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終幕

 まるで夜逃げのように姿を消した複合魔王城施設の向こう側には、広大な湖が広がっていた。鏡と見紛う程の澄んだ湖面には、更に向こう岸に広がる雄大な景色が映り込んでいる。


 一般に『デモンズヘブン』と称されるその湖は天下の宝鏡と呼ばれ、水産、鉱物、観光資源と、管理する者に莫大な恩恵をもたらす。


「へー、こんなに景色良かったんだ、ここ」


「はい、これで基盤は整いました。先先代の崩御の折に失ってしまった領土を、再び取り戻すための闘いを始めましょう」


 シラネが天使のような微笑みで、嬉しそうに言葉を紡ぐ。


「ミコトの身辺警護はアタシに任せるんだゾ。いつでも()から護っててやるからな」


 カゲノはやる気に満ちた瞳を輝かせて、グイッと身を乗り出した。宝来尊ほうらいみことの発案に、彼女も満足したようだ。


 そんな二人を横目にしながら、ホシワリが大口を開けて馬鹿笑いする。


「ガハハ、これで働き口と住処すみかを求めて、再び配下が集まってくる。忙しくなるぞ、小僧」


「あ、ああ、よろしく頼……住処すみかっ⁉︎」


 その瞬間、宝来尊の脳裏に電撃が走り抜けた。


「し…しまったあああ、家賃、家賃だあ!」


 慌てて玉座から立ち上がり、頭を押さえてウロウロする。


「マズイ…住んでないとはいえ、家賃払っとかないと住む所が無くなっちまう」


「その事でしたら、ご心配には及びません」


 シラネのそのひと言に、宝来尊の頭の上にピコンと豆電球が点灯した。


「あ…もしかして、時給の振込みが家賃の口座なのか? それとも魔法的な何かで…」


「いえ、契約終了時、ミコトさまの世界では180分しか経過しておりませんので」


「…………は⁉︎」


 宝来尊の両目が、面白い程にまん丸になる。


「え…だって、時間の概念は同じだって……」


「はい。ですが刻の流れまで同じとは、わたくしは申し上げておりません」


「え…何で?」


「お尋ねには、なられませんでしたから」


「……そうか」


「はい」


 そうしてシラネは大きく頷き、一片の曇りもない笑顔を見せた。


「あーちなみに、時給の計算は…?」


「現地通貨でお支払い致しますので、もちろん現地時間でございます」


「ハハ…なるほど。それと念のためだけど、途中で契約解除とかって出来るかな?」


「いいえ、出来ません。もし破れば呪縛の光によって、魂までもが粉微塵に消滅します」


「おーそれ知ってるゾ。例え天上の女神でも、もう修復出来ないらしいゾ」


 言いながら二人は、天使のような笑みを満面に浮かべる。宝来尊はガックリと玉座に座り込んだ。


「ガハハ小僧、よくは分からんが気にするな」


「ハ…ハハ」


 なんだコレ、こんなブラックあり得ねー…


 ホシワリの豪快な笑い声を聞きながら、宝来尊の乾いた笑い声が木霊する。


 宝来尊、本日の業務終了まで、あと172日…




 〜おしまい〜

これでこの物語は、一応の終幕となります。お読みいただき、ありがとうございました(^^)

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