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30 カゲノの恩返し

「カゲノ…っ⁉︎ 貴女そんな所で、一体何をしているのですかっ⁉︎」


 翌朝、シラネの悲鳴の様な叫び声が、魔王の寝所に響き渡る。


 未だ微睡まどろみの中にいた宝来尊ほうらいみことは、この声に、驚いたように目を覚ました。


「うお…っ⁉︎ なに、何かあった⁉︎」

「あ、シラネ、おはようだゾ。朝から凄い剣幕でどうしたんだ?」


「……へ⁉︎」


 ほんのごく至近距離で少女の声が発せられ、宝来尊は思わず両目を見開く。


 気付けば自分のいる布団の中から、ひょっこりとカゲノが顔を覗かせていた。


 その時シラネが天蓋付きのベッドに駆け寄り、宝来尊を強引に引きずり下ろす。それから全身を隈なく確認し、異変がない事にホッと胸を撫で下ろした。


「コホン…もう一度聞きます、カゲノ。一体ここで何をしていたのですか?」


 咳払いをひとつ挟み、シラネがカゲノに厳しい表情を見せる。


「何って添い寝だゾ」


 カゲノはその青い瞳を一杯に輝かせて、満面に無邪気な笑顔を浮かべた。


「知ってるか? アタシはいつも影の中に隠れてたけど、魔王ってこう言うのが好きなんだゾ」


「まさかミコトさまが…カゲノをお誘いになられたのですか?」


「ち、違う。断じて違う!」


 シラネから仄暗い瞳を向けられて、宝来尊は全身で否定を表現する。するとその時、カゲノがベッドの上に仁王立ちで立ち上がった。


「ミコトはアタシと母上の大切な恩人だからな。精一杯全力で恩返しすると決めたんだ。母上も全面的に応援すると言ってくれたゾ」


「ハ…ハハ」


 あの母親、なに大事なひとり娘を煽ってんだよ…宝来尊は力無く、唖然とその場に立ち尽くす。


「そうですか、分かりました」


 そんなカゲノの言い分に、シラネはゆっくりと頷いた。


「ですが、ミコトさまの身の回りのお世話はわたくしがすると決まっていますので、カゲノはそれ以外の事でご恩に報いてください」


「そんなの認めないゾ。アタシだってミコトのお世話をするんだゾ」


 口論での睨み合いからやがては取っ組み合いの喧嘩になり、二人は宝来尊のベッドの上で揉みくちゃになっていく。


「うおーーい、カゲノの母親が、朝飯の準備出来たから呼んで来いってよー」


 そのとき現れたホシワリの姿が、宝来尊には、後光の射す救いの神のように感じられた。

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