第185話 初任務 その17 尋問のようなもの×2
「一旦落ち着け」
「黙れ! そして今すぐ俺を解放しろ! あの女……絶対に殺してやるっ…!」
ラジクが宥めるのも聞かず、魔道具で拘束されていながらもソドリオは、それを解いて脱出せんと暴れていた。
「師匠」
「ん? あぁ、お前も来たのか」
「何か手伝うことでも有るかなと思いまして」
「見ての通りの有様でな。少し動きを制限してくれ」
「……わかりました。『自在粘糸』」
僕は粘着糸でソドリオの四肢を拘束すると、口にも猿轡のようにして糸を巻き付け、壁や天上に貼り付けて空中で大の字に浮かせた。
「うぅぅっ! うぅーっ!」
「ソドリオ、まずは俺の話を聞け。
お前の兄弟はお前を残して死に、生き残った仲間たちはそのほとんどが我々の捕虜となった。
盗賊は死罪というのは我が国の基本だが、お前も知っての通りメラリオは、ゲイルロックがこちらに協力したことでその罪を減じ、本人の資質や希望もあって今はセントリングに仕えている。
もしお前が俺たちに協力し、知っていることを全て話すのならその内容次第では、お前だけでなく他の仲間たちの罪を軽くしてやれるかもしれん。
そのためにもまずは話がしたい……ここまでは良いか?」
「…………」
ラジクの話を聞いたソドリオは、暴れるのを止めて少し考えているようだったが、しばらくするとゆっくり頷いた。
「…ジグ」
「はい」
大人しく会話が出来るようになったと判断したらしいラジクが、こちら見て頷いたので僕は糸を解除した。
「……話す前にいくつか聞きたい」
「ふむ、言ってみろ」
探るような目でラジクを見ながらソドリオが問う。
「俺が全てを話したとして情報がそちらにとって有益で無ければ、俺たちは死罪になるのではないのか?」
「うーむ。情報の程度にもよるが、本当に包み隠さず話してくれるのなら、それを役立つものに変えられるかはこちら次第だと思う。
それにお前や他の者たちが質問に嘘偽りなく誠実に答え、知っていることを話してくれるのなら、俺もそれに応えようとも思うぞ」
「それとあの女……アイツに復讐することが出来ると思うか?」
「今の段階では無理だな。それにあれはドラグニアの騎士の中でも、トップクラスの地位と実力の持ち主だ。
そうそう戦いを挑める相手でもないし、望んだところで俺やお前が自由に接触できるわけでもない。
ただ、今回の件でドラグニア…もしくはその一部が、セントリングにちょっかいをかけていることも判明したから、事と次第によってはそういう機会もあるかもしれんな……例えこちらが望まなくとも…」
「…………騎士のくせに、俺みたいな盗賊を真っ直ぐに見るものだな?」
「話す相手の目を見ることは大切だと思うが」
ラジクのことをしばらく黙って見ていたソドリオだったが、やがて大きく溜息をつく。
「わかった。俺が知っていることを全て話そう」
◇◇◇◇◇
ソドリオが話し始めると、何故かラジクは彼らの生い立ちやどういう経緯で盗賊となったのか、それからどのようにして生きてきたのかなど、今回の件以外のことも根掘り葉掘り聞いていた。
最初は関係ない事だと言って戸惑っていたソドリオだったが、ラジクが本当に興味がありそうな顔で尋ねるものだから、遂には根負けして洗いざらい説明した。
彼らはもともとドラグニア国民で魔王軍との戦いで両親を亡くし、長兄ソドグルと次兄ソトルブは下の弟二人を養い、守るためにドラグニア軍人となったらしい。
しかし彼らの優秀さを妬んだ上官によって冷遇され、ある時とうとう我慢の限界を迎えたソドルブが相手を殺してしまい、兄弟はまだ成人前だったソドリオやその下のソドロトを連れて逃亡し、盗賊となったらしい。
軍人であったことから国内各地の地形をよく知り、戦闘にも長けていた彼らは徐々に勢力を拡大して、やがてドラグニアとセントリングの国境を上手く行き来しては討伐隊から逃れ、あるいは撃退して暴れ回るほどになっていた。
しかしある時、盗賊団の元にセントリング側で暴れるようにと言って、多額の報酬を提示してきた者がいた。
長兄であり盗賊団の首領でもあったソドグルは、その人物と二人で話をしてこれを了承すると、それ以降盗賊団はセントリングの側で略奪や襲撃を行うようになった。
そうしてしばらく経つと、またもその人物がやって来て今度は自ら、ドラグニアの竜騎士だと言って正体を明かし、四兄弟にセントリング侵攻の先鋒を務めさせ、その働き如何ではこれまでに盗賊としておこなった罪を免じ、盗賊団を丸ごと軍の別働隊として所属させても良いと言ってきた。
これに対して兄弟の中では意見が割れ、上の二人はその条件を飲もうとし、下の二人は罠だと言って警戒した。
結果としては、竜騎士が相手では刃向かえばその場で皆殺しにされる可能性が高いこと、正式に軍に登録されるのではなく盗賊団を残したままであること、ドラグニアの依頼を受けては他国で活動することなどの利点を考え、それに従うことにしたらしい。
そうして今回のカンディバース襲撃が行われることになったらしいが、計画の実行前に来たのは例の女騎士とその部下だけで数が少なく、しかも最初は盗賊団の戦力だけで街を落とせと言ってきた。
あまりにも危険な計画であり、相手が捨て駒にするつもりだと判断した四兄弟だったが、アンデッドを操る魔道具を渡され、その時点でいつの間にか幻惑魔法をかけられたらしく、それ以降は危険な橋を渡るような行動であるにも拘わらず、仲間たちと共に街を襲撃するようになったということだった。
「ようやく幻惑魔法が解けて、正気に戻ったときには兄者たちも弟もいなくなっていた。
ソドルブの兄者を斬ったのはアンタだが、そういう風にさせたのはあの女だ。
ソドグルの兄者やソドロト…それに俺だって正気だったなら、こんな危険な事に首を突っ込むワケが無かった。
いくら俺たちが戦い慣れていようと、すでに騎士が守りについている街を落とすなんて、普通は計画することすら有り得ない。
だがアイツはそれをさせて、俺たちを全員捨て駒に使いやがったんだ…!」
ソドリオは話し終えると、血が滲むほど拳を握り締めて涙を流していた。
「ふむ……では接触してきたのはカサンドラ1人だけなのか?」
「……それは俺にもわからない。意識が操られていたなら、記憶の改竄だって出来るかも知れないしな」
「それもそうか…」
「でもハッキリとは言い切れないが、あの女以外にも竜の紋章の入った黒いローブの奴らがいたかもしれない。
これまでにそんなものは見たことがなかったから、妙に頭に残っている」
「なに!? それは本当か?」
ソドリオを頭を押さえながら懸命に記憶を探ってそう言うと、ラジクは驚いたような表情で立ち上がる。
「師匠は何か心当たりでも?」
「あぁ。ソドリオの記憶が確かなら、これはかなり有益な情報だ。よし、ひとまずこれで敵の親玉の予想は付いた。
それにしてもこれも神の配剤か、それとも運命のいたずらか……」
「…?」
「すまんすまん、今のは独り言だ。
とりあえずは助かったぞソドリオ、また何か思い出したら言ってくれ。
それからお前と部下は中級騎士の名の下に、俺が全力で助命してみせるぞ」
ラジクはニカッと笑ってそう言うと、地下牢から一直線に走っていった。
僕たちはそれを呆然と見送っていたが、やがてソドリオは牢の向こうでどっかり座ると、少し安心したように溜息をついた。
「本当に妙な騎士だなまったく……」
「あの人はいつもそうだよ。凄く騎士らしいのに、でも一番騎士らしくないんだ」
「あぁ、そう言われるとそれが一番しっくりくる。
……さぁ、お前も行け。俺から話すことはもう無いぞ」
「……うん。でも、師匠の頼みを聞いてくれてありがとう」
「それはこちらにも利点があったからだ。
わざわざ礼を言われることじゃない」
ソドリオは仏頂面でそう言うと壁の方を向いて横になったので、僕も地下牢を出て戻ることにした。
明るい地上に出ると、まだ治癒術士たちは忙しく動き回っていて、特にミリアさんは盗賊の治療ではなく、女騎士の部下たちを治療……もとい尋問する仕事を依頼されたらしく、その周辺には捕虜の悲鳴とミリアさんの怒号が飛び交っていた。
「ふひひひ……早く言わないと治療してあげないよ? ほらほら、このままじゃ指が全部使い物にならなくなっちゃうよぉ……早く言えゴルアァッ!」
「ひいっ! 話すから早く治してくれぇっ!」
「そうそう。最初から大人しく従えば良いんだよ……ヒスティリス、そっちはどうだい?」
「はいレストミリア様…あっ、また気絶してしまいました……」
レストミリアの問いかけにヒスティリスは、ゴボォッと音を立てながら地面に突き刺さった拳を引き抜いた。
そしてその傍らには白目を剥き、泡を吹いて気絶している哀れな捕虜がいた。
「ヒスティリスは脅し過ぎなんだよ。私みたいにこう、治療と会話をバランス良くやらないとさぁ。
……とりあえずその恩恵の武具は、使わない方が良いんじゃないかな?」
「そ、そうですね。早くアマリア様のところに戻りたくて、少し焦っておりました…」
僕が見た光景だけでも、すでに尋問と治療が逆転している気がした。
……うん、あそこはきっと地獄に違いない。決して関わらないでおこう。
僕はその場を後にして、とりあえずイリトゥエルやルミアの所に行って手伝いをすることにした。
相手への利点を説き緩い感じのラジクによる尋問と、治療することを盾に脅しまくって尋問するレストミリアたちの、真逆な2つの尋問の様子でした。
暴れていた割には聞き分けの良いソドリオですが、四兄弟の中では比較的冷静に頭を使うタイプだったので、そこはそうなんだ……という感じでご納得いただければ幸いです(笑)
聞き出した情報によってラジクは何かに気付いたようですが、まだその辺りはハッキリしませんね。
この後はソドリオの証言と、レストミリアたちが聞き出したカサンドラの部下たちの証言をすり合わせて、更に情報の精度を上げていきます。
次回でようやく初任務も終わりそうです。




