第48話 奥の手
〜146日目〜 ②
フラヴィオの案内で向かった先は念密に隠された階段だった。
そこを降りていくとだだっ広い地下空間に辿り着く。
「ここは ⋯⋯ ?」
なにもない空間。
こんなところに何の用があるんだろうか?
「下ろしてもらってもいいでしょうか?」
フラヴィオを下ろすとなにやら壁を探り出した。
「ここだわ」
なにかを見つけたようだ。
フラヴィオが懐から1つの像を取り出し、床に押し付ける。
ん、見たことがある光景だな。
隼丸を見つけた魔窟のことを思い出した。
同じ現象がここでも起きる。
中央の床が左右に割れ、そこに階段が現れた。
「降りましょう」
フラヴィオを再び背負い、今度は長い長いを階段を下りていく。
その先に待っていたものは──
「嘘だろ」
目を疑いたくなるような光景。
映画でしか見たことがないような巨大な培養液が並び立っていた。
電気もないこの世界にどうやってこんなテクノロジーを持ち込んだというんだ?
培養液の1つに近づいてみる。
中には蛇神が扱っていた小さな蛇たちがうようよと蠢いていた。
「なんだここは?」
「みなさんは蛇食いというスキルはご存知でしょうか?」
クレンとジョイが知らなかったのでフラヴィオが簡潔に説明。
「そんなスキルがあるのかよ! って待てよ。じゃ、この蛇たちは ⋯⋯ 」
「スキル蛇食いで集められた魂たちです。この状態になると個々の意志はなくなり、無垢なものになります。それを利用してミトラはポルスト教教祖への服従を刻み込むんです。それが終わると再び肉体へと戻されることになるんですが、自分の肉体に戻ることはありません」
「──死者蘇生」
俺が漏らした言葉にフラヴィオは神妙に頷いた。
「亡くなった人の体にこれらの魂を組み込むことで死者を蘇らせるんです」
「でも、魂が違うんなら、その人が生き返ったことにはならないんじゃ ⋯⋯ ?」
「死者の残留思念と合わせることによって補うんですよ。と言っても別人は別人なんですけどね」
酒場のおっちゃんが言ってた人が変わったようになるというのは、文字通り別人になってからか。
「私は常々この仕組みをどうにかしないといけないと思ってました。でも戦う力のない私にはどうすることもできなかった」
「そこに頼れるクレン様と愉快な仲間たちが現れたってことか」
誰が愉快な仲間だ!
「で具体的に俺たちはなにをすればいいんだ?」
「まずはここを破壊してください」
「そんなことしたらここの魂たちは?」
「この容器から出してあげれば魂は自然と自分本来の体に戻るようになっているんです」
「ならいいか。ところでいま、まずはと言ったよな。他にもなにかあるのか?」
「ここの施設を潰しても新しい施設が作られます。諸悪の元を断たないと意味がありません。どうかミトラを討つのに力をお貸しください、クレンズ・ラーマーン様」
大きく頭を下げるフラヴィオ。
言っていることはわかるし、今回のことでポルスト教がAと繋がっていることもわかった。
協力はしたい。
だが、ミトラは教祖でありながらダラ王国の国王だ。
秘密裏に動いたとしても、多くの兵士が守りを固めているだろう。
俺たちだけでは到底手が足りない。
俺たちだけならな。
クレンの顔を横目で盗み見る。
フラヴィオに指名されらこいつはどうするつもりだろうか?
視線に気づいたようで彼は苦笑し、
「フラヴィオ。あんたは俺が何者かわかってるみたいだな」
「あなたのお兄様には公式の場で何度かお目にかかっておりますので。そっくりですよ、伍の国の第2王子クレンズ・ラーマーン様」
「兄貴の話はやめてくれ。胸糞が悪くなる」
「兄弟仲は噂通りのようですね。だからこそ今はまだ父親に亡くなられると困るのでは?」
「 ⋯⋯ こちらの事情は筒抜けのようだな。いいだろう。手は貸してやる。その代わり親父を必ず治せよ」
「私のスキルならどんな毒であろうと取り除けます」
クレンの目が大きく見開かれた。
「そこまで知られてるのか。ポルスト教の情報収集力は恐ろしいものだな」
「信者はどこにでもいますから。聖女の名の元に情報は集まります」
「味方にすれば頼りになりそうだ」
2人が握手を交わした。
交渉は成立したようだ。
「ジョイ。現在の兵の数と位置を詳しく教えろ」
「街に潜入してるので23名。王都の外には若と聖女を逃すために300名を配置してる。国境まで戻れば1000の兵士が待っている」
「国境から呼び寄せる時間はないな。ジョイは外の兵士と連絡を取ってくれ」
「おいおい。300余りでやる気かよ? さすがに正気の沙汰とは思えないぜ」
「援軍はいる」
言って、クレンは俺の顔をじっと見てくる。
「ジョイは見てなかったから知らないだろうが、この隼人は一騎当千の強者だ。冒険者で言うSクラス ⋯⋯ いやSSクラスかもしれない」
「この兄ちゃんがか? 人は見かけによらないな」
「我が国が誇る勇者に匹敵する強さだと思う」
それは言い過ぎ。
嫁さんには手も足も出ません。
「隼人、引き続き協力を頼む」
右手を伸ばされた。
握手しろということか?
「私からもお願いします!」
フラヴィオが俺の腰に縋り、上目遣いに見てくる。
こいつ絶対自分の可愛らしさを理解してやってやがる!
男相手に胸がキュンとしちゃったじゃないか。
って冗談は置いといて。
冗談だよ?
ほ、ほんとだから!
「協力はしない」
『え?』
俺の答えに3人が同じ言葉を発した。
「どういうことだ、隼人!?」
今にも食ってかかりそうなクレンを制し、
「する必要がないからだよ。ついでに言うと街の外で待機してる兵士も邪魔になるから呼ばなくていいよ」
「まさか ⋯⋯ お前1人でやるというのかよ!」
「そんなわけないだろ」
言い終えると同時、
『相棒、来たぜ。あ〜疲れた』
久しぶりに隼丸の声が脳裏に響いた。
『魔力を漏れっぱなしにするのは初めての経験だったけどよ、けっこう骨が折れるもんだな』
GPS代わりににさせてすまん。それとありがとう。あとは任せて眠ってくれ。
『GPSがなにかわかんねえけど、そうさせてもらうぜ。気をつけろよ。魔力が回復するまでは手助けできねえからな』
隼丸とのリンクが途絶えた。
代わりに聞こえてきたのは上から降りてくる足音。
「ジョイ!」
「わかってる!」
ジョイが待ち構える中、それは降りてきた。
「はあああ!」
十数人を同時に相手できるジョイの一撃。
それを降りてきた人物は指二本で簡単に受け止めた。
「なっ!」
「危ないなもう」
舌ったらずな声。
全身真っ白なのは変わらず。
けれど、身長も伸びて体も大きくなっていた。
思わず笑みがこぼれる。
「こっちだ、白虎!」
「え──パパ!」
ラミーとの子供、白虎は俺を見つけると飛びついてきた。
「今までどこ行ってたの? すっごく寂しかったんだから!」
「悪い悪い。それでみんなは?」
「外にいるよ」
「そうか」
俺は呆然としている3人に向かって言った。
「というわけで、あとは俺の家族に任せてくれればいい」
俺の奥の手が発動した。
次話予告『家族無双』




