第51話 マリー
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宮廷魔術師ハキュロ。
それがわしの名前じゃ。
魔法に目覚めたのは幼少期。
元々魔法に関するスキルが多く、幼き頃から天才少年などと呼ばれていた。
そんなわしも早90歳。
巷ではわしのことを人間では到底たどり着けない境地に足を踏み入れた伝説の魔導師と噂されているらしいが、なんのなんの。
わし自身まだまだだと思っておる。
現に目の前にいる小さな女の子1人に歯が立たないのだから。
3000人の弟子たちはほぼ倒された。
それも誰1人死んでおらず拘束されている。
つまり手加減されたのだ。
残されたのはわしと高弟の5人のみ。
この子こそまことの天才。
その才が、若さがなんと羨ましいことか。
「嬢ちゃん、名前はなんというんじゃ?」
「マリーだよ。おじいちゃんは?」
「ハキュロじゃ」
「変な名前!」
短い髪を無理やり2つに束ねる女の子が屈託なく笑った。
普通ならば、わしの名前を聞けば平伏すか怯えるかご機嫌を取ろうかしてくるものの、この子は ⋯⋯
くっくくく、と笑いが込み上げてくる。
これだから魔法の世界は面白い。
わしが一生をかけて研鑽してきたものを、こんな少女がいとも簡単に抜いていくのだから。
「ねえ、おじいちゃん」
「なんじゃ?」
「戦わないの?」
「──笑止」
わしの切り札の1つスキル無詠唱。
その名の通り詠唱なしで魔法が放てる。
「炎、氷、暴風」
3つの上級魔法を同時に発動させた。
遅れても高弟たちも魔法を放つ。
「わーお!」
マリーと名乗った女の子が楽しそうな声をあげた。
「スキル創生魔法『バリア』」
またもやか!
何度魔法を放っても、この光の壁によって魔法が遮断される。
そしてもう1つ。
「スキル創生魔法『ミスト』。スキル隠密」
この子によって霧が生み出され、さらにスキルで気配や魔力が消える。
「みな、魔力を高め防御にせんね
「がはぁ!」
高弟の1人が飛ばされた。
体には光りの縄が縛り付けられている。
く、やはり魔力が感知できん!
どこから撃ってきたのかも見当がつかん。
これが厄介なのだ。
隠密のスキルでいっさい魔力を感知させず魔法を放てるファントム・ウィザード。
「スキル創生魔法『アイスロック』」
聞こえないように魔法を発動すればいいもののわざと声だけを響かせてくる。
避けれる?
そう問われている気分だ。
応えようではないか。
魔法はどこから飛んでく──下!?
なんと地面が凍りついてきているだと!
「『飛翔』」
わしは無詠唱もあって咄嗟に飛ぶことができたが、高弟のうち3人は捕まった。
足から氷がまとわりついていき、首元まで氷漬けとなった。
あのまま顔まで覆えば命を絶つのも簡単だと言うのに ⋯⋯
「魔法『旋風』」
まだ残っている高弟(名はシュリ。わしの高弟の中で紅一点じゃ)が近くの木に向かって魔法を放った。
「残念。そこはダミーだよ」
声とともに高弟が放った魔法と同じ魔法が返ってきた。
「きゃ、え? きゃあああああああああ!」
高弟は哀れにも服を切り刻まれ裸になってしもうた。
もちろんわしに見逃しはない。
意外とでかかったな。
研究ばかりしているわりにはくびれていたし、わしの再婚相手になってくれんかのう。
ではなかった!
マリーが木の枝にセットしていたのは反射魔法の類と推測する。
いったいいくつの魔法が使えると言うのだ。
笑みが止まらない。
見たい。
もっといろんな魔法を見たい!
知識欲求が暴走する。
わしは裸にされた高弟の側に降り立つと自分のローブを羽織らせた。
「ハキュロ様」
「下がっておれ」
「ですが!」
「お前の魅力的な体が側にあると集中できんのだ」
「え ⋯⋯ あ!」
「わかったら大人しく下がっとれ」
「 ⋯⋯ すみません」
シュリを下がらせてから、わしはどこにいるのか見当も付かんマリーに呼びかけた。
「ここだとなんじゃから、もっと広い場所で戦わんか?」
「いーよー」
緊張のかけらも感じられない声。
「この先に広い草原がある。そこにゆくぞ──飛翔」
飛び上がり王都を出ていく。
きちんとついてきとるんか?
振り返っても気配が感じられないのでよくわからんのだが ⋯⋯
とりあえずだだっ広い草原に降り立つ。
「おっそーい!」
直後、目の前に少女が現れた。
わしより早く着いておったのか。
振り返ってもわからんはずだ。
「すまんすまん」
「マリー待ちくたびれちゃった。ちゃんとそのぶんだけ楽しませてね、おじいちゃん」
「もちろんじゃ」
なにも言わず互いに距離をあけ、同時に足を止めた。
それが開戦の合図。
「火柱」
「創生魔法『アイスアロー』」
無詠唱の分だけわしの魔法のほうが発動が早い。
だが威力は向こうが上。
中級魔法の火柱を初級に近い氷の矢で打ち消されてしもうた。
魔力の差をつくづく感じさせられる。
経験で補える差であればよいが。
「創生魔法『ウインドカッター』」
「っ! 土壁」
出遅れたが風刃が届く前に土の壁が完成し事無きを得る。
マリーが呪文詠唱を始めたが、慌てるではない。
次いではわしの番じゃろう!
切り札2つ目スキル融合魔法。
その名の通り2つの魔法を合わせて1つの魔法にしてしまうスキルじゃ。
今回は使うのは氷と風。
「融合魔法『氷柱舞』」
大量の氷柱による竜巻が発生。
マリーに襲いかかる。
「えええ、そんなの見たことないや。すっごーい!? 」
くくく、驚いておる驚いておる。
嬉しいのう。
いとも簡単に防がれたのはショックだったが。
「ねえねえ! 次は次は?」
ワクワクしてるのが目に見えてわかる。
期待に応えてやりたくなる。
ならば今度は光と雷。
「融合魔法『雷雲層』」
本来なら空にしかない雷雲を地上に発生させる魔法。
黒い雲がマリーを包み込む。
「あははは、すごいね! 創生魔法『ハリケーン』」
少女を中心に竜巻が生まれ、わしの雷雲層を霧散させた。
むむ、驚かれるだけでかすり傷1つ負わすことができん。
やはり単体では無理か。
仕方がない。
死ぬではないぞ天才少女よ。
最初は光と熱。
「融合魔法『蜃気楼』」
これから使う魔法の目くらましじゃ。
ほんで土と火で
「融合魔法『地中爆』」
複数の魔法を土に埋め、そこを敵が通ったときに爆発するもの。
さらに水と火。
「融合魔法『空中爆』」
空気中に含まれる水蒸気。
少しでも振動が加わると爆発するようになっている。
その2つをセットしてから土と土。
「融合魔法『局部震』」
範囲を草原に設定し地震を起こし、地中爆発を誘導。
起こる振動で空中でも爆発が連鎖していく。
年甲斐もなく張り切ってしもうた。
爆発が爆発が呼び気づけば想像以上の大爆発を起こしてしまった。
しかし、とわし自慢の長い顎髭をさすりながら、目の前の無傷の少女を見る。
これすらも簡単に防がれるとなるともはやお手上げじゃ。
「降参する」
素直に負けを認めたわしにマリーはがっかりした様子を見せた。
「えー、マリーはもっといろんな魔法が見たかったのに!」
この子にとって、伝説の魔導師とまで呼ばれたわしとの戦いも遊びの延長上のようなものか。
この才、いったいどこまで伸びるのやら ⋯⋯ 見届けたくなるものよ。
けれども、わしはボア王国の宮廷魔術師にして3000人の弟子を抱えておる。勝手に職を辞めれば、あのミトラのこと弟子になにやら危害を加え
『お師匠様!』
突如脳裏に響いたのは王城に残した弟子の声。
『たたたたた大変です! パルアイス様の王都軍5000人が。剣聖ヴァーリアン様が負けました。ボア王国は壊滅状態です!』
なん、じゃと?
それはなんという僥倖!
ボア王国がなくなれば、わしも地位に縛られる必要がなくなるではないか。
「マリー嬢よ、提案があるんじゃが」
「なーに?」
「わしとともに魔法を研究せんか? いろんな魔法をたくさん見ることができるぞ」
「ほんとに? じゃ、する!」
「うむ。では、今よりはわしはマリー嬢の弟子じゃ。よろしく頼むぞお師匠」
「任された! って逆じゃない?」
「いいんじゃそれで。わしはマリー嬢にどこまでもついて行くぞ!」
この子となら魔法の深淵を知ることができるやもしれん。
齢90にしてワクワクしてきた。
わしの人生はまだまだこれからじゃ!




