第148話 リッツソリスの戦い その8 総攻撃と狂乱の虐狼牙
ウルファルクが本来の意識を取り戻してから、戦いは更に激しさを増していた。
これまで力押しで味方を蹂躙していたウルファルクは、こちらの攻撃を上手く受け流しては射線に互いを入れて同士討ちを引き起こさせ、エレオノールやガラドエルやアドルピスカといった、自身に強打を与えうる存在の攻撃には積極的に眷族を群がらせてこれを阻み、たとえ守りを突破したとしても本来の威力からは程遠いレベルにまで、それらの攻撃を抑えていた。
「牙から放たれる雷撃が無いだけマシになったと思ったのに、戦い方がここまで変わるとは思わなかったわ…これじゃまるで別の個体じゃない」
「あれこそがウルファルク本来の戦い方なんだろうね…。相変わらずパワーもあるけど、それ以上に回避能力と耐久力が桁外れだ。
何でアレだけの眷族を生み出していて、まだあんなに戦えるというか、生きてられるのか私にもわからないよ」
「ミリアの眼にはウルファルクはどう映っているの?」
「真っ黒。そりゃもう全身真っ黒な闇の魔力で満ち溢れてるよ。最初に見たときには体外に溢れ出してたから、それに比べれば随分と穏やかになったし規模も小さくはなってるけど、それでも今のルナメキラよりは多いんじゃないかなぁ…」
「一体どこからそんな魔力が湧いてくるのかしら…」
「そこは謎だねぇ…。まぁ戦い続けていれば、いずれ消耗して使い果たすのだろうけど、それまでこっちが保つかというと難しいところだし、倒すならやっぱり大火力の短期決戦じゃないと…」
アルテミアとレストミリアの二人は後方から、味方に回復の矢を放ち支援魔法をかけながら話している。
すると前方から眩い光が輝き始める。
僕がそちらを向くとそこには、空中に高く跳んだガラドエルが膨大な魔力を溜め、赤く輝く両手をウルファルクへ向けて、今にも魔法を放とうとしていた。
「相変わらずのしぶとさだねぇ、これでも喰らってあの世に帰りなぁっ!」
「ふん、ようやく自由になったところだ。丁重に断らせてもらおう…」
「…させない…『凍華槍!』」
『エル・メニア・ウインドカッター!』
ガラドエルの攻撃に対してウルファルクは全身から眷族を生み出すが、その横っ腹をアドルピスカの槍が貫き、イリトゥエルの風の刃が眷族を次々と屠る。
「グゥッ!おのれ邪魔な…」
「よそ見をしているヒマはなくてよ!
『極大雷撃魔法・ドラゴンボルト!』」
「ナイスアシストだよ三人とも!
『極大業火魔法・インフェルノ!』」
ウルファルクの注意が二人にむかった瞬間、エレオノールの放った竜の雷がその巨体を貫き、三人が待避するのを確認したガラドエルが上から巨大な火焔を放つと、ウルファルクに直撃した炎はその膨大な熱量で火柱を立て、眷族もろともウルファルクを焼き尽くす。
やがて炎が収まるとそこには、真っ黒に焼け焦げたウルファルクが仁王立ちになっていた。
「やりましたねガラドエル!」
「油断するんじゃないよ姫様!奴はこの程度じゃ死なない!首を落とすどころか、粉々にするまで安心するんじゃないよ!」
「えっ?」
喜ぶイリトゥエルに対してガラドエルは、着地してそう言うと再び魔力を溜め始め、エレオノールやアドルピスカもそれに続く。
するとウルファルクの体から黒い手が無数に伸びてきて、イリトゥエルを背後から捕らえようとしていた。
「危ない!『自在粘糸!』」
僕はイリトゥエルに糸を付けると、それを一気に縮めて引き寄せる。
「やるじゃないか坊や!姫様のことは任せるよ!」
「はい!」
大きなダメージを受けたウルファルクは、魔力の回復を優先させるべく闇属性を纏って行動し始めた。
それに対してこちらは光の属性身体強化でそれを防ぎながら、なおも戦いを続ける。
「奴が闇属性を使い始めたということは、相手を倒すよりも自分の消耗が上回った証拠さね!
特に闇属性は守りに向かない、叩くなら今だよ!」
「グガアァァァッッッ!」
ガラドエルの言葉によって周りから一斉に熱線魔法が放たれ、それを受けたウルファルクが雄叫びを上げる。
「少しの間だけ私がコイツを抑える。そのあいだに姫様は、さっきみたいにウルファルクを止める準備をしな!
他のお嬢ちゃんたちは私の合図でもう一回全力攻撃だ。レストミリアのお嬢ちゃんもだよ!
他の皆は全員でこの子らを守りな!ウルファルクの眷族が来たって、魔力を溜める邪魔をさせるんじゃないよ!」
「了解!」
「あれ、僕は…」
「坊やは私が合図してからだよ!」
「は、はい!」
全員がガラドエルの指示に従って行動し始めると、彼女は光を纏って高速移動してはウルファルクが伸ばす黒い手を引き千切り、暗雲から黒い雨を降らせて辺りから魔力を吸収しようとするとそれを吹き飛ばし、群がる眷族を打ち砕いてはウルファルクの体に拳を叩き込む。
「ガラドエル!こちらはいつでも大丈夫です!」
「あいよ!『エル・メニア・アクアゲイザー!』
『エル・メニア・アクアハンズ!』」
イリトゥエルの合図と同時にガラドエルは、無数の水柱を生み出してウルファルクの巨体を空中に浮かせ、水の手を絡みつける。
「今だよ姫様!『ブリザード!』」
『エル・エリア・アイシクル・テンペスト!』
吹雪魔法を使ったガラドエルに対してイリトゥエルは、その意図を読み取ってガラドエルの生み出した水魔法を瞬時に凍らせ、ウルファルクを氷の柱と蔦によって空中に閉じ込めた。
『浄光嵐穿弓!』
『エル・メニア・ホーリー・レイ!』
『全天塵魔光砲!』
『氷鏡花・無限乱閃!』
動きを止められたウルファルクに向かって、四人の強力な光属性魔法が一斉に襲い掛かると、カッ!と輝いた直後に大爆発を起こして辺りに砕けた氷が降り注ぐ。
「エレオノールのお嬢ちゃんは合図を出しな!坊やはありったけの魔力を込めてウルファルクを拘束するんだ!
他の皆も何でも良い、とにかくウルファルクの動きを止めな!」
『神縛桜糸!』『自在粘糸!』
ガラドエルの言葉に僕はすぐ反応すると、再び地面や城壁とウルファルクを結びつける。
そしてエレオノールも合図の狼煙を上げ、魔力を使い果たしている周りの皆も、無理矢理捻り出した魔力で地面に叩きつけられたウルファルクを拘束していく。
すると体から闇の魔力を溢れさせ、狂乱状態に陥ったウルファルクは全身から血を流し、右前足や尻尾が吹き飛んでいるにも拘わらず、拘束を解いて立ち上がろうと暴れ出す。
「っ!なんて馬鹿力なんだぁ…ぐぎぎ…!」
「ガアァァァッ!!」
周りの皆の魔法で糸以外にも氷や岩など、様々な属性で拘束は補強されていたが、ウルファルクはそれらを上回る力で砕き、僕の糸を千切るのではなく地面や城壁の方を剥がしたり崩したりして、徐々に体勢を立て直してくる。
そして王宮の方から魔法が放たれ、上空から光の柱が落ちてきたその時だった。
ウルファルクはとうとう拘束を食い破り、三本の足で立ち上がる。
「逃がしません!『四封不動盾!』」
「我の邪魔ヲするナァ!
ヴガアァァァーーーーッッッ!!」
上空から迫る光の柱を見上げたウルファルクが咄嗟に逃げようとすると、エレオノールの四枚の盾がそれを囲んで四角い結界を作り出す。
しかしウルファルクは口を開くと咆哮波を放ち、自分を抑えようと向かっていたガラドエルもろとも、エレオノールの封印を吹き飛ばした。
「このままじゃまずい…『神縛桜糸!』」
僕は再び糸を伸ばすがギリギリ間に合わない。
そしてウルファルクは後ろ足で地面を蹴り、間一髪で上空からの攻撃を避けようとした。
『エル・アイアンウォール!』
しかしその瞬間、ゴォッ!と音を立てて地面から出現した文字通り鉄壁を誇る四枚の壁は、ウルファルクの巨体を跳ね返してその四方を囲み、逃げることを許さない。
「ア、アイゼンフォート様!」
「おうおう、美味しいところをいただいて済まぬ。しかしウルファルクよ、これで借りは返したぞい!」
「アイゼンフォート!まさか貴様がっ…グギャアァァァァァァァッッッッ!!」
城壁の上でケルガーに支えられながらも、アイゼンフォートは見事にウルファルクを足止めした。
四角い鉄の壁に降り注ぐ光の柱は、魔王軍四天王の一人で『虐狼牙』と恐れられたウルファルクのその巨体を、跡形も無く消し去った。
短いですが今回はここまでです。
国内の名だたる強者が総力を挙げて戦い、ようやくウルファルクとの決着がつきました。
最後はアイゼンフォートが美味しいところを持っていきましたが、ガラドエルとエレオノール以外はほとんど魔力を使い果たしていたのと、咆哮波の威力にはさすがのガラドエルやエレオノールでも勝てなかったということで、結果的にはアイゼンフォートさまさまですね。
サブタイトルもアイゼンフォートが初登場した、岳竜戦の回に少しだけ寄せてみました。
次回はウルファルクとの戦闘中のルナメキラ戦か、そのままの時系列で合流してのお話の予定です。




