第八十話 繋がる、世界
王都観光2日目、僕は王都の東側に広がる放牧地区の見学に行った。そこで僕らは奇妙な縁で王都一の馬問屋であるというヘウメー商会の会頭と知り合った。そして会頭が僕らに見せたもの。それは、角が折れ、今にも消えそうなほどに力を失ったユニコーンだった。
色々あって、角を取り戻した聖獣ユニコーンと、その世話役をしていたメアさんマァルさん姉妹を加え、お世話になっているビンスさんのお宅に戻ってきた。
お腹を空かせたミーナさん達のためのお食事を頂き、一息ついたところにビンスさん、ミリアさん、ロロさんがお城から帰ってきたので事情をお話しする。
「一通りの事情は分かりました。聖獣と謳われるユニコーン様をお迎え出来るなど、光栄でございます。メア嬢、マァル嬢もひとまずナオ様のお客人として歓迎しよう。遠慮なく寛いでくれ」
「うむ、短い間ではあるが世話になる」
大仰に返すのはフワフワと浮かぶ光の玉。
大きなお屋敷とはいえ、家の中にユニコーンさんを上げるのは難しく、どうしようかと思っていたら、なんか意識を光の玉に変えて、室内の会話に参加してきた。
流石聖獣、なんでもありである。
「メア嬢とマァル嬢は今後について、なにか希望はあるかね?」
「妹と一緒に生きていけるようなお仕事を頂ければ幸いでございます、ビンス様」
ちなみに妹のマァルさんはお腹いっぱい食べたあと、ストンと寝落ちしてしまった。今はリンスさんのお膝の上でグッスリである。いつの間に仲良くなったの? ちょっと羨ましい。
「メアは孤児だったのに、話し方ちゃんとしてるよな。アタシが孤児院に居た時はもっとめちゃくちゃだったぜ」
「会頭様が、大人になってユニコーン様のお世話が出来なくなったとき、商会のお客様のお相手もできるようにと教えていただいておりました」
タイグウ、メアさんの将来のこともちゃんと考えていたのか……
ロロさんのことと言い、あの人も悪い人ってわけでもないんだよね。
知らないうちに踏んじゃいけない地雷を思いっきり踏み抜いちゃったからああなっちゃったけど。
善悪じゃ割り切れない、難しい人だった。
「オトナになったらお相手、ね……」
「ちゃんと刺してきた? まだならロロが行ってくる」
「ナオ様がちゃんと罰をお与えになりましたよ、ロロ」
そこからもやり取りは続き、明日にはメアさん達が会いたがった教会と炊き出しの人たちにみんなでご挨拶にいくことになった。ついでに王都のべトン商会にも顔を出してみるつもりだ。
そして、僕と王様との面会は明後日に決まったらしい。
はやくない? そんなに簡単に会えるものなの? 王様って。
偉い人に会うなんて、やっぱり気が重いなぁ。
「ふむ、ナオとこの国の王との面会か。面白そうだな。我も行ってよいか?」
「話がややこしくなるので来ないでください」
「相変わらず、連れないやつだ」
翌日、朝から教会に向かう。
今日はフルメンバーである。王都に来てからなんだかんだでミリアさんとは別行動が多かったので、ちょっと嬉しい。
ユニコーンさんは光の玉のままふよふよとついて来た。
周りの人は気にしてるそぶりもないので、多分なんか目立たなくなる魔法的なこともしてるんだろう。
「あぁ…… 使徒様……」
教会では美人シスターさんに泣きながら祈られました。
ビンスさん、僕のことをどう説明したんですか!? と文句言おうかと思ったけど、大体想像はつくので諦めた。
人間、諦めも肝心だ。
ビンスさんとシスター、あと初対面の神父さんがめちゃくちゃ盛り上がっていたけど、そそくさと教会を脱出。
次の目的地、炊き出しをしていた人たちがいるところへ向う。
炊き出しメンバーについてはシスターがちゃんと知っていて教えてくれたので間違いない。
「やっぱりあの子たちじゃん! やるわね!」
リンスさんがちょっと嬉し気だ。
大通りから少し離れたところにある、小さなお店。
どうやらここがそうらしい。
「この子たちだと思ってたのよね。おーい、来たよ~!」
スタスタと中に入っていくリンスさん、ランスさんの後をゾロゾロと続いて入っていく僕たち。
「これはリンス様、ランス様。ビンス様まで! 皆様がお揃いでお越しとは、何か問題でもございましたでしょうか!? おぉ、なんてことだ! すぐに皆を集めます!」
中にいたのは40代くらいのおじさん。
突然恩師たちが大勢引き連れて押しかけてしまったので大慌てだ。
リンスさんがそれを宥めている間にランスさんからおじさんたちのことを聞く。
おじさん達は大体30年ぐらい前にビンスさんのところで学んでいた仲良し四人組で、それぞれの長所を活かした便利屋のような商売を始めたところ、上手く軌道に乗って現在に至るらしい。
少し落ち着いたおじさんに集められた同年代のおじさん一人、おばさん二人。
「頭でっかちな孤児、馬に好かれる平民、力だけが自慢の貴族の三男坊…… ちぐはぐな連中が何故か気が合って、ちぐはぐなりに協力しあって上手く社会に出られたのも、全てビンス様、ランス様たちのお導きがあってこそです」
そういって皆さんを紹介してくれる自称「口が上手いだけの田舎者」のおじさん。
なるほど、確かになんていうか、才能と生まれた立場がちぐはぐな感じはあるな。
その四人が生まれも育ちも関係ないってスタンスのビンスさんに出会って学んだことで、独立した商売をはじめられたのか。
ビンスさんは尊敬に足る立派な人だよ。
そんな方に祈られ、跪かれるだけの価値は僕にはない。けど、あんまり拒否すると悲しい顔させちゃうから、難しいんだよね。
ランスさんリンスさんだってなんだかんだ言っても絶対ビンスさんを尊敬してるよね。
リンスさんが「あの子たち」って言っていたから勝手にもっと若い人を想像してたけど、エルフの時間感覚だと30年前の教え子なんて、子供みたいなもんなんだろう。
「すーぷのひと!」
わいわいと皆さんにご挨拶をしている僕らをかき分けるように前に出たマァルさんが大きな声をあげた。
「おま、マァル!? …… メアも一緒か!?」
それにいち早く反応したのは一番体の大きな力自慢さん。顔いっぱい、いや、身体全体から『嬉しい』って感情があふれ出しているような笑顔だ。
「あの子たち、私たちの炊き出しの常連だったのに、あるときから全然来なくなっちゃって…… なにか悪いことがあったんじゃないかって心配してたのよ」
馬に好かれるおばさんが理由を教えてくれた。
力自慢さんは嬉しそうに笑いながらソワソワと挙動不審になっている。
「アイツのでかい図体にびっくりしてマァルちゃんが泣いちゃったことがあってね。それ以来、自分からは女の子に近寄らないようにしてるんですよ。まったくみっともないったら。男ならドンと構えてな!」
頭でっかちおばさんが力自慢さんに喝をいれる。
ちなみに頭でっかちさんと力自慢さん、馬に好かれるおばさんと口が上手いおじさんはご夫婦だそうだ。なんか、わかる。
「メア嬢とマァル嬢は縁あって我らが面倒を見ることになった。スラムに居た頃に恩のある者たちに会いたいというので調べてみたところ、どうやらお主たちのことだとわかったので連れてきたという訳だ」
「私どもはそんな大したことはしておりません。ビンス様方に頂いたご恩に少しでも報いたいと、ときたまに炊き出しなんかをしていただけで」
「それが巡り巡って、こうして皆様にわざわざお越しいただいて、お褒め頂けるなんてねぇ」
「ビンス様のような方に少しでも近づきたくてやっておりましたことでございますが…… 甲斐があったというもので」
「…… う…… あ……」
和やかにお話していると、力自慢さんだけちょっと様子がおかしい。
体調が悪いようなら治しますよ?
「実は…… あたしたちは四人そろって子宝には恵まれなかったので、メアたちを引き取って育てようかって話も出てたんです」
「なかなか言い出せずにマゴマゴしているうちに二人の姿が見えなくなってしまって、あのときはコイツ泣くわ喚くわ…… 大変でした」
「アンタ、せっかくまた会えたんだ。今度こそ誘ってみるかい?」
そんな事情が……
奥さんに声を掛けられた力自慢さんが意を決したように口を開く。
「いや、ビンス様が面倒を見て下さるというならこれ以上のことはねぇ。俺たちじゃ、俺たちの知ってることしかメアたちに教えてやれねぇからな。ビンス様なら、俺たちじゃ見つけられないような才能でも見つけ出して、絶対にこいつらを幸せにしてくださる。それが、きっと一番だ」
何かをこらえているような震える声でそう話す力自慢さん。
やばい、僕今ちょっともらい泣きしそう。
シトリィさん達は普通に泣いてる。
当事者のメアさんとマァルさんはまだ話がうまく呑み込めていないのかきょとんとしている。
「この二人についてはこのビンス、確かに引き受けた」
「お願い致します、ビンス様。 ……メア、マァル。ビンス様のいうことを聞いてしっかり学べ。そうすれば間違いない。きっと今までのことなんて嘘みてぇにとびっきり幸せになれるからな! 元気でな!」
「はい、色々とありがとうございました」
メアさんはしっかりと力自慢さんの眼を見てそう答えた。
長居をすることもなく、僕らはちぐはぐ四人組とお別れする。
最後の別れ際、
「すーぷ、おいしかった。ありがと、おじちゃん」
小さな声が聞こえた。
もう、だめだった。




