第百五話 乙女心が分からない
「…… と、言う訳なんだ」
僕は今、ベイガさんがアルトさんに真実を打ち明けている場面に立ち会っている。
ベイガさんは即断即決の人なので、僕との話のあと、すぐにアルトさんを僕らの馬車に呼んで打ち明け話を始めたのだ。
僕は撤退するタイミングもなく、完全に巻き込まれてしまった。いいけどね。
アルトさんは最初は驚いたり、怒ったりもしていたけど、途中からは完全に無言になってしまった。
ベイガさんが話し終わっても、まだ黙ったままだ。
沈黙に耐えかねたコソコソとベイガさんが耳打ちしてくる。
「ヤバイよ、ナオさん。こんなアルト初めて見る。めっちゃ怒ってるんじゃないか?」
「うーん、怒ってはいないと思いますけど……」
僕には女心は分からないからなぁ。怒るようなことは多分無いと思うんだけど……
「…… そうだったのね」
ポツリとアルトさんが呟いた。
「じゃあ、アンタ。あのとき何の勝算もなく私を助けに来たの?」
「俺のかくれんぼの上手さと逃げ足の速さは知ってるだろ。なんとかなると思ったんだよ」
「なるわけないじゃない! そんで、結局オークに見つかって? たまたますっかり忘れてた奇跡が起きて? …… バッカじゃないの!?」
「「ヒェッ!」」
「ホント、ホントに! バカ!! バカバカバカ! バカよ、アンタは!!」
あ、やばい。怒ってた。
アルトさんの叫びにベイガさんと僕は思わずすくみ上ってしまう。怖い。
「ウゥ…… ぐすっ」
!? 今度は泣き出した!? ど、ど、ど、どうすれば!?
「ナオさん! 泣いてる! 泣いてる! どうしたらいい?」
「ぼ、僕に聞かれても! と、とりあえず慰めてあげてください」
「慰めるってどうやるの!?」
「分かりませんよ、そんなこと! 何とかしてください、幼馴染でしょ」
泣いている女の子の慰め方なんて高等技術を僕に聞かれても困る。
当事者間で話を付けて頂きたい。
「クスッ」
男二人がアタフタしていると、小さな笑い声が聞こえた。
「なによ、二人とも。神様から力を授かった凄い人のくせに、泣いてる女の子一人にアタフタしちゃって」
「無茶言うなよ、オレがそんな器用じゃないのくらい知ってるだろ!」
そうだそうだ! 無茶言うな!
僕なんて今日が初対面だぞ。
ベイガさんが頑張るべきだった!
「でも、本当にバカなんだから。アンタまで死んじゃうところだったのよ!」
「いーじゃん、なんとかなったんだから」
「ならなかったらどうするのって言ってるの!」
「そんときはオレも一緒に死ぬだけじゃん。しゃーねぇよ」
さらりと、さも当然のことのように凄いことを言うな、この人。
ほらみろ、アルトさんが顔真っ赤にして止まっちゃったじゃないか。
「…… バカ」
!? なんだ今の表情!? 滅茶苦茶可愛かったぞ!? 女の子って、表情一つでこんなに可愛くなるの?
「へーへー、どうせオレはバカですよ」
!? なんで今の顔に無反応でいられるの!? これが鈍感系主人公って奴!? 今のを流せるの、凄すぎない?
「…… そんなアンタだから助けてくれたんだもんね。ありがと。条件を変えてもらうお芝居をするのも良いと思うわ」
おぉ、やった。アルトさんがお芝居に納得してくれたなら問題なしだな。
「私だって、アンタに見られたなんてみんなには知られたくないし、そういう言い訳が出来るなら、これからも村の危機とか、万一の時はベイガの力を当てにしていいのよね?」
「お、おう! 任せろ」
うんうん、これであとは巧く演じられればひとまず解決かな。
「…… ところで、ベイガ?」
「「ヒエッ!?」」
今度は打って変わって冷たい目、地の底から響くような低い声。
「アンタ、最初に無敵になったとき、乙女の秘密を見たのよね?」
「いや、それは、あの、不可抗りょ……」
「見・た・の・よ・ね?」
「は、はい」
すんごい迫力。
これはマズイ、撤退だ! と思ったけどベイガさんが僕の服の袖をがっしり掴んでいた。
これじゃ逃げられない!
「責任、取ってくれるのかしら?」
「あ、あ、じゃあ今度、甘~い蜂蜜取ってきてやるよ! お前好きだよな、アレ!」
おぉ、これは上手いんじゃない? 怒ってる女性には甘いものが一番効くって叔父さんも言ってた!
「……」
「「……」」
無言の圧が強まる。どうやら今のは正解じゃなかったらしい。
叔父さん……?
「……」
「「……」」
気まずい沈黙が続く。
「…… ハァ」
「「! ……」」
アルトさんが大きなため息をついた。思わずビクリとなる僕ら。
でも次の一言が読めないので大人しく息を潜める。
「まぁ、条件を満たすためには仕方なかったのよね」
「そうそう! そうなんだよ! 仕方なく! 不可抗力!!」
ここぞとばかりにわざとじゃなかったことを強調し無罪をアピールするベイガさん。
僕も個人的には緊急事態だたんだし、無罪だと思ってるけど、乙女心が傷ついたといわれると弱いよね。
「次は……」
「え?」
「もし次、また戦うことになったら。私以外で無敵になっちゃダメだから」
「え、それって……?」
「返事!」
「「はい!!」」
なんで僕も返事してるんだ。
お読み頂き、ありがとうございます。
評価、感想、ブックマークなど頂けるととても励みになります。
よろしくお願いします。




