後編
「これより我らを殺さんと襲い掛かってきたキノコの娘の処刑を開始する」
声を上げる人間が居る。沢山の見物人たちが居る中で、ゼラは手首を縛られて、連行されていた。
それは、処刑台。ギロチン、そう呼ばれるもの。
そこに向かって歩かされるけれども、それでもゼラの顔には一切の悲観はない。寧ろ何処か楽しそうにいつも通りに笑みを浮かべている。
(うーん、処刑されても問題はないけど、でも痛いのは嫌かなー)
そんなゼラの思考していた事はそれであった。まわりに居る人間たちの顔など一切気にしていない。
キノコの娘という化け物を殺せると喜んでいる町の顔役たちのことも。
見世物を見るような目でゼラを見て居る見物人たちのことも。
そしてゼラが処刑されてしまうことに悲しそうな顔をしている人のことも。
ゼラにとって彼らはさして何とも感じないような、どうでもよい存在であるといえるだろう。
ゼラが思考しているのは、”人間”のことではない。自分の事だ。こんなところでも処刑される事を一切恐れていないのは、ゼラがキノコの娘であるからともいえるだろう。
「おい、歩け」
ゼラを連行している兵士の一人がそのような声を上げる。が、ゼラは動かない。足を止めている。それにいらだったような声を上げる兵士。動けとばかりにゼラの身体を押すけれども、男の人間の力であろうともゼラを動かす事は出来ない。
「にゃはは、私痛いのやだもーん」
ふざけたようにそういったゼラは、次の瞬間拘束を力ずくで説いた。はじけ飛ぶ、縄。
それを人間たちが驚いた目で見て居る。
「なっ」
「ば、化け物!」
そんな声が上がるけれどもゼラは気にした様子もなく、地面をけって飛び上がる。見物人たちの頭上を飛び越え、処刑台から降りる。
猫の見た目を持つゼラの跳躍力は人間からすれば信じられないものであった。そして見物人たちの後ろまで移動したゼラは、
「殺されるの嫌だからバイバーイ」
などと元気よく告げて、その場を後にするのであった。
それからゼラはいくつもの町を巡った。そしてその先で、処刑台に運ばれることもあれば、温かく迎え入れられることもあった。
それでも、いつでもどんな時でもゼラはゼラだった。自分というものを一切曲げずに、自由気ままに生きている。
何者も彼女を止めることなどできない。彼女の意思をゆがめることなどできない。
何も考えてないように見えて、だまされそうなほどに危なっかしそうに見えて、だけれどもゼラは自分の意思というものを誰よりも持っている。
しばらく寒天スイーツ探しという冒険を自分が満足するまで終えるとゼラは森へと戻った。森の中で同じキノコの娘たちに迎えられる。
笑顔を浮かべるものも、人間の町でゼラがやらかしたことを知っているものはあきれた目を浮かべていたりもする。だけど、誰からもゼラは話しかけられている。
実はというと処刑台に運ばれることはゼラの長い命の中ではよくあることであった。いつも考えなしに、人間の町へと突撃して、自由に生きているのだからそういうこともある。
そういう目に幾度かあっているというのに、人間の町に時折ゼラは冒険だと称して顔を出す。それゆえに、ゼラというキノコの娘はほかのキノコの娘よりも人間界に認知されている。
「えへへ、ただいまー」
そして冒険が終わればゼラはキノコの娘たちに迎え入れられるのであった。
「処刑台って楽しいの? よくいくよね」
「楽しいわけないよー。まぁ、一回ぐらいなら面白い経験かもしれないけどね」
「えー、ならなんでゼラ、処刑台によくいくの?」
「……好きでいっているわけじゃないよ?」