第229話 大海を越えて その10 長の娘と風海将
僕たち……というよりは僕が、港の倉庫区画で窮地に陥っていたところを助けてくれたのは、あろうことかこちらが捜し出して助けるはずの相手だった。
「今も騎士の皆さんはあなたのことを捜しているはずなのですが、今までどこに居て何をしてたんですか~?」
「それがさぁ。どうにかハイワーシズの使いと連絡を取ってこの島まで来たのは良かったんだけど、到着した直後にフルトネールの子分どもに襲われて案内役がやられちまうし、アイツだけかと思ったら島ん中には三海将が全員来てるもんだから迂闊に動けなくてさ。
この外套で魔力も気配も消して、とりあえず人のいないところに来たんだ。
そしたらフルトネールが関係ないやつを襲ってるし、街ん中なら騎士や冒険者が住民を助けてたみたいだからアタシもそいつらに任せて逃げてたけど、周りに誰もいないんじゃここは自分が助けるっきゃない!って思ったわけよ」
ルミアの質問に対してクリムゼリスは、気配を消すことが出来るらしい魔道具の外套を見せたり、身振り手振りでこれまであったことを説明していた。
すると外套の下には情報通り義手が見えたので、本当に彼女が長の娘にして初代の直系、その唯一の生き残りなのだとわかった。
……彼女は立場的に海の民の姫にあたると思うんだけど、随分とフレンドリーなものだ。姫という地位にあってこれまでに出会ってきた、イリトゥエルやカナレアとはだいぶ雰囲気が違う。
そんなことを考えていた僕だが、しかしそれと同時にルミアがどう出るのか心配になった。
さっきはあんなことを言ってたけど、まさかここでいきなり判断したり戦闘になったり……しないよね?
「一つ聞きたいのですが、あのフルトネールという者は何者なのですか~?」
「ん? あぁ、アイツは海の民の軍勢を率いる三人の海将の一人で、強い雷属性を持ってるから『雷海将』って呼ばれてるんだ。
そうだなぁ……ここ十年くらいのことは知らないけど昔っから強かったし、今の海の民全体でも五本の指に入るんじゃないかなぁ。
……あ、それと逃げてる最中に『風海将』ラファーガと、『水海将』アクノヴァルナの名前も出てたから、他にも似たようなのが二人はこの島に来てるみたいだぞ?」
ルミアの質問に答えたクリムゼリスは最後に、お前ら大丈夫か?みたいなノリで付け加えたが、どちらかと言えば僕たちは偶然フルトネールと遭遇して戦闘になったわけで……本人には狙われてるのが自分なのだという自覚はあるのだろうか。
「ふむふむなるほど……わかりました。ではクリムゼリスさん、あなたにはひとまずハイワーシズの方々と合流してもらいましょうか~」
ルミアに何がわかったのか僕にはよくわからないが、とりあえず今すぐ彼女をどうこうするつもりは無いらしい。
僕の怪我を治療し終えたルミアはそう言って立ち上がると、僕の左手を掴んで立ち上がらせる。
「もう大丈夫でしょう?」
「うん。もうすっかり良いみたいだ、ありがとう」
「へぇ~! あの怪我がもう治るなんて、凄いんだなお前ら?」
左肩に小さな穴が開く程度には重傷だったのを、ルミアが短時間で癒したのを見てクリムゼリスは感心したように言う。
「お前らではありません。私はルミア、こっちはジグさんです~。これでも成人した冒険者ですし、ハイワーシズの騎士に協力してクリムゼリスさんを捜しに来たんですよ~?」
「フルトネール相手にあそこまで戦ってたのもそうだし、強そうだなぁとは思ってたけど冒険者だったのか!
それに二人の名前はルミアとジグサンか。よし、わかった!」
「……いや、わかってないです。僕の名前はジグです」
「あっ、悪い悪い! よろしくな、ジグデス!」
「違いますよっ!? 僕の名前はジグ! サンもデスも付かない、ただのジグ! ジグと呼んでください!」
「ん? あっ、そうか。そんじゃよろしくな、ジグ!」
本気で間違えたのか、それともわざとなのか。
ニシシと笑って僕たちと握手し、嬉しそうにしているクリムゼリスは……あっ、これはわざとだな。
……まぁとにかく、捜索対象を無事に発見できて良かった。
「それではアルテミアさんかセラーナさんと合流するために動きたいところですが、この地に先ほどのような者があと二人もいるのなら、狼煙を上げて合図をするのはやはり愚かというものですかね~?」
「そうだね。クリムゼリス様にはその外套を使ってもらって、僕とルミアで敵を排除しながら味方に合流した方が良いかも。もちろんさっきみたいな強い相手は避けつつだけどね」
「そうだなぁ……って、何だその呼び方!? 気持ち悪いから様なんて付けんなよ!」
一応自分としては身分差を考えての様付けだったのだが、クリムゼリスは凄く嫌そうな顔をして言っているので、心の底からそう思っているのだろう。
「いや、でも身ぶ……」
「たとえアタシの生まれがどうでも、この歳までほとんどグランドセイルになんていなかったし、様を付けられるような生活もしてきてねぇんだから、そんなの気にしなくていいんだよっ!
それにジグもルミアもこれからアタシを助けてくれるし、アタシもさっき助けた。これってもうトモダチってやつだろ?」
正直普通に話せるならそれが一番楽なのだけれど、それでも一応気を遣うべきかなと考えていると、クリムゼリスはそう言って僕の背中をバシバシ叩きながらニシシと笑う。
……金属製の義手では叩かない辺り、一応気をつけているのだろうか。
「う、う~ん。よく分からないですけど、本人がそう言うなら……」
「敬語とか面倒だからいいって! ルミアも普通に話してくれよな?」
「私は自分の好きなようにしますから、ご心配なく~」
「いや、でもジグが普通に話すのにルミアだけそのままじゃ……」
「ご心配なく~」
「あっ……うん、わかった!」
僕と同じくルミアにも対等な言葉遣いを求めたクリムゼリスだったが、ここはルミアの有無を言わせぬ雰囲気が勝ったようで、ニッコリと微笑んでいるルミアを見たクリムゼリスは、大人しく引き下がることにしたらしい。
……うむ、非常に賢明な判断である。勘が良い子はきっと長生きできるよ。
「じゃあそろそろ行きましょうか~」
「うん。クリムゼリスも外套を使って僕たちの後についてきてね」
「その必要はない」
「「「!?」」」
支度を済ませた僕たちが林から移動しようとすると、突然自分たち以外の声が聞こえてきて、その直後にクリムゼリスのものと同じ外套を纏ったフルトネールと似たような鎧姿の男と、索敵魔法には少し離れたところから一斉に集まってくる、海の民と思われる反応が感じられた。
「姫様、お元気そうで何よりです。お迎えにあがりました」
驚愕している僕たちの前に現れたのは長い緑の髪に紫色の目をした、フルトネールと同じか少し若い騎士風の男だった。
「おまえは……『風海将』ラファーガ…!」
「幼き頃に会っただけの私を覚えていてくださり光栄です。
つきましては御身か、大氷玉の鍵をお渡しいただきたく……」
「そ……そんな簡単に渡せるものなら、母様が自分を犠牲にしてまでアタシに指輪と鍵を託したり、パルクラークのジジイだって命懸けで戦ったりしないだろっ!!」
「ならば仕方がありません。お命を頂戴してから鍵を回収させていただきます……」
怒りを露わに歯を食いしばって怒鳴るクリムゼリスに対して、ラファーガは冷静な口調でそう言うと背中にさしていた二本の剣を抜いた。
しかしその剣には刃が無く、剣の柄だけが両手に握られていた。
「何だあれ、絶対に何かあるやつじゃん……」
「そうですね~。でもジグさん、先ほどは『全開』でも『本気』では無かったんですから、今度は『出力全開で倒す』のではなく、最初から『本気で殺す』つもりで戦ってくださいよ~?」
「……わかってるよ。痛い目に遭うのはもう嫌だし、今回は護衛対象がいるからね」
僕とルミアはクリムゼリスを挟むようにして立つと、ラファーガと……そして迫り来る海の民の軍勢を迎え撃つべく行動を開始した。
ようやく見つけた捜索対象には逆に助けられてしまったジグでしたが、割とすぐに打ち解けたうえ、ルミアのお眼鏡にもひとまずはかなったというか、経過観察の判断をする程度には見所が有るようです。
そしてラファーガが初登場。パルクラークというクリムゼリスの守り役も名前だけ登場です。
捜索対象を見つけてやっと動き出せると思いきや、フルトネールに続いてまたも難敵の登場ですが、今回は周囲に迫るたくさんの敵を相手にジグもルミアも本気です。
クリムゼリスの力も次回には判明すると思いますので、そちらもお楽しみにです( ´∀`)




