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第七十四話 それぞれの目利き それぞれの価値

逃げる狐耳を追いかける僕たち。狐耳獣人の割にあんまり足は速くないな、あの人。

とはいえ、見失わないように注意しながらじわじわと距離を詰めていく。


「何処へ行くんでしょう? 門の警備兵さんのところですかね?」

「ははっ、獣人の禁句を言ったらその仲間に攻撃されましたぁ、ってか? そんなこと言ってみろ、むしろ門番が捕まえるのに協力してくれるぜ」


そういうレベルの禁忌なんだな…… 絶対におなじ様なことは口走らないように注意しなきゃ。


「どうやら、あそこに向かっているようですね」


狐耳の進路から予測を付けたらしいハンナさんが一つの施設を指す。

さっき、おじさん達に会ったベトン商会さんの施設のほど近くにそれはあった。


「大きくて見るからに立派な厩舎に建物が併設されてる。…… 貴族ですか?」

「いや、貴族ならこんな場所に建物は建てない。商会の事務所だろうな」

「流石に建物の中に逃げ込まれると面倒ですね。止めます」


ハンナさんがそういうと、前を走る狐耳の足下に仄かに魔力の反応が浮かんだ。

「きゃあ!」

次の瞬間、狐耳は盛大にずっこけていた。


「草を操って足を絡め取りました」


ハンナさん、すげぇ。そんなことも出来るんだ。

転んでもがいている狐耳にゆっくりと近づいていく僕たち。

シトリィさんが横を歩く僕に他の誰にも聞こえないような小さな声で話しかけてくる。


「ナオ、ロロのために怒ってくれてありがとな。でも、あの女に対しても絶対に『狐』とは言うなよ」

「…… おなじところまで堕ちるようなことはしません」

「それさえ分ってくれてりゃオッケーだ! いくぞ」





「ちょ、この! なによこの草! なんで解けないの!!」


僕たちが追い付くと、足に絡みついた草を外そうともがいている狐耳がいた。


「私が解除するまで解けませんよ」

「なっ…… え、エルフ!? なんでエルフが田舎者の味方してるのよ!」


「んなこたぁどうでもいいんだよ。さっきの言葉を取り消して、二度と口にしないと誓え」


指をポキポキとならしながらシトリィさんが威圧感たっぷりに狐耳を睨み付ける。

実力行使も辞さない構えだ。


「田舎者の上に暴力まで振るうの!? ここがどこか、私が誰だかわかってんでしょうね!?」

「しらねぇよ、誰だよお前」


シトリィさんに『知らない』と断言されたことに目を見開いて驚く狐耳。いや、本当に誰なんでしょうね、この人。


「田舎者の上に乱暴者でもの知らず…… どこまで愚かなのよ…… ここは、王都最大の馬問屋、ヘウメー商会! そして私はそこの構成員! これでわかったでしょう!?」

「それがどうしたってんだよ。取り消さないなら痛いの一発いっとくか?」


じりじりと間合いを詰め、狐耳に脅しを掛けるシトリィさん。


「まだわかんないの? 私に手を出したら、その子は終わりよ? 元の田舎暮らしにすら、戻れないようにしてあげるわ」


さっきから何言ってんだろ、この人。全然話が噛み合ってないんだけど。僕のこと知ってる人?


「ナオ様、お知り合いですか?」

「いえ、僕、こっちに皆さん以外の知人はいないので」


「ふふん! 隠しても無駄よ! その子、馬を治癒できる奇跡を授かった与えられしものなんでしょ? でも田舎じゃ碌に稼げないから王都に出てきて一旗揚げようって! それならへウメー商会を敵に回したらどうなるかくらい考えなくてもわかるでしょうに!!」


あぁ~、なるほど。この人、僕が治せるのは馬だけで、それで稼ぎに出てきた田舎の子供だと思ってるんだ!


「なるほどな、馬を治せる力を金に変えたいなら王都の馬問屋に雇われるのが手っ取り早いな」

「だから王都に着いたら真っ先にここに来ると思って待っててあげたのよ! 会頭にも話は通してるわ! わかったらさっさとこの草を外しなさいよ」

「あぁ、お前をぶん殴っても問題無いってことが良ーく分ったぜ。最後のチャンスだ。…… 取り消せ」


ここは日本じゃない。言葉が通じないなら、拳が出ることだって当たり前の世界なんだ。


「なんであのムカつく獣人馬鹿にしたくらいでそんなに怒ってんのよ! いいの? その子の一生が台無しになるわよ!?」

「ロロはアタシ達の大事な仲間、家族なんだよ。…… お前はもう黙れ」


シトリィさんの拳が振るわれようとした、まさにその時だった。

へウメー商会の建物の中から一人の男とその影に隠れるように二人の小さな子供が現れた。


「私の商会の前でなにを騒いでいるのだ」


横に大きな体格、たるんだお腹、頬肉。ゴテゴテとした宝飾品をこれでもかと身につけたその男性は……


成金オークだ! 初めて見た!!




「会頭! お騒がせしてすみません。あれが例の子供です。 …… ただ、その、思った以上に話の通じない愚か者でして……」

「ほう、アレが例の…… 話は聞いている。特別な治癒が使えるそうだな」


ハンナさんの草から解放された狐耳はすかさず成金オークに擦り寄る。

オークは値踏みするようにジロジロと僕をみてくる。

僕も初めて見るオークに興味津々で見ていたので、奇しくも見つめ合うような時間が流れてしまった。


…… あのオーク、魔力の流れが普通のヒトとおなじだな。…… もしかして太ってるだけの人間?


「小僧、名前は? あぁ、他の女どもには用はない。帰っていいぞ」

「勝手に話進めてんじゃねぇぞ、おっさん。アタシたちはその女に用があるんだよ」


ピクリ、とオーク(仮)の眉が動く。


「その女性は僕たちの大切な友人を侮辱したのです。僕らはその発言の撤回を求めています」

「侮辱? 撤回? …… まさか、その友人というのは獣人かね?」


驚いた様に目を見開き確認してくるオーク(仮)に小さく頷いて肯定する。

すると、オーク(仮)は顔を真っ赤に染め、目をつり上げて狐耳を思いっきり殴りつけた。


「貴様! いくらなんでも言ってはならん言葉という物があるだろうが! 恥を知れ!」


おぉ!? なんだ、まともな人か!? 予想外の展開だ!


味方だと思って擦り寄ったへウメー会頭に怒鳴られ、殴りつけられた狐耳は泣きながら、でも明らかに納得はしていない様子で渋々と僕らに頭を下げ、発言の撤回と謝罪した。


「ふん、うちの者が失礼をしたな。例え相手が無能や貧乏人だろうとも、守るべき節度というものは存在する。それがわからんようでは駄目だな、この女」


ギロリと睨み付けられてブルブルと震えながら小さく縮こまる狐耳。


「従業員の教育はしっかりやってくれよな、おっさん」

「生意気な…… と言いたいところだが、今回は返す言葉はないな」





「さて、私はこの女から『馬の治癒が出来る田舎者が王都に出稼ぎに来る。商会の更なる飛躍に使える。責任を持って取り込むので幹部に取り立ててくれ』と言われていたのだが、小僧がその田舎者か」

「田舎者ではありますが王都には旅の途中で立ち寄っただけです。遠からずまた旅に出る予定ですのでこちらに取り込まれる予定はありませんね」

「ふむ。訂正はその一点だけか」

「あと、僕は小僧ではありません。ナオと言います」


へウメー会頭は値踏みするような冷めた眼でじっと僕を見る。


「結構。私はタイグウ。こう見えてもヒト種だ。オークではないので間違えてくれるなよ」


あ、やっぱり成金オークじゃなくて成金恵体だった。本人も自覚あるのか……


「ナオ、貴様に見せたい物がある。言うまでも無く他言無用だが…… 見る気はあるか?」

「犯罪に関わるようなことでなければお話は聞きますよ」

「ふ、貴様のような子供に頼らずともその手の手札は腐るほどおるわ。ついてきなさい」


そう言ってさっさと歩き出してしまうタイグウ会頭。その後に続く二人の子供。


「どうする? ナオ」

「ちょっと面白そうなので行ってみたいんですが、構いませんか?」

「ナオ様のお心のままに」「そういう気はしたよ。アタシもちょっと興味あるし、行くか」


第一印象と違って普通に話の通じるヒトだし、僕に何かの価値を見いだしているっぽいからいきなり実力行使には出ないだろう。今のところは、ね。


「あぁ、貴様はクビだ。私がここに戻る前に私物を纏めて出て行くように。無駄な手間は掛けさせるなよ」


背中を向けたまま、タイグウ会頭が狐耳に声を掛ける。

絶望した顔で崩れ落ちる狐耳を尻目に、僕らはタイグウ会頭の後を追う。

結局最後まであの狐耳の人の名前は聞かなかったな。


王都一の馬問屋、へウメー商会。さて、何を見せてくれるのだろう?

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