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第八十三話 広がる奇跡と不穏

ベトン商会を訪れた翌日。

今日はいよいよ王様に会うためにお城に向かう。


「僕、王様に会う礼儀作法とか知らないんですけど大丈夫ですか?」

「予め王には話を通してあります。ナオ様がお気になさることはございません」


今日の同行者はビンスさんだけ。ちょっと寂しい。

だけど、流石有能エルフ、ちゃんと僕が礼儀に疎いことも伝えてくれていたらしい。それなら常識的に振舞っておけば、大丈夫かな。怒られたら謝ろう。





「ナオ様は与えられしものを自称されているが、実のところは恐らく『父なる大樹の御子様』であると私は見ている」

「な…… か、神の御子だと仰せか!? そんな、まさか……」

「時折、『複数の世界』を知っているような発言をなされる。そんなものを知りえるのは、世界を生み出された父なる大樹か、あるいはその御側に連なる存在のみ…… ご本人は人としてこの世界を見て回りたいとのご希望であるから、大げさに騒ぎ立てる必要はないが、心には留めおいて欲しい」

「もしもそれが真であれば、国、いや世界そのものを揺るがしかねません。…… 危険は無いのですか」

「お会いすればわかる。温厚で慈悲深いお方だ、万が一もなかろうが、念のため王たる其方にだけは予め知らせておく」

「…… お心遣い、感謝致します」

「当日は粗相のなきようくれぐれも宜しく頼む。…… 特に王子からは目を離さぬように、ヨハネル陛下」


立ち去るビンスの背を見送るヨハネル。


「…… 万が一の際には王家に伝わる聖剣を振るう必要が有るやもしれぬな……」





お城に着いた僕は案内されるまま大広間のようなところに通された。ビンスさんが片膝をついた姿勢で跪いたので僕も隣でそれに倣う。



「本来であれば謁見の間か会議場を使うのですが、本日はナオ様の癒しを求めた怪我人たちも集めておりますので」


ビンスさんが申し訳なさそうに説明してくれるが、僕は全然かまわない。後遺症の残ってるような怪我を治すところを見せて欲しいとは言われていたし、そういう人が来るなら一階である程度の広さがあるところの方が便利だったのだろう。気にしないで欲しい。


ファンタジーなお城の中は目を引くものがたくさんあるけど、あまりきょろきょろしないように前だけを見るようにして、待つことしばし。


奥の扉が開き、続々と人が入ってきた。

うむ、最後の方に入ってきたのがお姫様と王子様、王妃様と王様だな。着てるものが僕にもわかるくらい明らかにワンランク上っぽいし、王冠被ってる。初見でもわかりやすくていいね。



ビンスさんに紹介されて僕が名乗ると、入ってきた人たちの立場とか名前とかも一人ずつ紹介される。偉い人は直接喋らずに司会役みたいな人が取り仕切るようだ。

だけど立て続けになんとか卿とかなんとか伯とか言われても覚えられないよ。

まぁ、王様に会いに来たんだから王様とその家族だけ覚えればいいか。他の人はいわばオマケでしょ。ロロさんと同じ色の濃い猫系獣人の男の人の役職は覚えた。軍務卿、ね。

あと、教会の偉い人は僕を見ても反応しないんだね。教会で神父さんとかシスターには祈られたから覚悟してたけど、公共の場だから自制してるのかな。



お、いよいよ王家の人たちの番だ。

12歳くらいに見える可愛い女の子が第三王女のネムリアさんで20歳くらいのイケメンが第一王子のタギネスさん。王妃様と王様は40代くらいかな? ヨハネルさんとドニーネさんね。まぁ、王様、王妃様呼びでいいでしょ。


それにしても家族全員揃って美形なの凄いな。

みんな赤に近い金髪だけど、王女様はほんのりピンクで可愛いし、王子様は燃えるような、って表現がピッタリの赤。王様はちょっと白いものが混ざり始めてるのが渋くてかっこいい。


王女様はちょっとぼんやりしてる感じ。別に興味もないのに公務だからとかで無理やり付き合わされてる感じかな? ごめん、早く終わらせようね。

王子様はなんか偉そう、っていうか実際偉いんだな。他人を見下し慣れてるって感じ。でも腰に佩いている剣、凄く気になる。なんか変な感じがする。あれが噂の聖剣かな? あとで見せてもらえないか頼もう。

王妃様は…… うん。あの眼は知ってる。ベトン商会の奥様と同じ、ビンスさん達が言うところの『美の奇跡』を僕に期待している眼だ。あの眼をしている女性からは逆らえない圧を感じるのでちょっと怖い。

王様は、威厳が凄いね。目つきが厳しいわけじゃないんだけど、なんていうか値踏みされてる感じの鋭い眼。

王様でも珍しいのかな、与えられしもの。




「……オ様、ナオ様」


ん? 王様たちを観察していたらビンスさんが何か言ってる。

あぁ、ぼーっとしてる間に話が進んで僕が『癒しの奇跡』をご披露するところに来たのね。


それじゃ、やりますか。




一人目は、左手の肘から先が欠損してるお兄さん。

元々兵士さんで、警備中に村を襲ってきた魔物にやられたそう。

村に被害は出しませんでした、と誇らしげに笑っている。うむうむ、癒し甲斐がありますねぇ。


右手に癒しの力を込めると静かに光り出す。その掌でそっと切断面に触れると、僕の手から溢れた光が失われた腕の形を象っていく。

光が落ち着くと、そこには元通りに復元された腕があった。


「これでよし。しばらくはちょっと違和感あるかもしれませんが、すぐに慣れると思います。お大事に」


大喜びで何度もお礼を言ってくるお兄さんを見送って、次の患者さんを待つ。

…… 随分偉い人たちが騒がしいな。




「治すのが困難な怪我から始めて、徐々に浅い傷に切り替え限界を探る筈だったのでは?」

「失った腕をああもあっさり生やしたのだぞ、アレができて他の傷は治せないなどありえまい」

「仮にアレしかできないとしても充分だろう。怪我を恐れずに戦えるのは大きいぞ」

「引退した傷痍兵も復帰させれば恩給の支出も抑えられる…… ふふふ」




「おい、貴様!! その力で何年も前に受けたような古傷も治せるのか!?」


周囲の騒めきをかき消すように王子様が叫んだ。


「ご本人が生きてさえいれば大丈夫ですよ」


僕の返事が満足いくものだったのか、ニンマリと笑う王子様。

その笑顔、あんまり品の良い感じじゃないから、やめた方がいいと思いますよ。


「タギネス! 我らはナオ殿に治療をお願いしておる側なのだ。無礼な物言いは控えよ」

「父上、与えられしものといえども、所詮は平民。同じ与えられしものであり、王族たる私がなぜ気を遣う必要があります」


王様が慌てたように王子様の態度を注意するけど、偉い人が偉そうに喋るのは当たり前だと思う。だから王様も気にしなくていいですよ、喋りやすいように喋ってもろて。

そんなことより、王子様が与えられしものだということの方がびっくりなんですけど。…… 普通の人に見えるけどなぁ。


僕がじっと見ていると王子様はフンッと鼻を鳴らしたあと、側使えの人を呼んでコソコソと何か言いつけている。耳打ちされた側使えの人が慌てて出ていったけど、何かあったのかな?

色々気になるけど、今は質問出来るような空気じゃないね。治療が終わった後、雑談の時間とかあるかしら?



次の患者さんは7歳の男の子。

貴族っぽい女の人とメイドさんの二人に手を取られてゆっくりとやってきた。

彼は6歳になる前に高熱をだして、その後遺症で失明してしまったらしい。

虚ろに開いたままのその瞳は確かに光を映していないようだ。

絶望に沈んだような、暗い表情の男の子。

うむ、さっきとは別の方向で癒し甲斐があるな。取り戻したい、明るい笑顔。


例によって光る右手でそっと男の子の顔に触れる。

静かに目隠しをするように手で覆い、そっと離す。


「あぁ!! 見える! 見えるよ!! 母様!!」

「あぁ、なんてこと…… 神よ……」

「坊ちゃま、ようございました、本当に……」


「お大事に~」


よしよし。笑顔を取り戻した男の子と嬉し泣きで言葉も出なくなってしまっているお母さんに土下座される勢いで感謝されつつ、次の患者さんを待つ。



「おい、ビンス殿の方向にあったようにあらゆる怪我…… 曲がったまま歪に治った骨や、石化の呪いなども癒せるのだな!?」


また王子様か。さっきからあの人の周りだけ慌ただしく人が出たり入ったりしてるんだよね。男の子の治療にも関心なかったみたいだし、お忙しいなら退出して頂いて結構ですよ?


「さっきも言いましたけど、生きていれば大丈夫です。全身が完全に石化したような方はどっちなのかわからないので難しいかもしれませんが」


石化の呪いとかあるんだね。流石異世界。

僕の答えに王子様は更に満足げに笑みを浮かべた。


「くくっ、これはとんだ拾い物だぞ……」






「怪我や病の治癒の確認はこのぐらいでもう充分でしょう。あの娘を連れてきて」


今度は王妃様か。さっきの王子様とは違って声は柔らかいのに、逆らえない圧を感じる。怖……

その言葉に合わせるように、なにやらバタバタと皆さん慌ただしく動き回っている。




「先ほどから色々と慌ただしくされているように見受けられますが何か問題でもございましたか?」


僕のせいじゃないとは思うけど一応確認しとこ。


ちょっと焦った様子で司会役の人が説明してくれたところによると。

治せそうにない症状の重い人から順に診せて、どのくらいから治せるようになるのかを見るつもりだったのに、一番重症の人をあっさり治したから、症状の軽い人を診せる必要が無くなったので急遽段取りを変えているのだそう。

症状の軽い人でも治しますよ? と提案したが、効率よく確認を進めたいのでそれはまた別の機会に、とのこと。


この話の通りだとすれば、近くに怪我や病気が治るかもと思って集まった人が他にもいるんでしょ? せっかく集まってもらったのにもったいないなぁ。王様とか、お忙しいんだろうし、効率を求めるのもわかるけどさ。

あとで僕だけでも希望者が集まってるところに案内してもらえるかな?




待つことしばし。

次に来たのは僕と同世代くらいに見える女の子だった。

フードを目深に被っておずおずと自信なさげに歩いてくる。

近くまできてもらってから、フードを取ってもらうと右の頬から首筋にかけて大きな痣があった。

王妃様の様子から大体察しはついてたけど、今度は『美の奇跡』が見たいんだな。



「僕の力は年頃の女性には刺激が強いのですが、大丈夫ですか?」

「おおよそはビンス様より伺っています。その娘も了承しております。お願いできますかな?」


念のため、確認すると司会の人に即答された。

普段なら()()()エルフであるビンスさんがそんな大事なことを伝えていないとは思わないけど、奇跡絡みになるととたんにポンコツになるからなぁ、あの(エルフ)



「あ…… あぁ……」




お城の大広間に相応しくない声にならない声、熱を帯びた吐息が漏れる。

周囲の注目を浴びて女の子は顔を真っ赤にしている。

今更だけど、奇跡の確認だから人前なのは仕方ないにしても、こんな大勢の前でやらなくてもよかったんじゃ…… 王妃様だけとかせめて女性だけの部屋用意できなかったのかな。




一通り終わるやいなや、待ちかねていた王妃様に手招きされて戸惑っている女の子。

いきなり王妃様に呼ばれたらそうもなるか。


「直接、私が確認します。…… 早くおいでなさい」


オロオロしている女の子に焦れた若干の苛立ちを隠しきれないまま王妃様が強く呼び寄せる。


「大丈夫だよ」


すっかり萎縮してしまっている女の子に声をかける。

痣は綺麗に消したし、髪は輝かんばかりにサラサラになってるし、お肌もスベスベプリプリ。指先の爪に至るまで念入りに磨き上げました。

痣があっても整った顔した可愛い娘だったけど、今はワンランク上の美少女になってます。もう隠さなくてもいいよ。


「大丈夫、髪や手だけじゃないから。自分の眼で確認しておいで」


そう声をかけると、女の子は改めて自分の指先を見つめ、僕にペコリと頭を下げて王妃様の元へ歩いていった。

その姿は最初にみたときの自信なさげな姿ではなく、ほんの少し、背筋が伸びているようだった。


女の子を迎え入れた王妃様は無言であらゆる角度から女の子を観察している。…… 遠目で見てても圧が凄い。僕なら泣いちゃうかも。

近くにいた侍女さんとか、あ、王女様も一緒になって確認してる。

今までは興味なさそうだったけど、女の子だもん、綺麗になるって話は気になるよね。



「これほど変わるとは…… あのほんの一瞬で……」

「でも、流石にアレは恥ずかしいですわ」

「お部屋で二人っきりでしてもらえばだいじょぶ」

「大丈夫じゃありません! 絶対にいけませんよ、姫様!」

「…… この効果はどのくらい持つ? 確かに素晴らしい肌ではあるがあのミリアという女性の方が明らかに上……?」



女性陣が凄く盛り上がっている。時折鋭い視線が僕の方に向かってきて怖いんですけど、早く次の方に移りませんか?




「正直、これほどとは思っておらなんだ。今ならばビンス殿があれほど興奮していらした訳も納得できよう」


王様が静かに喋り出した途端、それまでのざわめきが嘘の様に静まり、場が静寂に包まれた。

これが、王のカリスマって奴かな。すげぇ、カッコいい。


「その上で尋ねる、ナオ殿。貴殿の力を持ってすれば不老不死は叶うのか」



王の問いかけに場が氷のような冷たい緊張に包まれ……


「ぷっ…… あ、あはは!」


なかった。

ナオの小さくない笑い声だけが静かな広間に大きく響いた。

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