第29話 ゴブリンくんが行く 〜その3〜
我はゴブリン。
まだ見ぬ人間の父よ。
ピルフの背に乗り地下の横穴を突き進むこと数十日。
行っても行っても出口など見えてこない。
幸いにもピルフやワニーが地中の獣を捕まえてくれるので飢えることはない。
しかし、そろそろ陽の光りを浴びたいものだ。
今日も暗くじめじめした横穴をてくてくち歩いていた。
するとどうだ。
今日に限って1匹のモグラ型モンスターに出くわした。
イエローモールという種だ。
敵対するかと思えば助けを求めてきた。
将来の王に出会えるとは貴様たちは運が良すぎるぞ。
ん、危ないってなにぐげっ!
出っ張りに頭をぶつけてしまった。
すごい痛い。
涙目になんかなっとらん!
して、なにを助ければよい?
話をすり替えてなどおらん!
早く申せ。
なになに。
自分たちの集落にレッドバッドの群れが襲来しただと。
レッドバッドというと蝙蝠型のモンスターだな。
地を掘る者と空を飛ぶ者。
有利性は歴然だ。
しかも、相手の数は多く、さらに超音波で遠距離攻撃もできるだと!
イエローモールとは相性が悪すぎるぞ。
よかろう。
我が力を貸そう。
礼を言うのはまだ早い。
全てが終わったさいに改めて礼を言うがいい。
よし、案内しろ!
連れていかれたのは横穴の奥。
そこからさらに地下へと下っていたところだった。
ピルフ、自慢の鼻でレッドバッドを探せ。
鼻がつまってるだと?
仕方がない。
ほら、ちーん、だ。
逆も、って待て!
くしゃみをするなら違う方向を
ぐべほっ!
き、貴様、王に唾や鼻水をかけるとはいい度胸だな。
罰を与えるから目をつぶれ!
いくぞ。
デッコピーン。
ふふふ、我ながら恐ろしい罰を与えたものだ。
あまりの痛さにのたうちまわってもよいのだぞ。
痛くない?
いや、我慢してるから大丈夫だと。
うむ、うむうむ。
見上げた根性。
さすがは我が部下だ。
それでレッドバッドの匂いは見つけたのか?
いないだと。
もっと奥の方に匂いが移動しているのか。
ふっ、どうやら我が来ることを知り逃げていったか。
違う?
レッドバッドは夜行性だから昼間は巣に戻って寝ているだと。
し、知っていたさ!
ただ洞窟内ゆえに昼と夜の区別がついていなかっただけだ。
断じて間違えたわけではない。
しかし、いいことを聞いた。
もとい忘れていたのを思い出した。
寝込みを襲えば大勢であろうと関係なかろう。
卑怯でけっこう!
勝てば官軍なのだ。
ピルフ、匂いを辿れ。
ワニーはイエローモールとここに残れ。
役立たずと言ってるのではない。
貴様にはイエローモールを守るという大事な役割を任すのだ。
頼んだぞ。
行けピルフ!
駈けろ。
跳べ!
さすがはピンクウルフ。
洞窟内といえども風を切る速度。
⋯⋯ 少し怖いかもしれん。
む、前方になにやら赤い塊が見えてきたぞ。
止まれ!
目を凝らすと、確かにレッドバッドだ。
我と同じでレッドを名乗る種。
手強いであろうな。
というわけで奇襲。
「魔法『炎』」
MP尽きるまで撃ち尽くしてやる!
「魔法『炎』」
「魔法『炎』」
「魔法『炎』」
以下略。
MP切れになった。
どうだ?
くっくくく。
燃えておる。
レッドバッドが燃えておる!
しょせん我の敵ではなかったのだ、はっははは!
ん、なにを引っ張るピルフ?
気を抜くな。
まだ奥にいるだと。
むむむ、倒しきれんかったか。
エクスカリバー4号(洞窟内に落ちていた手頃な枝)の出番だな。
さあ、いつでも来るがよい!
そのときを待つ。
待つ。
待つ。
待つ。
ん?
来んぞ。
本当に奥にいるのか?
貴様の鼻を疑ってるわけではないが。
⋯⋯ ならば待ち伏せられているのか?
この我相手に面白い。
受けて立とう。
ただ多勢に無勢とも言う。
多くのレッドバッドが残っていた場合は戦略的撤退も視野に入れておかなければならない。
というわけで乗るぞ。
よし、慎重に進め。
燃え落ちてできたレッドバッドの地面を踏みしめながら奥へと進むと、一際大きいレッドバッドを見つけた。
奴が群れのボスか。
背後には子がたくさんいる。
なるほど。
カマしてみるか。
我は手を掲げ、
「今から炎魔法を叩き込む。だが、我も無駄な殺生はしたくない。降伏するなら頭をたれよ」
モンスター語でハッタリを伝えた。
MPが尽きていることはバレていないはずだ。
きっと奴は子供を守るため、決意するはず。
しばしの逡巡。
果たして──巨大レッドバッドは我の思惑通り天井から降りてくると頭を下げた。
「貴様はこれからレバーと名乗るがよい」
言ってからワニーとかぶることに気付いたがもう遅い。
レッドバッドは名を受け入れてしまった。
そうそう。
我としては呼ぶのに名前がないと不便だなとぐらいしか思っていなかったのだが、名付けには重大な意味があるらしい。
簡単に言うとあなたに従属します。
つまり我はこれで3匹の配下持ちとなったのだ。
「してレバーよ。なにゆえイエローモールを襲ったのだ?」
ふんふん。
簡単にまとめると群れの数が増えてしまい食料に困ったということだな。
群れのボスにもなると大変なものだな。
ん、他人事のように言うなだと?
ボスを譲られた以上、我に養う義務があるのか!?
むむむ、困った。
だがレバーが言うことにも一理ある。
王たる者、配下の面倒をみなければならない。
わかってはいるがいい案が思いつかない。
⋯⋯ いったん戻るか。
レバーたちよ、ついてくるがよい。
イエローモールの集落に戻ってくると、ワニーが飛びついてきた。
はっはっは。
可愛い奴だ。
ワニーを愛でていると、我に助けを求めたイエローモールがやってきた。
レバーを見て驚いている。
安心するがいい。
レッドバッドはすでに我の配下となった。
その旨を伝えるとイエローモールは尊敬の眼差しを向けてきた。
「なんなら貴様にも名をくれてやろうか?」
高速で首を縦に振ってきた。
そんなに嬉しいのか!
いい名前をつけてやろう。
「名はエモルだ!」
目の輝きが増した。
これほど喜ばれたのは初めてのこ ⋯⋯ ん、なにかおかしい。
時間が止まっているぞ。
これはまさか──
『特殊進化条件:異種族4種を従属にする。を満たしました。特異ゴブリンリーダーに進化可能です。進化しますか? YES/NO』
やはり進化か!
しかも特殊進化だと。
なんと心惹かれる響きだ。
やはり王たる者特別でなけれなならない。
答えは前回と同じくYESだ。
選択すると時間が動き出す。
同時に我の体が、いやワニー、ピルフも光りに包まれる。
なんだなにが起きいたたたた!
体が痛いぞ。
前後左右から強引に引っ張られている感じだ。
待て、我の体はゴムではないぞ。
どんなに引っ張っても伸びんのだ。
いたたたたたた!
やめ──スポン。
なんか抜けた音が聞こえた。
まさか我の首が抜けたんじゃ ⋯⋯
恐る恐る目を開けてみると、
え?
視界の位置が高くなっていた。
自分の体を確かめると、ゴブリン特有の2頭身ボディから人間のような体に変わっていた。
「ゴブ様、格好良すぎます!」
ぐへっ!
腹部に強烈な一撃。
誰かが飛びついてきたのは理解できるが、この人間の幼女みたいなのは誰だ?
というかゴブ様って誰のことだ!
「わかりませんか? ワニーですよ」
なんと!
貴様も我と同じく人型に進化したのか。
しかも喋れるようになるとは驚きだ。
まあ言っても我は人間の大人レベル。
貴様は人間の小さい子レベルだがな。
「たいして大きさ変わりませんよ?」
う ⋯⋯ サバを読んでしまった。
正直に言おう。
我は人間の少年レベルだ。
ん、待て。
ワニーがこうなったということはピルフは ⋯⋯ 変わらずオオカミの姿だった。
ただし大きさは2倍ほどになっている。
そのためとても窮屈そうだ。
「エモル。どうにかしてやれんか?」
お任せあれとばかりに敬礼してから、イエローモール総動員でピルフの周囲を掘っていった。
あっという間にピルフがくつろげるスペースが出来上がる。
よくやった!
しかし、この大きさでは洞窟内に留まっておくのはしんどそうだな。
散歩もできんし。
やはり地上に戻らなければならない。
問題はレッドバッドの子供たちだな。
「エモルよ。しばらくの間、イエローモールの集落でレッドバッドたちを住ませてもよいか?」
エモルがイエローモールたちを集め相談し始める。
しばらく待って、出た答えを聞く。
オーケーだった。
同じボスを持つ者同士なので仲良くできるだろうと結論づいたらしい。
「ならば頼む。地上にて我らの居場所を作ったさいには迎えに来る」
そう約束してレバー、エモルと別れた。
まだ見ぬ人間の父よ。
我はあなたの姿に近づいたのだろうか?
会いたい。
会って、早く名をつけてほしい。
このままではゴブ様になってしまう気がする。
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ゴブ様(仮)
豊月隼人とゴブリンクイーンの第一子
Lv:40
HP2831/2831
MP752/752
攻撃2317
防御1872
魔力822
魔防790
速度1218
幸運77
一般スキル
剣Lv28・回復魔法Lv36・指揮Lv35・炎魔法Lv24・槍Lv1・遠見Lv1・言語Lv1
特殊スキル
福運
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明日から本編に戻ります。
次なるお相手は ⋯⋯




