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第八十四話 決裂

思わず笑ってしまってから自分が何処にいたのかを思い出す。


「すみません。失礼しました」


謝りつつ、周囲の反応を伺う。

偉い人たちはしかめっ面をしてる人と特に反応してない人が半々くらいかな?

王妃様、王女様はあまり気にしてなさそう。まだまだ他のことに気を取られてるからね。

王様は、少し厳しい眼でこっちを見てる。王子様は


「貴様、どういうつもりだ! 陛下に直接お声を掛けられるだけでも庶民にはもったいないことだというのに、御下問に答えぬどころか剰え笑うなどと!」


めっちゃ怒ってる。しまったなぁ。


「よい、控えよ。タギネス」

「しかし!」

「控えよ。…… 何故笑ったのか、お聞かせ願えるかな、ナオ殿」


王様が抑えてくれた。ごめんなさい、助かります。


「いえ、僕こそ失礼しました。笑ったのは、その……」


正直に言ったらまた怒られるかな? でも嘘は良くないよね。ここは正直に答えよう。


「どの世界でも偉い人が考えることって結局そこなんだなぁ、と思ったらちょっとおかしくなってしまって…… 本当に失礼しました」


ぺこり、と頭を下げて謝ると周囲が空気が一瞬変わった気がした。


「それは、一体……?」

「おい、そんなことより質問にお答えしろ! 不老不死、可能なのか!?」


一瞬のその空気は王子様の声でかき消された。


「不老長寿ならともかく、不老不死は無理ですよ。大抵の人は首を切り落とされれば死にます。それとも首だけになっても生きたいですか?」


首だけになっても生きるとかそれはもはや呪いだと思うよ?


「…… 流石に不死は叶わんか」

「それはそうですよ。僕だって、殿下だって、そこの強そうな衛兵の方だって首が飛べば死にます」


「…… お待ちを。不老長寿ならともかく、と仰られたな。…… つまり、不老は可能だ、と?」



不老は出来る。僕がずっと側に居て毎日癒し続ければ。多分ね。


「わ、若返りは! 若返りは出来るの!?」


ここぞとばかりに全力で食いついてきたなぁ、王妃様。

癒すときに少しづつ若返る方向で力を使えば出来るんじゃないかな? 物凄くゆっくり、それこそ何年もかけてやっと一歳分、くらいの速度だと思うけど。


そう答えると大小さまざまな声が辺りを包む。

喧噪の中、王子様が大きな声を上げる。


「これまででも、貴様が役に立つということは充分わかった。よかろう、王家に直属で仕えることを許す。励めよ」

「あ、僕、旅をする予定なのでお仕えすることは出来ません。ごめんなさい」


もともと旅をしやすくするために貴族の人とかを抑えてもらえるようにお願いしに来てるんだよね。王子様は聞いてなかったのかな?


「貴様が与えられしものだというのは認めよう。だが、価値があるのはその力であり貴様ではない。平民たる貴様に王子であり、同じ神に選ばれた与えられしものである俺の命令に逆らう権利はない」

「殿下が与えられしものでも僕には関係ないですし、そもそも僕、この国の人間じゃないし」

「俺の命が聞けんのか?」

「下がれ、タギネス」

「しかし、父上」

「下がれと言ったのが聞こえぬのか」


やばい、王子様を激おこにしちゃったかも。な、なんか別の話題ないかな…… あ、そうだ!


「で、殿下は与えられしものだそうですが、どのようなお力を?」


話を逸らせ! きっとこの王子様は自分の話するのは大好きなタイプ! でしょ?




…… うわー、凄い眼で睨まれてる。ちょっと露骨すぎたかな……


「フー…… まぁ、いい。貴様は力を見せたのに俺が見せぬという道理もなかろう。俺は王家に伝わる聖剣・Serpentariusに選ばれし、無痛の王。この聖剣は剣自身に選ばれたものしか鞘から抜くことすらできんのだ」


そう言って腰に佩いていた剣を掲げて見せてくれる王子様。理性的にお話が出来るの素敵です。

やっぱりアレが聖剣だったのか。

うーん、でも……?


「Serpentarius……? サー ペン…… あ! サーペンタリウスか! 蛇使いだ! カッコいい!!」


最初なんて言ったのかわからなかったけどSerpentarius、サーペンタリウスね。14歳の心を擽ってくるじゃん!

僕が思わず叫ぶと、王様たちが一斉に驚いた顔をした。


「蛇使い…… 何故、このSerpentariusをみて蛇などという単語が出る?」

「え、だってサーペンタリウスって『蛇を持つもの』って意味ですよね? えー、聖剣の名前がサーペンタリウスってことは他に12個あるのかな? いやいや、まてよ。他の神器も合わせて全88種類ってことも?」


うわー、テンション上がってきた! この聖剣だけが星座の名前っぽいのが付けられている可能性もあるけど、他の12星座とか、星座の名前シリーズで全88個あるのかも、とか色々妄想が膨らむなぁ。

あえてラテン語風の名前ってことは12星座絡みな予感がする。聖杯・ライブラとかね! 絶対かっこいいよね、それ。頭の中で膨らむ妄想に思わずにやけてしまう。


「貴様、何を知っている……」

「あ、いえいえ。こちらの話です、失礼しました。で、その聖剣にはどのような権能が?」


危ない危ない。思わず妄想が先走っちゃったけど、ミリアさんたちとの雑談の中でこの世界には『星座』って存在しないのは知ってるんだよね。仮にあったとしても星の並びとかが元の世界と同じな筈無いし。


「…… 初代国王がこの剣をもって、この地に蔓延る強大な魔物どもを討ち滅ぼし、国の礎を築いた。この剣は恐るべき切れ味と奇跡の業、そして持つものに痛みを感じぬ無敵の身体を授ける」


王子様が訝しげにしながらも説明を続けてくれる。


「おぉー! 恐るべき切れ味って岩とか鉄とかも斬れる感じですか!?」


所謂、斬鉄剣ってやつ、憧れるなぁ。


「馬鹿か、貴様は。如何に聖剣といえども鉄など斬れるか。これだから、無知な庶民は……」

「え、斬れないの?」


思ったほど凄く無いな、聖剣…… なんて思っちゃうのは僕が元の世界の娯楽作品に毒されすぎているからか。

それに、『痛みを感じない身体』を授けるって、それどっちかっていうとデメリットの方が大きくない?

あの剣、本当に神器か? 変な感じは確かにするんだけど、なんていうか、薄いんだよなぁ。


「切れ味をその身で味わってみたいのか?」

「あはは、ご遠慮します」

「いい加減にせぬか、タギネス!」


すみません、王様。僕が失礼なことを言っちゃったからなので王子様を怒らないであげて下さい。


鉄が斬れない『神器』である聖剣と『丈夫な神器』である僕の身体、ぶつかっても僕の方が勝つと思うけど、流石にそれを言わない程度には空気が読める男だよ、僕は。



「陛下、穏やかな話し合いを続ける為に王子殿下にはご退席を願えませんか」


不穏な空気に堪りかねたのか、よっぽどのことがない限り自分は口出ししません、と予め僕に言っていたビンスさんが静かに口を開いた。

つまり、『よっぽどのこと』がおきたとの判断なのだろう。僕が王子様を怒らせたせいですね、申し訳ない。


「控えよ、ビンス殿。いくら貴殿でも我ら王族に指図しようなどと不敬であろうが!」

「いや、ビンス殿の言われるとおりだ。タギネスは一度下がり、少し頭を冷やすのだ」


王子様も引かない。王様と王子様、ビンスさんの間で無言のにらみ合いが起こる。

やばい、だいぶ空気が悪くなってきた…… なんとか穏便に着地させて下さい、ビンスさん!


対人関係において僕はクソ雑魚ナメクジなので、こういう場合は頼れるヒト(ビンスさんやミリアさん)に丸投げしてしまう。いつまでもそれじゃ駄目だとは解ってるんだけど。


「如何にビンス殿といえども、王族の会話に割って入るなど、不敬と心得て頂こう」

「……」



ビンスさんは黙って頭を下げて元の姿勢に戻ってしまった。流石にビンスさんでも王子様に面と向かって口答えは出来ないのか。さっきの発言も王様にお願いするって形だったもんね。難しいなぁ。


ん? なんかビンスさんの周り、変じゃない? なんかモヤモヤした物に覆われているような。…… 気のせいかな。





「殿下、ご下命により参上仕りました!」


ちょうどそのとき、大きな声を上げて広間に数人の男性が入ってきたので空気が変わり、僕はその違和感を忘れてしまう。


「む…… 来たか。おい、庶民。まずはこの者達の身体を治すのだ」


王子様にいわれて、改めて男の人たちを見ると、腕がない人、片足を引き摺るようにしている人、片眼を眼帯で塞いでいる人など、皆さんそれぞれに怪我を抱えている人たちのようだった。


「この者達は昨年、隣国が攻め入ってきたときに俺と共に勇敢に立ち向かった勇士たちだ。見ての通り、その時の傷が原因で一線を退いていたが、これでまたこいつらと共に戦えると言うわけだな」


王子様はそれまでの不機嫌そうな態度が嘘のように、本当に嬉しそうに笑いながら男の人たちと肩をたたき合っている。一緒に戦ったってことは、仲が良いというか、そういう絆的なものもあるんだろう。戦友の怪我が治ると思って笑顔になっている王子様を見るとちょっと言い出しづらくはあるんだけど。

でも、ごめんなさい。


「他の国との戦争とかで怪我をした人は治しません。最初にそうお伝えしましたよね」


この世界の人の争いに僕が手を出すのは違う。そう思うからビンスさんに条件をつけて伝えて貰ったのだ。僕が治すこと前提に戦争とかされても堪らないし。

そりゃあ目の前で今にも死にそう、とかだったら治しちゃうかも知れないけど。そこはそれ、僕の勝手だから。


「治せない、とは言うまいな。さっきの男の腕は簡単に治しておったものな」

「はい」

「治せるが、治さない。そう言っているんだな?」

「はい」

「…… 何故だ」

「ビンスさんから聞いて頂いてると思いますが、人同士の争いに関わりたくないからです」


さっきまでの笑顔が嘘のように冷たい顔をした王子様。

さっきまでの喧噪が嘘のように静まりかえった広間。


「さっきの魔物に腕を喰われた男、あの怪我と敵国に飼い慣らされた魔物がこいつらを襲った場合の怪我、その見分けはつくのか?」

「同じように魔物に襲われた傷なら難しいでしょうね」

「ならば、その区分は貴様の自己満足にすぎまい。それにどんな意味がある。こいつらが怪我の原因を偽って貴様の前にたったとき、貴様はどうする」

「なるほど、正直、嘘をつかれることは想定してませんでした。それなら仕方ないですね」


僕は嘘はつかないように、僕なりに真摯にお話し合いをしようと思ってきたのだ。だから相手も嘘はつかないでいてくれると勝手に思い込んでしまっていた。残念ではあるけど、仕方ない。


「毎回疑うのも気が重いですし、今後、この国で怪我を治すのは止めるようにしますね」


見分けられないんなら全部止めれば良いのだ。


「違う、そうではないだろうが! どういう理屈だ、貴様!?」

「だって騙されるかも知れないのに癒す意味って無いと思うんですよね。嘘つかれるの、好きじゃないですし」

「癒す()()だと……? ふん、所詮は庶民か。よかろう、褒美は望むがままだ。貴様の力にはそこまで自惚れるだけの価値があることは確かだからな」

「いや、お金の問題じゃないです。というかお金貰ってももう治しませんよ」






これは不味い。

事態を静観していたビンスは今更ながらに焦っていた。

王子とナオの価値観が食い違いすぎている。

ナオの価値観はビンスから見ても浮世離れしているところはあると思っていた。だからこそ、前もって王にだけは『ナオの正体』を伝え牽制しておいたのだ。この場での話し合いの中心はあくまで国王、王子がここまで話に食い込んでくるとは想定していなかったし、ここまでナオを普通の庶民として扱い下にみるとは思っていなかったのだ。

ナオは庶民として扱われることや、多少の暴言などは意に介さないが、こういう価値観の衝突においては頑なになる。このまま続けば王子が決定的な過ちを犯しかねない。私が止めねば。



…… ぬ、くっ!? いざ立ち上がり声を上げようとするが身体が動かない。

拘束魔法か……? ここは王城の大広間、予め仕込まれた魔法術式でこの場にいる者を拘束することは可能ではあるだろうが…… いつから? 誰が、何故、私を。

考えるまでもない。先の発言のあと、実行したのは王子の取り巻きか。王子と口論になったナオ様を私が擁護することを嫌ったのだろう。愚かなことだ……




「と、いうことは何か、貴様。王家に仕えるのも嫌、俺の命で兵士を癒すのも嫌、だが旅をしたいので便宜だけは図れ、と。そう言っておるのか」

「旅の便宜をお願いする対価としてこの場で癒しを見せる、というお話だったと思いますし、癒す対象から戦争で怪我した人は除いて下さいというのも当初のお約束通りの筈ですが」



うーむ、王子様がかなり怒っているのは分かるし気持ちも分からなくもないんだけど。

約束は約束で守って貰わないと。ここは譲れないんだよね、僕としても。



「…… 一度だけ機会をやる。俺の命に従い、我が国に仕えろ」


冷たい目をした王子様が聖剣の柄に手を掛ける。


「タギネス! 控えよ! 誰かこの愚か者を下がらせよ!」


王様が叫び、それに従い何人かの兵士さんが王子様を取り押さえようとする動きを見せた。


「ここは俺にお任せ下さい、父上! 此奴は今『我が国では怪我人を癒さない』と言ったのです。これほどの力を持つ者が他国に渡り取り込まれたらどうします!? 此奴の力は確かに素晴らしい。なんとしても抱え込むべきだ! それが叶わないならば! 他国に取り込まれる前に! 例え与えられしものだとしても、この聖剣をもって討つべきだ!」


王子の力強い叫びに兵士さんたちや、王様の動きがとまる。王子様の言うことにも一理はあるもんね。

僕が敵になったときのことを考えたら殺そう、ってなる可能性があることはそれこそミリアさんに出会った最初の頃に言われていたことだ。


でも、こういう僕の力を無理矢理手に入れようとする貴族さんとかから守って欲しいってお願いにきたのにここでそうなるのかぁ。正直、こういう展開も予想してこなかったわけじゃないけど、実際にやられると迫力あるなぁ。


「お断りします。僕はいまのところ、何処の国にもお世話になるつもりはありませんので」


予想はしていたので僕の答えは変わらない。


「機会は、一度だけだ」


王子様の冷たい声と共に聖剣サーペンタリウスが抜き放たれる。

僕と王子様の間にはけっこうな距離が空いていたが、その距離を物ともせず蛇のように伸びた聖剣が一直線に僕の喉元を狙ってくる。それはまさに獲物に食らいつく蛇のようだ。


パキン


非常にあっさりとした高い音を鳴らして聖剣は砕けた。

僕の喉元に当たった剣先だけじゃなく、伸びた刀身もパラパラと砕け、王子様の手元に柄だけが残っていた。

あまりの光景に静まり返る広間。

静けさと、砕けた聖剣の破片がキラキラと光を放って、幻想的な空間に迷い込んだのかと錯覚しそうになる。




「あ、すいません。折れちゃいましたね、聖剣。…… こうなるのが嫌だからお願いに来たのになぁ」


斬られた側の僕は悪くないとは思うけど、国宝とかだった筈の剣を折っちゃった原因なのは間違いないので取りあえず謝っとこ。

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