第150話 リッツソリスの戦い その10 各々の執念と空中戦 (2視点)
初の試みも含めて、随分と頭を悩ませた回です。
追記。(2021/1/13)
第0話の記号の説明を。少々分かりづらい書き方になっていますが、
○、長身の女性=レストミリア
△=モルド、モルド神父
◇=アマリア
▽、顎髭の男=ラジク
◎=ジグ
×=アドルピスカ
□、小柄な女性=アルテミア
☆=ルナメキラ
*、目を瞑った女性=エレオノール
となっております。
街を照らす黒球がその輝きが増すなか、俺は廃墟となり誰も居なくなった街の中を進む。
後事を託したレストミリア殿が充分に離れるまで、俺はルナメキラが逃げないように足止めしなければならない。
あのずる賢いルナメキラのことだ、安全が確認されるまでは、あそこから離れることはないだろう。
「用心深いことだなルナメキラ。エレオノール殿やガラドエル殿がその黒球を破壊しないか、逃げるお前を待ち伏せていないか、警戒しているのだろう?」
「モルド…今更一人で何をしに来たのですか?」
「長い付き合いだ、どうせ予想は出来ているのだろう?」
「まさかその腕、その体で私を道連れに出来るとでも?
くくく…いくら私が消耗しているとは言え、さすがに甘く見すぎですよ」
ルナメキラの見立ては間違っていない。利き腕はとうに無く、奴と同様かそれ以上に消耗している自分では、真っ正面からぶつかっても勝ち目はおろか、奴を道連れにすることは出来ないだろう。
…しかし、だからこそルナメキラは予想できない。
俺は『右手』を握り締める。
「たとえお前に勝つことが出来ずとも、俺には果たさねばならない誓いが、討たねばならない仇がいるのでな…」
「それを言うなら私とてそうですよ。この眼と角の恨み、貴様やアベルに事ある毎に邪魔された怒り、出来るなら今ここで晴らしてやりたいくらいです。
ですがウルファルクは討たれ私は疲弊しているし、周りに敵が多すぎる。奴らが充分に離れてから逃げなくてはならない今、あなたに構っているヒマは無いのですよ」
ルナメキラは左眼に触れながらそう言うと黒球から離れる。
「いずれにせよちょうど良いところに来ました。モルド、あなたは爆発に巻き込まれてここで死になさい。私は傷を癒やし態勢を立て直してから、いずれ再び戻ってきます。
そしてお前の大事なものを捕らえ、痛めつけ、嬲り、切り裂き、潰し、泣き叫ぶ様を充分に楽しんでから、皆まとめて同じところに送ってやりますからねぇ…」
ルナメキラはそう言って背中から生えた羽を広げると、素早く飛び上がる。
俺はそれと同時に足元の魔力を爆発させて高く跳び、自分の優位を確信し油断していたルナメキラの胸を、魔力を纏った『右腕』で貫く。
「なぁっ…ぐふっ、貴様、腕が…!」
「以前と今の俺では比べ物にならんから、さすがのお前も油断しただろう…。
賢者には1度きりなら耐えられるものを依頼しておいた。そしてこれはただの『爆拳』ではない…!」
俺はルナメキラの体に突き刺さった右腕の『中身』に魔力を通すと、その中に埋め込まれていたそれは次々と反応していく。
「ま、まさか腕の中にっ!?」
「はあぁっっ!」
焦りを通り越して恐慌状態に陥ったルナメキラに対して、俺は全身から振り絞った魔力と、いくつもの魔石に込められた魔力を一気に練り上げ、その右腕ごと爆発させた。
爆風によって地面に叩きつけられながらもどうにか立ち上がると、同じく立ち上がったルナメキラの胸部には大穴が空いていて、咄嗟に俺の右腕を引き抜こうとして掴んでいた両腕も、肘の辺りから先が吹き飛んでいた。
「ガハッ…モ、モルド、貴様やってくれたな…」
一方で俺自身も義手はもちろん吹き飛び、右半身には火傷を負い、右眼も見えていない。
ボタボタと落ちる血を見るに、義手を着けていた右肩の辺りから出血しているようだ。
「ふっ…その体ではまともに逃げられまい…」
その場でよろめきながら踏ん張るルナメキラに、俺は足を引きずりつつも少しずつ近付いていく。
「そ、そんな体で何をするつもりだ!」
「もちろん目的を果たすのだ…お前にも分かっているだろう…」
ダメージと出血、そして魔力切れが近いこともあり目が霞む。油断すると力が抜けて倒れてしまいそうで、俺は歯を食いしばりながら全身に力を込める。
「ひ、ひぃっ…」
「逃がさん…貴様はここで俺と死ぬのだ…」
短くなった両手をバタつかせ、ジリジリと後ずさるその首を左手で掴むと、俺はルナメキラを引き摺って黒球の前へと歩いていく。
「さぁ、これで終わりだ…」
俺はルナメキラを地面に引き倒して踏みつけると、黒球を炸裂させるべく左手に魔力を込め、最後の爆拳を叩き込もうとする。
すると黒球から魔力が滲み出し、俺の体を突き飛ばすと、それはルナメキラの体へと流れ込む。
「ふ、ふふっ、ふはははっ!よくやりましたよフェイドローク!」
魔力の供給を受けたルナメキラの体は大穴が空いたままではあったが、羽を生やし飛べる程度には回復したらしく、よろめきながらも立ち上がると頭上へと飛び上がった。
「ぬぅ……」
「これで形勢逆転ですねぇ…モルドォッッ!」
ルナメキラはそう言うと、こちらに向けて口から火球を放つ。しかしその火球は次の瞬間、俺の目の前に現れた四枚の盾に阻まれ消えた。
「モルド、抜け駆けは褒められた行為ではごさいませんことよ?」
「美味しいところを独り占めとは、ズルいのではないかモルド殿?」
「あーあ、ラジク殿はともかく、私とエレオノール殿は護聖八騎なのよ? 命令違反なんてしたこと無かったのに…」
「そんなこと言ってアルテミアだって、ジグが泣きながらここに向かうって言ったらすぐに動いたくせに」
「う、うるさいわよミリア!? 私はモルド殿一人より、ジグとモルド殿が二人でやるより、私も参加した方が成功率が上がると思ったんだから、それで良いのよ!」
ルナメキラが忌々しそうに見るその先には、撤退したはずのラジク殿やレストミリア殿、エレオノール殿とアルテミア殿がいて、その横には桜色の魔力を纏ったジグの姿もあった。
「皆さん、無理を言ってすみません。でも……ありがとうございます」
「気にするな。弟子の願いを聞けない師匠ではない。それに民や仲間を傷付けた者を斬らねば、俺もこの怒りを御しかねる」
「そうよ。それにゼストルフ将軍の分の借りを返すまでは、納得できないしね…」
「あら、アルテミアは無理なさらなくても良くてよ。まだ眠っているアドルピスカの分と一緒に、私が晴らして差し上げますわ」
「私もジグにはああ言ったけど、アマリア様の滑らかで美しいお肌を傷付けた、あのゴミクズクソ魔族には、私も我慢がならなかったからね。もう無理に感情を抑えるのはやめたやめた」
「そういうことだ。それぞれ命を懸けるに値する理由があるのだから、モルド殿が一人で頑張ることはない。俺たちにも発散させてくれ」
「だがっ…………いや、感謝する」
少し時間をおいたとはいえ、まだまともに回復する暇など無かったはずだ。それに1つ間違えば街もろとも跡形もなく消し飛ぶこの状況に、国を代表する騎士や治癒術士長に加えて未成年が残っているなど、普通は考えられない。
それでも彼らの顔を見ていると不思議と力が湧いてくるようで、その気持ちをありがたく受け取るべき…いや、受け取りたいと思ってしまった。
「人間のお前達が何人集まろうと、そこからでは何も出来ないでしょう!」
ルナメキラは更に上空へと高度を上げ、こちらに向かって火球を振らせてくる。
「その黒球に1つでも触れたら即、死だ!
ルナメキラの攻撃を全て防ぎ、奴をあそこから引きずり下ろさねば…!」
「私たちには手が無いけれど、エレオノール殿ならどう?」
「ええ、いけますわ。皆さんは防御に専念して、私がアレを叩き落とすまで耐えてくださいまし」
「エレオノール様、出来れば僕も連れて行ってください。この糸があればお役に立てると思います」
「…いいでしょう。では参りますわよ!」
◇◇◇◇◇
僕はエレオノールが飛び出すと、それに続いて走り出す。彼女は空中に薄い氷を次々生み出しては、それを足場にしてトントンと駆け上がっていく。
一方で僕らの接近に気づいたルナメキラは、今度はこちらに向けて火球の雨を降らせてくるが、エレオノールの盾はそれらを全て防ぐどころか、残った他の盾でルナメキラを牽制し始めた。
「ちぃっ…ならば全てまとめて吹き飛ばしてやろう! グオォォッッ!」
ルナメキラは盾に弾かれた勢いのまま距離を取ると、翼の生えた竜へと変身し、その翼竜は大きな翼を羽ばたかせると、辺り一帯に荒れ狂う暴風を生み出した。
「くっ…これはいけませんわ! ジグ、あなたの糸はここからでも届きますの?」
「はい!見える距離にいるなら届くはずです!」
「でしたら私の盾を足場にして、アレを落としてくださいませ! そのために必要な援護は私が全ておこないます!」
「わかりました、では行きます!」
僕はエレオノールの後ろから飛び出すと、三枚の盾が次々作り出す足場を蹴って翼竜に近付いていき、エレオノールは荒れ狂う風を突き破って翼竜へと届く、氷の槍を放って牽制する。
「さっさと落ちろ!」
近付いてくる僕と牽制を続けるエレオノールの両方に向けて、翼竜は巨大な竜巻を放って地面に叩き落とそうとしてくる。
「うあっ!逃げ場がっ…」
足場だけで他に逃げ場のない僕が慌てていると、残るもう1枚の盾が立ち塞がって竜巻を阻む。
しかしエレオノールの方は僕に全ての盾を使っていたため、足場を崩され竜巻に吹き飛ばされながら落下していく。
「エレオノール様!」
「私には構わず、成すべき事を!」
「…はいっ!」
エレオノールは落下しながらも翼竜へと最後の牽制攻撃を仕掛け、僕は足場を駆け上がると最後に思い切り蹴って高く跳び、エレオノールの攻撃を迎え撃っていた翼竜の頭上に躍り出る。
『金剛斬糸!』『自在粘糸!』
そうして翼竜の翼を切り裂き、次なる変化で逃れようと人型に戻ったルナメキラの体を、粘着糸でグルグル巻きにして拘束し、最後に強く蹴りつける。
「おのれ小僧おぉぉぉっっ!」
地面に向かって叩き落とされていくルナメキラを見ながら、僕も次の瞬間には同じように地面に向かって落ちていく。
「うひっ、着地まで考えてなかったあぁぁっ!」
『エアハンマー!』
『トルネード!』
『アクアゲイザー!』
真っ逆さまに落ちていく僕の体を、ラジクが風で勢いを殺し、アルテミアの竜巻が一旦持ち上げ、最後にレストミリアの水柱が受け止めて、無事地上に着地させてくれた。
「死ぬかと思いました…あ!エレオノール様は!?」
「ご心配なく。私は着地寸前に衝撃を相殺したので問題ありませんわ。さてと、ではそろそろ始末を付けましょうか」
エレオノールが向く先には、地面に激突して倒れたままのルナメキラがいる。
しかも墜落した直後に地上にいた四人の一斉攻撃を受けていて、その体にもう力は無く、ズタボロの姿で抗う様子も見せていなかった。
「トドメはモルド殿に譲るよ。決着をつけると良い」
レストミリアがそう言うと他の皆も頷く。
誰よりも長きにわたってルナメキラと戦い続けた彼にこそ、その役目は相応しい。
「すまんな皆…礼を言う」
モルド神父が左手に残った魔力を集めると、レストミリアに少しだけ治療された足取りは先ほどよりも軽く、ルナメキラの前に立つと拳を振り上げる。
しかしその動きは何故かそこで止まる。
「貴様……まさか!」
「ここまで来たならどうしようもありません、全員ここで死んでもらうとしましょう…。
ふふっ、ふはははははははははははは!!」
僕たちが後ろを振り返ると、地面の中から1本の触手が伸びていて、それは黒球に触れると黒球が一気に半分ほどの大きさに縮まった。
「もしや黒球の魔力を!?」
バレーボールほどの大きさとなった黒球からルナメキラへ視線を戻すと、肘の先から触手を伸ばしていたルナメキラは、再び魔力を回復して羽を生やし高く飛び上がる。
それと同時に黒球は圧縮を始めて黒真珠へと姿を変えていく。
「全員、私の後ろに!『落葉風舞盾!』」
エレオノールの言葉に僕たちが従うと、彼女は四枚の盾を縦横二枚ずつに並べ、ありったけの魔力を注ぎ込む。すると盾から伸びてきた結界が僕たちを包み込んだ。
しかし黒真珠はすでに目に見えないほど圧縮され、黒い光だけが見えていた。そしてそれは次の瞬間、膨大な魔力とともに大爆発を引き起こした。
辺りが真っ暗になり、それと同時に爆発の轟音と衝撃が襲いかかったのも束の間、僕は何故か浮遊感を覚えて恐る恐る目を開くと、どういうわけか結界ごと空中をもの凄い勢いで飛んでいた。
「あ、あの、これって」
「説明する時間はありませんわ!全員私の合図で行動してくださいませ。狙いはもちろん…」
どうやらエレオノールの使った魔法は、僕たちを盾で守ると同時に結界の中に閉じ込め、盾が受けた爆発の衝撃を耐えるのではなく推進力に変換して、僕たちを上空へと高く飛ばすものだったらしい。
……簡単に言えば爆発が燃料、盾がエンジンや噴射口、結界が本体のロケットのようなものだろうか。
そしてエレオノールの指差す先には、全速力で飛び去ろうとしているルナメキラの姿があった。
「チャンスは一度きりです。着地は出来る限り支援しますが、もしも無理な場合は各々で対応してくださいまし!」
「なぁに、戦場に戻ったときから覚悟の上だ」
「奴をみすみす逃がしてしまうところだったが、もう一度機会を与えられただけで、こちらとしては充分だ」
「ま、そこは互いに近い相手と協力するってことで」
「皆、もし危ないときは声をかけるのよ」
「位置が掴めないと困りますから、もし離ればなれになった場合は、狼煙でも上げたら良いかも知れませんね」
互いに心の準備を決めながら話していると、僕が最後に何となく提案したのを聞いて、皆がこちらを向く。
「よし、その時はそれでいこう」
そうしてルナメキラへと猛烈な勢いで迫り、エレオノールが結界を解除すると、盾から噴き出す風魔法を使って僕たちを次々送り出す。
「っ!…なに!?」
『金剛斬糸!』
『風之太刀!』
『嵐穿弓!』
『ホーリー・レイ!』
『全天塵魔光砲!』
異変に気づいたルナメキラが振り向く直前、僕は風の糸でその羽を斬り飛ばすと、続いてラジクがルナメキラの体を深々と切り裂く。
落下していくルナメキラに向かって、アルテミアとレストミリアの攻撃が同時に炸裂すると、防御しようとしたその腕を残った肘から肩にかけて吹き飛ばし、エレオノールの魔力砲撃が襲い掛かる。
「くっ、貴様らぁっ!こんなものぉっ…」
ルナメキラは落下しながらも足を変化させ、魚のような尾びれを使って砲撃が直撃するのを避けると、両腕と下半身を失い、胸に大穴を空けた状態で真っ逆さまに落ちていく。
「ルナメキラアァッッッ!」
「やはり最後はお前ですか、モルドォォッッ!」
足場にしたエレオノールの盾を思い切り蹴り、全身から溶岩の魔力を溢れさせ一直線に突っ込んでいくモルド神父に対して、ルナメキラは魔力を振り絞り、いつか見た大蛇へと変身すると、その口元からは雷が迸る。
僕はその大蛇に向かっていく神父の姿を見て、あの日の教会での光景と、兵舎の一室で口にした決意を思い出し、すでに尽きている魔力を更に振り絞る。
「うおぉぉぉぉっっっ!」
「死ねえぇぇぇっっ!」
「させるかあぁぁぁっっっ!!」
僕は指先に残り少ない魔力を溜める。
思い出すのは強大な敵が不意を突かれる姿。
黒骸王だろうが獅子だろうが大蛇だろうが、今この瞬間、ここだけは無防備だ。
「これでも喰らえぇっ!」
僕が放った無数の糸は、大きく開かれた大蛇の口内に突き刺さると、そこに溜めた魔力を巻き込んで爆発させ、発動を見事に阻止した。
「ガハァァッッ……!」
「これで最後だ!ルナメキラアァァッッ!」
爆発によって人型に戻ったルナメキラへ、モルド神父の拳が一直線に向かう。
「ま、待てモルひぎゃっ!」
最後まで抗おうとしたルナメキラの顔面に爆拳が襲い掛かると、それは頭を貫き爆発して、その体ごと粉々に吹き飛ばした。
「おおお!とうとうモルド殿がやったぞ!」
「よっしゃあぁぁぁっっっ!」
「いやっほう!!ってアルテミア、凄いテンションだね」
「べ、別にいいじゃないこんな時くらいっ!」
「はしたなくてよアルテミア。それにまだ着地が残っております。騎士として最後まで優雅になさって?」
「わかりましたよ、おほほ。ってモルド殿が気絶してるわよ!」
アルテミアが即座に狼煙を打ってモルド神父の方向を指し示す。
「ぼ、僕が皆を集めますから、着地は皆さんにお願いしますっ! はぁっ!」
ガンガン痛む頭や体から、更に魔力を集めると皆を結んで1カ所に集める。しかしそこで魔力が尽きた糸は消え、僕の意識も遠くの山から昇る朝日と、皆の姿が目の前に映ったのを最後に途絶えた。
こんな感じになりましたが、どうでしょう…?
もっと上手であれば面白く描けたと思うのですが、現状はこれが限界でした。
結末も悩んだのですが、やはり物語は大団円でなくてはという想いが強く、フラグ立ちまくりのモルドも死なせることが出来ませんでした。
様々なご意見はあるかと思いますが、敵との戦いはひとまずここまでとなり、次回は後日談になるかと思います。
もしも「いや、やっぱり…」みたいに思い直しても恐らく書くとすれば、ifの世界として番外編を用意するに留まると思いますので、ご了承ください。
最後になりましたが、◇◇◇◇◇ を挟んで場面を切り替えるのは、作品を読ませていただいている方の手法を真似たものです。
もしお許しいただけるなら、今後もたまに使ってみたいと思います(笑)




