第220話 大海を越えて その2 それぞれの戦いと二人の副頭(3視点)
今回は小隊3人の視点で書いてみます。
先走って攻めてきた一隻の海賊船を沈めた俺たちは、残る二隻が回り込んでくるのを見ていた。
「挟み撃ちにするつもりか……ダンク、どうしたら良いと思う?」
まだ魔法や矢の届かない距離にいる敵船を見ながらジグが問う。
その表情はこちらを品定めしているようでもあり、また気遣っているようにも見える。
「心配無用だ、片方は俺たちに任せてくれ!」
弟のような年齢にもかかわらず、自分よりも圧倒的な戦闘経験と実力を持つ少年に俺は答えると、背後にいるラティナとオリヴィエも頷いていた。
「わかった。じゃあ左から来る船は任せるね」
ジグはニヤリと笑って頷くと、冒険者仲間と共に船の右舷で敵に備える。
サスリブ山で夜襲を受けたあの日から俺たちはジグに追いつくために、もう二度と一人で戦わせたりしなくて済むように訓練を積んできた。
今こそ背中を任せられる存在になったというところを、アイツに見せる時だ。
「オリヴィエは俺とラティナに支援魔法をかけてくれ。船が近付いたら接触する前に俺が斬り込むから、二人はこっちの船から援護してくれ」
「ダンク君、一人で大丈夫なの?」
「こっちに乗り込まれたら面倒だからな。それにこっちから攻め込めば、船の被害を気にせず戦える」
俺は恩恵の武器を取り出して見せるとラティナはなるほどと納得し、続いてオリヴィエが筋力増加や魔法耐性の支援魔法をかけてくれた。
「無理しちゃダメよ。危なくなったら早めに退いて」
いつもは口数が少なく冷静なオリヴィエだが、根は優しいのを俺は知っている。
そんな彼女に心配をかけたくはないが、それとは裏腹に気遣って貰えるのは心が躍るほどに嬉しく、俺のやる気は更に跳ね上がる。
「あぁ、わかってるさ。……よし、じゃあ行くぞっ!」
◇◇◇◇◇
左から海賊船が接近してくると、オリヴィエちゃんの支援魔法を受けたダンク君はメイスを片手に身体強化でジャンプして、海賊船へと飛び移る。
「オリヴィエちゃん!『ウインド・カッター!』」
「わかってるわ…『ウォーター・ランス!』」
ダンク君の突入を阻もうとして海賊たちが矢を射かけるが、その矢は彼がいつも背負っていて空中で取り出した大盾によって弾かれる。
私たちは彼の着地地点にいる海賊を攻撃すると、ダンク君は残っていた一人にメイスを叩きつけて倒し、無事に敵船へと乗り込んだ。
『ミル・ファイアー!』
「相手は騎士とは言え一人だ! 囲ん…ぐあぁっ!」
私は紅蓮の炎を放つと、浮き足立つ味方に指示を出そうとする海賊を積極的に討ち取る。
ダンク君はその意図をきちんと理解したのか、海賊たちに考えるヒマを与えないよう一気に攻撃を開始する。
『ロック・バレット!』『アース・スパイク!』『ストーン・ランス!』
次々と土属性魔法を使って敵を撹乱しているダンク君だったけれど、数は向こうの方が多くジワジワと囲まれ始める。
『トルネード!』
『アクア・シールド!』
私たちは彼の後ろに回り込む海賊を攻撃し、時には盾魔法で攻撃を防いでいく。
「はあっ!」
「ぐぎゃっ」
「こ、こいつの武器は何かおかしいぞ! 盾も鎧も武器も関係なくぶっ壊してきやがる!」
ダンク君のメイスは自分の魔力量に応じて、破壊の力である無属性を僅かにではあるけれど帯びているため、硬いモンスターの外皮ですら破壊可能な代物で、海賊の持つ武器や防具程度ならアッサリと破壊できる。
しかもそれは度重なる訓練で魔力量が跳ね上がっている今、二年前のそれとは破壊力が違う。
同じ男としてジグ君に負けられないと、例え今は遠くてもいつかは追いついてみせると言って彼は努力し続けてきた。その成果は今、確実に出ている。
「はぁ……はぁ…次にやられたいのは誰だ!」
「テメェら、騎士一人に何を手間取ってやがる!」
「全く……せめて獲物に乗り込むまでくらいは任せられると思ったんだが、使えない奴らだ……」
「す、すまねぇ副頭! でもコイツは向こうにいる味方の支援もあって手強くて……」
周りの海賊を次々と打ち倒したダンク君が吼えるように言って辺りを見回すと、怖じ気づいた海賊たちはその場に立ち尽くしていたが、船室から大男と普通の体格の剣士風の男が出てくると、更に怯えた表情に変わっていた。
「お前たちが副頭ということは、向こうの船に頭目がいるのか?」
「んなことを気にしてどうする? お前はここでくたばるんだよォッ!」
ダンク君の問いかけに対して大男は、背負っていた大斧を取り出して横薙ぎに斬り付ける。
「くっ……」
「ぬぅぅっ!」
斧と大盾がぶつかって火花が散り、ガァンッ!という音が鳴り響くと二人は互いに仰け反る。
「よそ見はしないことだ……はぁっ!」
「危ない! 『エル・ウインド・カッター!』」
「ちぃっ!」
ダンク君の隙を突いた剣士が背後から、細い刺突剣を抜いて襲い掛かるのを見た私は風の刃を放って牽制し、飛び退いた剣士に向けて更に何発か追い討ちをかけ距離を取らせる。
「オリヴィエちゃん、あの二人を相手にダンク君一人じゃ危ないから……わ、私も行くよっ!」
「ラティナ………わかった。支援魔法をかけるから無理だけはしないで」
私は腰の片手剣を抜いてオリヴィエちゃんにそう言うと、一瞬だけ躊躇うような表情をした彼女は迷いを払うように首を振ると、ダンク君のと同じ支援魔法をかけて私を送り出してくれた。
「頑張ってきたのは私だって同じだものっ!」
私は海賊船に飛び移ると、剣だけでなく左腕に装着した丸い小盾にも魔力を込める。
「ダンク君、あ、あの剣士は私が相手をするよっ」
「おう、それは助かる。ならあの大男は俺に任せろ!」
ずっとエレオノール様に憧れていた私は魔法ばかりを鍛えていたけれど、スウサ砦やリッツソリスの戦いを実際に見たり話を聞いて、エレオノール様は魔法だけが得意なわけじゃないことを知った。
それと同時に自分では決してあの方にはなれないこと、でもその代わりに他の誰でもない自分にはなれることを知って、自分に出来ることはもちろん、耳にしたことは何でも試してやろうと決めて訓練してきた。
「私にだって出来るはず……だから見ていてっ!」
私は剣を構えると、自分たちの代わりに敵と戦う少年の背中を思い出して、強く一歩を踏み出した。
◇◇◇◇◇
ダンクとラティナが敵船に突入し戦闘に入ってからというもの、目まぐるしく動く戦況に対して私は二人に声をかけつつ支援と回復、そして防御にあたっている。
「ダンクはもう少し下がってラティナと離れないで!
もう少し周りの敵を減らしたら、一気に反撃に出るわよ!」
どうやら二人の副頭はそこそこの賞金首かそれに準ずる実力を持っているらしく、周りの海賊が弱いとは言え乱戦になると危険なので、ダンクとラティナには囲まれない位置取りを心掛けさせながら指示を出し、先に敵の人数を減らすことにした。
「攻撃用魔道具の用意を………ダンクとラティナは盾!………撃てぇっ!」
私は水兵たちに指示して船に取りつけられた弩型の魔道具を準備させると、こちらをチラリと確認したダンクが大盾を頭上に掲げ、ラティナが風の盾魔法を張った瞬間にそれらで攻撃を開始する。
「「「うわあぁぁっ!!」」」
一斉に放たれた魔力の矢が敵船に降り注ぐと、それを防ぐすべを持たない海賊たちは次々と倒れ、あるいは逃げ場所を求めて海に落ちたり下の船室へと逃げようとしたが、降り注ぐ矢をものともしない副頭に見据えられると、ヤケを起こして二人に襲い掛かっては返り討ちにあっていた。
「逃げるなら殺すって事なんだろうけど、相手が海賊とは言え、あれでは少し哀れね……」
私はほぼ全滅した海賊と残った副頭、そしてそれに対峙している二人を見ながら独り言を呟くと、考えを切り替えるべく両手でパチンと顔を叩く。
「今はあの二人が敵を倒し、無事に帰ることが大切。
……二人とも、周りは片付いたから反撃に出るわよ!」
「おう!」 「うんっ!」
私の声に反応した二人はそれぞれの相手に向かって飛び出す。
「ふんっ!」
「ぐっ!……この馬鹿力めっ!」
大男の強烈な一撃を盾で受けたダンクは、そのまま斧を滑らせるようにして懐に飛び込むと、相手の体にメイスを叩きつけようとする。
しかし大男はそれを斧を手放して避けると、目の前で無防備になったダンクに向かって、金属の篭手を嵌めた拳を振り下ろす。
「がはぁっ!」
「ふははっ、どう…だ……あぁ?!」
ダンクの顔面に直撃した拳は容赦なく彼の顔を血に染めたが、大男の方も様子がおかしい。
よく見るとその手に嵌めた篭手はひしゃげ、返り血とは思えない量の出血をしている。
「どうだ、石頭だろ? 俺は土属性しか使えないが、それだけを鍛えてきたから属性身体強化は得意なん……だぁっ!」
恩恵の武器であるメイスを一旦消し、大盾を放り出したダンクは右拳を握ると、岩石の篭手で覆ったそれを下から突き上げるようにして大男の腹に叩き込む。
「ぐぼはぁっ!?」
ダンクの拳が割れた腹筋を自慢げに晒していた腹にめり込むと、大男はうずくまりながら何歩か後ずさりして膝をつく。
「トドメだっ!」
「ダメよダンク! 後ろに跳んで!」
「っ!?」
私の声に咄嗟に反応したダンクは、メイスを取り出して相手にトドメを刺そうとした直前にギリギリで飛び退いた。
するとさっきまでダンクのいたところを薙ぎ払うように、大男が振るった大斧が空を斬る。
「なっ!? ……それも恩恵の武器なのかっ」
「ぐぬぬ……あの女、余計な真似をしやがって!」
私は大男の手放した武器が消えていたのを見たあと、それが恩恵の武器だと気づき、大男はダンクが自分にトドメを刺そうとする瞬間を狙っているのではないかと危惧した。
どうやら予想は当たっていたようで、大男はこちらを憎悪に満ちた眼で見ている。
「そういうことならやり方を変えないとな」
ダンクは一旦距離を取って大盾を拾うとメイスを取り出して構える。
するとその背後には、今まで剣士と戦って互いに傷だらけの接戦をしていたラティナが着地する。
「よぉラティナ、そっちの方も随分苦戦してるみたいだな?」
「はぁ……はぁ…なんて事ないよっ! そ、それよりダンク君の方こそ、少し見ない間に男前になったねっ」
ダンクがラティナにそう問いかけると、左の顔面を朱に染めたダンクを見て、これまた全身切り傷だらけのラティナが息を整えながらニヤリと笑う。
「そろそろ気分を変えたいとは思わないか?」
「き、奇遇だね。私もそうしたいと思ってたよっ」
私はそこで二人の考えに気付いた。
……うん。確かにそれなら、もう少しやりようがあるかも知れないし、どうしても苦戦するようなら奥の手もある。
「これから私も敵船に移ります。あなた達は万一に備えて救命用の小舟を一艘用意して、アルテミア様には敵船から少し距離を取るようにお伝えして」
「はっ!」
私は近くにいた水兵に指示を出すと、身体強化で敵船に飛び移る。
「へへ、結局は三人ともこっちに来ちまうのか」
「で、でもその方が皆一緒で安心するねっ」
「えぇ、私たちが全力を出すなら、やはりこれが一番だわ」
私が二人の近くに着地すると、ダンクとラティナは場所を入れ替え、大男にはラティナが、剣士にはダンクがそれぞれ向き合い、私は二人の間に立って再度支援魔法をかけ、傷を癒す。
「こんな弱そうな女騎士が、この俺の相手になるわけがねぇだろ?」
「こんなノロマそうな重装の騎士が、この俺の速さについて来られるとは思えないが……死にたいなら先に始末してやろう!」
両副頭が入れ替わった相手を見て油断するなか、私は魔法をかけ終えた二人に告げる。
「私たちにとっては強い敵だけれど、ジグならきっと楽に勝つ。でもそれを卑下することはないわ。私たちは今、自分たちに出来る事をすればいい……」
私は息をついて目を瞑ると、索敵魔法を展開して周囲全てを感知する。
「じゃあ残る敵を倒して二度と悪事を働けないように、この船も跡形無く沈めてやるわよ!」
「おう!」
「うんっ!」
そうして私の言葉を合図に、両側の二人は入れ替わった相手へと突進していった。
想定よりも長くなったので、ここまでにします。
ジグとは年齢が近い仲間として登場した3人ですが、周りの個性的な人たちのせいか影が薄くなかなか出番が少ないため、割と3人を気に入っている作者的には、たまには彼らの活躍も書きたいと思い用意したエピソードであります。
最初は弱々だった彼らも、いくつかの戦いと厳しい訓練、そして努力の末に強くなっているので、応援し、楽しんでいただけたら嬉しいです。




