14
これは夢。異なる世界を繋ぐとても特別な夢。
森の中、私はただひたすらに待つ。待って、待って、待ち続けて。今日はもう会えないのかと思い始めた頃、待ち人は来た。
「エミ」
少し低めの、私の名前を呼ぶ時だけ甘さを帯びる声。
「カオンさん!」
会いたかった。気持ちが抑えきれず目の前の人に抱きつく。少し苦しいくらいの力でぎゅっと抱きしめ返されて笑みが溢れる。
「俺は待たせてばかりだな」
「ううん。大丈夫」
来てくれたから、会えたからもう大丈夫。正直、独りだと寂しくて泣いてしまう時もある。でもカオンさんの前では強がってみる。バレてるかもしれないけどね。
胸に埋めていた顔を上げれば、ちゅっちゅっと啄むように数回キスされた。
「………」
「何?」
じっと無言で見つめるカオンさんに首を傾げる。
顔に何かついてる?
「…また、綺麗になった」
「綺麗?本当?」
嘘でも嬉しい。
「ああ……あまり綺麗になるな」
「どうして?」
「嫉妬しそうだ」
「え?嫉妬?…って誰に?」
「君を見る全ての男に」
そんな答えが返ってくると思わなかった私はびっくりした。だって私が綺麗になりたいと努力しているのはカオンさんに相応しくなりたいからだ。
「…悪いな。嫉妬深い男で」
自嘲しながら「嫌いになったか?」と訊くカオンさんに首を横に振る。
「ならない。それだけ私のこと、好きってことでしょ?」
「ああ」
即答されて顔が緩む。
「それに私、モテないから大丈夫」
「こんなに綺麗で可愛いのに?」
「そんなこと言うのはカオンさんだけだよ」
「そうか?」
「うん」
日本に戻ってから二年。誰かに告白された事なんてない。もちろん、万が一告白されたって即断るけどね。
「カオンさん、好き。大好き。カオンさんだけ愛してる」
内緒話をするように耳元で囁けばカオンさんが目を丸くした直後、照れたように微笑んだ。
「エミ…」
「……ぅん、ん………ぁ…」
お返しとばかりに唇が重なった。徐々に深く激しくなるキスに思考が停止する。何も考えられない。ただ、カオンさんだけを感じている。
ちゅ…と音を立てて唇が離れた。
「…カオン、さん……」
「エミ…」
うまく力の入らない体を広い胸に預ける。カオンさんの腕の中は居心地がいい。ここは私にとってどこよりも安心できて、ドキドキする場所。誰にも譲らない、譲れない私の場所。自分がこんなに独占欲の強い人間だってカオンさんを好きになるまで知らなかった。
離れたくない。
ずっと一緒にいたい。
早く道が見つかればいいのに。
「…………」
何も言わずにカオンさんのシャツを握りしめる。
「どうした?」
大きな温かい手が優しくあやすように背中を撫でる。
「エミ?」
離さないで。
側にいて。
誰よりも近くにいて。
そう言いたいけど言えない。だから言えない気持ちを込めて言う。
「…ぎゅって、して」
「…こうか?」
「もっと…」
強請りながら私もカオンさんの背中に腕を回す。胸が密着するとカオンさんの鼓動も伝わる。トクトクと少し早いリズム。
あ、同じだ…
そう思ったらスッと気持ちが落ち着いた。
「…カオンさん」
「ん?どうした?」
「カオンさんも…同じ?」
顔が見えないから訊けることもある。
「同じ、とは?」
「離れたくない。一緒にいたい。って少しは思ってくれてる?」
訊いたら更にぎゅっと抱きしめられた。
「いつも思ってる。こうして会う度にこのまま連れて帰りたい、とも思ってる」
「…意地悪な夢だよね」
「そうだな」
指輪のような身につけられる小さい物は自分の世界に持っていける。なのに人や大きな物は無理なのだ。
「…不思議だね」
「そうだな」
「…私も探そうかな」
日本には昔から『神隠し』って言葉がある。前は単に誘拐とか拉致とかだろうと思ってた。だけどその内のいくつかは本当に『神隠し』という名のトリップじゃないかと今は思ってる。
「待ちくたびれたか?」
「お迎えを待つのもいいけど、押しかけ女房もいいかなぁって」
「『オシカケニョーボー』?」
「女性がね、好きな男性の所に「あなたのお嫁さんにして!」って押しかけて迫るの」
「ずいぶん情熱的だな」
クツクツとカオンさんが喉の奥で笑う。
「……嫌?」
「嫌ではないが……」
「が?」
「男としてはちょっと…な」
「?」
「好いた女性一人、満足させられないのは不甲斐ない」
…それは男のプライドって事でしょうか?
「あ、えーと…ごめんなさい?」
「君が謝る事じゃない」
カオンさんが肩を竦める。
「可能なら今すぐエミを嫁にするんだが」
「い、今すぐ⁈」
「嫌か?」
「…出来れば先に両親に挨拶してほしい、です」
「挨拶?」
「そう、挨拶」
「よくわからないが…挨拶すればいいんだな?」
「はい。楽しみにしてます」
説明無しでちょっとズルいかな?とは思うけど、ずっと待ってるんだからこれぐらいはね。
その日がくるのが本当に楽しみです。
「娘さんをください」は必須ですね。




