第228話 大海を越えて その9 捜索と雷海将
クリムゼリス捜索を開始した僕とルミアは炎上する街の中を敵を倒しながら進み、やがて巨大な港にある倉庫区画へとやって来た。
「街の方は住民を助けるために騎士や傭兵らがウロウロしてますから、それでも未だに見つかったという報告がなく、狼煙が上がらないのでしたらこっちが怪しいと思うんですよね~」
僕の前を進んで先導していたルミアが、そう言いながら辺りを見回す。
「確かに海の民が街に火を放って向こうを重点的に捜してるなら、僕なら街の人たちに迷惑をかけたくなくて人のいないところに来るかもだけど……」
しかしこんな港の一角で敵に見つかったら敵船団にも近くて、例え狼煙か何かで助けを求めても、それを待つどころではないような気もする。
敵から逃げてセラーナたちと合流するなら何としても街の中に潜み、進んで行かなくてはならないはずだ。
「まぁ他の人たちが捜している所を私たちが捜しても無意味ですし、他で発見されたなら後から合流すれば良いではありませんか~」
呑気なルミアはそんなことを言って更に奥へと進む。
僕もそれについていき索敵魔法で辺りを探っていると、前方に大きなものが1つと他に数人の魔力反応があった。
「これってもしかして……」
「あらまぁ、ドンピシャってやつですかね~?」
同じく気づいたらしいルミアも頷いているので僕たちは早速その場所へと急いだが、到着するとそこにはメリルから聞いていたような姿の人物はおらず、海の民が倉庫内を捜しているのが見えた。
「ハズレかぁ……。それにしてもあの中にいる一人、突っ立ってるだけなのにあれだけの反応があるなんて、かなり強いよね」
「装備も他とは違いますし、何らかの地位にはありそうな感じですね~」
僕は部下らしい数人に捜索させて、自らは指示しているだけの海の民の男を物陰に潜んで眺めつつ、ルミアと小声で話していると急に背筋が凍るような寒気を覚えた。
そしてそれと同時にエルフの指輪が白く光る。
「っ!!」
間一髪だった。
方向も考えずに飛び出した僕とルミアがその場から飛び退くと、僕たちのいた場所には次の瞬間、眩いばかりの雷光が奔って木箱や倉庫の壁が粉々に吹き飛んだ。
この速さと威力……それだけでもう相手の実力が尋常じゃ無い事がわかる。
「ルミアは支援魔法と援護をお願い!」
「わかってます~!『スピード・アップ!』『プロテクション!』『パワー・アップ!』『マジック・シールド!』」
僕はルミアにそう言って着地した直後に動き出した。
次々と支援魔法を受けながら白剣を抜き、男へと突進していくと向こうも既に部下たちが戦闘態勢に入っていた。
「強敵相手で数も不利なら、最初から全開で行く!
……グゥゥゥアァァァッッ!」
僕は風を纏いながら白剣には雷を、そして銀狼の腕輪に魔力を通して狂獣化も発動させ、こちらに向かってくる海の民を斬り、殴り飛ばし、蹴り砕いていく。
『エル・ライトニング・スタン・アロー!』
すると先ほどの……赤い眼に金色の短髪、色黒の肌に銀色の鎧を身に着けた男が剣をこちらに向け、僕を鍔迫り合っていた海の民ごと雷の矢で撃ち抜いた。
「ぐあぁっ……!」
「フ、フルトネールさま…ご、ご武運を……」
「うむ、ご苦労であった。お前たちは小僧にトドメを刺せ、俺はあちらの娘を片付ける」
海の民は胸を撃ち抜かれてそう言うとすぐに絶命し、僕もルミアの魔法防御を突破されたうえに左肩を撃ち抜かれ、麻痺してその場に倒れると、フルトネールと呼ばれた男はそのまま何事も無かったような顔で他の部下たちに指示を出し、ルミアの方に歩いていく。
「な、仲間ごと攻撃するなんて……」
「我々の事を知らぬお前たちが何をどう思おうが、こちらも知らぬ」
そう言って僕の横を通り過ぎようとした時だった。
『エル・メニア・ホーリー・レイ!』
幾筋もの光が頭上を過ぎ去り、僕にトドメを刺そうとしていた海の民はそれらに頭を撃ち抜かれて倒れた。
「ならあなたが同じ目に遭っても文句はありませんよね~?」
そう言って一際魔力を込めた熱線魔法をフルトネールに放ったのは、他でもないルミアだ。
「ほう……治癒術士かと思ったが、どうやらこの小僧より歯応えがありそうだな?」
「ジグさんが『全開』ではなく『本気』だったなら、あなたは今頃そんな軽口を叩けなかったでしょうねっ!」
熱線を最小限の動きで避けたフルトネールに向かってルミアが飛び出すと、フルトネールは剣を構えて迎撃態勢をとる。
するとその直後、全く別の方向から放たれた蒼炎がフルトネールを襲い、不意を突かれたフルトネールは咄嗟に防御したが全身のあちこちに火傷を負った。
「ちぃ……」
「あら、よそ見はいけませんね~『黒桜裁葬!』」
動きの止まったところにルミアが魔法を叩き込むと、フルトネールは地面にめり込むほどの衝撃を受けて倒れた。
「おい、そこの女! 仲間を連れてついて来い!
『ホーリー・ライト!』」
「慌ただしいですね~、大丈夫ですかジグさん…ほら、行きますよ~」
「うっ……た、助かるよ……」
「くっ、このまま逃がすわけにはいかん……。
『エリア・サンダー・レイン!』」
『エル・アクア・シールド!』
フルトネールが倒れると、ルミアの背後から声が聞こえて辺りが光に照らされる。
すると鎧が砕けるほどの衝撃でかなりのダメージを受けたにも拘わらず、フルトネールは辺り一帯に雷の雨を降らせたが、それらはまたも何処からか発動させられた水の盾によって防がれ、僕たちには届かなかった。
そうして倉庫区画から離れた僕たちは、姿は見えないのに聞こえてくる声に付いていくと、少し離れた林の中に辿り着いた。
「ここまで来ればひとまず安心だな!」
そんな声がして突然姿を現したのは、茶色の外套を纏い真紅の髪をポニーテールにして、勝ち気な銀色の眼でこちらを見ている一人の少女だった。
「いやぁ、巻き込んで済まなかった! アタシはクリムゼリスってんだ。それにしてもお前ら、よく『雷海将』フルトネール相手に死なずにいられたなぁ、やるじゃん!」
白い歯を見せてニシシと笑うその子は、どうやら僕たちが捜していた人物らしい。
僕はもちろん、僕の怪我を治療していたルミアすらもイメージとは違っていたのか、少しのあいだ面食らって彼女を見ていた。
少し短いですがここまでとします。
海の民のフルトネールとクリムゼリスが初登場。
フルトネールはともかく、クリムゼリスの設定は結構前から既にあったのですが、いざ本編を書いてみると声のイメージや言動がかなり変わってきて、もっと苛烈で厳しい性格を想像していた割には、何だか人懐っこい感じに寄っていきました。
今後どうなるかは分かりませんが、ひとまずはこの形で行きたいと思います。
フルトネールもかなりの実力者なのですが、クリムゼリスの不意討ちと味方の扱いやジグが負傷したことで少し本気になったルミアの一撃を受ければ、やはりノーダメージとはいきませんね。
やっと出てきたキーパーソンですが、本番はこれからなので次回もお楽しみにです( ´∀`)




