第百四話 ホントのこと
ベイガさんの真実を知った僕は、彼の悩みをなんとかしてあげたくて、色々と考えてみる。
ちょっと欲望に素直過ぎたとはいえ、ベイガさん自身には落ち度はほぼ無い。
完全にあの方の悪戯の被害者なのだ。
スマホを使って直談判してみるか?
…… ダメだな、あの方の性格から考えると碌な結果にならなさそうだ。よくて現状維持、意図的に悪化させる方向に持っていかれる可能性も充分にある。却下。
なんかないか…… 真実を告げずに、上手いこと誤魔化す方法。
いつもなら凄く頼りになるビンスさんやミリアさんに相談するところだけどそれは出来ない。ベイガさんは僕を信じて打ち明けて下さったのだ。
…… ダメだ。
「何も思いつかない……」
「やっぱり、そうだよなぁ。解決するには神様本人にお願いするくらいしか無いとずっと思っててさ。ナオさんを見た時、チャンスだ! と思っちゃって、飛びついちゃったんだ。びっくりさせてごめん」
「気になさらないでください。同じ立場だったら僕だってきっと同じようなことしてたと思います」
こんな状況で希望を見つけたと思ったら縋りつきたくもなるよ。
何とかできないかなぁ。初めて出会った『与えられしもの仲間』なんだ。なんとか力になってあげたい。
ん!? そうか、与えられしもの! 僕もそうなんだから、それを巧く利用できないかな?
「一芝居、打ちますか」
「え!?」
思いついたアイデアはこうだ。
ベイガさんの今の『みんなが思ってる力の発動条件』だと、まずアルトさんが危険な状況になる必要がある。それじゃあ本末転倒だし、汎用性が低すぎる、とベイガさんから僕が相談を受けた。
僕の考えでしかないけど、神様が決めた条件なんだから努力や訓練なんかじゃきっと変わらない。それこそ神様にしか変えられない筈だ。
駄目元だけど、僕とベイガさん二人で必死に祈ってお願いしてみる。
ここがお芝居ね。
なんと奇跡が起きて条件が変わった。
変わった結果、『本当の条件』になってしまった。
原因は推測だけど、僕の『生命』効果とベイガさんの『愛しい人に向ける感情』みたいなものが作用してしまったんじゃないだろうか、と説明する。
「…… どうでしょう?」
「うーん、それでみんな納得してくれるかな?」
「僕の『生命』を男性に置き換えればベイガさんの『反応』に近いものになると思いますし、神様の力の詳細は僕ら人間にはよくわからないって言い張ればいけると思います」
「あー、細かいことは説明しない、出来ない。そういうものって思わせるのか。でも、それだとオレがアルトにエッ…… そういうことしたがってるみたいじゃん!」
「したくないんですか?」
「あ、いや、うーん…… でも……」
「正直、ベイガさんがスケベなのは皆さん知ってると思いますので、そこを気にするのは今更かと」
「そこもなんとか誤魔化せない?」
「人を騙すときは隠したい真実も少し混ぜた方が、かえってリアリティが出て引っかかりやすくなるんですよ」
って、叔父さんがよく言ってた。
「そういうものなの? そんなこと知ってるなんて、ナオさん、可愛い顔して結構ワルなんだね」
「まぁ、ね。これでも色々ありましたから」
ちょっと大人ぶってみる。今の、ちょっとハードボイルドだったんじゃないだろうか。ニヤリ。
「でも、これが上手くいけば、ホントの事は隠せるし、訓練からも解放される! いざってときは誰かに協力して貰えば力も使える! いいじゃん!」
「ね、いけそうじゃないですか?」
「いいよ! 最高じゃん! 思い切ってナオさんに打ち明けてよかった!」
良い笑顔だ。一人でずっと悩んでたんだろうな。お力になれそうで良かった。
「あ…… でも」
「どうしました?」
嬉しそうに笑っていたベイガさんが急に静かになる。
「それだとさ、オレが『アルトを助けるために奇跡を願った』のが本当ってことになっちゃうんだな」
「まぁ、そうなりますね」
「アイツ、オレが『自分を助けるために神様の奇跡を使った』ってすげぇ気にしてるんだよ。大金持ちにだって、王様にだってなれるようなチャンスを、自分のために無駄にした、って」
「……」
「ホントはそうじゃないじゃん? だからオレも今までは違う、そうじゃないってちゃんと否定できたんだ。多分、信じてなかったけど。だけどさ、それを、オレの都合でホントにしちゃうのは…… ダメだと思う」
「そうですね。それは…… 良くないですね」
あぁ、この人は、本当にカッコいい。
「決めた」
少しの沈黙のあと、ベイガさんが呟いた。
「アルトにホントの事、正直に話すよ」
「はい」
「今更だけどさ。『なんとか誤魔化せるかも』って思えたら、逆に、『ホントに誤魔化して良いのか』ってちゃんと考えられた。アイツが信じないのはアイツの勝手、オレはちゃんと否定してる、って言い訳が…… 出来なくなる。ずっと騙し続けることになる。そう思ったら。それは…… 嫌だなって」
「愛の戦士は誠実なんですね」
「やめてよ、ソレ! 認めてねぇよ、ソレ!!」
本人だけだよ、認めてないの。きっとね。
「うん、嫌われて、絶交されるかもしれないけど。ちゃんと話す。ありがと、ナオさん。相談にのってくれて」
「どういたしまして。アルトさんも驚きはしてもきっと嫌いになったりはしませんよ」
「…… だといいけどなぁ」
「僕には何もお手伝い出来ませんけど、応援してます」
「え!? 何言ってんの!?」
さも、意外なことを言われたとばかりにベイガさんが驚く。
え? 今、そういう流れじゃなかったっけ?
「アルトに説明するときはちゃんと一緒に居てよ!? オレだけじゃ心細いじゃん!!」
「え」
「あと、アルトに説明が終わったあと、ちゃんと納得してくれたら、みんなの前でさっきのお芝居の件もお願いします! もう特訓とかしたくないんだよぉ!」
締まらないなぁ。
でも、こういうところもこの人の魅力なのかも。
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