第146話 リッツソリスの戦い その6 反撃と連携
少し手が止まってしまいましたが、ようやく書けそうです。
そういえば最近短編を一つ追加したので、もし良ければそちらもご覧ください。
タイトルは「お天気コントロールドラゴン」です。
僕たちが騎士団長の部隊と合流して間もなく、レストミリアがイリトゥエルや里長と共に、負傷して後退していた騎士や冒険者を大勢率いてやって来た。
「やぁやぁ皆さんお揃いだね。これから敵と一戦交えるなら、私たちも連れて行ってもらえるかな?」
「イリトゥエル殿と里長には使いを出したが、お前まで来られるとは思わなかったぞ。それにこの数は一体どういうことだ?」
「あぁ、その事だけど…」
団長はレストミリアと周りにいる皆を見ながら尋ねると、レストミリアは話し始めようとした途端に「プチッ」と音を立てて鼻血を噴き出した。
「なっ…どうした!?」
「あ、ごめんごめん。ア、アマ、アマアマアマリア様がね…えへ、えへへへ…」
「わ、私が代わりにお話ししますから、レストミリア様は一旦落ち着いてください…」
突然目の前で様子がおかしくなったレストミリアに対して、驚いた団長は一歩ならず二歩引いて様子を見ていたが、ヨロヨロし始めたレストミリアを下がらせて、イリトゥエルが先ほど起こったことを説明してくれた。
「まさかアマリアがそんな力を…」
「凄いじゃない!アマリアもやるわね」
「アマリア殿も随分と努力してきたとは思うが、まさかこれほどの才能を発揮するとはなぁ…」
「魔力切れの方や特に重傷だったアイゼンフォート様や他の方々も、意識が戻る程度には回復しています。
それ以外の皆さんは見ての通り、こうして戦闘に参加できるほどです。本当に姉様は素晴らしい働きをなされました」
話を聞いた人たちが驚くなか、モルド神父が複雑な表情をしながら頷くと、イリトゥエルは連れてきた人たちを見ながら誇らしげに言う。
僕も正直驚いたけれど、アマリアの努力が実を結んだのは嬉しいし、こうして大勢が復帰できるのならこれからの戦いも予定より楽になるはずだ。
ちなみにミリアさんは治癒術士に沈静魔法をかけられ、自前の増血薬を飲んでようやく落ち着いた。
イリトゥエル様の話を聞く限り、アマリア大好きレストミリアさんが失血死せずにここまで移動してきたのが、僕にとっては奇跡のようなものだ。よほど我慢していたに違いない。
まぁその結果、いつもドン引きしているアマリアの代わりに、今回は騎士団長がドン引きする羽目になったけど。
「…ふむ。いずれにせよ我々にとっては、この上なくありがたいことだ。皆で力を合わせて、この戦いを一刻も早く終わらせるとしよう」
「応!」
レストミリアの部隊と合流して更に士気の高まった僕たちは、団長に従って移動を始めた。
近接戦の得意な騎士や冒険者は、団長とラジクとモルド神父の三人が率いる部隊に。
王宮魔導師を中心とした魔法攻撃の得意な者たちは、アドルピスカとイリトゥエルとレストミリアの率いる部隊に。
エルフの弓兵を中心とした遠距離攻撃の得意な者たちは、アルテミアと里長の率いる部隊にそれぞれ分けられた。ちなみに僕はここにいる。
そうして南下していると、すぐにウルファルクの巨体が見えてきて、それと同時に周りを高速移動しながら一歩も引かずに戦っている、ガラドエルたちの姿も見えてきた。
「まずは霊樹の守護者と合流する!アルテミア!レストミリア!お前達の部隊でウルファルクに大きい一撃をくれてやれ!」
「了解っ!」
「はっ!」
団長の言葉に即座に反応した二人は、部隊に指示を出すと一斉に魔力を溜めさせて準備に入る。
「モルドとラジクの二人は弟子と共に、我々がウルファルクを街の外に追い出すまでルナメキラを抑えろ」
「…了解!」
「…心得た!」
「はえっ?」
僕はアルテミアの指示で魔力を溜めようとしていると、続いて団長の出した指示を聞いて驚いた。
「いやいやいや、もっと相応しい人が他に…」
「お前はサイモンの薬で魔力が有り余ってるだろう。団長はそれを使えと言ってるのだ」
「ほら、グズグズしてるヒマは無いぞ。それにこれはルナメキラに直接借りを返す絶好の機会だ」
モルド神父が先頭を切り、僕は師匠に引っ張られながらルナメキラの方へと連れて行かれる。
「なんで二人ともそんなに嬉しそうなんですかぁっ!?」
「俺たちはアイツの偽者で散々痛い目に遭わされたからな」
「うむ。ヤツの顔面にこの拳を叩き込まなくては、腹の虫がおさまらん…」
「あぁ、二人とも相当ストレスが溜まってたんですね…」
「それはお前も同じで、ヤツには鬱憤が溜まってるだろう?」
突然の夜襲、砦に攻め寄せてくる敵、大洞窟での戦い、炎上する砦、瓦礫と化した街、倒れるアマリア…僕はこれまであった事を思い出す。
「たしかにそうですね…。僕もぶん殴ってやりたくなってきました…」
僕がニヤリと笑うと二人も同じくニヤリとする。
男三人で悪巧みをしているようで、敵が魔王軍四天王のはずなのに、どこか楽しくなってくる。
「よし、では行こう。俺たちにとってこれ以上はない役割だ」
僕たちがルナメキラ目がけて突撃すると同時に、アルテミアとレストミリアの部隊は一斉に攻撃を開始して、ガラドエルたちを迎え入れる事に成功した。
『…凍華雪原』
『旭光嵐穿弓!』
「よし今だ!突撃ーっ!」
続いてアドルピスカの範囲凍結魔法が辺り一面にいた眷族を全て凍てつかせ、アルテミアが範囲貫通攻撃でそれらを破壊すると、団長の率いる近接部隊がウルファルクへ突撃していく。
一方でルナメキラに攻撃した僕たちは、ラジクが突っ込んでルナメキラと斬り結び、モルド神父が爆拳を叩き込む。
反撃しようとするルナメキラがラジクに手の平を向けると、僕はその腕を糸で縛り狙いを逸らす。
「ちぃっ!」
「こっちだルナメキラ!」
鋭い爪で糸を断ち切り、僕の方を睨んだルナメキラに対して、モルド神父が再び後ろから爆拳を叩き込むと、ルナメキラは背中から羽を生やして空中に逃れようとする。
「そうはさせるか!『自在粘糸!』」
「よくやった!『風之太刀!』」
飛び上がったルナメキラを粘着力のあるネットで捕らえると、そこにすかさずラジクの斬撃が打ち込まれ、糸ごとルナメキラの羽を斬り飛ばす。
「くっ…どうしてこれほどの…!」
「お前には…!」
「随分とやられてきたからな!」
ネットから脱出したルナメキラの顔面にモルド神父の拳がめり込み、ラジクが背中から袈裟斬りにする。
「ぐうっ!」
「もうお前の好きにはさせない!『金剛斬糸!』」
二人の攻撃を受けながらも、更に素早い動きで距離をとろうとするルナメキラに糸を放つ。
辺り一面に突き刺さるように放たれたそれには、流石のルナメキラも逃げようがなく、回避を諦めて亀のような変化による防御姿勢をとった。
もともと貫通力のある金剛斬糸に、サイモンの薬によって溢れ出る魔力で更に威力を上乗せしても、やはりその硬い甲羅を貫くことは出来ず、カカカカッ!と音を立てて弾かれる。
「「ならばこれはどうだ!」」
変化したルナメキラに向かって二人が拳と剣を振るうが、やはりどちらも甲羅の守りを突破することは出来なかった。
「なんという硬さだ…」
「ふふふ…爆拳対策として身に付けた変化ですからねぇ…。そう簡単に通じると思われては心外ですよ」
「なんだルナメキラ? わざわざここまで来たのに偽者を使い、亀のように守りを固めて…一体何をしに来たのかわからんな?」
「ふっ、そのような安い挑発には乗りませんよモルド。しかしこのまま守りを固めていてもつまらないですから、少し遊んであげましょう」
ルナメキラはそう言って2本の尻尾を振るうと、尻尾は鞭のようにしなって先端に付いたノコギリのような部分で、二人を同時に攻撃してくる。
「ぐあっ!」 「ぬぅっ!」
目にも止まらぬ速さで動く尻尾の攻撃を受けながら、二人は剣や纏った魔力で防御していたが、ジリジリと押され始めた。
「お前の好きにはさせないと言ったはずだ!
『結界斬糸!』」
僕はルナメキラの周りに風の糸を張り巡らせると、柔軟に動く反面、甲羅よりも格段に柔らかいその尻尾は、糸に触れて自らの力で切断される。
「ギャアァッ! …き、貴様ぁっ!」
怒りに燃えるルナメキラは瞬時に変化すると、額に1本と後頭部に枝分かれした2本の角を持ち、黒い鱗に覆われた体の、見覚えのある六本足の獣に姿を変えた。
「し、師匠!色は違いますけどアレって…」
「なっ…が、岳竜だと…?」
「ぬぅ、あれが以前聞いた岳竜だとすると、ルナメキラがその力を発揮出来るならマズいな」
本来は緑や青っぽい鱗のはずの岳竜だが、ルナメキラはそっくりだが少し小さめの黒いモンスターに変身した。紛らわしいので黒岳竜とでも言おうか。
そしてその黒岳竜は、額の角から黒い雷を迸らせている。
「おやおや、流石に騎士ともなると岳竜をご存知ですか。なら、その力もよく分かっていますね? まずは先ほどのお礼に、その小僧から片付けてやりましょう!」
黒岳竜がこちらを見ると同時に角から雷が放たれる。
「くっ…『因果応報の盾!』」
バリバリと音を立てて炸裂する雷と、出現した高速回転する風の盾が互いを削り合う。
「い、今のうちに!」
『エル・ヴォルガノン!』
『風之太刀!』
僕が耐えているうちにモルド神父が巨大な溶岩球を放ち、それを黒い結界で防ぎきれなかった黒岳竜は素早く飛び退いて避けると、そこへ師匠が斬り込んで一撃を加える。
「ふっ、やりますねぇ。しかしそれなら…!」
ルナメキラがそう言うと、ポッポッポッと黒岳竜の持つ6本の足に蒼白い光が現れる。
「岳竜に化けたときから予想はしていたが、やはりあの技を使えるのか…!」
「例の高速移動攻撃か。しかしアイゼンフォート殿でもない限り、それを防ぐ手立てなど…」
「光属性を持たない魔族が完全に使えるのかは分からんし、現にヤツの足元には雷属性が宿っている。ならば速さは岳竜ほどではないはずだ…ジグ!」
「わかってますよ師匠…『自在粘糸!』
もういっちょ『結界斬糸!』
もひとつオマケに『因果応報の盾!』」
黒岳竜がカッ!と光を放って一筋の光となる直前、僕は辺り一面にネットをばらまき、その上には風の糸を張り巡らせ、三人を守るように風の盾を張る。
無差別に辺り一面を破壊していた黒岳竜の突進は、駆けるごとに6本の足に粘着糸が纏わり付き、体には風の糸が食い込んでは引き千切られ、その突進の勢いを徐々に削いでいった。
そして風の盾に激突すると、次の瞬間にはその勢いを倍増させて弾き飛ばされ、ズドォッ!と音を立てて近くの瓦礫の山に突っ込んだ。
「はぁ…はぁ…はぁ…な、なんとか上手くいきましたね」
「いや、予想以上の結果だ。今度から岳竜との戦いの際には、必ずお前に同行してもらうことにしよう…」
「そうは言っても、ルナメキラに大きなダメージを与えたわけじゃないですし、魔力はほとんど残ってないですよ」
「それなら心配するな。本隊の方はウルファルクをそろそろ街から追い出せそうだ。我々の役目もそこまでだろう」
モルド神父の言葉通り、団長の率いる本隊はすでに南門付近までウルファルクを押し返していて、もうすぐ次の作戦に移ることが出来そうだ。
…などと思っていたところで大きな爆発が起こり、南門の瓦礫ごとウルファルクが壁外へと吹っ飛ばされた。
「な、なんですか今のは」
「瞬間的にとてつもない魔力を感じたな…」
「あんなことを出来るのは例のエルフしかいないだろう。…味方で本当に良かったな」
僕たちがルナメキラを警戒しながら向こうの様子を窺っていると、やがて瓦礫の中から人型に戻ったルナメキラが姿を現した。
「まさかあのような手で防がれるとは思いませんでしたねぇ…」
「まぁ、普通なら出来ない芸当だろうな」
「あちらのウルファルクも、そしてお前も、今日ここで決着をつけてやるぞ」
「ふふ…アナタ方に出来ますかねぇ…」
僕たちが身構え、ルナメキラがそれぞれの腕をカマキリとタコの足のような触手に変化させると、その横から蒼炎が迸ってルナメキラに襲い掛かり、ギリギリで回避したルナメキラが視線を移すとそこには、騎士団長が部下を率いてやって来ていた。
「ルナメキラを三人でよく抑えてくれた。
ウルファルクは予定通り街の外に追い出したし、エレオノールの部隊ももうすぐ到着するとの報告が入っている。ここは俺に任せて、お前達は次の作戦に移れ」
「了解。それと団長、ルナメキラの変化の種類が増えている。亀は爆拳を防ぐほど守りが堅く、黒い岳竜は能力も本物に近いようだ。注意した方が良い」
「うむ、肝に銘じておこう。では作戦が成功したら戻ってこい」
僕たちは騎士団長と交代して南門の方へと向かうと、ウルファルクの背後にはスウサから到着した援軍の姿が見えていた。
申し訳ございません。読み返してみたところ、
「リッツソリスの戦い その5」の、アドルピスカからサイモンの薬を受け取る部分と、その後のディアブラスとの会話によって、アルテミアがサイモンの薬を2本受け取る事態になっていました。しかし話の流れを変えるのも大変なので、少し手を加えることにしました(汗)
実際にその辺りの話は次回以降になるとは思うのですが、ここで先にお知らせしておきます。
ようやくここに来て形勢が逆転し始めましたが、それにしても知性を犠牲にしてリミッターを外したウルファルクと、それをルナメキラと同時に相手できるガラドエルはなんというか、この人が主人公で良いのでは…?と思えるほど強いですね。
作者的には水戸○門の印籠や、デウス・エクス・マキナ?みたいな存在として重宝しますが、強すぎるキャラクターは扱いにくくもあるので、なるべく控えなくちゃと思う今日この頃です。
エレオノールの部隊もようやくやってきて、戦いもいよいよ終盤戦。頭の中もある程度纏まったので、頑張って書いていきます。今後も宜しくお願いいたします!




