第186話 初任務 その18 帰路と帰還
「ではケルガー、後のことは頼む」
「こちらは任せてください。ラジク殿も皆さんも、道中お気を付けて」
ソドリオの尋問を終えた後、ラジクは盗賊の生き残りからも聞いた話や、レストミリアとヒスティリスが得た情報も聞き、それを整理して珍しく自ら報告書をまとめていた。
そしてその翌日には、カンディバースの街やその周辺の守りをケルガーの部隊に任せて、僕たちは捕らえた盗賊たちの護送も兼ねてリッツソリスに戻ることにした。
乗ってきた馬には皆の荷物を載せたり、拘束した盗賊たちを乗せた2台の馬車を引かせ、僕たちは現在徒歩で王都まで戻っている。
「ダンクたちとは久しぶりだったから、話くらいはしたかったんだけどなぁ……」
「皆も襲撃の後始末や警戒で忙しかったんだから、そればっかりは仕方ないわよ。
チラッと見かけたけど3人とも随分と魔力量が上がっていたみたいだし、ミリアに確認してもそう言ってたわよ?」
僕がボヤいていると、アマリアはそんなことを言いながら微笑む。
事ある毎に治癒術士としての経験を重ねているアマリアは、もう随分とその洞察眼を鍛えられているらしく、ミリアさんのように属性は分からなくとも、相手の魔力量だけならだいぶ分かるようになっているらしい。
「そりゃ訓練であれだけしごかれれば、嫌でも鍛えられるだろうけどさ……」
度重なる襲撃の結果、リッツソリスに常駐するようになったアイゼンフォートとアルテミアによる、地獄のような訓練を思い出して身震いしながら、僕は一緒に鍛えた日々を思い出す。
ダンクは土属性を活かした堅い守りを磨いて、相手の攻撃を防ぎきっては隙を突いて無属性を持つ恩恵の武器で、トドメを刺す戦いを得意としていた。
ラティナは魔力量の増加と共に、恩恵で得ていながらも発動させることが出来なかった隕石魔法を、本来よりもかなり小規模かつ一度だけではあるが使えるようになっていて、言い伝えにある威力にはまだまだ程遠いが、それでも強力な威力を持つ魔法を使えるようになっていた。
オリヴィエもアマリアと同様に、治癒術士としての経験を重ねて魔力量が跳ね上がっており、もともと回復魔法の範囲拡大や効果増大の恩恵を授かっていることもあり、重傷者や大人数の治療の際には大活躍しているらしい。
「近況報告なんかもしたかったんだけどな……」
「まあまあ。そのうちまた話す機会もありますよ~」
僕は3人のことを思い出しながらそう言うと、ルミアが僕の方をポンポンと叩きながら隣に来た。
「それよりジグさんは、帰ったら約束があることを覚えておいてくださいよ?」
「はいはい、帰ったらご飯を食べに行くんでしょ。分かってるよ」
「やりましたねイリトゥエルさん。ジグさんがご馳走してくれますよ~」
「えっ、二人の約束に私が行っても良いのですか?」
「仲間なんですから当たり前ですよ~。
ついでにイリトゥエルさんも奢って貰いましょうね♪」
そう言って今度はイリトゥエルに抱きつくルミアだったが、イリトゥエルは戸惑っている様子だ。
「じゃあ初任務も無事に終わったことだし、アマリアとヒスティリスも誘って、帰ったら皆でお祝いしに行こうか」
「…はいっ!」
「それは名案ですね~」
僕は二人にそう言うと、近くを歩いていたアマリアとヒスティリスも嬉しそうに頷いていた。
するとその時、僕は背後から強烈な視線を感じた。
「こ、これは……」
寒気がして後ろを振り返るとそこには、馬車を運転しているレストミリアがこちらを見つめ、飢えた獣のような眼で私も誘えと訴えかけていて、その体からは禍々しい魔力を滲ませていた。
……わかりましたよミリアさん。わかりましたから早くその魔力を抑えてください。
急がないと荷台に乗っていて、奇襲を受けたときのミリアさんやヒスティリスを知っている盗賊たちが、今にも失神しそうになってますからね?
僕はやれやれと思いながらミリアさんに頷いてみせると、パアッと明るい表情に切り替わった瞬間に先ほどまでの禍々しい魔力は消え、光属性の魔力が溢れていた。
いや、結局は魔力が溢れていると盗賊たちには恐怖の対象なんですけど……ってダメだ、もう意識がギルド酒場に飛んでる。
そんな僕らのアイコンタクトを見ていたラジクもヒスティリスも、揃ってやれやれと言った顔をしていたが、アマリアだけは歩くペースを落としてレストミリアの方へ近付く。
「ミリアは帰ったら、まず先にクロエさんの所に行ってヒスティリスちゃんに書かせた報告書を提出して、それから出発前に約束した仕事を片付けないとダメよ」
「そ、そんな…!」
アマリアの言葉に死刑でも宣告されたような顔をしたレストミリアは、わなわなと震えながら涙目になっている。
しかしこればかりは約束であるし、クロエにもこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないので、ミリアさんには悪いが仕事を頑張ってもらうしかない。
そもそも約束を破れば死刑と同義である、体術モンスター3人を相手に三日三晩の地獄の組み手が待っている。
「あー、ミリアさん。酒場での食事会とは別に、仕事が終わったら教会に皆で集まって食事でも……」
先にした約束があるとは言え今回の任務でもかなりお世話になったことだし、少し可哀想かなとも思った僕は、死んだ魚のような目をしたミリアさんに代案を出す。
すると生きる希望を見出したのか、ミリアさんの顔に生気が戻ってきた。
「ふぐぅっ…ジグ! 恩に着るよぉっ!」
「えぇぇ…泣くほどのことですか……」
変態魔女が鼻水を垂らしながら泣くのを見て、若干引いていた僕はアマリアと目が合うと、「それなら良いわよ。ただし仕事が終わってからね」と、まるで母親のようにミリアさんに言い聞かせていた。
……聖女は未婚のまま聖母になりつつあるのだろうか。
「そういうことなので、師匠も来て下さいよね」
そんな彼女たちを見ながら僕はラジクの方にも声をかけると、いつもは「うむ!」と即答するはずの我が師匠は少し考えるような顔をして、「俺の方も仕事が片付けば…だな」と少し曖昧な答えを返してきた。
地下牢での事があってからのラジクは、何だか考え事をすることが多くなっていて、しかしそれを僕やミリアさんにも話していないからには考えが纏まっていなかったり、話すべきではないと思っているのだと僕は判断して、話してくれるのを待つことにしていた。
とは言えそれが続けば心配するし、相談して欲しいとも思うのが弟子心というもので…。
「師匠、考え事や仕事も良いですけど息抜きも必要ですし、何かあれば皆に相談してくださいよね。
たとえ力になれなくても、一緒に悩むくらいは出来ますから」
「…………ふっ、ふはははは! うむ、そうだな。何かあれば皆を頼るとしよう」
僕の言葉にポカンとしていたラジクは、突然笑い出すと頷きながらそう言って、少し晴々とした表情になった。
そうして街道をひたすら進み、二日以上かけて僕たちはリッツソリスまで戻ると、ラジクとレストミリアはそれぞれ報告書の提出や盗賊団の収監、任務の結果などを伝えに騎士団本部へと赴き、僕たちは馬を返してから冒険者ギルドへ依頼達成の報告をして、皆で教会に戻った。
初任務もこれでようやく終わりました。
ジグたちへの依頼はカンディバースの街への救援でしたので、今回の件の詳細な情報の獲得までは依頼の中に含まれていないため、このお話はここまでです。
とは言っても他の騎士や軍ならともかく、この件を担当した騎士がラジクなので、続報が入ったり経過次第ではまた巻き込まれる事もあるかも知れません。
……が、それはまた別の回になりそうですね。
次回は閑話か、新しい依頼の予定です。




