第178話 初任務 その10 東門の戦い (メラリオ視点)
今回は東門に向かったメラリオ視点のお話です。
「おっ、始まったみてぇだな…」
俺は城壁の上に立ちラジクのいる北門の方から響く、声や音を聞きながらそう言うと門の向こう、街の東に広がる森を索敵魔法で探る。
「いるのは分かってんだ、さっさと出てこいよ!」
森に潜む三十人あまりの盗賊に向けてそう告げると、答えの代わりに氷の槍がいくつも飛んできた。
「いきなりご挨拶だなぁオイ…。
『メニア・ファイア・ランス!』」
こちらも炎の槍で迎え撃つと、同時に森から盗賊共が攻めてきた。
『エリア・ファイア・ウォール!』
その盗賊たちの目の前に、城壁と平行に並ぶ長い炎の壁を作り出し、剣を抜く。
「ザコは任せる。あの炎を越えてくる奴は、お前らじゃ手に負えねえから俺に任せろ」
「はっ!」
俺は指示を出すと、魔力を纏って炎の壁を越えてきた盗賊に突進し斬り伏せる。
「ふん…多少は魔力を操れるようだが、この程度じゃここは通れねぇぞ」
恐らくは初級魔法や身体強化程度を身に付けた盗賊ばかりなのか、炎を越えてくる奴らを次々と相手にしていると、突然視界の端に見えていた炎の壁に大穴が空き、次の瞬間には大きな雷球がこちらに襲い掛かってきた。
「ちぃっ!」
俺は盗賊の攻撃を剣で受けながら、空いている左手に炎を集めてそれを受け止めるが、相殺しきれなかった電撃が体を駆けめぐる。
「ソドロトの攻撃を受けたぜぇっ! 今だ、一斉にかかれぇ!」
「馬鹿野郎共が調子に乗りやがって…。
『エル・エリア・ブレイズ!』」
「ひっ…」
雷球によって穿たれた穴から一斉に盗賊共が押し寄せてくる。
それに対して俺は魔力を高めると、一気に爆発させて周囲に炎の奔流を生み出し、群がってくる盗賊共を悉く焼き払った。
「はぁ…はぁ…手間かけさせやがって…」
「はっはー! 街には強い騎士が一人だけかと思ったが、まだお前みたいな奴もいたんだな」
後ろを振り向くとそこには小柄な男がいて、味方が全滅したにも拘わらず平然とした顔でこちらを見ていた。
「そう言うテメェがここの大将か?」
「あぁ、まぁそういうことになるな」
俺の質問に答えながら、男は楽しそうに笑う。
本人の言葉と態度や、感じ取れる魔力からして恐らくコイツが雷球を放ったに違いない。
たしか名前はソドロトとか言われていたか…。
「じゃあテメェを倒せばここは俺たちの勝ちだな?」
「はっはー! それはそうだが、簡単にやれると思うなよっ!」
俺が剣を構えてそう言うと、ソドロトも両手に持ったナイフを構えてこちらに向かってくる。
その動きはゆったりとしているような印象を受けるのに、実際は雷による属性身体強化で高速化されていて、次の瞬間には2本のナイフが多方から次々と襲い掛かってきた。
「ぐっ…! 『バーン・アクセル!』」
その動きについていくべく、俺も火属性の加速魔法を唱えて追いすがるが、素早さと手数で圧倒され、纏った炎の上から攻撃を受けてはジリジリと削られる。
「ほらほらどうしたっ! 威勢が良かったのは最初だけかっ!」
「くっ、この野郎…!」
「メラリオ殿を援護するぞ、撃てぇっ!」
防戦一方になっている俺を見た衛兵たちは、ソドロトに向けて一斉に矢を放つ。
「はっはー! ザコはお呼びじゃねぇんだよっ!」
すると全身から氷を生み出してそれを防いだソドロトは、手に魔力を溜めると両手のナイフを振り、衛兵たちに氷槍を飛ばす。
「ぐあぁっ!」
衛兵たちは氷槍を受けて次々と倒れる。
俺はソドロトの注意が逸れた隙に一旦距離を取ることが出来たが、衛兵たちの被害は大きかった。
「メ、メラリオ殿…」
「…テメェの相手はこの俺だろうがっ!」
「それはお前が不甲斐ないからだろ?」
俺は衛兵たちにトドメを刺そうとするソドロトの前に立ちはだかり、剣に炎を纏わせて斬りかかると、ソドロトは氷を纏った2本のナイフでそれを受け止める。
「…ん? そういえばメラリオって聞いたことがあるな…。
あっ!もしかしてお前、ゲイルロックの弟か?」
「!! なぜお前が兄貴の名前を知ってる?」
「そりゃセントリング内でも上位の盗賊団の首領なんだから、同業の俺が知っていても不思議じゃないだろ?
ま、俺がというよりはソドリオの兄貴が知っていて、それをたまたま聞いただけなんだがな」
互いに武器に込める力を緩めず、相手の動きに注意を払いながら話していると、ソドロトは良いことを思いついたと言って剣を弾き、一度距離を取る。
「なぁメラリオ。お前、また盗賊に戻らないか?
その実力があれば兄貴たちも反対しないだろうし、お前だってまた自由な生活に戻れるぞ?」
「いきなり何言ってんだテメェ…」
「まぁ落ち着けよ。どうせ兄貴もろとも盗賊団が壊滅して、仕方なく騎士に従ってるんだろ?
それなら俺たちが助け出してやるし、お前なら兄弟分として迎え入れてやっても良い。
だいぶ前に一度だけ会ったことがあるが、ゲイルロックは良い奴だったからな」
「……」
「お前だってこのまま終わりたくないだろ?
俺たちと一緒にこの街を落として、それから更に大きな事をしようぜ。心配しなくても俺たちには他にも仲間がいる。今は話せないが仲間になってこの街を落とせば、そいつらにだって会わせてやれる。
だから来いよメラリオ、俺たちと一緒に暴れようぜ」
「あぁ、わかった…」
「お、話が早くて助かるな。じゃあ早速……」
俺は地面を蹴ると、こちらに近付いてくるソドロトの顔を思い切りぶん殴った。
「がぁっ! ……な、何しやがる!」
「あの時のジグの気持ちが、今頃になってやっとわかったぜ。
あぁ、たしかにこれは頷けねぇし有り得ねぇよなぁ…」
吹っ飛んだソドロトを見ながら、誘いを受けた俺は何故かダリブバールで出会った、生意気で、得体の知れない強さを持って、諦めが悪くてしぶとい、でも俺の人生に光を与えてくれたガキの姿を思い出した。
「どっちも同じで勿体ねえと思って、俺の力を評価しての誘いなのに相手によってこうも違うとはなぁ…」
「一体何を言ってるんだ!?」
ソドロトはわけが分からないといった表情で、しかしこちらへの警戒心は取り戻したらしく、ナイフを構えながら尋ねる。
「あぁ、お前には分からなくていい。
俺が説明したところで、分かるとも思えないしな…」
「…お前、何を笑ってやがる?」
ソドロトの言葉を聞いた俺は顔に触れると、そこで初めて自分が笑っていることに気付いた。
「いや、ここ1年の事を思い出していただけなんだが……そうか、俺は笑ってたのか…」
バカみたいに苦しい訓練とか、そこで一緒に頑張っていた奴らのこととか、たまの休みになってもバケモノみたいな騎士に連れ回されたり、そこで今まで関わることも無かったような子供や年寄りに出会ったり、今回みたいにラジクの任務に付いていっては、行った先で酷い目に遭ったりもした。
しかしそのどれもが初めての経験で、認めたくはないが……きっと楽しかったのだろう。
そしてそれらを楽しかったと思えることが、自分でも意外だったが悪い気はしない。
「悪いなソドロト。昔の俺なら喜んで誘いに乗ってたんだろうが、今の俺には魅力ゼロだ」
「交渉決裂か…」
「あぁ。だが一つだけ…兄貴を良い奴だと言ってくれた事には礼は言っておく。
その礼とは言わねぇが、苦しまないように逝かせてやるよ」
「はっはー! 残念だよメラリオ、しかしお前では俺に勝てない。
何故なら俺たち兄弟は全員、ゲイルロックよりも強いからな!」
そう言うとソドロトは雷を纏って動き出す。
「あぁ、兄貴は俺より強かったし、その兄貴よりも強い奴は俺も知ってる…」
俺は足元に魔力を集めて爆発させると、突進してくるソドロトを迎え撃つ。
「だがお前たちが兄貴より強いとは思えねぇっ!」
そして右手に“恩恵の武器”を装着すると、向かってくるソドロトの体を正面から切り裂いた。
「なぁっ!? …ば、ばか…な……」
「盗賊は街に入れねぇからな。俺も成人の年に選別なんてものは受けられなかったんだが……ラジクのオッサンがどうしてもって言うからよ。
…おっと、もう聞こえちゃいねぇか」
5本の斬り口から血と噴き出し、炎に包まれて倒れるソドロトを見ながら、俺は右手に装着した爪型の武器についた炎と血を振り払う。
そして辺りを見渡すと、北門の方角からは白い狼煙が2本上がっていた。
別働隊が襲った東門でしたが、苦戦しながらもメラリオは無事に撃退に成功。
彼の心境の変化にいち早く気づき、将来性を見据えたラジクによって、恩恵の武器も授かっていました。
見た目のイメージとしては5本の指それぞれに金属の爪が装着されていて、それが炎を纏っている感じです。
ご存知の方に分かりやすく言うなら、犬○叉の狼が付けているアレです。
知らない場合に分かりやすく説明するなら、雰囲気はぶち壊しですが、少し長めの「とんがり○ーン」を五本の指全てにはめてる感じです(笑)
これで沼地と東門が片付いたので、あとは北門の方に再び視点を戻すかと思います。(あくまでも予定!w)




