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夕食後、お茶を飲みながらソファで他愛のない話をするのが日課。カオンさんはレイモン国に伝わる昔話や伝説、行ったことのある国や地域の珍しい風習などを。私も一日のことや日本のことを色々と。最近はもっぱらスキンシップの時間。
「私、子供じゃないんですけど?」
今、私はカオンさんの膝の上。後ろから抱きしめられている。これって小さい子によくやる体勢だよなぁと思ってちょっと抗議してみた。
「嫌か?」
この訊きかたはズルいと思う。嫌かと訊かれたら嫌ではないから。
「嫌というか…恥ずかしい、です」
「可愛い」
こめかみの辺りにキスされた。
「もう!」
非難を込めて睨んでみてもカオンさんは微笑むだけ。
本当、ズルい。
「…カオンさん、少し放して」
お腹に回されたカオンさんの腕が邪魔でそう言うとますます力が強くなる。
カップ取るだけなのに。
「お茶飲むだけだから。どこにも行かないから」
「………」
ようやく解かれた腕にほっとしてテーブルに置いていたカップを手に取る。一口二口飲んでカップを戻すとまた腕が絡んでくる。
「エミ………」
「はい」
「………………」
肩が重くなる。
「カオンさん?」
「…怖いんだ………目を離したら…手を放したら…いなくなるんじゃないかって………」
「…まだ大丈夫ですよ」
たぶん。
「…わかるのか?」
「なんとなく。まだ先かなぁ…って」
はっきり言ってただの勘。楽観的希望。
「具体的にわかれば…」
「そうですね」
具体的にわかればこんなにビクビクしなくてすむ。不安も減るだろうなぁと思う。辛いのも悲しいのも変わらないけど。
「…まさか……自分がこんなに…誰かに執着するなんて思わなかった……」
「………」
「エミだけだ……俺が執着するのも………愛しているのも……」
「………」
「…君が来る前……どう暮らしてたか思い出せない………君がいなくなったら………」
カオンさんの苦しそうな告白を聞いて喜ぶ私は酷い人間かもしれない。だけどこんなに愛されて嬉しい。こんなに必要とされて嬉しい。
「ありがとう、カオンさん。嬉しいです」
お腹に回された腕に手を重ねる。
「こんな事言うのは自分でも酷いなって自覚あります。でもそれだけ私の事、好きなんだなってわかって嬉しいんです」
「エミ…」
「私もカオンさんと離れる事を想像するだけで悲しいし、辛いし、寂しいです。でも…迎えに来てくれるんでしょう?」
「…何十年先になっても必ず」
「うん。だから待ってます。信じる者は救われるって言うしね」
そう。信じなきゃ始まらない。だって私にできることはカオンさんを信じる事、好きでいる事、待つ事だけだから。
「…何だ?それは」
「日本で時々言われる言葉です」
主に怪しげな宗教関係で、だけど。逆の言葉もあるけどそれは言わなくていい事。
「あのね、昔、シュリーマンという人がいたんです」
「?」
「その人、幼い頃に読んだ物語を実際にあった事だとずっと信じてて。大人になって築いた財産注ぎ込んで遺跡を発掘して。誰もが架空の物語と信じていた話が史実だった事を証明したんです」
「それは…凄いな」
「でしょう?だから私も信じて待ってます」
振り返ってにこりと笑うとキスされた。
「……カオンさんてチューが好きですね」
「『ちゅー』?」
「あ、えーと…口付け……」
「可愛らしい言い方だな」
カオンさんの感想にそういえばそうだなと思う。チューよりキス、キスより口付けと言った方が特別感がある。
「カオンさん」
「何だ?」
「チューして」
わざと小首を傾げて可愛らしくお願いしてみる。とたんにカオンさんの顔が赤くなる。
可愛い。可愛い。可愛い。
「カオンさんとチューしたい」
「…エミからしてくれ」
「え?」
「たまにはいいだろう?」
長い指に唇を撫でられてゾクリと背中に震えが走る。
「エミ」
熱のこもった目で見つめられて。甘い声に名前を呼ばれたら逆らえない。私はごそごそと体の向きを変える。
「カオン、さん…」
ドキドキする。
頬に手を添え唇を寄せる。そっと触れて離れた。
「エミ、もっと…」
「うん…」
好き。
大好き。
愛してる。
想いを込めてキスをした。
「ん〜…いい天気!」
これならよく乾きそう。
干したシーツ類が風に靡くのを見ていた私は首を傾げた。
あれ?あの木……
近寄ってよく見るとやっぱり桜だった。異世界に来て初めて見た。
カオンさんは知ってるのかな?
ワクワクしながら私は声を張り上げた。
「カオンさん!あの木……」
え?
振り返った先には家がなかった。代わりによく知る建物。正面に吊るされた大きな鈴と賽銭箱。少し手前に一対の石像。どこからどう見ても『神社』だった。
私…戻っちゃったの⁈
シュリーマンの話はうろ覚えです。




