26 暗殺者①
「バルザー!」
声と同時にバルザーの足元から道化師のような姿の影が伸び上がり、一直線に宝来尊の目前に迫る。
次の瞬間、道化師の持つ三叉槍の穂先を、シラネの漆黒の大鎌が受け止めた。その拍子に、結んでいたスカートの裾が解けてヒラリとはためく。
「へ⁉︎」
唯一、事態が飲み込めない宝来尊の口から、何とも間抜けな声が漏れた。
「一体どういうつもりですか、バルザー! 慣例により魔界大綱引き大会での戦闘行為は、一切認められていない筈です!」
「残念ですが、アナタ方が伝統あるこの勝負に不正を働いたという報告がありました。故に我が主人の名を以って断罪させて頂く」
「な、何を言って…?」
バルザーの思わぬ反論に、シラネは訳も分からずに目を白黒させた。
「ガハハ、どうやらアチラさんは、儂らに難癖付けてこの勝負を無かった事にしたいようだの」
多数の魔族に囲まれながら、ホシワリが愉しそうに大声で笑う。その声を聞きながら、シラネは小さな溜め息を吐いた。
「なんと愚かな事を……ですがその悪巧みもここまでです。ミコトさまへのこれ以上の狼藉を、わたくしが許すとお思いか!」
「勿論、我が一撃をシラネさまが受け止めるであろう事など、百も承知」
バルザーの口角がニヤリと歪む。
ごめん……
その瞬間、シラネは確かに親友の声を聞いた。
直後にバルザーの影の中から飛び出した少女が、シラネの傍をすり抜けて宝来尊の背後に着地する。一瞬遅れて宝来尊を中心に螺旋の旋風が巻き起こり、何十回もの斬撃音が鳴り響いた。
まるで役目を終えたかのように、バルザーの影は彼の足元へと戻っている。旋風に煽られながらも、シラネは焦ったように振り返った。
「カゲノ、どうしてっ⁉︎」
そこには黒い狼の耳と尻尾の生えた、小学生くらいの少女が背中を見せて立っていた。それから右手で逆手に構えていた脇差を、左手の鞘に音もなく納刀する。
「もうシラネとは敵同士、これも世の常なんだゾ」
そうして銀髪ボブヘアをなびかせて振り返った少女は、青い瞳に哀しみの色を湛えていた。




