第147話 リッツソリスの戦い その7 壁外戦闘と覚醒の虐狼牙
場面はルナメキラとの戦いから、街の外に出てウルファルク討伐へ。
スウサからの援軍も到着して、いよいよ総力戦ですね。
昨日のことですが短編を1本書いてみました。
「大魔王、神に祈る」というタイトルです。
もし良かったらそちらもご覧くださいませ。
南門跡から外に出ると、そこには周りを囲まれながらも暴れ回るウルファルクと、その体からいまだに生み出される眷族、そしてそれらと戦いつつ包囲を狭めている味方の軍勢が見えた。
現在前線の指揮はアドルピスカと里長とアルテミアが担っていて、これからの作戦を成功させるためレストミリア、イリトゥエル、ガラドエルの三人は少し下がって待機していた。
「あ、三人ともお帰り。ルナメキラの方はどうだい?」
「どうにか無事に抑え込んで、騎士団長と交代できましたよ。ミリアさんこそもう大丈夫そうですね?」
「まぁね。アマリア様の素晴らしさを語るのは、もう少し落ち着いてからにしようと思ってさ。
それに私はこの戦いが終わったら、またアマリア様の本を書くんだ!」
「は、はぁ…。まぁそれを楽しみに頑張るなら良いとは思いますけど、バレたらまたアマリアに消し炭にされますよ?」
何だかフラグっぽいことを言うミリアさんに対して、僕は以前旅から戻った際のやり取りを思い出しながら釘を刺す。
「おっと、じゃあこれは内緒だよ」
「別に良いですけどね…」
「お二人とも、休憩中とは言え気を抜きすぎですよ。それにほら、アルテミア様が残っていたウルファルクの牙を落としましたよ!」
「あの嬢ちゃんは変わった戦い方をするねぇ。あの動きは流水…いや、風そのものってところかね…」
僕らがそんなやり取りをしていると、エレオノールとキルウルクがやって来た。
「皆さんご無事なようで何よりですわ」
「待たせたな。しかしこれがセントリングの首都か…派手にやられたもんだな」
「二人とも無事だったか。しかし部隊は放っておいて良いのか? それにキルウルク殿、その姿は一体…」
「部隊の指揮は私に代わってクロエ殿が務めていますし、見習いや新人はトイスの村に留まらせましたからご安心を」
「俺の方は…まぁ例のアレの影響だ。さすがにここで話すとミルカに怒られるから、今は勘弁してくれ」
どうやら騎士団長からの連絡が届いていたエレオノールは、クロエに部隊を預けてきたらしい。
キルウルクの方は最後に会った時よりも爪や犬歯が伸び、更に髪の毛や体毛も伸びたり増えたりしていた。
伏せておきたいということは、恐らくこれが狂獣化の影響なのだろうと皆も納得したようだった。
するとそこへアルテミアとアドルピスカが戻ってきた。
「はぁ…はぁ…こ、これでウルファルクの雷撃は封じられたわ…。あとはクロエと里長が皆と一緒に足止めしてくれているから、私たちも準備を整えて作戦を実行しましょう」
「…大丈夫。サイモンの薬はすぐに効く…」
「あの…僕はルナメキラとの戦いで魔力を消耗していて、どなたか予備の回復薬なんて持ってたりしませんか?」
「私はウルファルクの牙を落とすのに、1本飲んでしまったわ…」
「あら、でしたら私のを差し上げますわ。魔力には充分余裕がございますから」
皆がサイモンの回復薬を飲むなか僕は消耗したままだったので、この後の作戦で足を引っ張ってはならないと思って尋ねたけれど、まさかエレオノールが、しかもサイモンの薬をくれるとは思わなかった。
「あ、恐れ入りますエレオノール様。でもその…大丈夫なのですか?」
「…? ああ、魔力のことでしたらご心配なく。私は他の方々より魔力量が多いですし、回復するも早いのです」
「大丈夫だよジグ。エレオノール殿の魔力は多少減っていても、この中にいる誰よりも…とは言わないけれど1、2を争うほど多いからね」
「ありがとうございます。では頂戴いたします」
エレオノールに続いてレストミリアが、ガラドエルの方を見ながら太鼓判を押す。
比較対象がガラドエルの時点で、エレオノールの魔力量が尋常では無いということは分かったので、僕はありがたく受け取ることにした。
「では作戦通り、まずキルウルク殿はルナメキラを団長と共に抑えて、私たちの邪魔をしないよう引き離してください」
「了解だ。もともと俺はルナメキラのヤツをぶちのめすために来てるからな」
キルウルクは頷くとすぐに街の中へと向かった。
「アドルピスカ殿、イリトゥエル様、それとジグは私たちの準備が整い次第、ウルファルクの動きを止めてください」
「…わかった」「畏まりました」「はいっ!」
「そして私とラジク殿、エレオノール殿、モルド殿、ガラドエル殿は、三人が足止めに成功した瞬間に全ての力を注ぎ込んで、ウルファルクに大打撃を与えます。
ミリアは全体の補助と、作戦の成功を確認したらサイモンへの合図をお願い」
「「「「「了解!」」」」」
そうして僕は薬を飲み、皆と一緒にレストミリアの補助魔法を受けてから持ち場についた。
「これで全てが決まるわ…」
「魔王軍四天王を討つ機会など滅多にあることではない。失敗は出来んな…」
「うむ…。ここでウルファルク共々ルナメキラを滅し、後の憂いを絶たねば…」
「…うん。決めてみせる…」
「ここまで好き勝手されて黙っていては、護聖八騎の名折れですわ。敵は必ず殲滅して見せます!」
「はるばるここまで来たのですから、私も全力を尽くします!」
「姫様についてきたお陰で、私も久し振りに血が滾ったよ。魔王軍四天王には借りもあるからねぇ…ここで昔のツケを払ってもらうとしようか!」
「何としてもここで敵を倒して、皆が安心して暮らせるようにしなくちゃ…!」
僕たちは湧き上がる魔力をそれぞれ溜める。
「よし、全軍全力攻撃ののち、一斉に待避!」
それまでウルファルクに対して守りを固めていた味方は、アルテミアの号令で一斉に攻撃を開始する。
硬い毛皮に守られているウルファルクも、360度からの一斉砲火を浴びては防御するしかなく、怯んで動きが止まった瞬間、最後に岩鎧を纏ったクロエが重突進を叩き込んで、ウルファルクの体勢を崩した。
「今よ!」
『神縛桜糸!』『自在粘糸!』
『エル・エリア・アイシクル・テンペスト!』
『氷晶結界!』
ズドオォン!と音を立ててウルファルクが倒れ込んだ瞬間、僕はアルテミアの合図で2種類の糸を一斉に伸ばしていき、ウルファルクの首や胸部に巻き付けると近くの城壁や地面に固定して動きを封じる。
続いてイリトゥエルの起こした巨大な氷嵐は、その上からウルファルクの体を氷で覆っていき、更に強く地面に固定する。
そうして腹を見せてもがくウルファルクの四本足へと、僕は追加で糸を巻き付けて動きを鈍らせると、アドルピスカの氷の結界は逃れようと力を込めるその足を糸ごと凍らせて、ウルファルクの動きを完全に停止させた。
しかしそれでもウルファルクは全身から魔力を溢れさせ、身体強化で逃れようとする。
氷がミシミシと音を立てているのを、イリトゥエルとアドルピスカは懸命に魔力を注いで耐える。
「ウルファルクが腹と喉を見せている今が好機よ!『極光嵐穿弓!』」
『飛翔爆拳!』
『斬界風刃!』
『全天塵魔砲!』
「……待ちな!ウルファルクの様子が…」
拘束を解こうとするウルファルクに対して、アルテミアの嵐の矢が降り注ぎ、モルド神父の拳からは真紅の熱線が放たれ、ラジクの風之太刀から巨大な風の刃が襲い掛かり、エレオノールは自身を守る四枚の盾を組み合わせた大きな砲身から、巨大な魔力砲を解き放つ。
しかしガラドエルは直前に何か気づいたのか、攻撃を中断して皆を止めようとしていたが間に合わない。
四人の攻撃は拘束から逃れられずにいたウルファルクに見事直撃して、大爆発を引き起こした。
それと同時に拘束していた糸や氷も解除され、僕たちは土煙の漂う一帯を警戒しながら見ていると、レストミリアが叫ぶ。
「ウルファルクはまだ生きてるよ!それにこれは…マズい!全員待避!」
『ミル・メニア・トルネード!』
『エル・ウインドハンマー!』
レストミリアが叫ぶと同時に、同じように危険を感じ取っていたらしいエレオノールとガラドエルが、それぞれ竜巻魔法で皆を持ち上げて遠ざけ、土煙を吹き飛ばしてウルファルクの姿を確認すると、そこには体を覆っていた岩の鎧をバキバキと砕きながら立ち上がり、先ほどまでとは違って真っ黒い毛皮を纏ったウルファルクの姿が見えた。
そしてその黒い毛皮からは闇属性と思われる魔力が滲み出てきて、さながら黒い炎が揺らめいているようだった。
「光属性が無いヤツは下がりな!留まっていてもウルファルクの餌になるだけさ!」
「どなたか賢者サイモンへの伝令をお願いしますわ。発動させる対軍魔道具の属性は光の熱線魔法。それを赤1の狼煙を合図に撃つようにと。
それとラジク、あなたの属性は風でしたね?でしたら光を持たない者をまとめて、団長の手助けに向かいなさい。
もしもに備えて治癒術士も半分は連れて行くように」
「しかしそれでは人数が足り…」
「これは護聖八騎としての命令です。それとも今のラジクは、それ以上の権限で私の言葉を覆せますの?」
「……いや、命令とあらば従おう。モルド殿も俺と来てくれ。アルテミア殿、ジグのことは頼むぞ」
「……適性が無いのでは仕方がない、か…」
「えぇ、任せてちょうだい」
ラジク達が移動していくと残ったのは僕、エレオノール、アドルピスカ、アルテミア、レストミリア、イリトゥエル、ガラドエルと、他に二十人あまりだった。
里長やクロエ、ミルカやロウレも光属性は持っていたが、ルナメキラも闇属性を扱えるので万一に備えるのと、治癒術士への指示やキルウルクとの連携を考えて、ラジク達と共に移動していった。
一方でウルファルクは黒い魔力をジワジワと増大させていたが、それが体内に戻っていき灰色の毛皮を取り戻すと、辺りを見回しながら少しのあいだ動きを止め……そして口を開いた。
「随分と長いあいだ夢を見ていたようだが、この状況を見るに正気を失って、ルナメキラ如きに良いように使われていたのは事実のようだな…」
「おやおやウルファルク、その地獄の底から聞こえるような声を、こんなところでまた聞くことになるとは思わなかったよ。
で、あんたはこれからどうするつもりだい?」
「『霊樹の守護者』か…久しいな。聞くまでも無いとは思うが、正気に戻してもらった礼に答えてやろう。
もちろん人間もエルフも、そしてルナメキラの小僧も皆殺しだ」
「随分と威勢が良いねぇ。でも牙を両方失ってるうえ、それだけの傷を負ってるアンタに出来るのかい?」
「餌ならその辺にいくらでもいる。喰らって回復すれば牙はいずれ戻ろう。それに暴れるだけが能では無いことも、貴様ならわかっているであろう?」
「さてね、アンタは昔も今も暴れてばかりだったから、私にゃわからないよ。でもそうだねぇ、さっきまでの方が魔力は多かったけど、戦いにくいのは今のアンタかもねぇ…」
ガラドエルはウルファルクと話しながら目配せすると、イリトゥエルは頷いて小声で話し始める。
「ウルファルクの相手はガラドエルが前面に立って引き受けます。他の方々は彼女の援護をお願いします」
「イリトゥエル様、ガラドエル様だけに負担をかけては騎士の名折れですわ。私も彼女と共に戦いたく思います」
「……わかりました。ではエレオノール様にもお願いいたします」
「じゃあ私は支援に回るよ。出来ればアルテミアも私に協力してくれると助かるね」
「ミリア一人じゃ大変だろうし良いわよ。それとジグは少し後方から、糸で敵の妨害と味方の支援をした方が良さそうね?」
「先ほどの様子から私も賛成です。ジグも良いですか?」
「構いません。出来ることを全力でやります」
僕たちがウルファルクから目を離さずに話していると、空気の振動を感じるほどに低い声が聞こえてくる。
「人間ども、そろそろ相談は終わったか?
我の腹におさまる覚悟は出来たか?」
「ケモノに与える餌などございません。せっかく目覚めたところで残念ですが、またあの世に送って差し上げますわ!」
「生意気な小娘だ。まずは貴様から喰ろうてやる!」
そう言って雷を纏ったウルファルクは、猛烈な速度でエレオノールに突進していく。
「無駄ですわ…」
ウルファルクの爪がエレオノールに届くかと思われたその直前、彼女の目の前には四枚の盾が現れてウルファルクの爪を受け止めた。
『極大竜巻魔法・テンペスト!』
エレオノールはウルファルクの方に手の平を向けると、魔力を溜めた様子もなく巨大な竜巻を生み出し、ウルファルクの巨体を吹き飛ばすと地面に叩きつけた。
「アルテミアもアドルピスカも、何を呆けているの?さぁ、いい加減決着をつけましょう…」
あまりに圧倒的なエレオノールの姿に僕たちは呆然としていたが、彼女の一声で皆一斉に行動を開始し、体勢を立て直したウルファルクもそれを迎え撃つべく、全身から黒い眷族を生み出した。
順調に作戦が進んでいたところで、大打撃を受けたウルファルクがとうとう正気を取り戻しました。
狂獣と化していた頃よりも魔力が落ちていますが、その分知恵と経験が加わりガラドエル曰く、戦いにくいそう、とのこと。
しかし、それを補えるほどエレオノールの力も凄まじいので、少ない人数にはなりましたが、恐らく充分戦えるはずです。
一方、ルナメキラの方にもキルウルクばかりかラジクやモルドが向かったことで、膠着状態だった戦況にも動きがありそうですが、決着はまだついていません。
次回はウルファルク戦の続きになるかと思われますが、もし変更したらごめんなさい。




