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転生の糸使い [830万PV突破・400万字、900話以上の大ボリューム!]  作者: 青浦鋭二
第2部 海の国編 (初任務・火焔馬・海の民・ハイワーシズ)

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第235話 閑話 救援と友の護り (アルテミア視点)

引き続き閑話で、今回はセラーナたちと別れた後のアルテミア視点に戻ります。

 セラーナ殿たちと別れた私は燃え盛る建物の間を通り、狼煙の上がった場所へ急いでいると、索敵魔法には感知されてないのにも拘わらず周囲に違和感を覚えた。


常軌(じょうき)(いっ)した敵がいる中で警戒するに越したことは無いわね……。

『エル・エリア・ホーリー・ライト!』」


 万一に備えて発動させた浄化の光は辺りを照らし出すと、闇属性の隠蔽(いんぺい)魔法を打ち消したのか建物の上や陰からこちらを狙う、多数の黒装束(くろしょうぞく)の暗殺者が姿を現した。


「暗殺者ってのは本っ当にいやらしい戦い方をするわね! 私、こういうのは大っ嫌いなのよ!

 まとめて片付けてやるわ!『極光嵐穿弓(きょっこうらんせんきゅう)!』」


 散々な目に遭わされた記憶も新しい私は、苛立(いらだ)ちながら魔力を一点に集めると上空に向けて矢を放ち、空中で砕け散ったそれは島の上空にオーロラを出現させると、辺り一帯に矢の雨を降らせた。


「ど、どうして我々の気配が!?」


「そんなもの勘よ、勘! とにかく私の邪魔をしないでちょうだい!」


 私は回復薬を飲んで再び矢を放ち周囲を殲滅すると、建物が軒並み破壊されて見通しの良くなった周辺からは、海の民の正規兵が現れて立ちはだかる。


 かなり範囲を絞ったとは言え、以前はこれほどの大技を2回も使えば少なくとも疲労で動けなくなったものだけれど、ここ最近の修行の成果は確実に出ているらしい。

 だいぶ疲労感はあるものの、それは回復薬である程度緩和されていて戦うのに支障はない。


「フルトネール様が『闇帳(やみとばり)』を押さえ、暗部が壊滅させられた今、我々が此奴(こやつ)をここで足止めするのだ! 撃てぇっ!」


「ふぅ…今日は薬漬けもやむなしね……。

『エル・エリア・エア・ハンマー!』」


 私は溜息をつくと海の民が得意としている、中距離射程の魔道具から一斉に発射された弾を風で押し返すと、自分たちの近くに着弾して浮き足立つ敵を次々と射抜いていく。


「止めろ! 何としても止めるのだ!」


「命の惜しくない者はかかってくればいい!

 この『嵐穿弓』アルテミアがあの世に送ってあげるわ!」




 そうして敵を片付け、狼煙の上がった所に到着すると、付近には戦闘の痕跡と倒れている敵だけが残っていた。


「周囲には……いないわね。それにしても向こうの林で一体何が起こって……」


 私は索敵魔法で付近を探って誰もいないことを確認すると、少し先の林の方角から響いてくる悲鳴や戦闘音に耳を澄ませる。

 するとその時、反対側の空に火球が打ち上がり、花火のように弾ける音が聞こえた。


「あれは……」


 私はどちらに行くべきか迷った。

 林の中では戦闘が続いている。一方であの花火は恐らく、何かの合図だ。

 ならあれは何を知らせるものなのか……。

 味方なら当然助けを求めて居場所を知らせているだろうし、敵なら味方を呼んだり作戦に関する合図だろう。

 そして敵が作戦の合図を出すのなら、それは長の娘の確保に関してだ。


「よし……」


 私は決心して弓を引くと同時に、火球の上がった方へと出来る限り索敵魔法を伸ばす。


『嵐穿弓!』


 そうして間にある建物が無人なのを確認すると矢を放ち、同時に光の属性身体強化を全開にして駆け出して、嵐の矢を追いかけて一気に目的地へと到達した。


 すると瓦礫となった教会と思われる近くには、先ほど逃がしたアクノヴァルナと倒れた状態の少女がいて、アクノヴァルナの表情が歪む。

 そして私が予想よりも早く再会できたアクノヴァルナと言葉を交わしていると、倒れている少女が悲痛な表情で友達を助けてくれと叫ぶ。


 私はアクノヴァルナを警戒しつつ辺りを見ると、そこには全身血塗(ちまみ)れで倒れているルミアの姿があった。


「……友達って、ルミア!?」


 私は驚きながらも見るからに瀕死の彼女に向けて回復の矢を放つと、少女は激昂して罵声を浴びせてくるし、アクノヴァルナは少し楽しむように笑っていた。


 ルミアと一緒にいて彼女がここまでになるほど戦ったということと、真紅の髪に海の民特有の日焼けしたような肌。

 恐らくあの少女がクリムゼリスなのだろうけど、イメージと随分違ってじゃじゃ馬……いえ、元気そうな子ね…。


 私は本気でルミアを心配しているクリムゼリスを見て、少しだけ安心した。

 彼女なら他人を思いやって海の民を率いる事が出来るかも知れない。甘さは時に命取りとなるけれど、それは周りが支えてやればいい。


「げほっ! けほっ……」


 私が回復矢を撃ち続けていると、やがてルミアの意識が戻った。

 するとそれを見たクリムゼリスは怒りの形相(ぎょうそう)を一変させて弾けるような笑顔になり、いつの間にかクリムゼリスを抱えていたアクノヴァルナは、逆に驚きの表情を浮かべて隙が出来た。


「私の弓は敵を射貫くためだけにあるわけじゃないのよっ!」


 私は隙を突いて攻撃すると、さすがにアクノヴァルナも反応して防ぐ。

 そうしてジリジリと逃げる準備をしていたアクノヴァルナを、弓を引いた私が狙っていると突然こちらに攻撃を仕掛けてきた。


 クリムゼリスを抱えたまま私と戦っても勝機などない。

 それに見た感じだと私との戦いはもちろん、ルミアとの戦闘でもかなり消耗しているらしい彼女に、今の私と戦って勝つだけの余力があるとも思えなかった。


 意外な行動に驚きつつも攻撃を防ごうとすると、アクノヴァルナの放った水魔法は見当違いの方に向かい、そして私がその意図に気づいた時には鋭利な槍と化したそれはルミアの胸に突き刺さった。


 私は湧き上がる怒りと共にアクノヴァルナを見ると、攻撃と同時に動き出していた彼女はその場から走り去るところで、連れ去られているはずのクリムゼリスからはルミアを助けることを、『長の娘』としての最優先の願いだと言って頼まれた。


「くっ……!」


 正直なところ私は迷った。

 街が、騎士が、冒険者や傭兵が、何より住民たちがこれほどの被害を受けておきながら、目的のためにそれを(おこな)った者をこのまま逃がすのかと。


 このままクリムゼリスが海の民に攫われ、グランドセイルに到着するのを許した場合、海賊化している海の民は現在よりも更に強い海軍を持つことになる。

 それはハイワーシズやイサプラ諸島だけでなく、海に面する地域にとってはこの上ない脅威だ。

 そんな彼らによって今後もたらされるであろう被害は、この街の比じゃないだろう。


 それを防ぐには今この時にルミアを見捨ててアクノヴァルナを追い、クリムゼリスを取り返すしか無い。

 私は拳を握り締め、倒れているルミアに背を向けようとした。


「……っ!」


 しかしその時、仲間と共に船の上で笑うジグの顔が頭に浮かび、故郷の村人を助けに行くと言って飛び出した少女の姿と、それを追いかけていく二人の後ろ姿を思い出した。


「……あぁもうっ! 国を守る騎士にあるまじき判断だわ!」


 私はアクノヴァルナが去った方向に背を向けると、ルミアの元へと駆け寄った。


『キュアエル!』


 そして両手に魔力を込めてルミアの体に触れると治療を始めたが、その直後に驚くべき事が起こる。


「なっ…!? ルミア、あなた……」


「わ……私の、ポー、チに…れい……や、くが……」


 私の腕を掴んだルミアは(かす)れた声で途切れ途切れに言うと、私は急いで腰にあるポーチから一つの小瓶を取り出してルミアに飲ませる。


「即死しててもおかしくないと思ったのに、どうして……」


 私は薬を飲ませ終えると回復魔法をかけながら、ズタズタになったルミアの体を上から撫でる。

 するとボロボロの皮鎧と服の下に光るものを見つけた。


「ふふふ……わ、私の神友(しんゆう)は心配性で、親切で、そしてとっても優しいのです……」


 先ほどよりもハッキリとした声で言うルミアが、その体に身に着けていたのは白金に輝く鎖帷子(くさりかたびら)で、頭から足の先まで全身にあった傷は深く出血も酷かったものの、鎖帷子で覆われた胸と腹部だけは傷こそあるものの、それほど出血はしていなかった。


「衝撃だけはどうしても防げませんけど、刃も槍もほとんど通しませんでした。さすがはミスリルですね……」


 そう話すルミアの体はみるみる傷が塞がっていく。

 先ほどの彼女はたしか霊薬と言っていた。ということは飲ませた薬はエルフの……イリトゥエル様が渡したエルフの霊薬か!


「まったくもう……心配させないでちょうだい」


「すみませんね~。これでも全身打撲(ぜんしんだぼく)に大量出血と魔力切れで、致命傷こそ負わなかったものの死にかけてましたから、実際あのままあなたに見捨てられたらポックリあの世行きでしたぁ…」


 先ほどよりもまた更に言葉に力が戻ってきたルミアは、私の葛藤などお見通しだったらしい。


「……気づいていたの?」


「騎士として隊を率い、部下の上に立つ者としては当然の思考だと思ってますから、別に責めるつもりはありませんよ。

 それに…結局あなたは私を助けてくれました。ジグさんから聞いてた通りに甘い……しかし信じられる善人ですね。ありがとうございます」


「お礼ならあの子に言ってちょうだい。弟子の仲間じゃなければ(ある)いは……そのまま見捨てたかも知れないわ」


「ふふ、厳しいのは言葉ばかりなのも、聞いてた通りです……」


 私の弟子は随分と師匠である私のことを色々と……そう、好き勝手に話しているようだ。

 今度時間があったら、その辺についてじっくりと話す必要があるのかもしれない……。


 私がそんなことを考えていると、ルミアはフラフラとしながらも立ち上がり、ゆっくり歩いていくと近くに落ちていた義手を拾い上げる。


「これはクリムゼリスさんのものです。そして彼女は鍵を持っていたのに敵は見つけられなかった。と言うことは……」


 ルミアは固く握られた義手の手の平をギギギと音を立てながら開くと、そこには首飾りとしてかけられるように鎖が付いた鍵が握られていた。


「文字通り奥の手の中に隠しておくなんて……一歩間違えば気づかれて持ち去られるのに、大胆なことですね」


「それがグランドセイルの鍵…………なら!」


「はい。あとはあの無礼者からクリムゼリスさんを取り戻せば、敵の狙いは全て潰せます。私も追い掛けますから先に……」


 ルミアはそこまで言うとハッとして何か思い出したようで、真面目な表情に変わる。


「クリムゼリスさんが連れ去られたのはどちらの方角ですか?」


「方向を途中で変えてなければ、あっちに向かって真っ直ぐね」


 私は元来た道を指差すと、先ほど見つけた林の方の空は赤く染まっていた。


「……あちらではジグさんが『風海将(ふうかいしょう)』と呼ばれる者と、たくさんの海の民を相手に戦っています!」


「!!……すぐに向かうわ。あなたはその義手と鍵を持って一度他の騎士か……出来ればセラーナ殿と合流して。

 それを奪われたらクリムゼリス様を取り返しても意味が無いわ」


 ルミアの話を聞いた私が指示を出すとルミアも何か言いかけたが、私がそれを許さずに鍵の重要性を説くと唇を噛んで頷いた。


 たとえエルフの霊薬と言えど表面の怪我はすぐに癒せても、体の内部に残るダメージまではそんなにすぐに癒せはしないはずだ。

 それに瀕死の重傷に加えて魔力切れまで起こしていた彼女が、すぐに戦えるとは思えない。少なくとも海将の相手は無理だ。


「まだ完全じゃないでしょうから、本当に気をつけて。特に暗殺者は闇魔法で姿を隠しているから、少しでも違和感があれば光魔法で……」


「分かってますから早く行ってください! 私とてジグさんのところに行きたいのを我慢するにも、限界があります!」


 仲間のところに行きたくても、自身の体の状態も分かっているらしいルミアはそう言って移動を促す。


「……わかったわ。じゃあまた後で!」


 私は回復薬を飲むと再び身体強化を全開にして、吹き飛ばした建物の跡を突っ切って炎上する林へ急いだ。

 しかし度重なる戦闘や治療によって、回復薬で誤魔化(ごまか)していた私の体にもそろそろ限界が近付いていた。

予定ではジグと合流してからその後も……と思っていたのですが、想像以上に長くなってしまったのでここまでとします。


前半の戦闘部分~アクノヴァルナ発見まではカットも考えたのですが、時系列を分かりやすくするのと最後に書いたように、アルテミアも限界に近い状態の説得力のためには削れませんでした(汗)


さて本編ですが、セラーナたちに助けられたアルテミアはその後も戦闘続きで、実は結構無茶をしてます。

アクノヴァルナと再び対峙したときも、見るからに分かるほど相手に消耗の様子があったからこそどうにかなりましたが、アクノヴァルナに戦闘の意志があれば結構危なかったところです。


そしてツイッターや感想などでもご心配いただいたルミアは、神友イリトゥエルの気遣いが功を奏してどうにか無事でした。

ルミアはもう、イリトゥエル様に足を向けて寝られませんね(笑)


敵が狙っていた鍵も、ルミアが暗部長を撃退してなければ恐らく義手を持ち去られたか、その場で発見された可能性が高かったのでかなりグッジョブでした。

何気に、鬼気迫るルミアの行動によって時間は稼がれ、アクノヴァルナにも義手を調べる時間的・精神的余裕が失われたうえ、最終回にはアルテミアが間に合ってます。


こんな感じですが、次回はアルテミア視点で続きを普通に書くか、テンポを重視してジグ視点のその後のまとめをするか、悩みどころですね( ̄▽ ̄;)

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― 新着の感想 ―
[良い点] それぞれが命を削るという展開の中、ルミアちゃんとアルテミアさんの会話といいますか、交流がですね。 こんな状況での言葉としてはふさわしくはないのですがとてもかっこいいな、なんて思ってしまいま…
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