第47話 聖女
〜146日目〜
0時きっかり。
外から爆発音が聞こえた。
「合図だ。デューイ!」
「お任せてください」
痩せ細った男デューイが牢屋の鍵の解錠に取り掛かる。
彼の職業は盗賊らしく、一瞬で開けた。
「ジョイ、先導を頼む!」
「おおよ!」
大柄金髪のいかつい兄ちゃんことジョイが先頭を走り、俺たちは後ろをついていく。
途中、牢屋の見張り役と思われる兵士と遭遇したけど、ジョイに殴られ気絶させられていた。
「槍は俺がもらう。剣はジョイが持て」
「剣は苦手なんですけどね」
「我慢しろ」
2人が動き出す。
俺とクレンはあとをついていく。
上に続く階段が見えてきた。
気配を探りながら慎重に上がっていく。
「どうだ?」
「あいつらがうまくやってるみたいだ」
あいつら=クレンの仲間のことだ。
彼らは牢屋に入れられながらも密かに外部と連絡を取り合っていた。
そして今夜。
外から襲撃することで混乱を招き、その間にクレンたちが脱走、聖女を誘拐するという計画になっている。
「で、聖女はいったいどこにいるって言うんだ?」
「あそこだ」
俺の問いにクレンが指差した場所は一際高い塔。
「俺が入手した情報では、夜はあのてっぺんに幽閉されてるらしい」
なんだか囚われた姫みたいだな。
助けにいく俺たちはさしずめ勇者か。
本物は寝込んでるけど。
「いくぞ」
再びジョイが先頭を走る。
外から爆発音が聞こえてきた。
「あいつら派手にやってるな」
おかげで城内に兵士がほとんどいない。
誰にも見つかることなく塔まであと少しのところまで来れた。
「待て」
ジョイの足が止まる。
「ここはさすがに手薄じゃないな」
塔の入り口前には20名ほどの兵士が見えた。
「逆に言えば、ここはそれほど大事だってことだよ。聖女がここにいるって証明してくれてるもんだ」
「しかしどうする? 俺と言えども20人はきついぜ」
「 ⋯⋯ ここはデューイに任す」
ご指名を受けた優男はクレンの前で跪き、
「生きて帰れたらご飯奢ってくださいね──ご武運を」
塔に向かって走り出した。
兵士たちが気付く。
「賊だ。賊が侵入しているぞ!」
半数ほどの兵を引きつけてから、デューイが方向転換。
そのまま塔から遠ざかっていく。
囮役としては十分な成果だ。
「次は俺の番だな」
「頼むぞ」
「若にご武運を」
ジョイが残った兵士に突っ込む。
「ここにも賊だ。賊がいるぞ!」
兵士の誰かが声を荒らげた。
残っていた兵士が一斉にジョイへと襲いかかる。
規格外の人間(桜雪とかマニエル)からしたら遥かに弱いものの、普通の人間にしたら強いほうなのだろう。
十数人を相手に暴れまわっている。
「今のうちにいこう」
兵士たちの目を盗んで塔に近づく。と1人の兵士がこちらに気付いた。
ばれた!?
そう思ったが、その兵士はこちらになにかを投げて視線をすぐに戻した。
クレンはその何かを拾い上げる。
「あれも仲間だ。うまくジョイやデューイのほうに誘導してくれただろう」
「それは?」
「合鍵だ」
鍵を使って塔の内部へ。
螺旋階段を延々と登っていくと上の方に扉が見えてきた。
──ッ
ん、なにか聞こえた。
──ださい
上からだ。
クレンも気付いたようだ。
足音を殺して2人でさらに上がっていく。
──もうやめてください。
か細い泣き声。
そのあとに下品な笑い声が続いた。
──お前は僕のもんだ。だれにもやらないぞ。
──あ、や、めて。いれ ⋯⋯ で。
部屋の中で繰り広げられてる行為が容易に想像できてしまう。
おっちゃんが言っていた『夜な夜な泣き声が響いている』とはこれのことか。
もしかすると王都に連れて来られてから毎夜のごとく相手をさせられていたのかもしれないな。
「どうする?」
クレンの問いに答える間もなく、俺はすでに扉を蹴破っていた。
中には小太り気味の男性(裸)が、泣いている美少女に後ろから覆い被さっている姿が。
何をしていたのかは明白だ。
「な、お前たちはだ──ふぎゃは!」
何も考えずただ拳を男に叩きつけた。
手加減なしの一撃は男の顔面を吹っ飛ばす。
即死だ。
構わない。
女性を乱暴に扱う奴は死んで当然だ。
「おいおい。お前、どんなステータスしてるんだよ」
クレンの驚きを無視して巫女服美少女に近寄る。
「助けに来た」
そう投げかけると美少女は目からポロポロと涙をこぼし、俺に抱きついてくる。
「辛かったよな」
優しく長い黒髪を撫でてやる。
「あり、がと ⋯⋯ ござい、ます」
「ごほん」
クレンが咳払い1つ。
「いい雰囲気のところ申し訳ないけど、あんたが聖女ナイチンゲールで間違いないか?」
「 ⋯⋯ ⋯⋯ はい」
消え入りそうな声だが確かに肯定した。
「そっか。ちなみにあいつは?」
顔が潰れた男を目で刺す。
ナイチンゲールはそちらを見ずに、
「ミトラ教主の一人息子エモルです」
「わーお! やっちまったな」
クレンの非難じみた目が向けられる。
いやだってあの場合は仕方ないだろ。不可抗力だ。
「バレる前に逃げるか」
「あの ⋯⋯ 私、足が ⋯⋯ 」
足?
見るとナイチンゲールの右足には重りがついた鉄枷が。
俺は重りを繋いでいる部分の鎖を引っ張りちぎった。
「これで大丈夫だ。歩けるか? 無理なら背負ってやる」
「い、ですか?」
少し頬を赤らめながらナイチンゲールは俺の背に体重を預ける。
胸が小さくて感じられないのが残念だが、それでも柔らかくていい匂いがしてくる。
「ぁ、ん。お尻は弱いんで触らないでもらえますか」
「ご、ごめん!」
「っ。太もももできれば ⋯⋯ 」
「おいこらー。乳繰り合うのは無事に脱出してからにしてくれよ」
「誰が乳繰り合ってる──って?」
ニョキニョキニョキニョキと背中に硬いものが生えてきた。
なんだこれ?
右手を伸ばして触ってみる。
ビクンってした。
「あぅ」
さすったらナイチンゲールの艶かしい声が出た。
「あ、の、やめてもらえますか?」
ん、なにをだ?
そもそもこれはなんだ?
きのこみたいだけど ⋯⋯
「はあ、はああ、だめ」
触れば触るほどナイチンゲールの声が荒くなっていく。
⋯⋯ ⋯⋯ ⋯⋯ 待て。
ちょっと待て。
ナイチンゲールについているはずがないと思って最初から除外していたが、これはもしや
俺がよく知っているアレではないだろうか?
っていうか、それしかねえ!!
両手を離してナイチンゲールを落とす。
「いたっ!」
「おい、隼人。急にどうした?」
無言のままナイチンゲールの巫女服の下をめくり上げる。
「きゃあ! なにするんですか!?」
「どうしたって言 ⋯⋯ ⋯⋯ ⋯⋯ 」
それを見てクレンは言葉を失う。
もちろん俺も呆然と立ち尽くしていた。
なぜなら巫女服の下には俺よりも立派なゾウさんがいたから。
こいつ男の娘だったのか!
聖女ナイチンゲール。
本名をフラヴィオ・ナイチンガールと言うらしい。
どっからどう見ても絶世の美少女にしか見えない彼女 ⋯⋯ いや、彼は股間に俺と同じものを持つれっきとした男の子だ。
ただし心は女の子とのこと。
性同一性障害というものだ。
「アルチンガールに変えとけ」
言って笑うクレン。
「ひどい!」
泣くフラヴィオ。
カオスだ。
「アルチンガール! アルチンガール! アルチンガール!
「お前は子供か!」
クレンを窘めてから、
「とりあえずここから出よう。フラヴィオは俺の背中に乗れ」
「いいんですか?」
さっきとニュアンスの違ういいんですか? に俺は頷く。
「興奮はするなよ」
「あうぅ」
うげ、めちゃくちゃかわいい。
この顔でついてるってなんかおかしくないか。
間違った世界に走ってしまいそう。
「ほら早く」
「すみません。それじゃ」
フラヴィオを背負う。
こいつは男だ男だ男だ。
自分に言い聞かす。
そうしないと敏感なあいつが反応してしまう。
「いくぞ隼人」
部屋を出た。
螺旋階段を降りていくと、
「よっ。遅かったな」
傷だらけになったジョイが待っていた。
「無事に聖女を連れ出せたようだな。んじゃ、外の奴らと合流するか」
「待ってください!」
「どうしたフラヴィオ?」
「ここを出て行く前にどうしても寄らないといけない場所があるんです」




