第219話 大海を越えて その1 蒼い魔石と海賊船
最近、サブタイトルを変えたのは海に出てから「ハイワーシズへ。」を使おうと思っての事だったのですが、更に良いのを思いついてしまったので無駄になってしまいました(;´Д`)申し訳ございませぬ……。
フォータルキャビルの港を出発した船は東に向かって帆を張り、順調に海を渡り始める。
すると僕が船尾の見張りに立って五分もしないうちに、強大な魔力反応が猛烈な勢いで後を追い掛けてきた。
「こ、これは……」
「えぇ、オケアマレヴ殿ね。まったくもう……心臓に悪いから、あの馬鹿げた魔力を少しは抑えてほしいものだわ」
僕が驚いていると、同じく魔力を察知したアルテミアがやって来て、やれやれといった表情で後方を見る。
そうして反応が近付くにつれて、やはり上半身裸で筋肉の塊みたいなオケアマレヴが、水面を走ってやって来るのが見えてきた。
「オケアマレヴ殿、港からはもう結構な距離があると思うのですが……」
「ぬははははっ! この程度なら造作もない!」
「それで、わざわざここまで追ってきてどうしたのですか?」
「おお、そうだ! 昨日渡すのを忘れていてな……これを持って行け!」
相変わらず雷の轟くような大声で笑うオケアマレヴだが、アルテミアが尋ねると持っていた袋を投げてよこした。
袋とは言ってもオケアマレヴには片手で持てるサイズだが、アルテミアには少し大きいくらいで慌てて両手を伸ばして受け取る。
「これは…合成した魔石ですか? しかも随分と上質ですね」
「おうとも! 何せそれは大量発生したグランドシェルの中でも大きな個体のもので、冒険者たちには手に負えず俺が倒したものの魔石を合成した一品だ!
既に水の魔力も充填済みだから、いざという時に使うといいぞ!」
袋から取り出した蒼い魔石はアルテミアの片手に収まらないほどの大きさで、直径はメロンくらいあるのでは無かろうか。
もの凄く貴重で高価だと思われるそれを、オケアマレヴは気軽に放り投げるし人に譲るしで、気前が良いというか太っ腹というか……何ともサッパリした性格なものである。
「これをくださるということは、必要な可能性があるのですね?
……では餞別として、ありがたく受け取っておきます」
自分の問いに頷いたオケアマレヴを見て、アルテミアはそう答えると魔石を袋にしまい、頭を下げた。
「うむ。では、旅の無事を祈る! ボウズもしっかりやれよ!」
「は、はいっ!」
白い歯を輝かせ、ニカッと笑ったオケアマレヴはそう言って踵を返すと、ズドドドドッ!といった音を立てて走っていった。
……もう魔力とか魔法も関係無しに、水に沈む前に足を出せば良いのだ!と言わんばかりの走り方だ。
「使わなくて済めば良いけど、まぁ備えあれば憂い無しよね」
アルテミアはそう言って魔石を袋にしまうと、甲板から下の階層に降りていった。
◇◇◇◇◇
そうしてオケアマレヴが去った後は何事もなく、船は順調に進み続けていた。
ソリス川を下っていた時でさえ船酔いの酷かったウィルヘルム大臣は、フォータルキャビルに着くなり部下に命じて大量に酔い止めの薬を買い込んだらしく、たまに甲板に上がってきては気分良さげに酒など飲みながら、僕やルミアだけに聞こえるようなお小言を言い、そのたびにルミアの眼が殺意に満ちたものになっていたが、アルテミアの宣言した報酬の威力は効いていたのでよく我慢していた。
しかしこのままでは大変危険なので、大臣が来るたびにルミアはイリトゥエルによって部屋で休憩するように促され、時にはクロエにお願いして大臣に飲ませる酔い止めに睡眠薬を入れてもらったし、ケルガーに相談してコッソリとだが軽~く魔力を吸ってもらった。
それもこれもグランドシェルを討伐したことで、既にある程度の実力は知られていたルミアの、魔力や魔法の力が桁外れなのが更に皆に知られたのが原因だったが、協力的なのは助かるので結果オーライだと思うことにした。
……出来れば大臣に一番知ってもらいたいところだけどね!
そんなこんなで海を渡っていると、海上では部屋で護衛として張り付く必要性が低いこともあって、ダンクとラティナとオリヴィエも時々甲板に顔を出すようになっていた。
「ふぅ、ようやく少し余裕が出てきたな」
「ずっと自分たちの部屋と大臣のところを行き来してたから、ここ何日かは緊張して体がもう、ダンク君みたいにカチコチだよぅ」
「まぁ、ここまでは大臣に何事も無くて良かったわ。ラティナには後でマッサージをしてあげる」
「やったぁっ! オリヴィエちゃん大好きっ」
ケルガーと交代した三人が外の空気を吸いにやって来ると、そんな話をしながら揃って伸びをしていた。
「三人ともお疲れ様。ずっと下に籠もってたから大変だったんじゃない?」
「あ、ジグ君っ! おつかれさまっ」
「お疲れ様。お互い無事で何よりね」
「そっちこそ道中は水賊やモンスターを退治したり、襲われた村の救援に向かったりして忙しかったみたいだな?」
「まぁね。でもそれなりに良い経験が出来たよ」
僕たちは軽く挨拶を交わしながら、街を出発してからここまで互いに起きたことを話すが、大臣の身辺警護は恐ろしく退屈かつ面倒くさいらしくて、騎士って大変なんだなと改めて思う。
例を挙げると、四六時中あの大臣と一緒にいるのはもちろん……いや、何気にこれが一番キツいけど……ケルガーとダンクは風呂にまで同行しなきゃだし、もちろん就寝中も交代で護衛につくので四人は男女二人ずつに分かれて任務に当たっていたらしい。
それに食事は時間がズレるし、クロエの酔い止めがないうちは八つ当たりのように文句を言われたりもしたそうだ。
そんな四人は交代できたが、前にもチラッと聞いた話だが船医であるクロエが一番悲惨だったらしく、ドルエフ村に到着する前はダンクたちですら気の毒に思うほど、クロエは忙しくて大変だったらしい。
……そういえばテレサ様の部屋でも蹴られてたし、クロエさんは今回の旅でミリアさんに留守と仕事を任せると言って笑ってたけど、街に残ってた方が楽だったんじゃなかろうか……。
三人と話しながらそんなことを考えていると、船首の方が何やら騒がしくなっていた。
「右前方に船影三つ! 恐らく海賊と思われます!」
何事かと思った僕たちがそちらに向かうと、見張りの水兵がそう叫んでいた。
「各員、迎撃準備! 破られると面倒だから帆は畳んで、水夫は下に移動してオールで操船を!
水兵は私と一緒に船体の防御を優先して、敵の排除は……そこの騎士と冒険者に任せるように!」
ただちに指示を出したアルテミアは、僕たちの姿を見るとそう言ってニヤリと笑う。
「ようやく騎士らしい仕事の時間だな?」
「うぅ~、でも相手は三隻もいるよ? 私たちだけで大丈夫かなぁ?」
「あれだけ訓練してたのに、海賊相手に負けたら騎士失格になるわよ? 頑張ってラティナ」
「モルド神父やアイゼンフォート様の訓練に比べたら、多分これくらいは大丈夫だとは思うけど、たまに高額の賞金首がいたりするから油断はしないようにね」
「「「了解っ!」」」
僕はアルテミアに向かって頷き、三人にそう告げて戦闘準備に入ると、休憩中だったイリトゥエルと絶賛船酔い中のルミアがやって来た。
「ジグ、私たちも戦います」
「イリトゥエルとルミアには近接戦の苦手なラティナやオリヴィエと一緒にいて、二人をガードしつつ後方支援をお願いしたいんだけど……ルミアはクロエさんの薬を飲んだの?」
「はいぃぃ~、相変わらずの激マズでしたぁ……」
戦闘前から既にHPが削られてそうなルミアが青ざめた顔で答えるが、飲んだならそれほど時間をおかずに復活するだろう。
「じゃあ前衛は僕とダンク、中衛はイリトゥエルとラティナ、後衛はルミアとオリヴィエって事でどうかな」
「お、ジグと一緒に戦うのは久しぶりだな!」
「わ、私も頑張るよっ! イリトゥエル様もよろしくお願いしますっ」
「こちらこそ。ジグに任されたからには安心してくださいね」
「皆、怪我をしたら無理しないで下がってね。ルミアさんは……本当に大丈夫なの?」
「はいぃ~、ふ、ふふ、船酔いさえどうにかなればぁ~」
六人で陣形を組むと、やがて海賊船が次々と接近してくる。
『メニア・アクア・バレット!』
『メニア・ロック・バレット!』
敵船から放たれた矢の雨をオリヴィエの水弾とダンクの岩弾が迎撃して撃ち落とすと、すぐさま僕とイリトゥエルが指輪に魔力を込めてエルフの弓を引く。
「ふふふ……スズカのお陰で船での戦闘が楽になるなぁ!
『エル・メニア・ファイア・アロー!』」
「本当にジグは良い時期に火属性を得たものですね!
『エル・メニア・ウインド・アロー!』」
僕の放った火矢は一番近くにいた敵船に降り注ぐと炎をあげ、その直後に着弾したイリトゥエルの風の矢が巻き起こした風によって、その火力を増していく。
「わ、私だって……『ミル・メニア・ファイアボール!』」
「あら、では私もラティナさんの魔法に便乗しちゃいましょうかね~。『エル・メニア・トルネード!』」
炎をあげる敵船に向けてラティナが撃ち出した無数の火球に、ルミアの竜巻魔法が合わさって炎の渦となる。
そして紅蓮の竜巻はぶつかると爆発して船体に大穴を開け、乗っていた海賊が次々と飛び降りると、やがて海へと沈んでいった。
「よし、まずは一隻撃沈だ!」
「「「おお!」」」
海に落ちた海賊への対処を水兵に任せた僕たちは、勢いに乗って残りも撃破しようと、少し距離をおいて様子見していた残る二隻の海賊船へと視線を向けると、その二隻は同時に動き始めてこちらを挟み撃ちにするように回り込み始めた。
なかなか出番の無かった小隊の仲間たちですが、海上では部屋よりも船そのものの守りの方が重要なので、ようやく甲板にあがって来ることが出来るようになりました。
するとそこへちょうど良く?海賊船が現れました。
フォータルキャビルから少し離れたこの海域は交易船の通過も多いので、これは仕方がありません……えぇ、仕方がないのです(笑)
船酔い女神も予め用意されたクロエ特製激マズドリンクがあったので、戦闘には問題なく参加できます。流石は治癒術士団の副長ですね。
次回はそのまま書くか、可能なら小隊の3人の各視点で書いてみたいところですが……難しいかなぁと悩み中です( ̄▽ ̄;)




