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転生の糸使い [830万PV突破・400万字、900話以上の大ボリューム!]  作者: 青浦鋭二
第1部 教会の孤児編 (襲撃・修行・エルフの里・黒骸王・巡回の旅・王都攻防戦)

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第152話 天幕にて / 次なる目標

このあいだ、とうとう評価平均が★4を超えました。

ブックマークもジワジワと増え、1日辺りの閲覧回数も過去最高を記録し、とても励みになるとともに、大変ありがたく思っております。


お話はまだまだこれからも続きますので、引き続きご覧頂けましたら幸いです。今後ともよろしくお願いいたします!

 翌日、目が覚めた頃には体の痛みはすっかり消えていて、朝食を摂っているとラジクがやって来た。


「あ、師匠。おはようございます」


「おはよう。もう完全に治ったようだな?」


「はい。あれから薬を飲んで寝てばかりいたから、今回は治りも早かったみたいです。師匠も昨日より調子が良さそうですね」


「うむ。基本的に立っているだけだから、俺にとっては休んでいるのと変わらん。今日辺りから、また鍛練を始めようかと思っている」


「個人の鍛練を止めようとは思いませんけど、その前に一度ミリアさんに診てもらってくださいよ? 自分じゃ気づかない異変があるかも知れませんし」


「ふむ…わかった。そうしよう」


 僕たちが話していると、アルテミアやアドルピスカもやって来た。

 二人とも軽く挨拶を交わして互いの体調などを確認していると、アマリアとモルド神父を診ていた治癒術士が慌ててテントから出て、そのまま走り去っていった。

 何事かと思ってテントの方を見に行くとアマリアが目を覚ましていて、恐らく治癒術士はレストミリアを呼びに言ったのだと納得した。


「アマリア!目が覚めて良かったよ」


「ジグ…それに皆さんも…。私はどうしてここに?…うーん、記憶が曖昧だわ…」


「僕たちは直接見たわけじゃないから聞いた話だけど、避難してきた人や負傷者に対して、なんかとんでもない魔法を使った後、その影響でずっと寝てたみたいだよ?」


「ん~……あっ、思い出した! 頭の中に声が聞こえてきて、その後で二人の女の人の声がしたのよ。それで魔力が溢れてきて、私はそれを使って魔法を……そう言えばあれからどうなったの?

 神父様や教会の皆や、あの敵や街は?」


「落ち着いてアマリア。順番に説明するから」


 そう言って僕たちはアマリアの前から少しズレると、まだ眠っているモルド神父が見えるようにしてやる。


「まだ意識は戻らないけど、命に別条は無いみたいだよ」


「あぁっ、神父様もご無事で本当に良かった…」


 涙ぐむアマリアに僕たちは、アマリアが倒れてから起こったことや、それぞれの身に起きたこと、ウルファルクとの戦い、そして街の一部が吹き飛んだことや、ルナメキラを倒したことを伝えていると、遠くから声が聞こえてきた。


「……ぁぁ、アマリアさまあぁぁぁっっっ!!」


 テントの入口がガバッと開かれると、そこには汗だくで息を切らせたレストミリアと、同じく息を切らせ後ろでピョンピョン跳んでテントの中を覗き込んでいる、イリトゥエルの姿があった。


「アマリア様がお目覚めになる時に私がお側にいられなかったことをお許しくださいでもこれには深いワケがありまして騎士団長もクロエもアルテミアも皆が皆私に労働を課していえそれは治癒術士長として仕方がないのですがそれでも頑張って仕事に邁進していえそのアマリア様に褒められたいとか撫でられたいとか抱きしめてほしいとかあまつさえ膝枕してほしいとかではなく自分の役目を真面目に全うして……きゅうぅ……」


「あ、ミリアも無事で良かっ…ミ、ミリア!?」


 早口で(まく)し立てるミリアさんはそこでプツリと糸が切れたように倒れ、アマリアをはじめそこにいた全員が一斉に驚いたあと、僕が寝ていた寝台に彼女を寝かせると、昨日から一緒に行動していたイリトゥエルが口を開く。


「レストミリア様は、途中で一度どこかへ行ってお戻りになってからというもの、お疲れのなかそれでも先ほどまで不眠不休で働き、大変頑張っておられたのです。

 姉様が目覚めたとの報告を受けて急いで参りましたが、無事なお姿を見て恐らく緊張の糸が切れてしまったのでしょうね…」


 イリトゥエルの言葉を聞いて、僕とアルテミアは顔を見合わせる。投下した燃料が効き過ぎたかと言わんばかりのアルテミアを見るに、恐らく僕も同じような顔をしているのだろう。


「あ、あのねアマリア。もし良かったらなんだけど、その、ミリアが目を覚ましたら出来る限り褒めてあげてくれないかしら?

 言動はアレだけど、本人もこんなになるまで頑張っていたから、ご褒美というかなんというか…」


「ふふっ、大丈夫ですアルテミア様。わかっております…。イリトゥエルちゃんも、助けてくれてありがとう」


「いえ…私は姉様が無事ならそれで…」


 アルテミアに頷き、イリトゥエルの手をとって優しく微笑むアマリアは、本当にここ数日で別人のように大人びてきたし、何か慈愛のようなものを感じさせるようになっていた。

 今、目の前でエルフの少女の手をとり柔らかく微笑む姿だって、絵に描いて少し光でも差し込むような演出をすれば、宗教画として絶大な人気が生まれることだろう。主に癒しを受けた騎士や冒険者、教会や治癒術士の関係者に。


 僕がそんなことを考えていると、レストミリアの大声を聞きつけたクロエもやって来て、倒れた上司の代わりにアマリアの診察を始めた。


「特に異常は無いようですね…。アマリア様ご自身はどこか痛みを感じたり、違和感を持っているところはございますか?」


「いえ、特におかしなところは無いみたいですけど……以前より少し魔力を感じ取りやすくなったと言うか、治癒術を使うときに手で探っていたものが注意して見るだけで、少しですが分かるようになってきているようです」


「…それはきっと、アマリア様が治癒術士として成長された証拠です。レストミリア様の神眼ほどではなくとも、鍛練を重ねた治癒術士は皆同じような感覚を身に付けています。簡単に言えば経験からくる眼力みたいなものですね」


「私が成長…」


 クロエの話を聞いたアマリアは、自分の手の平を見てそう呟くと、キュッと拳を握って嬉しそうに笑う。


「これでまた皆の役に立てるわ…。教えてくれてありがとう、クロエさん」


「………はぅんっ!」


 きっとこれまでの診察や会話など、平常心を保つべく最大限の努力をしていたらしいクロエは、自分だけに向けられたその笑顔によって、胸を撃ち抜かれたらしい。

 自分の胸元を左手で押さえながら、タラリと垂れてきた鼻血を右手で隠し、ガクガク震える膝にどうにか力を入れて耐えたクロエは、

「ひょ、ひょれでは(わたひ)失礼(ひつれい)ひみゃひゅ…」などと呂律(ろれつ)の回らない言葉を発しながら、テントの外へと出て行った。


「ミリアもクロエも、そろそろアマリア慣れしないと本当に死にかねないわね…」


「…うん。でも凄く幸せそうだし、これはこれでアリかも…?」


 アルテミアとアドルピスカの呟きを聞いて、僕と師匠はやれやれといった仕草をした。

 アマリアは少しの間ポカンとしていたが、寝台から出て体をほぐすと、イリトゥエルに連れられて食事を摂りに行き、やがて戻ると僕と師匠をテントから追い出して着替え、起きたばかりだというのに負傷者の治療を始めると言い出した。


 僕たちは難色を示したが、ただでさえ手が足りないのにレストミリアがあの状態なら、自分も出来ることをするというので、イリトゥエルに体調を確認してもらいながら、決して無理をしないという条件付きでアルテミアから許可をもらった。


 その後、騎士の三人は再び各門の守りに向かい、アマリアもイリトゥエルも治療に出掛けたので、僕はまだ寝ているモルド神父とレストミリアを治癒術士たちに任せて、ヒルダや教会の皆のところへ向かうことにした。

 (あらかじ)めラジクから聞いていた話によると、昨日まで負傷者の治療や炊き出しの手伝いをしていた皆は、今日から教会や孤児院の再建に向けて、瓦礫の撤去や掃除などを始めているらしい。

 街の中を歩いて教会のある丘を目指していると、巡回中のエレオノールに出会った。


「あら、もうお体はよろしいの?」


「はい、もうすっかり快復しました。エレオノール様には戦いのとき、最後の最後で大変なご迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした」


「そのことなら気になさらなくて結構ですわ。3人助けるのも5人助けるのも同じ事ですし、あなた方には(わたくし)たちの方こそ感謝しているのですから」


「ありがとうございます。ところで街の方はどうですか?あちこち破壊されてますし、いつもより守りも薄くなっていて、治安とか皆住む場所に困ってるとか…」


「城壁はあの通り破壊されていますが、今は各門の守りに兵士だけでなく騎士もいますし、私たちが見回っていますから、特に問題はございませんわ。

 瓦礫の撤去を終えて、建物を再建するのにはまだ少し時間がかかりますが、幸い軍の方から野営用の天幕や、王族から許可を得て食料庫の備蓄を解放して配ってますから、今のところ大きな混乱はございません。安心なさいまして?」


「はい。というより、僕が心配するようなことには、とっくに皆さん気づいて対応してますよね」


「もちろんですわ。でも、そういう心配をして言葉に出すのは悪いことではありません。(わたくし)たちとて万能ではないのですから、中には気づいていないことだってあるでしょう。

 例えいらぬ心配だと思っても、伝えるのは良いことですから、今後も気にせず聞いてくださいまし」


「はい。ありがとうございます!」


「ところでモルドやアマリアは、まだ眠ったままですの?」


「モルド神父はまだ眠ったままですが、アマリアは先ほど目を覚まして、今はイリトゥエル様と共に負傷者の治療にあたっています」


「まあ!起きたばかりでそんなことをして大丈夫ですの?」


「アマリアが起きたことを知ったレストミリア様がその…色々あって倒れてしまったもので。

 アマリアの体調自体はクロエさんから異常無しと言われてますし、イリトゥエル様が様子を見てくれているので、アルテミア様が許可をくださったんです」


「そうでしたか。アルテミアが良いというのなら心配いりませんね。しかしそれですと、モルドが目覚めるまでは待たねばなりませんね…」


「はい?」


「いえ、こっちのことですのよ。では(わたくし)も任務に戻りますわね、ごきげんよう」


「あっ、はい。ご、ごきげんよう…」


 僕はエレオノールにつられて不慣れな挨拶をすると、彼女は一瞬口を開けていたが、クスッと笑うと優雅に立ち去っていった。

 その後、エレオノールと別れた僕は南門跡を通り過ぎて教会のある丘の上に行くと、皆がせっせと働くなかにキルウルクとその部下たちがいるのを見つけた。


「キ、キルウルク様!? それに皆さんも、どうしてここに?」


「おう、今回の戦いでは世話になったし、全員の目が覚めて報告や会議を終えないことには俺たちも帰れねぇからよ。それまでのあいだ復興を手伝いながら、待つことにしたんだ」


「でも街の中ならいざ知らず、どうして教会を?」


「今回はルナメキラの側に獣人がいただろう?

 その話が微妙な伝わり方をしてるもんだから、街の中に俺たちがいると騎士は良いとしても、兵士や住民が怖がっちまってな。

 それに街の中のことは兵士や住民が大勢いて作業も進んでいるが、ここは女子供が多いしお前やモルドがいないとますます作業が遅れそうだから、俺たちが手伝うことにしたってわけだ」


「そうでしたか…ありがとうございます!」


 僕はキルウルクたちにお礼を言うと、ヒルダたちに軽く顔を見せ、すぐに作業を手伝い始めた。

 そうしてしばらくすると、以前から教会の護衛の任に就いていた兵士や騎士もやって来て、僕たちを手伝ってくれた。


「獣人についての話は噂になってるけど、お前達のことを手伝ってるなら悪い人でも無さそうだからな」というのがその兵士たちの意見だったので、僕はキルウルクたちへの誤解が早く解けるように詳しい話を彼らに伝えると、その場にいた者に関しては程なくして、わだかまりは殆ど無くなっていた。


 その後も門番を交代してきたラジクがやって来たり、メラリオや他の冒険者がやって来て作業をしたり、皆で休憩しながら僕たちが去ってからのスウサの戦いや、避難所でのこと、敵との戦いのことをかいつまんで話したりなどして過ごし、夕暮れまでにはおおよそ瓦礫の撤去は完了していた。


「それにしても皆さんのお陰で、街の方より早く片付きましたね…」


「身体強化を使ったり、風や雷の魔法で瓦礫を細かくして土や水の魔法を使って動かし、疲れた者には回復魔法を使っていたからな。それに街全体では出来なくとも、ここだけなら魔法の使用が可能だったのも大きい。

 そして何より、お前やモルド殿やアマリア殿の働きや、皆が避難所で懸命に力を尽くしたからこそ、こうして協力してくれる者も増えたのだ」


「皆さん、本当にありがとうございます!」


「ふん、俺は怪我の治り具合を確かめるのに、ここの作業を利用してるだけだから気にすんな」


「お前は素直じゃないなぁ…」


 兵士や騎士を見送りながらお礼を言うと、メラリオが照れくさそうにそう言ってラジクと共に帰っていく。


「私たちの任務が果たせたのも、こうして何事もなく騎士や兵士の皆と作業をして、王族との謁見を待てるのもあなた方のお陰だもの。これぐらいはお安い御用よ」


「そういうことだ。じゃあ俺たちは宿舎に戻るとしよう。行くぞミルカ」


 ミルカとロウレ、キルウルクたちもそう言って帰っていくと、ヒルダたちを先に帰して僕は一人、ほぼ更地になった我が家の跡に立つ。


「無くしたものも多いけど、頑張って良かったな…」


 最大の脅威だったルナメキラはもういない。

 もちろん戦った人たちにも被害は出ているし、教会も街もたくさん破壊されたけれど、それでも敵の攻撃は何とか防ぎきった。

 モルド神父はまだ眠っているけれど、じきに目を覚ますはずだ。


「ホントよく頑張った。でも…」


 僕はこれまで色々な所に行ったけれど、だいぶ前にモルド神父から見せられた地図を思い出し、セントリング国内だけでもまだ知らないところがあるのを改めて認識する。


 そしてキルウルクたちの話を思い出して、僕は世界がこの広いセントリングの、更に外に広がっていることも知った。


 北を見れば常にそこにあり、東西に果てしなく広がる山脈の、その行き着く先や向こう側にも、世界は広がっているらしい。

 以前、リッツソリスの街を訪れたハイワーシズの交易船は、遠い海の彼方からやって来たと言っていた。


「前世じゃ家と学校、家と職場、あとは近くの大きな街くらいしか、ほとんど行き来してなかったもんなぁ…」


 それにまだ全ての目的を果たしたわけじゃない。

 ハイワーシズの騎士から聞いた、モルド神父の力に耐えうる義手の存在も忘れていない。


 そして家族を狙う敵はいなくなっても、僕はガラドエルやエレオノールのような強大な力を持つ存在がいることを知り、味方ならこれほど頼もしいことはないが、もしそういった力を持つ敵が今後現れても、皆を守れるようにしなくちゃならないと思った。


「それにモルド神父も無理難題を言ってたし…」


 僕は二度も悔しい思いをしながら見せつけられた、その大きな背中を思い出し、ニッと笑う。


「モルド神父を追い越せとかさぁ、本当にどんな無茶振りなんだろう。あっ、でも次の目標にはうってつけなのかな。目標は高い方が良いって言うもんね…。

 そうなるとやっぱり、神父が万全にならないと確かめようが無いし……よし、決めた!次の目標はモルド神父の義手探しだ。

 教会や孤児院を直して成人するまで修行したら、冒険者になって探しに行こう!」


 僕は沈む夕日を見ながら新たな目標を定めると、丘を下って仮の住まいへと戻っていった。

サブタイトルが2本立てみたいになってますが、普通に繋がったお話でした(笑)


相変わらず疲労とヤバイお薬で様子のおかしいレストミリアでしたが、ひとまず気絶したことで強制的に休養をとることになりました。


目覚めたアマリアもジグの時のような反動は無く、魔力切れで眠っていただけのようです。

しかし全癒の力に続いて治癒術士としての適性が更に強まり、嬉しそうなその笑顔でクロエをノックアウト。図らずも治癒術士長と副長を短時間で撃破してしまいました。


街も教会も復興に向かって進むなか、新たに目標を定めたジグですが、果たして思惑通りにいくのかどうか…。

次回はようやくモルドも起き、皆集合して報告&お話し合いになりそうです(仮)

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