第百二話 お願い
「お願いします! ホントに! マジで!!」
「ちょ、ちょっと、いきなりどうしたのベイガ? みっともないから止めなさいよ」
「うるせぇ! オレの人生が掛かってるんだ、止めないでくれ! 本当にお願いします!! 神様!」
どうして僕は初対面の同世代にいきなり土下座されてるんだろう。まったく状況が飲み込めない。
それにしても、この世界は土下座文化がすっかり根付いているね。誰が持ち込んだんだろう? 案外自然発生したのかも。意外と文化的に似てる部分もあるんだよね。
全然関係ないことが頭に浮かぶ。
いや、現実逃避してる場合じゃないね、とりあえず土下座止めてもらって、お話を聞こう。
「落ち着いてください。僕たち、初対面ですよね? いきなりもう一度とかチャンスとか言われてもなんのことだか……」
「誤魔化さねぇでくれよ!? アンタのその気配! あの時の夢の中の神様だろ!」
あ~、なるほど?
僕がベイガさんを見て『違う』と感じたように、ベイガさんも僕を見て同じように感じたんだ。
それで僕をあの方と勘違いしてるんだ。
「頼んます! 本当頼んます!!」
そしてこの必死さ。多分この人も、あの方の悪戯の犠牲者なんだな。
「まずは落ち着いて、立って下さい。残念ですが、僕は貴方に力を授けた方じゃありません。なのでいくらお願いされても叶えてあげることは出来ません」
「嘘だぁ! アンタめちゃめちゃ神々しいじゃん! 絶対神様じゃん!」
「実は僕も与えられしものなんです。僕から見るとベイガさんも神々しく見えてますよ。与えられしもの同士だと、神様から授かった力の影響をお互いに感じ取れるとかなんじゃないでしょうか」
「へ……? そうなの?」
「お城で聖剣見せてもらったときも同じように感じたので多分そうじゃないかと。僕も自分以外の与えられしものにお会いするのは初めてなので確かとは言えませんが」
「な、なんだよぉ…… そうなのかよぉ……」
へなへなと脱力したようにへたり込むベイガさん。
結果的には落ち着いてくれた、とも言える。やっとゆっくりお話ができそうだ。
まずはお互いに名乗り合い、軽く自己紹介をしてから、訪ねてきた経緯をシーマさんから説明してもらう。
僕の力についての説明に差し掛かった辺りから、ずっと「いいなぁ」「すげぇなぁ」ってブツブツ言ってた。
「じゃあ、シーマ姉がやたら綺麗になってるのもナオの仕業ってこと?」
「まぁ、そうですね。でも、よく皆さん勘違いされるんですが、僕は汚れや痛んだ部分を癒しただけで皆さん元々お綺麗なんですよ」
「汚れが落ちただけでこんなに変わるのかぁ~? 綺麗すぎるだろ。信じられねぇなぁ」
「綺麗」を連呼されて、照れているのを隠そうと妙にソワソワしている姐御さんが見える。可愛いね。
「まわりのお姉さんたちもみんなとびっきりの美人ばっかりだしよぉ。ズルいよなぁ」
「ベイガさんだって凄いじゃないですか。オークの群れに攫われたアルトさんをたった一人で助け出したんでしょう? カッコいいですよ」
「お、俺は…… それを言われると、まぁ、その、アレだけどよぉ」
ちらちらとアルトさんを見ながら口ごもるベイガさん。
少し頬も赤くなってるし、照れているように見える。
これを見て姐御さん達はベイガさんの力の条件がアルトさん絡みだと判断したんだな。
その様子をみて、シトリィさんとリンスさんが冷やかしまじりでからかう。ハンナさんとミーナさんも興味津々でお話を聞いているし、女性陣に囲まれたベイガさんは満更でもなさそう。
っていうか、顔面が崩壊するレベルでデレデレしている。
多分アルトさん、内心は拗ねてるよ。あとで頑張ってご機嫌取ってあげてね。
お話が盛り上がっている中、頃合いを見計らってベイガさんを誘い出す。
「ベイガさん、ちょっと二人だけでお話しませんか?」
「へ? いきなりなんだよ。確かにナオも可愛いとは思うけどオレは女の子が好きなんだ、ごめんな」
「与えられしもの同士で内緒のお話をしたいんです」
「あ、そーなの? そーゆーことなら聞かせてもらおうかな」
二人で一旦僕たちの馬車に戻り、お話することに。
流石に空気を読んだロロさんも離れてくれた。
ハンナさんはめちゃめちゃ真剣に祈りながら僕らの背中を見送る。
間違いなく、なんか勘違いしてるね。
「で、なんだよ。与えられしもの同士の内緒話って」
「そうですね、これはちょっと皆さんの前ではうかつに言えないんですが……」
早速本題に入る。
僕と二人で無駄話をしているくらいなら早く女性陣のところに戻って、ちやほやされていたいのだろう。わかりやすい人だ。
「あの方ってかなり悪戯が好きなんです」
しばしの沈黙。
「…… どういう意味だよ」
「僕、力を頂く前にお話しして聞いたんですけど、わかってて敢えてちょっと違う方向で願いを叶えたりするのがお好きらしいんです」
「…… ナオの場合はどうなんだよ。めっちゃ凄いオチカラ授かってるじゃん」
「僕の場合は常に力が発動してるので、うかつに人に触れられないっていうのが一番大きいですね」
「でも触ったら健康になるし女の子は綺麗になるんだろ!? そんなんいいことしかねぇじゃん!」
「その女の子が一番の問題なんですよねぇ……」
女性に触ると変な快感まで与えてしまうことを、これまでの実体験を交えて説明する。
「羨ましい!! 俺だったら触りまくっちゃうけどな。それで相手も綺麗になるんだったらどっちも損してないじゃん!」
そう割り切れればどれだけ楽になれることか……
「まぁ、ナオには不便なんだろうな。純粋に人を癒すための奇跡を願ったのにそうなっちゃったんだもんなぁ。女の子に興味持つにはまだまだ子供なんだし」
「あ、僕こう見えても15歳なんです。一応ベイガさんより年上なんですよ」
「えっ、そうな…… そうだったんですか? スンマセン、ちっちゃいからてっきり年下だとばっかり……」
ちっちゃ……!?
…… ま、まぁ? いいけど。
…… 気にしてないよ。
「まぁ、それで僕、気になっちゃったんですよ。あの方が『愛するものを護るためなら強くなれる』なんて奇跡を素直に授けて下さるとは思えなくて」
「……」
「教えてくれませんか? ベイガさんは何を願って、何が叶ったんですか」
少し黙ってから、意を決したようにベイガさんが話し出す。
「絶対に、絶対に、他のみんなには内緒にしてください」
「約束します」
そして、語られる愛の戦士の真の願い。
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