第151話 戦後の街と見回り散歩
大きな戦いの後には、必ず意識を失うという気絶系主人公のジグですが、例に漏れず今回もそうなってしまいました。
目が覚めると、いつものように気絶したらしいことと、いつもと違う天井…というか天幕であることに気がついた。
体のアチコチもいつものように痛むようで、ズキズキするのを我慢しながら寝返りをうつと、隣の寝台にはアマリアと、その奥にはモルド神父が横になっていた。
「あっ、ジグ!目が覚めたのですね。あぁ、まだ寝ていてください」
「いたたた…イリトゥエル様、ここは一体?」
「この前あなたが結界を張った食料庫前のテントですよ。覚えていますか?」
「もちろん。それであれからどうなりました?
というか僕は、どれくらい寝てました?」
「怪我の軽い騎士様や兵士、避難していた人たちはもう復興作業に移っています。
あの日の夜明けに街の南東部が吹き飛んでから、今はちょうど丸2日経った夜明け前ですね。
そろそろ他の皆さんも起きてくるはずですし、私は他の方の治療もありますから、ジグはまだ大人しく寝ていてくださいね」
「わかりました」
イリトゥエルが去ると、しばらくして今度はクロエがやって来た。
「顔色は良いみたいね。アマリア様とモルド殿は…んー、もう少しかかりそうね…」
「あ、あのクロエさん、珍しく姿が見えませんけど、ミリアさんはどうしたんですか?」
「レストミリア様は…嗚呼お労しや、アマリア様のお近くにいることも出来ず、今は街のあちこちを飛び回って患者の治療に忙殺されてるわ…ふふっ」
「お労しやとか言う割に、ちょっと嬉しそうですね…」
「レストミリア様の代わりにアマリア様のそば近くにいられるんですもの、これは私にとって至上の喜びなのよ?
それにあの方の力は今のリッツソリスに無くてはならないものだもの、治癒術士長として存分に力を振るっているのを見ると、部下としては嬉しいものなのよ」
「なるほど、いつもはクロエさんに面倒事を任せてますもんね?」
「そゆこと♪ じゃあ私は行くわね。何かあったら呼んでちょうだい」
「はーい」
仲が良い割に留守にしがちで、危険な場所にも行く事の多いレストミリアが、今は近くにいて安全に、そしてキチンと仕事をしているのが嬉しいらしいクロエは、アマリアの近くということもあってかなりご機嫌な様子だ。
彼女を見送った後も時折、治癒術士が来ては僕たちの様子を確認していったが、どうやらお目当てはアマリアの寝顔らしい。
疲れた顔でテントに入ってきては、起きてる僕の様子を見ている振りをして、アマリアの寝顔を見て元気を取り戻し、また外へと出て行く。
「いや、なんなら僕のことは無視して良いから、アマリアの寝顔を見て元気になりに来たって、正直に言ってほしいですよ…」
「あらまぁ!そんなつもりは…あるわね、ごめんなさい。アマリアちゃんはもう私たちの憧れだし、先輩達も様子が気になって仕方がないみたいなの。
でもジグ君にとっては良い気分はしないわよね…」
オリヴィエと顔見知りの治癒術士…アマリアの小隊にいたフレデリカがやって来た際、僕はそれとなく他の人たちに伝えて欲しくてそう言うと、二人も少し困ったような顔をして答える。
「皆を救った聖女がいるわけだから、仕方がないのよ。それに魔力は体調によっても影響を受けるから、先輩たちがアマリアさんの寝顔で元気になるなら、今は耐えてちょうだい」
「オリヴィエがそう言うならわかったよ…って聖女? また話がややこしい事になってないと良いけど…。ところでダンクやラティナ、他の皆はどうしてる?」
「スウサでも後方支援ばかりだったし、トイスでもあのモンスターは私たちに目もくれなかったから、皆も無事よ」
「そっかぁ…本当に良かったよ」
僕たちは少しのあいだ話をしていたが、二人も忙しい身なので再び治療のために出ていった。
気を利かせてくれたオリヴィエは僕に回復効果の有る睡眠薬をくれたので、僕はそれを飲んでまたしばらく眠ることにした。
次に目が覚めると、すでに日はだいぶ高く昇っていて体の痛みがやわらいだ僕は、まだ眠っている二人を見ながらテントから出て行くと、建物の上に糸を伸ばして屋根に、そこから更に北東の城壁へと糸を伸ばして、兵士や騎士が巡回する城壁の上へと昇った。
「おい、ここは立ち入り禁止だ!」
「わっ、ごめんなさい。街の様子を知りたくて…」
「お、少年。もう体は良いのか?
この子は私の知り合いだ。それに街を気にかけているのにも理由がある。すまないが許してやってくれ」
「は、ははっ!」
優しく微笑むケルガーは、兵士にそう言うと僕がここにいるのを許してくれた。
ケルガー様、まじイケメン。
「ケルガー様!はい、おかげさまでこの通り、そこそこ元気になりました。ケルガー様もご無事で何よりです」
「少年やモルド殿のお陰で我々も随分と助かった。改めて礼を言う。それにここは私の管轄だから、好きに見て回ると良い」
「ありがとうございます」
僕はケルガーにお礼を言うと、城壁の上を歩きながら眼下に広がる街を…あちこち破壊され、少しずつ瓦礫の撤去が始まった街を見て進む。
しばらく進むと東門の上までやって来て、そこにはラジクが守りについていた。
「師匠!」
「おお、ジグ。一度目が覚めたとは聞いていたが、お前ときたらもう歩き回っているのか?」
「もう任務についてる師匠にだけは言われたくないですよ。…本当に化け物ですね」
「さすがに完全とはいかないが今は手が足りないし、俺も案山子程度の役には立つだろうからな」
「あまり無理しないでくださいよ…。
ところで他の人たちの様子はどうでしたか?」
「んー、そうだなぁ。東門の俺と北東のケルガー殿、それから南門跡にアドルピスカ殿、西門にアルテミア殿がいるはずだ。
アイゼンフォート殿やエレオノール殿は街の内部を巡回、団長は騎士団本部にいるし…あぁ、レストミリア殿は忙しく働いているようだ。
ちなみにイリトゥエル殿は残っているが、里長とガラドエル殿は先に里へ戻ったぞ。あまり留守にも出来んらしい」
「そうですか…本当に皆さん無事で良かったです。ところで師匠、ルナメキラを倒した後はどうなったんですか?」
「あぁ、あの後は大変だったのだぞ?
なんせモルド殿だけでなくお前も気絶するし、俺たちの魔力も空っぽで、エレオノール殿がいなければ今頃全員ペシャンコだったはずだ」
ラジクによると、皆で一塊になったまでは良かったが、三人が魔法を発動させようとしても魔力切れ寸前で、それを無理に搾り出そうものなら気絶者が増えるだけなのでどうしようもなく、疲労しながらもエレオノールが盾で僕と神父を囲み、風や水魔法で勢いを殺し続けてどうにか着地に成功したそうだ。
しかも爆風を利用して飛んだ僕たちは、街の南西に広がる広大な畑の上空にいたらしく、そこから僕らを抱えてしばらく歩いて街道に戻り、ようやく南門に到着した頃には全員が疲労困憊で、さすがのエレオノールも疲労の色が隠せなかったらしい。
そうして一休みした後、ウルファルクの咆哮波で吹き飛んだ通りやすい部分を進んで、ようやく被害の少ない街の北部まで辿り着くと、他の騎士達と合流出来たらしい。
「初日はレストミリア殿も休んでいたのだがな…その、サイモンがやって来てあの薬を持ってきたものだから、翌日には仕事に駆り出されたわけだ。あの時ほど治癒術士じゃなくて良かったと思ったことは無い…」
ラジクが遠い目をして何やら思い出しているのを見るに、治癒術士たちの中で一定以上の魔力保持者は全員あの薬を飲まされて、それこそ無理矢理に働かされているのかも知れない。
戦の直後の治癒術士団は何というか、きっととんでもないブラック企業なんだね…。
そりゃアマリアの寝顔を見に来たくもなるよ。
僕はラジクから皆の所在や状態を聞いてひとまず安心し、東門を後にして、そのまま城壁を南下し南東の端に着くと、目の前の丘の上には滅茶苦茶に破壊された教会や孤児院が見えていた。
「遠くからチラッとは見たけど本当に遠慮なしに、完膚なきまでに壊されてるね……おっと…」
瓦礫の山と化した我が家を見て、思わず拳を握り締めているのに気づく。
血が滲む手の平を、首飾りの癒しが少しずつ治すのを感じながら、僕はしばらくのあいだ思い出の詰まった家の…その残骸を見ていた。
ガシガシと涙を拭うと、僕は再び歩き出す。
南門のアドルピスカは瓦礫の撤去をしている人を護衛しながら、ボーッと突っ立っていた。
「…あ、ジグ。おはよ。元気になった…?」
「あ、おはようございます。だいぶ良くなりました。アドルピスカ様もお元気そうで……ええと、お元気ですよね?」
「…ん。体は別に何ともない」
「と言うことは、体以外に何か問題でも?」
「…ルナメキラ、私も倒したかった。エレオノールに眠らされて、起きたらもう、終わってた…」
アドルピスカの持つ綺麗な淡い桃色の目は、落ち込んでいるせいか今は澱んで死んだ魚のような目になっていた。
「あれ以上魔力を使えば死んでしまいそうでしたし、その、エレオノール様も悪気があってやったわけでは…」
「…ん、それはわかってる。でも…」
どよよーんという擬音がピッタリなオーラを発しているアドルピスカには、僕が何を言ってもダメそうだ。しかしこのままにしておくのも可哀想なので、僕は頭をフル回転させる。
「アドルピスカ様を寝かせた後、エレオノール様ときたらそれはもうお怒りで、アドルピスカ様や先生のためにルナメキラを痛めつけて、随分と追い詰めていたんですよ?」
「…エレオノールがそんなことを?」
「そうですとも。アドルピスカ様の代わりに一人で相手をすると言うので、騎士団長が思わず皆を下がらせたくらい、本気になって戦っていたみたいです」
「…ふふ…そう、エレオノールがそんなに…」
何だか顔を赤らめて嬉しそうにし始めたアドルピスカを見て、一応機嫌は直っただろうと、僕はホッと胸をなで下ろす。
「そ、そういうことですから、詳しいことはエレオノール様に聞いてみてください」
「…わかった。ありがとう…」
そうして僕は南門を後にし街の中を歩いていると、カルスト兵士長の指揮のもと、瓦礫の撤去をおこなっているダンクやラティナたちを見かけた。
しかし見習いや新人たちには、かなりキツイ作業で疲れているようだったので、僕はバレないように物陰から糸を伸ばして皆に繋ぎ、回復魔法をかけてそっと離れることにした。
そしてそのまま西門の方へと向かうと、門の前で何やら騒ぎが起こっていた。
「そんなこと言わないでア゛ル゛テ゛ミ゛ア゛あ゛ぁぁぁっっ!
もうだめ、私はもうだめだよぉっ!代わっておくれよぉぉぉっ!」
近づいてみるとそこには治癒術士長にして『万能者』、国内最高峰の治癒術士である変態魔女レストミリアが、アルテミアの足にすがりついているのが見えた。
「ちょ、ちょっとミリア! 私があなたの代わりに治療して回ったとして、あなたはどこに行くつもりなのよ?」
「そりゃもちろん、アマリア様のところで献身的に看護するよ! アルテミアったら何言ってるのさ?」
「まったく…真顔でこのお馬鹿は!
せめて私の代わりに西門を見張りなさいよ!
代わるってのはそういうことでしょう!?」
「だって初日はほとんど寝て過ごしてたし、それからサイモンの薬で不眠不休で働かされてるんだよぉっ!? このままじゃ聖女成分が足りなくて、萎れちゃうよぉぉぉ…」
「だからその謎成分は何なのよ!? それにほら、いい加減離れなさいって!」
「頼むよアルテミアぁぁ、少しだけ、ほんの一週間で良いからさぁ~~!」
「いま一週間って言った!? あなたと私の時間の流れに違いでもあるの!?」
「だって私頑張ったじゃない!?
戦いを終えてアマリア様を!聖女として覚醒したアマリア様を満喫するためだけに、辛く長い戦いを耐えたじゃない!?」
「つ、辛かったのは、み! ん! な! お! な! じ! よ!
それにまだアマリアも起きてないんだから、あなたがいても仕方がないでしょう?
それならアマリアが眠っている間に、ミリアが一生懸命働いて皆の力になった方が、アマリアが起きたときに褒めてくれるんじゃないの!?
…………知らないけど」
アルテミアがレストミリアを引き剥がしてそう言うと、レストミリアは雷に打たれたような表情で固まり、やがてスクッと立ち上がる。
「そうか…うん!そうだねアルテミア!
えへへへ、アマリア様に褒めてもらってぇ…撫でてもらってぇ…うへへ、うへへへ…。
はっ!もしかしたら膝枕なんかも…?
うっひょー!やる気出てきたぁっっ!」
疲れとサイモンの薬でおかしくなっているのか、ミリアさんはいつもより5割増しの変態な様子で独り言を言うと、急にやる気を出して走り去っていった。
そのレストミリアをアルテミアは、呆然と見送っていたが、やがて周りの人だかりが散り、残っていた僕と目が合うと、やれやれといった仕草をしてこちらにやって来る。
「起きたので散歩しながら、皆さんの様子を見て回っていたんですけど、ミリアさんは元気そうですね…」
「まぁ実際に疲れているだろうし、アマリアのことが気になるのもわかるのだけれど、今はミリアの力が絶対に必要だから、アマリアの所にいて鼻血で倒れるよりは、疲れて倒れてもらう方が結果としては随分と違うのよ…」
「今は可哀想な状態ですけど、アマリアが起きたら褒めてあげるようには言っておきます。さすがにそれくらいのご褒美が無いと気の毒ですし」
「ふふっ、そうね。でもミリアもそうだけど、ジグもあまり無理しないで、今はまだ休んでおくのよ? いつもはもう少し寝てるはずだって知ってるんだからね?」
「先生は本当によく知ってますね?」
「茶飲み友達ですもの、何かあればミリアから伝わってきてたし、ジグが倒れるのもすでに何度か見ているもの」
「それもそうでした。じゃあ大人しく言うことを聞いて、戻ることにしますよ」
「それがいいわ、お休みジグ。今夜か明日にでも皆で顔を出しに行くから、それまではゆっくり休みなさいね」
「はーい」
僕はアルテミアと別れると、食料庫に戻って再び寝ることにした。
ひとまず長い戦いの後には緩い感じのお話を、ということでこのような感じになりました。
特にお話が進んだわけではないのですが、ホッと一息つく時間が登場人物にも、そして書き手にも必要かなと思いました。
読み手の方々にも、ふふっと笑っていただけたら幸いです。




