第39話 蛇
〜140日目〜
蛇神の退治を受けたのはいいが相手の居場所は掴めてなかったらしい。
どうしたもんかと思っていたら、次の満月の日に1人のエルフが200歳になるという。
次の満月とは明日のことだ。
なら、その子に付きっ切りでいれば蛇神に会えるんじゃなかろうか。
そういう話になって、その子の家の一室に泊まらせてもらったんだけど⋯⋯ どうしてこうなった?
落ち着いて状況を整理してみよう。
昨日は夕飯をご馳走してもらった。
山の幸がメインでとても満足。
そのあとは部屋に戻って寝たはずだ。
途中でスキル選択画面が出てきたっけ。
もうピーレとエーラの子供が生まれる時期か。
選んだのは風魔法と雷魔法。
で、そのあとはぐっすり寝たはずなんだけど ⋯⋯ なぜゆえ朝起きると裸のエルフが隣で寝ていたんだろうか?
とりあえず話を聞くか。
明日誕生日を迎える裸の子ことフェアリースを揺すって起こしてみた。
「んぅ。朝ですかー? おはようふぁざいます」
大きなあくびだ。
「おはよ。早速だけど、どうしてきみは俺のベッドにいるんだい?」
「昨夜夜這いに来たんです」
「夜這い!?」
「ほら、あたしってば明日で死んじゃうかもしれないじゃないですか。だったらせめて男の人を知っておきたくて。なのに、あなたはなにをしても起きなくて ⋯⋯ 」
それは勿体無いことをした。
「でも夜まで時間あるし、今からでも間に合いますよね?」
フェアリースが抱きついてきた。
小さいながらもしっかりと存在感を示す胸の感触が直に襲ってくる。
やべ。
朝は敏感なんだよ!?
「これが男の人の ⋯⋯ 」
く、気付かれた。
不覚。
こうなったら望み通り──ん、なんだこれ?
わからないけどやばそうだ。
「 ⋯⋯ やめよう」
フェアリースを引き剥がす。
「きみのことは俺がきっと守ってみせる。だから、こういうことは本当に好きになった人とするべきだ」
『それをお前が言うか』
黙れ下ネタ王。
『かっかかか!』
なんとか説得してフェアリースを部屋から出て行かせた。
『食っちまえばよかったのに!』
うるさい!
それよりも気付いたか?
『相棒があの嬢ちゃんを隅々まで観察してたことか?』
いやらしく言うな!
普通に観察って言え。
『かっかかか。って、笑ってる場合じゃねえな。相棒が言いたいには、あの嬢ちゃんのスキルのことだろう。ありゃ抱けんな』
呪いについてなにか情報が入らないかと思い、フェアリースを起こす前にスキル観察を使っていた。
そこで見たのは彼女のスキルを食べている小さな蛇だった。
多分いろんなスキルを持っていたはずなのに、今では空間魔法Lv1だけしか残っていなかった。その文字ももうほぼ食べられている。
もしも子供に反映したら?
そう思うと手が出せなかった。
あれはなんだと思う?
『わかんねえ。あんなスキル聞いたことも見たこともなかったぜ。同じ質問を相棒にするけどよ、あれなんだと思う?』
俺は ⋯⋯ ウイルスだと思った。
『んだそれ?』
俺が元々いた地球には、そういうのがあったんだよ。説明するのは難しいけど。
なあ、隼丸。
魔法創生みたいに、スキルを作るスキルもあるのか?
『さすがに無からスキルを作り上げるのはねえな。けど、スキルとスキルを混ぜ合わせて新しいスキルを作る『合成』はあるぜ』
そういやどっかで大量にスキルを集めてる奴いたよな。
『 ⋯⋯ 壱の国の加護者が関係してるって言いたいのか?』
そういう可能性もあるって言いたいんだよ。
面倒なことになりそうだ。
〜141日目〜
太陽が沈み月が昇った。
どこも欠けていないまん丸い月だ。
フェアリースを観察すると、残っていた空間魔法Lv1も消えていた。
その横でお腹をパンパンにした蛇がひっくり返っている。
ここからどうなるんだ?
経過を見守る。
異変はまだない。
時間だけが過ぎていく。
フェアリースに変わりはない。
ステータス上の蛇にも変わりは ⋯⋯ 消化が終わっていた。
パンパンに膨らんだお腹がスリム体型に戻っている。
突然蛇の口元に吹き出しが現れた。
文字が打ち込まれていく。
『魔』
まさか?
『法』
スキルがスキルを使うのか!
『転』
反射的にフェアリースの身体に触れていた。
『移』
次の瞬間、俺ごとフェアリースが転移した。
「え、どうなってるの!?」
「転移させられたんだ」
連れて行かれた場所は、どこかの部屋。
窓はなく、唯一の扉にも鍵がかかっていた。
「ど、どどどうし
「し!」
足音だ。
それも複数。
2人、いや3人か。
近づいてきている。
隼丸を抜く。
足音が扉の前で止まった。
「どうやら招かざる者もついてきたみたいね」
悪寒が走る。
咄嗟に後ろに下がった。
壁などないかの如く今の今までいた場所に刃が走った。
かすった。
腹部に薄っすらと赤い線が描かれる。
もう少し遅ければ真っ二つになっていたかもしれない。
「この子が仕留め損ねた?」
壁の向こうで驚かれた。
驚いたのはこっちもだよ。
防御14000もある俺に傷を負わすって、いったいどんな奴だよ?
「あなた、何者?」
「そっちこそ誰だ?」
「あたしは蛇神よ。こっちは正体を明かしたけど、そちらは名乗っていただけないのかしら?」
「ギラン。冒険者だ」
嫌な予感がしたので咄嗟に冒険者ギルドで飲んでた1人の名前を騙った。
「その名前覚えておくわ。おいで、あたしの子供」
「うぐ!」
フェアリースが喉を押さえながら苦しみだした。と思ったら口から拳ほどの半透明な蛇を吐き出した。
蛇は壁を擦り抜けていった。
「ではまたね」
足音が遠ざかっていく。
俺は倒れたままのフェアリースに駆け寄る。
「おい、大丈夫か!」
脈はある。
スキル観察を使って確認。
HPは減っていない。
「フェアリース! おい! 目を覚ませ!」
けれど意識が戻らない。
どうなってるんだ?
『さっきの蛇だ』
相棒の声。
『蛇が出ていくさいに嬢ちゃんの魂も持っていかれるのを感じた。それはいま空っぽだ』
⋯⋯ この身体はフェアリースであってフェアリースじゃない?
『魂がフェアリースという存在を形成しているならそう言えるな。反対に肉体がフェアリースなら、それはまだフェアリースだ』
難しいことを言う。
あなた本当に下ネタ王ですか?
実を言うとお前も蛇に乗っ取られてるんじゃ
『かっかかか。俺様もたまにも真面目になるさ。んで、どうするんだよ?』
まずはここから出る。
蛇神を見つけてフェアリースの魂を取り返す。
『ま、それしかねえな。嬢ちゃんの体は?』
持っていくさ。
『邪魔になんねえか?』
こうすれば大丈夫。
フェアリースの右手を掴んでポケットに突っ込んでいく。
さすが◯次元ポケット。
なんでも収納できるぜ!
『それ本当に便利だな』
だろ。
さ、出るか。
扉に向けて隼丸を一閃。
扉は真っ二つに。
部屋から出ると、そこは真っ白な通路だった。
ただ違和感が。
その正体は最初なにかわからなかった。
それもそのはず。
地球では珍しくなかったのだから。
「コンクリート?」
そう。
壁も床も、こっちの世界では見たことがなかったコンクリートなのだ。
これではっきりした。
今回の事件には加護者が関わっている。
ということは、さっき俺を傷つけた奴こそ加護者か。
それなら、あの強さも納得できる。
気を引き締めなおし、通路を歩く。
扉がたくさんあった。
多分だけど、中にはフェアリースと同じ魂を抜かれたエルフたちがいるんだろうな。
『相棒』
どうした?
『2つ前の扉に戻ってくれ。そこの部屋にまだ誰かいるぜ』
なんだって?
戻る。
ここか?
『ああ。気配は隠しているが、魔力の流れを感じる。これは回復魔法だな』
開けてみるか。
『気をつけろよ。味方とは限らん』
わかってる。
隼丸で扉を切った。
しばらく待つ。
襲ってくるはなかった。
慎重に中に入る。
いたのは力なく倒れている幼女と。
その幼女に必死に回復魔法をかけているオーガだった。




