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迷子の…  作者: 如月冬美
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 日本に戻ったらしいと気づいて真っ先に頭に浮かんだのはカオンさんのことだった。

 きっと心配してる……探してる……

 連絡はできない。どうやって行き来できたのかもわからない。

 どうしよう…どうしよう…どうしよう…

「君、大丈夫?顔色が悪いよ」

 すぐ側で声をかけられたことよりも肩に置かれた手に驚いた。

「っ‼︎」

 声にならない悲鳴をあげるのと、身を引いて距離をとったのはほぼ同時だった。

「…あ……ご、ごめんなさい。びっくりして……」

 慌てて言い訳をする。

「僕の方こそ悪かったね。…と、大丈夫?」

「は、はい。大丈夫です」

 フラついた体を支えようと差し出された手を断る。

「そう?無理しない方がいいよ。向こうに社務所があるから休ませてもらおう」

「…すみません」

 こっちだよ、と案内してくれる背の高い人。その後ろ姿にカオンさんがダブる。

 カオンさん……待ってます。

 約束を思い出し、胸の中で呟いた。







 チャイムが鳴り、最後のテストが終わった。その解放感から教室のあちこちから悲喜こもごもの声が聞こえる。

えみ〜!一緒に帰ろう」

 そう言って迎えに来てくれたのは親友の坂本雪乃。忘れ物がないか机の中を確認してから雪乃の元に行く。

「テスト、どうだった?」

「終わったんだから何言っても遅いよ」

 雪乃のサバサバした物言いに笑ってしまう。

「相変わらずだね」

「愚痴って点が良くなるならいくらでも愚痴るけど?」

「ま〜ね〜」

「それよりカフェ行こう。新作出てるよ」

「本当?楽しみ〜」

 なんて他愛のないお喋りをしながら校門を出た所で名前を呼ばれた。

えみちゃん」

「……林さん?」

 なんでこの人がここにいるんだろう?と考えていると雪乃に脇を突かれた。

「誰?」

「神社で親切にしてくれた人」

「ああ、あの…」

 驚いた事に日本では三日しか経ってなかった。その事実にショックを受け、情緒不安定に陥った私は見舞いに来てくれた雪乃には全部話した。異世界の事も、カオンさんの事も全部。正気?と心配されるか、凄い想像力!と笑われるか…不安に思いながら打ち明けた私に雪乃は「そっか」と一言だけ言って優しく笑い信じてくれた。

えみちゃんの友達?」

「林さん、その呼び方やめてください」

「どうして?」

「嫌だから」

 えみちゃんなんて呼ぶのは親戚達と雪乃の家族ぐらい。きっぱり言うと林さんは少し考えてから口を開いた。

「……えみ

「もっと嫌!」

 なんでただの知り合いに呼び捨てにされなきゃいけないんだろう。泣きそう。そんな私の様子に気づいた雪乃が慌てる。

「ちょっ……えみ、凄い鳥肌!そんなに嫌だったの⁈」

「うん、嫌。凄く嫌。絶対に嫌」

「…………」

 私限定の過保護を発動した雪乃と、嫌を連発する私に林さんは絶句してる。雪乃はよしよしと慰めるように頭を撫でてくれた。

 あ〜…落ち着く。癒される。

「ありがとう、雪乃」

「どういたしまして」

 平静を取り戻し、にこりと笑うと雪乃も同じように笑い返してくれた。そして私を林さんから庇うように一歩前に出る。

「林さん…でしたっけ」

「はい」

「諦めなさい。えみは渡しません!」

「は?」

 あ、林さんがフリーズした。

「…………」

「…………」

「何やってんだ?」

 なんとも言えない沈黙の中、場違いなほど呑気な声がした。振り返ると雪乃の幼馴染みでカレシの立花(かい)

「あ、立花くん」

「おう。で?」

「雪乃のスイッチ入った」

「またかよ」

 ウゼェと呟きながら立花くんは雪乃と雪乃が対峙している林さんを見た。その目がスッと細くなる。

「文句は受け付けない」

 林さんから目を離さずに雪乃が言い放つ。

「言わねぇよ。つーか、ソイツ俺も却下」

 立花くんが当然のように雪乃の隣に並ぶ。背の高い二人が前に立つと壁みたいだ。林さんがほとんど見えない。見えなくても別にいいけど。

「やっぱ、そうよね」

「一目瞭然じゃねーか」

 似た者同士の幼馴染みは以心伝心、阿吽の呼吸。

「千年経っても早いのよ」

「役者不足もいいとこだな」

 さすが最強カップル。言う事に遠慮がない。人によっては最凶カップルとも言うらしい。

「いいなぁ……」

えみ?」

「佐倉?」

 つい漏らしてしまった心の声に二人が振り返る。二対の鋭い視線が外れた途端、林さんは脱兎のごとく走った。

「速っ!」

「チッ」

 そのあまりの速さに私が感嘆の声を上げるのと、雪乃と立花くんが揃って舌打ちしたのは同時だった。私、林さんいなくて全然いいんだけど。

「ま、いいわ。えみ、カフェ行こうか」

 雪乃が気持ちを切り替えて言う。

「うん。立花くんも来る?」

「行かねぇ。雪にも佐倉の旦那にもわりぃからな」

「だ、旦那って……⁈」

 不意打ちに全身がかあっと熱くなる。きっと耳まで真っ赤だ。

「んだよ。確定なんだろ?だったら旦那でいいじゃねーか」

「それもそうね」

 立花くんの意見に雪乃が賛同する。

「旦那が来たらツラ拝ませろよ」

 言いたいこと言って「じゃあな」と去って行く立花くんを無言で見送る。

「………」

えみ、私にも紹介して」

「それはもちろん。言われなくてもそのつもりだよ」

 雪乃は自慢の親友。大好きなカオンさんに紹介したい。

「雪乃」

「なに?」

「多分だけどね、雪乃とカオンさん、気が合うと思う」

 多分。きっと。そんな気がする。


 カオンさん、待ってます。

日本の保護者カップルが害虫駆除。

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