第179話 初任務 その11 2つの隠し事(3視点)
今回は深手を負い意識を失ったあと、ジグによって治療されて目覚めた、イリトゥエルなどの視点によるお話です。
最近は1話ごともそうですし、1話の中でもコロコロと視点が変わる時がありますが、読むうえで問題など無いでしょうか?
書いている本人だと気付きにくいので、そこがちょっと心配です。
いったい何なんだ!?
さっきまでフラついていたはずの小僧が、いきなり細い魔力を体にまとわりつかせて跳び上がると、次の瞬間には剣を持っていた俺の右腕が落ちた。
そしてその場から飛び退いた俺に対して先回りしたヤツは、体の何処にも力など入れてないような、ダランとした姿で宙を移動してくる。
それをいくら魔法で撃ち落とそうとしてもヤツは空中で、普通じゃ有り得ない急激な方向転換をして避けるし、そうしているうちに痛みも無く左腕も失った。
「お、俺の負けだ、もう許してくれっ!
俺は金輪際お前たちを……いや、誰も傷付けないし盗賊もやめて大人しくする!
だから、だから頼む!」
両腕から流れ落ちる自分の血を見た俺は、これまでの人生で一度もしたことが無いような無様な姿で許しを乞うたが、あのバケモノみたいな小僧にはこっちの声なんて届いてないらしい…。
「俺は帝国の奴に唆されただけで…ひぃっ!」
俺は少しでも離れようと走り出したが、その時ちょうど倒れていたエルフが目を覚ました。
あの小僧がここまでして守る相手なら、もしかしたらアレを止められるかも知れない。
「俺は報酬をチラつかされて、それにただ従っただけなんだ!
だからもう止めてくれ! あぁっ! た、助け…」
俺はエルフに助けを求めようとして既に無い腕を伸ばすと、同時に全身を細い糸が絡め捕り、まるで目に映る世界に無数の線が引かれ、そこから細切れになったかのようにバラバラに崩れていった。
◇◇◇◇◇
……遠くで誰かが泣き叫ぶ声が聞こえる。
助けを求め、命乞いをし、それでも許されないかのような、悲痛な叫びが。
その声は徐々に近付いてきて、ハッキリと聞こえるようになってくる。
でも近付くに従って、その声からは力が失われていく。
私はそれが自身の覚醒によって、意識が戻りつつあるためにそう感じられるのだと気付き、ハッとして起き上がるとそこには両腕と右足を失い、水魔法でどうにか足だけを作り出して逃げ惑う男と、自分の体に糸を使用しているのか…操り人形のような不自然な動きでそれを追いかけ、虚ろな目をして今にもトドメを刺さんとし、宙を舞っているジグの姿がありました。
「…もう止めてくれ! あぁっ! た、助け……」
「ジグ! 待っ……」
こちらと目が合った男がバランスを崩して倒れそうになり、私が止めようと叫んだのと同時に、糸が男の体に巻き付くと次の瞬間、着地したジグが糸を強く引き、男を肉塊に変えてしまいました。
「ジ、ジグ!」
私はその場に立ち尽くしていたジグの元へと駆け寄ると、彼の体の周りにあった糸が消え、文字通り糸が切れたように崩れ落ちるその体を受け止め、地面にそっと寝かせました。
そして今にも閉じそうな瞼を懸命に開いていたジグは、彼の顔を覗き込んでいた私の方を見ると安心したような、ホッとした表情をして意識を失いました。
「一体ここで何が……」
私は辺りを見ながら自分が意識を失う前の記憶を辿りましたが、奇襲を受けて深手を負ったところからはよく覚えていません。
しかし周りには戦いの痕跡があり、ジグが攻撃していたことから先程の男が敵であり、私たちを襲った張本人であると予想出来ました。
そして同時に、ジグの首飾りをかけられた自分が無事であるということは、彼によって傷の治療を受けたことも理解しました。
「まずは治療をしなくては…」
ジグの体にはそれほど目立った外傷は無いけれど、その代わりに意識を失うほどの魔力切れになっていて、しかも注意して見ると全身に締め付けられたような痕があり、至るところが内出血していて、更に体への……特に筋肉組織への負担が凄まじいようでした。
「まったく……自分のために贈られた大切なお守りを私に使わせて、あなた自身の守りはどうするつもりなのですか…」
私は霊樹の薬を取り出してジグに飲ませようとしますが、意識の無い状態では飲ませられませんでした。
しかし魔力切れの状態を長引かせては危険です。
「……し、仕方ないですよね。これは医療行為ですから…」
私は小瓶の中身を口に含むと決心を固めました。
◇◇◇◇◇
「う、うーん……」
「ひゃっ」
気がつくと何だか全身が怠くて、固い地面に寝ているらしかった。しかし何故だか頭にだけは温かく柔らかい感触がある。
目を開けるとそこにはイリトゥエルがいて心配そうな、でも凄く真っ赤な顔でこちらを覗き込んでいた。
「お、おはようございます」
「あ、はい。おはようございます…?
って無事だったんだ! 本当に良かった!」
「わひゃあっ! ななな何をしてるんですかぁっ!?」
僕はイリトゥエルの無事な姿を見て、思わず飛び起き抱き締めてしまっていたが、彼女の裏返った声によって正気に戻る。
「おわぁっ! ご、ごめんなさい!
一時はかなり危なかったので、無事を確認したら思わず……」
「いえ…その……傷を癒していただいたのもそうですし、敵からも守ってくださったようで本当にありがとうございます。
ジグの方こそ体に異常はありませんか?」
「ええと……怠さはありますけどそれ以外は特に問題無さそうです。
意識が無かったあいだにイリトゥエルが僕の治療を?」
「ひゃい!? そそそ、そうです。わ、わた、わたわた私が回復魔法『のみ』をかけましたっ」
何だか凄く慌てた様子のイリトゥエルは、何故か回復魔法だけを使ったことを強調してきた。
まさか僕には言えないような、ヤバイ薬や魔法でも使ったのだろうか……?
いや…ミリアさんならともかく、イリトゥエルがそんなことをするとは思えないか。
「お陰で助かりました。ありがとうイリトゥエル」
「私の方こそ、ありがとうございます。
怪我の具合で言えば、ジグの方が癒すのは大変でしたでしょう?」
「それはそうですけど……でも、そもそもその怪我は僕を庇って負ったものですから、治療するのは僕の義務ですしそれに…」
「それに?」
「仲間を守るのは当たり前のことですよ」
僕がそう言うとイリトゥエルは嬉しそうな、だけど何か複雑そうな表情をしていた。
「むぅ。まぁ、今はそれでも良いのですけど…」
「……?…あっ! そういえば敵はどうなりました?」
僕は記憶を探りながら尋ねる。
朧気に覚えているのは、盗賊団の首領が彼女に対して剣を振り上げたところまでだった。
「私が気付いたときには男が一人いて、ジグに…ジグと戦っていました。
あなたは意識が無いような感じでしたが、見事に倒していましたよ」
イリトゥエルはそう言って離れた場所にある血溜まりを指差す。
そこには変わり果てた敵の姿があったが、装備品などから戦っていた首領本人だと分かった。
「とりあえず敵を倒せたなら良かったです。
……あれ? どうかしましたか?」
僕はこちらを見ながら不安そうな、何かを躊躇っているような表情をしているイリトゥエルに気付くと彼女は、何でもありません…と答えて街の方を見る。
「街から煙が上がっています……私たちも急ぎましょう」
「はいっ!」
そうして僕たちは沼地を後にして、まだ戦闘の続いているらしいカンディバースの街へと向かった。
沼地の戦いのその後の様子でした。
首領が口走った事については、二人とも聞いていませんのでまだ情報は不足しています。
それとイリトゥエルにはサブタイトルの通り、ジグに対して黙っていることが二つ出来ました。
一つ目は…乙女心として触れずにおきましょう。
二つ目は彼女の優しさから来るものですね。
ジグは互いに普通に戦って倒したのだと思っていますが、あれほど命乞いをしている相手を細切れにしたと知れば、必ず傷付くと判断したイリトゥエルの「何でもありません…」でした。
実際にはだいぶ前からラジクやモルドによって、たびたび覚悟を迫られていたジグは仲間を守るのが最優先だとして、それを飲み込めるだけの覚悟も精神的な成長もしているのですが、そこは1年あまり会わなかったイリトゥエルには、まだ知る由も無いのです。
まぁ飲み込めるだけで傷付かないわけではないので、結局のところはイリトゥエルのファインプレーですね。
次回はようやく全員が合流できそうです。




