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第103話 『愛の戦士』

「今から4年前、10歳の誕生日の夜に神様の夢を見たんだ」


ベイガさんが静かに語り出す。


「霧の中みたいなフワフワした白い世界に、一目で神様だってわかる、キラキラした人が目の前に立っててさ、『どうなりたい?』って聞かれたんだ」

「どうなりたい?」

「あぁ、いきなりそんなこと言われてもわけわかんないじゃん?

でも、なんか答えなきゃいけない気がして『無敵の戦士になって女の子にモテモテになりたい、エッチなこととかいっぱいしたい』って言った」


欲望に素直過ぎる…… 神様だと思ってる相手に凄い度胸だ。

思わずちょっと引いた目でベイガさんを見てしまう。


「仕方ねぇじゃん! まだ子供だったし、それしか思いつかなかったんだから!!」

「いえ、当時まだ10歳だったんですよね? そんな頃からその、エッチなこととか好きだったんですか?」

「え、10歳のときとかもう興味津々だったぜ? みんなそんなもんだろ。 ナオさんは違ったの?」

「僕はそこまでではなかったと思いますけど……」

「ふーん、まぁ人それぞれなのかもな」


そうなのかな? 少なくとも僕の周りではそんなことなかったと思うけど。

異世界ギャップかしら?





「で、どうなったんですか?」

「神様が『異性を落とす為の無敵、か。面白い』って言った。そこで、目が覚めたんだ」



異性を落とす為の無敵…… 間違ってはいないけど、なんか含みを感じるな。

嫌な予感がするぞ。僕は詳しいんだ。



「神様のお告げだ! と思って起きてからすぐに色々試しに行ったんだけど、全然強くなってなかったし、全然モテなかった。結局、それっきりそんな夢を見たこともすっかり忘れてた」


ベイガさんはそこで、少し間を置いて。


「つい、この間までね」


そう、呟いた。




ベイガさんがあの方に会ったのは4年前。

でも、それから一度も力は実感できなかったから、夢のこと自体すっかり忘れていた。

…… あれ? ってことは。


「アルトさんを助けに行ったときはオークキングに勝てるなんて思ってなかったんですか?」

「あったり前じゃん! ナオさんにだから言うけど、オレあのときおしっこ漏らしてたんだぜ?」


真顔で言うこと? それ。


「なのに、助けに行ったんですね」

「しょうがねぇじゃん! アイツいつもはしっかり者みたいな顔してるけど、結構ドジなところもあるからさ、絶対攫われちまったんだと思ったんだよ」


へぇ。詳しいんじゃん。


「そういえば、よく連れ去られた場所がわかりましたね?」

「アイツの牧場って村の西の外れじゃん? 西側から来たオークが牛を真っ先に見つけて、とりあえず獲物に満足してそのまま巣に戻ったんだと思ったんだよ。村の中では誰もオークを見てなかったからな」


ほぉ。


「それに西の方にはちょっとした森と泉があってさ。動物たちも水を飲みに集まるし、泉の周りにはオレとアルトがよくオヤツにしてる実がなる木もあるから。巣があるなら絶対その辺りだと思ったんだ」


アルトさんを助けに行くときに力を与えられて、そのときに場所も分かったのかな、とか勝手に思ってたけど。

力なんて関係なかったんだ、ベイガさんには。


「で、おしっこ漏らしながら森に向かったわけですね?」

「おしっこはもういいよ! 忘れて!! オーク達が捕まえた牛たちで宴会でもして気を取られてたらコッソリ連れ出せるかもと思ったんだよ。オレ、かくれんぼなら村で一番上手いし。お守りの代わりに店にあった剣を借りてさ。戦って勝てるなんて思わなかったけど、丸腰じゃ怖すぎるだろ?」





「森に近づいたら、それだけでオークが騒いでるのが分かった。めっちゃ怖いんだぜ、あいつら素手で牛の首折っちまうの。そうやって喰われてる牛と、怯えて鳴きまくってる牛と、お祭り騒ぎのオーク達とで滅茶苦茶だったよ。すげぇ騒がしかったから、足音とか気配を気にしなくてよかったのだけが救いだったかな」


ゴクリ。


「で、あちこち探し回って。騒ぎの中心からちょっと離れたところに縛り付けられてるアルトをみっけたの」

「おぉ~!」

「やった! 間に合った! と思ってさ。慌てて駆け寄ったんだけど……」


そこで、言葉を切り、黙り込んでしまうベイガさん。

どうなったんだろう? 急いで駆け寄ったせいでオークに見つかっちゃったとか!?



「アルトがさ、服を着てなかったんだよ……」

「え?」


それって??


「多分、喰うときには邪魔だから破かれたんだろうな。ビリビリのボロキレみたいなのだけかろうじて残ってる感じでさ」

「それは…… 怖かったでしょうね……」


自分を食べる為の下準備で着ているものを破かれるなんて女の子には、いや男だったとしてもトラウマになっちゃうよ。



「なんとか二人で逃げようと思ってさ、持ってきた剣で絡みついてる縄を切ろうとしたけど、すげぇ固くてなかなか刃が通らねぇの。アルトはオレを見たときからずっと泣きっぱなしで協力してくれねぇし」


いや、その状況ならしょうがないでしょ。そこで手伝いを期待するのは無茶だよ。


「焦ってワタワタしてるとさ、その、アルトがアレだからさ。…… 見えちゃうじゃん? 色々。不可抗力じゃん?」

「ま、まぁそれはある程度は仕方ないんじゃないですか」

「オレ、そんなん初めてじゃん? 男の子じゃん?」


ベイガさんが急に早口になった。見たくて見たわけじゃないけど、見てしまったことに罪悪感があるんだろうな。


「…… で、さ。オレ、そのとき、反応しちゃったんだよ。そんな状況なのに……」


そう言って耳まで真っ赤にしているベイガさん。う、うーん……


「ナオさんなら、分かってくれるよな? 仕方ないよな?」

「な、なんとも言いづらいですね……」


非常事態になにやってるの!? と思わないでもないけど、本人が罪悪感を抱いていることも含めて本当にコメントしづらい。本人が望んでした反応じゃないから、責めるのも違う気がする。僕らは思春期の男の子なのだ。


「ま、まぁ…… ソレはわかりましたけど。それ、僕に今言わなきゃいけなかったですか?」


知りたくなかったそんなこと。


「……」


黙り込んでしまったベイガさん。

まずい。な、なにかフォローを!


「そ、そういえば! 凄く疲れてたり、命の危機を感じたりすると本能が子孫を残そうとしてそうなることもあるって聞いたことがある気がします!!」

「……」


本当はそんなことないらしいけどそういう説があるのは本当だから。嘘じゃないよ!

どうだ!? 外したか!?


「…… ありがと。まぁ、そんな状況でさ。モタモタしてたらオークに見つかったんだよ」


一転して大ピンチじゃないか! いや、さっきまでもある意味結構ピンチだったかもだけど。


「ヤバイじゃないですか! ど、どうしたんですか!」

「ちょうどそのときアルトの縄だけは切れたからさ。アルトに逃げるように言って、オークに向かって剣を構えた」


……


「剣なんか持ったこともなかったけど、せめてアルトが逃げるだけの時間は稼いでやろうと思って。残ってたおしっこ全部出しながら剣を夢中で振り回して威嚇してやったんだ」


「そしたらさ。オークが真っ二つになってんの」


ここで! 来るのか!!!


「そんとき初めてわかったんだ。オレが貰った力の使い方」


ここまでの話だとやっぱりアルトさんを護るために強くなったってことで間違いないんじゃない? ベイガさんはめっちゃカッコいいヒーローだよ。


「説明しづらいんだけどさ、なんかわかんねぇけど、出来ることがわかる、みたいな変な感じがして」

「あ、わかります! 僕も最初の頃はそんな感じでした」

「そうなの? 共感してもらえるとは思わなかったなぁ。与えられしものならでは、なのかもね」

「そうですねぇ。不思議な感覚ですよね、あれ」


そこからなかなか本題に進まないベイガさん。よっぽど言いづらいんだな。

ちょっと雑談もいれつつ、ゆっくり話してくれるのを待とう。




「結局さ」

「はい」

「反応してるときに『戦おう』と思うと無敵になるんだ。オレ」



『異性を落とす為の無敵、か。面白い』



…… やりそうだ。すごく。言葉の意味を都合良く誤魔化している。



「そんな条件、普段は満たさないじゃん。だからその時まで全然気づかなかったんだよ」

「それは…… 確かに」


言いづらそうにする訳だよ、そりゃあ。


「でもさ、いつまでも反応し続けられないじゃん? 収まるまでになんとかしなきゃじゃん?」

「はい」

「アルトにオレの上着を渡してさ、見えないようにして。絶対にオレから離れるなよ、って言って抱き寄せて。片手で剣をブンブン振り回して」

「片手で!?」

「無敵のオレにくっついてるのが一番安全だと思ったから。そんときのオレ、神様印の無敵だぜ。オークもオークキングも敵じゃなかったよ」



これが、ベイガさんの与えられた力……

その真実、ってことか。


「凄いです! 凄くカッコいい! 憧れます!!」


いや、なんだかんだ言ってもこの人めっちゃカッコいいじゃないか! 英雄だよ! 愛の戦士だよ!!


「そこからは、ナオさんも聞いてる通りだよ。なんとかアルトを村に連れ帰って、疲れ切って寝ちまって。起きたら英雄になってた」

「いや、英雄じゃないですか! 胸を張ってくださいよ!!」

「……」


真相を打ち明けてもらって、僕は愛の戦士の大ファンになってしまったかもしれない。だって、こんな凄いこと、力を授かる前の僕じゃ絶対にできなかった。ベイガさんは力なんて与えられてなくても、本物のヒーローだよ!


「シーマ姉とかさ、村のみんながさ。オレが強くなる条件…… なんて言ってるか知ってるでしょ?」

「あ……」

「今更、本当の事なんて言えないよ……」


た、確かに……


「愛の戦士って誰のことだよ!? 力を使いこなせるようになるために、とかいって朝から晩まで特訓させられるしさぁ! 無駄だよ! そんなんでオレ強くならねぇよ!? せめて綺麗なお姉さん連れてきて!!」


魂の叫びだ……


「なぁ!! オレ、どうしたらいいかなぁ!! 助けてよ!!」


気の毒過ぎる……

なんとかしてあげたいけど……

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