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第八十一話 戸惑いと、それから

ちぐはぐ四人組のおじさん達と別れた僕たちはベトン商会の王都支店に向かう。

ブキシトンで僕が治療したピチータさんが来ているらしいのでご挨拶に向かうのだ。


いつものように右手にミーナさん、左手にロロさんを装備してテクテクと歩いていると、光の玉がふよふよと僕に近づいてきた。


「神の子よ」

「それ止めて下さいって言いましたよね?」

「先ほどの男、娘らと離れることを嘆き、苦しんでおったな」


愛別離苦。大事な人や物と別れなきゃいけない苦しみ。


「娘らを導くには己の力が不足だと、苦しみながらエルフの男に託していた」


五蘊盛苦。今の自分と理想の自分が食い違う苦しみ。

どこかで、誰かに聞いた言葉。


「神の子が我に語った八つの苦しみのうちの二つ。それが同時にあの男を苛んでいた」


光の玉は緩やかに点滅を繰り返しながら語る。


「だが、あの男は決して不幸ではなかった。確かに苦しんではいたが、幸福も同時に得ていた」


「理解できぬ」

「苦しみに出会い、何故喜ぶ。神が語る根源の苦しみに向き合ってなお、何故あの男は笑っていたのだ。汝が語ったヒトの生きる苦しみとは、乗り越えられるものなのか」

「僕にもわかりません。僕も、きっとその答えを探している途中なんです」


『繋ぐ』ことが生きる全てだった聖獣……

一度失いかけたことで初めてそれ以外が見えてきているのかも。


それから、目的地に着くまで彼は一言も話さなかった。時折、不規則に明滅する光が静かに僕の周りをふよふよと浮かんでいるだけだった。

僕のこの繋いだ右手から伝わるミーナさんの温もりのような存在にいつか、彼も出会えるのだろうか。

繋いだ手に少し力を込めてみる。

キュッと握り返し、僕を見てほほ笑むミーナさん。

天使すぎる。




そして到着したベトン商会王都支店はとても大きく、立派なお店だった。


「ブキシトンの方が本店なんだろうけど、お店自体はこっちの方が大きいみたいですね」

「ブキシトンの店は基本的に革細工だけ取り扱ってたけど、王都のお店ではそれ以外も色々と取り扱ってるみたいだな」

「王都は人も物も集まりますから。あの如才ない会頭さんならそういった商機は見逃さないでしょう」


ハンナさんの説明に納得。確かにあのデキる会頭さんならチャンスは見逃さないよね。


「おぉ! 聖者様じゃねぇですか! 皆さんお揃いで!」


さぁいざ入店、というタイミングで横から声が掛かった。

放牧地区であった御者のおじさんだ。


「ピチータさんが来てるって聞いたのできちゃいました。約束とかないんですけどお会いできます?」

「もちろんでさぁ! おーい、ビンス様とお嬢様の大切なお客人御一行様だ! 応接にご案内して差し上げろ! で、旦那様とお嬢様お呼びしろ! 大至急だ!!」


おじさんが元気に取り仕切ってくれたお陰で僕らはあれよあれよとお店の奥に案内される。さらにお店の奥の方からはドタバタと騒ぎが起きている気配が伝わってくる。


「事前に連絡とか約束とかしとくべきでしたね」

「ナオはそういうとこ、マジ普通の人だよな」


シトリィさんが微妙に失礼なことを言う。どうせ僕はビンスさんや会頭さんと違って気が利かない男ですよ。


「大勢で押しかけても迷惑だろうから俺っちはリンス達とお店の方で待っとくよ」

「私たちはここのお嬢様とも面識ないしね。革細工の新作の方が気になるわ」


途中、ランスさんたちがメアさん、マァルさんも連れて離脱したので、案内を受けるのは僕とビンスさん、ミリアさん母娘、三人娘の7人となった。

通された大きな部屋のふかふかソファに腰を下ろす。光の玉は相変わらず静かなまま、僕の右肩のあたりをふよふよしている。


「ようこそおいでくださいました、ナオ様」

「またお会いできて嬉しいですわ! ナオ様」


待つ間もなく、会頭さんとピチータさんが来てくれた。

会頭さんはきっとお忙しいだろうに申し訳ないなぁ。


王都に着くまでの細やかな心遣いなど、ブキシトンでお別れした後も色々お世話になったので改めてお礼を言い、ピチータさんが王都に来ている理由などを教えてもらう。


ピチータさんはカサブタが悪化したここ数年は完全にふさぎこんでしまっていたため、本来するべき商家の娘のお勉強が全くできていなかった。それを補うためにビンス塾に通う予定で王都に出てきたらしい。

ちなみに出発は僕たちの翌日だったそう。到着は僕たちより速かったみたいだからのんびりしてるうちにどっかで追い抜かされたんだろうな。



「そういうわけだ。娘を頼むよ、ビンス」

「よかろう。お前の娘だ、きっと聡い子なのだろう」


会頭さんと談笑しているビンスさん。普通に喋ってると威厳のある、ダンディなエルフだよなぁ。僕が近づくと途端に残念になるけど。


「ところで…… ナオ様」


スッと言葉を切った会頭さんが僕を見…… てない? ちょっと横を見てる。


「その、お側に浮かんでいる光の玉について、お尋ねしてもよろしいですか?」


え、今は隠れてなかったの、ユニコーンさん。


「む。我の隠形を見抜くとはな」

「「しゃ、喋った!?」」


極端に観察力の優れた人や、常に周囲を警戒している人なんかは気付くこともあるらしい。そういうことは予め言っておいてほしかった。


「ヒトに隠形を見抜かれたのは4,500年ぶりにはなろうか。我を責めるよりその男の眼を褒めるべきだな」

「そんなレベルの話!? ……会頭さん、やっぱり只者じゃありませんね」



会頭さんたちにユニコーンさんの紹介と昨日の出来事を説明する。


「なるほど…… ヘウメー商会の馬にはそんな秘密が……」

「ご存じなのですか、お父様?」

「あぁ、王都一の馬問屋ヘウメー商会。あそこが商う『特別な馬』というのがあってな。体力も力も、丈夫さ賢さも。他の馬とは比べ物にならない素晴らしい馬だということで、それを持つことが上流階級にとって一種のステータスにもなっていたのだ」


『特別な馬』…… 恐らく彼の角の粉末を与えられた馬たちのことだろうな。

その価値を使ってタイグウは王都一にまで商会を育てあげたのだろう。



「だが、それも納得だ。聖獣たるユニコーン様の加護を与えられていたのだな……」


会頭さんが誰に言うでもなく呟く。無表情のまま、瞳だけがせわしなくあちこちを彷徨っている。


「おい、我はあの汚物の所有物に加護など与えておらんぞ」

「…… と、言われますと?」

「我が加護を与えたならその程度の筈があるまい。奴は弱り切った我から無理やりに力を削り取っただけだ。今の万全の我が自らの意思で加護を授ければ、受けた馬は『馬』という種に納まらぬ程の力を得るであろうな」


それを聞いた会頭さんがピタリと動きを止めた。表情だけじゃなくて動作も全部止まっちゃった。だけど眼だけは忙しなく動き続けている…… 怖……


「申し訳ありません、皆様。父は考え事に夢中になりすぎるとこうなってしまいますの。失礼…… エイッ」


ペチッ、とピチータさんがお上品に会頭さんの額を叩く。

しかし、会頭さんは戻らない!


「あら、おかしいですわ…… 母ならいつもこれで治しておりますのに」


そんな、古い電化製品みたいに…… 角度か手首のスナップの問題じゃない? もしくは愛。


「恐らく、自分がユニコーン様のお力をお借り出来た場合の利益を思い描いておるのだ。だが先ほどの話から危険性も理解出来ている。その結果がその硬直でありましょう」


会頭さんと旧知の仲であるビンスさんが解説する。

なるほどねぇ。危ないと分かっていても、目を逸らせないくらいの儲けが見えてるんだろうな。


「…… でもちょっとそれも有りかも」





「ナオのあの顔、何か企んでる顔だぞ。今のうちに止めた方がいいんじゃないか? 姐さん」

「ナオ君は奇跡を気軽に悪戯に使うからな。…… 覚悟はしておこう」




「タイグウって()()なりましたけど、まだ『王都一の馬問屋』の会頭じゃないですか」

「そうだな」

「貴方がこちらの会頭さんに協力すれば、『王都一』じゃなくするの、簡単だと思うんですよね」

「…… 我の力を奪い築いた地位ならば、我の力を持ったものに奪われるが道理。…… 確かに面白い」


僕の提案にかなり乗り気なユニコーンさん。これなら上手くいきそうだ。

ちょっと気になってたんだよね、タイグウからは()()()()()()を取り上げなきゃいけないのに、財産は残ってたの。




「ちょっと悪戯思いついちゃった、くらいの感覚でえげつないこと言ってる……」

「だが、ユニコーン殿の言う通り自業自得ともいえる。大きな代償を払うことになったな、その男」

「「大樹よ…… 我らを許し賜え……」」





「というわけで、どうですか? 会頭さん」

「…… 具体的にはどのようなご助力を? また、それに伴うリスクなどをご教授頂けますか?」


流石会頭さん、フリーズはしててもちゃんと話は聞いていたし、儲かりそうな話は見逃さない。

…… 当然リスクも警戒してるけど、それはむしろ頼もしいくらいだ。



「我の力の結晶を授けよう。日に一度、朝露のように雫が数滴零れる。それを飼葉と共に馬に与えれば、大いなる力を得るであろう」

「上手く使えば会頭さんならきっと大儲けできますよね」

「そ、それは勿論、そのような秘宝を頂けるのであれば、王都どころか大陸一の馬問屋にもなれましょう。ですが…… 宜しいのですか?」

「……? 何がですか?」

「ナオ様はその御力を使っての金儲けなどはお好きではないとお見受けしておりました。私が御力を金儲けに使っても構わないとお考えですか?」

「別にお金儲けが嫌いなわけじゃないですよ。特に必要がないからやらないだけで」

「我も構わぬ。むしろあの汚物を追い落とすために大いに活用するがよい。ただ、我はこれ以上は関わらぬ。その結晶が元で争いが起ころうが、奪われようが関知せん。その管理が懸念しておったリスクとなろう」


あ、そうか。これだけのものなら、『殺してでも奪い取る』って人が出てくることも普通に考えられるのか。


……


でもユニコーンさんの隠形を見破れるくらい注意深い会頭さんならきっと上手くやってくれる筈。

無理に使わなくても良いわけだし、選ぶのは会頭さんだ。


「別に会頭さんが使わずにしまい込んでしまってもいいんですよね?」

「我としては汚物への制裁として使って欲しいところだが、それは我の理屈であるからな。与える意味が薄れるが、それもまた構わぬ。ヒトの営みにも諸々事情はあろう」



「あの、その結晶はユニコーン様にとっては簡単に作れるものなのでしょうか? 例えば他の商会にも同じように与えられたり、他にも……」


あ、会頭さん、頭が周り始めたのかめっちゃ色々聞いてる。

うん、しっかりと気になること全部確認して使うか使わないか判断して欲しい。ピチータさんや奥様に不幸になってほしくはないからね。



さて、あっちはユニコーンさんに任せて僕はピチータさんとお喋りしてようか。

あれ? そういえばブキシトンで一緒に居た親友のクリスさんは来てないのかな?

お読み頂き、ありがとうございます。

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