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迷子の…  作者: 如月冬美
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 制服から着替えるとチェーンに通してあった指輪をはめる。校則で禁じられてはいないけれど学校がある時はネックレスにして身につけている。

「カオンさん…」

 細めのシンプルな指輪。内側にカオンさんの目の色と同じ石がついている。

「そろそろ、かな?」

 七日から十日に一度、夢を見る。文字通り世界が違う私とカオンさんを繋いでいるのが夢だった。夢がスマホやネットの代わり。

 夢の中で私はいろんな事を話す。家族の事、学校の事、友達の事、他にも色々。カオンさんはコニーの事や森の様子を話してくれる。そして時々いたずらもされる。

 そう、あの時のように。







 ガバの森で私はカオンさんを探していた。急に姿を消した私をきっと心配しているだろうカオンさんの事がばかり考えている。

 探しても探しても見つからないカオンさんに今日もダメかと諦めかけた頃、ようやく木々の間に見慣れた金茶の髪を見つけた。

「カオンさん!」

 慌てて声を張り上げ駆け出す。

 早く、早く、早く……

 焦る気持ちに体が追いつかず足がもつれた。

 こけるっ!

「…………?」

 覚悟した痛みはいつまでも訪れない。不思議に思って閉じていた目を開けると、すぐ間近に整った顔があった。

「カオンさん…」

 少し…痩せた?

「大丈夫か⁈怪我は⁈」

 心配するカオンさんをぼうっと見つめる。

「…………」

「エミ?」

「あ、はい。大丈夫です」

 惚けている場合じゃなかった。返事をするとカオンさんの全身から強張りが解けた。

「……よかった」

 息を吐き出すように言ったカオンさんにぎゅっと抱きしめられる。

「エミ…ずっと探してた」

 ああ、やっぱり。

「あの日…桜の木があるのに気がついて。近寄って確認して振り返った時には戻ってたんです」

「そう…か」

「うん。ごめんなさい。心配かけて。何も言えずに戻っちゃって…」

「不可抗力…だろ?謝らなくていい」

「カオンさん…」

 広い胸に頬を寄せると爽やかな葉っぱの匂いがする。

 ああ、カオンさんだ……

 嬉しいのになんだか泣きたくなる。髪を梳くように撫でられ顔を上げると目が合った。そのまま、どちらからとなく唇を寄せる。

「…ん………ぁ…………」

「………………は、ぁ……」

 角度を変える度に深くなる。舌を絡め、吸い、口内をまさぐる。

「……エミ」

 最後にちゅっと音を立てて唇を離すとカオンさんがじっと見つめてくる。

「少し…痩せたか?」

 大きな手がそっと頬を撫でる。ブルーグレイの瞳が揺れている。

「カオンさんこそ…」

 痩せたというよりやつれた感じがする。よく見ると目の下にクマができてる。

「ちゃんと食べて寝てますか?栄養と睡眠が不足すると体壊しますよ」

 言いながら手を伸ばし薄っすらと生えている髭を撫でる。

 髭、伸ばすのかな?

 口髭は似合わなそう。揉み上げから続くモジャモジャとした髭は似合うかもしれないけど、顔が見えなくなるから嫌だな。こういう無精髭みたいなのがいい。何だか危険な大人の男って感じがする。

 あ、想像しただけでドキドキしてきた。

 自覚した途端、頬が熱くなる。

「エミ?どうした?」

「ドキドキしてます」

 自分でもびっくりするぐらい素直に言葉が出てくる。

「?」

「髭のカオンさんも格好いいから…」

 正直に言うとカオンさんが苦笑した。

「これは剃ってないだけだ」

「そうなんですか?似合ってますよ」

 くすくすと笑いながら言うとカオンさんは何とも言えない顔をした。

「エミ」

「はい」

「必ず迎えに行く」

「待ってます」

 いつか交わした約束を繰り返し、唇を重ねる。そっと唇を離すとカオンさんは思い出したようにポケットから何かを取り出した。

「受け取ってくれ」

 そう言って私の左手を取るとキスをしてから小指に指輪をはめた。

「…反則です」

「?」

「はめられたら受け取るしかないじゃないですか」

 わざと不機嫌な顔をする。

「嫌…だったか?」

 弱気になったカオンさんの襟元を掴むと力任せに引く。不意打ちによろけたカオンさんに素早くキスをする。

「嬉しいです」

 いたずら成功!とばかりに笑えばカオンさんに反撃のキスをされた。

「…ん…………」

「エミ…」

 カオンさんが胸に顔を埋めたと思ったら覚えのある痛みが走った。まさかと胸を見れば中心にぽつんと赤い印。

「…またっ……」

 文句を言おうと顔を上げるとカオンさんは笑って自分の首筋をトントンと指差した。

「ほら」

「……………」

 躊躇いは一瞬。前の時の事を思い出し、遠慮しないでこれでもかってほど強く吸った。

「………」

「どうした?」

「…やっぱり目立たない」

 前につけた時よりは濃いけれどもわかり難いのは変わらない。不満を露わにする私の機嫌をとるようにカオンさんがキスをする。額に。瞼に。頬に。

「それでも俺は嬉しい」

 カオンさんが輝くような笑顔を見せた。

 そんな夢を見た翌日、指に光るシンプルな指輪と胸に残された赤い印に悲鳴を上げそうになった。


 夢だけど夢じゃない!

相変わらずな二人。

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