力を宿したものは生き物でも道具でも『与えられしもの』と呼ばれている。

人なら『使徒』とか『英雄』とか、物なら『聖剣』とか『神器』と呼ばれるらしい。

だけど聖剣はあくまで聖剣、お城にあったアレもSerpentariusって呼ばれていたけど、この世界の人にとっては意味のない言葉だったらしい。僕がサーペンタリウスって聞き取ったのは多分『この世界の言葉が分かる』ってチートがうまく作用したんだろう。


「そういえば、ナオ様はあの剣のことをご存じのようでしたな、他にもいくつかあるのか、とか」

「あの剣の名前って僕の地元では大体13個で1セットみたいに呼ばれるものと同じ名前なんですよね。だからおなじシリーズがあるのかなぁって思っただけなんですけど」


(シリーズ? 神器が?)

(神器が地元にセットである、って言葉の意味を考えてくれ、ナオ!)



どうやら他の12種についてはユニコーンさんも含めて皆さん心当たりないらしい。


「そうですか…… むしろ他の12個がメインであれはプラスαのイメージだけど、わざわざ一つだけ創ったのかな?」


なんとなくそれは考えにくい気がするけど。

まぁ、いっか。もう無くなっちゃったしね、あの聖剣。




「ナオ様、今後の予定ですが」


ビンスさんが静かに切り出した。


「ベータ…… ベトンの会頭がナオ様にお渡しする馬車の作成を始めております。併せて馬の準備も。それが完成するまではどうか我が家にご滞在頂き、お寛ぎください」


あ、会頭さんわざわざオーダーメイドの馬車用意してくれてるんだ。ちょっと申し訳ないな。


「馬車が出来上がるまでに、王を通して各地への通達を進めます。その際申し訳ございませんが、ナオ様は肩書だけ『王家直属の治癒師』とさせて頂きたく」

「肩書だけ?」


直属になる気はありませんけど?


「そうか、ナオ君は既に王家がガッチリ抱え込んでいるとなれば、少なくともこの国でナオ君を無理やりどうこうしようとする者は激減するだろうな」

「あ、なるほど。別に王様の命令とか聞かなくてもいいんですよね?」

「勿論でございます。あくまで他の貴族連中を黙らせるための方便でございます」

「わかりました。そういうことなら問題ありません」


「ありがとうございます。また、道中は王家の密命により行動中、ということに致しますので、ナオ様はお好きに動いて頂けます」


なるほどなるほど。王様の秘密の命令で旅をしてるってことなら無理に引き留められることも、どこに行くのか問い詰められることも無いわけだ。

いいね! 王様の威を借る僕、寄らば大樹の陰。

流石ビンスさん、僕が丸投げしている間にそこまでまとめてくれていたのか。やっぱり頼りになる。



「それから…… 王家の命で動いているということならば護衛も必要だ、と」

「えぇー……」


いや、その理屈はわかるよ。だけど、なんか窮屈そうで嫌だなぁ。


「ですので、護衛としてランス、リンスの二名をお連れ下さい」

「え!? いいんですか!?」

「親父殿!?」「パパ!?」


流石ビンスさん!!僕が護衛を嫌がることも想定済みであった!

ランスさんとリンスさんとはまだ出会って日が浅いけど楽しくて頼りになる人たちだ。特にランスさんは貴重な同性の友達候補! これからも一緒に旅ができるのは本当に嬉しいぞ!


ん? お連れ下さい?


「ランス、リンス。お前たち二人もそろそろ王都以外の世界を知っても良いだろう。ナオ様にお仕えしつつ、共に世界を学ぶのだ」

「親父殿……」

「…… パパは、どうするつもりなの?」

「私は王都に残る。ここに集まった者たちを投げ出すわけにはいかんし、メア嬢マァル嬢を正しく導かねばならん」


え……


「…… そうですよね」


ちぐはぐ四人組、ピチータさん、メアさんマァルさん。

今も、今までも、これからも。ビンスさんはここで多くの人たちを育て、導いていく人なんだ。


…… 寂しいけど。



「おい、我はやはりナオと行くぞ」


なんだかしんみりとしてしまった空気を全く読まずに声を上げるユニコーンさん。

なんなの? 上位存在は空気を読んじゃいけない決まりでもあるんですか?


「それは構わないと言えば構わないんですけど…… 面白そうだから、ですか?」


ジト目で光の玉を見る。


「それもある。だが、我が同行すればナオにもメリットはあろう」

「メリット?」

「そこのエルフもだが、以前訪れた街にも、別れた知人がおるのだろう。そ奴らが仮に大怪我や大病を患ったとなればどうする」

「え……」


タバサさんにはお守りも渡したし、ビンスさんはご本人が物凄く強い。

だけど、この世界は前の世界よりずっと危険な世界。

万が一がない、とは言い切れない。


「我が同行しておれば、いざというときにはナオを運んでやろう。我が飛べば、人の旅路など無きに等しい」


ぬぉぉぉぉ!? この聖獣、的確に僕の欲しいものを見抜いているぞ!?


「よろしくお願いしまっす!!」

「うむ、くるしうない」


お読み頂き、ありがとうございます。


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