第46話 王都ダラ
〜144日目〜
呪いの進行を遅らせた桜雪親子をオーガと蛇神に任せて、俺は単身肆の王都「ダラ」へ来ていた。
参の国のマグノリアと違って治安がとてもいい都だと蛇神から聞かされていた。
確かに街の至る所で兵隊を見かけるし、住人もみんな笑顔で過ごしている。
奴隷も見当たらず、いろんな種族が平等のもとに暮らしている印象を感じた。
ただ気になることが1つ。
住民の誰もが首に十字架がついたチョーカーをつけているのだ。
試しに訊ねてみると、ポルスト教の教えというものを延々と喋られることに。
結果、とっぷりと日が暮れてしまい宿屋で一泊する羽目になった。
ま、おかげでわかったこともあるのだが。
ポルスト教は肆の国の王ミトラを教主とした宗教のことだ。
その教義は神の元に差別はなく誰もが平等である。とかそんな感じだった。
元々ポルスト教は肆の国でそれなりに信仰されていたものの、ここ数年で一気に信者の数が増加。
その理由は聖女ことナイチンゲール。
噂によるとあらゆる傷や病気を一瞬で治してしまい、果てには死者蘇生まで可能だと言う。
そんな奇跡を行使してもらうためには、ポルスト教に入信しなくてはならない。
この時点で神の元にみな平等という教義から外れている気がするんだけど ⋯⋯ ま、深く追求せずに置いとこう。
その縛りのおかげでポルスト教の信者はうなぎ登りに増えているらしい。とここまでが1人目に聞いたおばさんの話だ。
で、宿屋の食堂でたまたま同席になったおっちゃんにも聞いてみる。
ここだけの話な、と前置きされた内容はけっこう衝撃的なものだった。
数年前に突然現れた聖女ナイチンゲール。
最初はポルスト教とか関係なく、小さな村を拠点に怪我人病人を治していたらしい。
この時はまだ死者蘇生はしていなかった(ここ重要らしい)。
噂が噂を呼び、彼女(おっちゃんの話では絶世の美女)の奇跡を頼って遠方からも人が集まるようになった。
それに目をつけたのがポルスト教の教主だ。
大量の信者を獲得できるチャンスとばかりにミトラはナイチンゲールを王都に連れて行こうとした。
これに反対した村の住民たち。
「どうなったと思う? これよこれ」
自分の首にチョップするおっちゃん。
「一夜にして村がなくなったのさ」
ナイチンゲールは泣く泣く王都に連れて行かれる。
そこから先はポルスト教の顔として、ミトラの許可のもと奇跡の力を行使しているらしい。
「確かに外れの村よりも、王都のほうがみんな来やすい。人が集まれば景気もよくなる。ここも随分と過ごしやすくなった。ただな」
おっちゃんが酒をグイッと飲み干してから、俺に顔を近づけて小声で言った。
「王都に来てからやり始めた死者蘇生。あれはなんか胡散臭い」
「それはどういう風に?」
「なんて言ったらいいのかわかんねえけど ⋯⋯ 生前は宗教に興味がなかった奴が盲信的にポルスト教を崇めるようになるんだ」
「それはまあ自分を生き返らせてくれたんだから、その人を崇めたくなるもんじゃないのかな」
「そうかもしんないけどよ。俺には人が変わったように思えるんだ。実はこれ嫁の父ちゃんの話なんだ。以前は食べれなかったものを食べれたり ⋯⋯ 中身だけ別人になった感じなんだ。それによ聖女様にもこんな噂が流れてるぜ」
曰く。
普段は幽閉されており、夜な夜な泣き声が響いている、と。
〜145日目〜
昨日はおっちゃんと飲み過ぎた。
体はだるいし頭も痛い。
かと言って一日中寝てるわけにはいかない。
早くナイチンゲールを連れて帰らないと!
そういうわけでナイチンゲールがいるはずの王城の前に来ていた。
うん、すごいな。
長蛇の列。
これら全てがナイチンゲールの奇跡にあやかろうとして、入信の手続き待ちをしているのだった。
待つ。
ひたすら待つ。
全然動く気配がない。
ん、1人の兵士がやってきたぞ。
呼び止めて、いつ頃手続きができるのか聞いてみる。
「この位置だと1週間ほどだな」
1週間!?
「そこから聖女様に会えるのは半年後ぐらいだな」
んなに待ってられるか!
「急いでるのか? なら口を利いてやってもいいが」
おや?
治安がいい国でも袖の下は通用するんですか。
なら遠慮なく。
兵士の手に奮発して金貨10枚を握らせた。
「よし。お前はこっちに来い」
急に特別扱い。
律儀に並んでる人たちが恨めしそうに見てくる。
申し訳なさを感じつつも列に並んでる人たちを抜かしていき、連れていかれたのはなぜか牢屋。
なんでやねん!
「我が国では賄賂は重罪となっているんだ。貴様の沙汰が出るまではそこで頭を冷やすがいい」
引っ掛けだったんかい!
してやられた。
「これで10人目。ようやく俺も昇格できる」
ルンルン気分で去っていく兵士。
なるほど。
俺は彼の出世に使われたのか。
ま、城の中に入れたからよしとするか。
元々入信する気もなかったしな。
いつも通り隼丸をポケットから取り出して脱出しようかと思った矢先──
「お前も騙されたくちか?」
牢屋の奥から声をかけられた。
今まで投獄されてもずっと1人だったんで今回もついそうだと思い込んでいたものの、暗闇の中で目を凝らすと先住人が3人もいた。
眼光鋭い男は一段高い位置に座り込み、その左右には男2人が畏まっている。
「ああ、見事に騙されたよ。そっちは?」
「同じく。ここに入れられてもう10日だ。と自己紹介が遅れたな。俺はクレンズ・ラーマーン。こいつらはデューイとジョイ」
「ご丁寧にどうも。俺は豊月隼人だ」
「隼人はどこの国の人間なんだ?」
「陸から来たよ。クレンズは?」
「ちっちっち。俺のことはクレンと呼んでくれ。ズをつけられると大嫌いな双子の兄貴を思い出す」
「わかった。クレンだな」
言い直すとクレンは満足げに笑った。
「俺は伍の国出身だ。で、お前は誰を治してもらいたくてここにきたんだ?」
「嫁さんと子供が病に倒れてさ」
さすがに呪いとは言いにくかった。
「両方か。そりゃ辛えな。ちなみに俺は親父なんだ。このまま放っておけば一ヶ月もたないって言われてる。って身の上話はここまでにしておいて本題に入ろうか」
こっちに来いとばかりに指で招かれる。
近寄ると小さな声で、
「隼人がこのタイミングでここに来たのは、聖女の思し召しに違いないと思ってる」
前置きから仰々しいな。
「驚くなよ隼人。俺たちは今夜、ここから脱走して噂の聖女を拐かすつもりだ。いや、悪の教団から救い出すんだ。お前も奇跡が必要なんだろ。協力してくれ」
一緒のことをしようと企んでいたのか!
別に協力するのはいいんだけど ⋯⋯
「計画はあるのか? ノープランならやめておいたほうがいいと思うぞ」
足手まといを庇いながらはごめんだ。
「完璧な計画が頭の中にあるぜ。聖女の居場所もすでに把握してある」
それは耳寄りな情報だな。
ぜひ聞きたい。
「その計画を教えてほしい」
「協力してくれるなら話すぜ」
「しないと言ったら?」
「悪いけど明日の朝までここでぐっすりと眠ってもらうことになる。どうする?」
「 ⋯⋯ 」
考えてみると聞くだけ聞いて無理めな計画だったら単独行動すればいいだけの話か。
「協力しよう」
「そうこなくっちゃ!」
そして聞かされる計画の全貌。
「──本気か?」
思わずそう言ってしまった。
「大勢の人が死ぬことになるぞ」
「あの偉大な親父を助ける為ならなんでもしてやらあ! なあ2人とも!」
左右2人の男性が力強く頷く。
「決行は0時!合図上がり次第ここを出るぞ!」
『おー!』
盛り上がる3人。
それを尻目に俺はため息1つ。
事情を聞いてしまった以上は見殺しにできなくなってしまった。
仕方がない。
ここは保険をかけるべく奥の手を使うか。




