第二十四話『デイズの終わり』
「八潮怜斗と仁科白羽の成仏。そして、取締官として俺の元で働く。それがお前達に与える罰だ。」
淡々と告げられたその言葉に、怜斗は疑問を投げかける。
「白羽を助けたのは俺だ。俺だけじゃダメなのか…?」
「ダメだ。そもそもお前がいなくなったら仁科白羽は生きられないだろうが。」
「なんとか白羽を生きさせれないか…?俺はどうなってもいいから…。」
「ダメだ。俺が人を生き返らせる訳にはいかない。黄泉の支配者が特例を認める訳にはいかないからな。」
そう怜斗の言葉を次々と却下して、スサノオは続ける。
「本来はお前らの魂を消滅させるのが罰だ。だが、最近は老人は素直に成仏するが、若い奴らは未練を残して霊としてこの世界に残るんだ。」
そんな彼の言葉にあわせて、アイが続ける。
「それで、働き手が少なくなってきてるんだよ…。アイとか桃華ちゃんみたいにスサノオお兄ちゃんの下で働けるくらい力を上手く使える魂ってなかなかないから…。」
「別に老人の霊でも力さえ使えれば黄泉の警備くらいはできるんだがなあ…。若い霊じゃねえと概念体とか悪霊と戦えねえ。その人員が足りねえんだ。」
「しかも最近霊にならずに黄泉にくる適性のある若い霊は『死んでまで働きたくない。』とか言いますの。全く…。ゆとり世代は軟弱ですわ。」
だんだん、最近の黄泉事情の愚痴みたいになってきている。
「だから、力を使える八潮怜斗と、適性がある仁科白羽には黄泉で働いてもらおうと考えた訳だ。消滅よりかはましだろ?」
そう言って、スサノオはニヤリと笑う。
だが――
「俺の消滅で白羽を生かしてくれ。」
怜斗は強い眼光で彼に向けてそう言う。
「八潮怜斗、まだ言うか…。」
「俺の消滅なんて安いもんだ。白羽が生きれるならな。」
「怜斗お兄ちゃん、消滅だよ?分かってる?」
「ああ、わかってる。白羽が死ぬよりはましだ。」
「…何がお前をそこまでさせる。」
スサノオの問いに、怜斗は強い意志の籠った眼光で彼の目を見て答える。
「俺は、白羽の事が好きになった。だから死なせたくない。理由なんてそれだけだ。」
その答えに、スサノオは『そうか……。』と頷き、アイは『怜斗お兄ちゃんカッコイイ!!』とときめき、桃華にいたっては『じゅ…純情ですわ…。』とウルウルきている。
そして今だ俯く白羽は――
「お…」
『お?』
「お前らふざけんなああああああっ!!」
『えええっ!?』
キレた。白羽がブチギレた。
「いや…そこは感動しとけよ」←スサノオ
「白羽お姉ちゃん…どうしたの?」←アイ
「グスッ…。仁科白羽、怖いですわ…」←桃華
「し…白羽…?」←怜斗
四人は動揺を隠せない。
そんな中顔を上げた白羽の目は激しい怒りを湛え、まるで鬼のような形相だ。普段のフワッとした雰囲気はどこにもない。
「感動もくそもあるかあああっ! 勝手に私を生かしたり殺したり消滅させたりちぎったり投げたりしやがって!!」
キャラが変わった。怖い。
ち…ちぎったり投げたりはしてませんよ…?
「おいスサノオッ!!」
「な…なんだ…。」
神を呼び捨てにする白羽であるが、その不遜を責めることはできず、スサノオもその鬼のような形相に少し気圧れている。
「私たちは消滅じゃないんだな!?」
「あ…ああ…。」
「ならいいっ!!次っ、アイちゃんっ!!」
スサノオのその言葉を聞き、すぐさまアイの方にその目を向ける。
「な…何?白羽さん…。」
アイがさん付けをした。相当ビビッている。
「黄泉の取締官に危険はあるか!?」
「時々霊を消滅させるさっきみたいなタイプの概念体と戦うことがあるくらいで…。それ以外で怪我したらちょっと痛いけど普通は消滅しないから…。」
「要は負けなきゃいいってか?」
「そ…そういうこと…。」
「ならよしっ!!次、桃華ちゃんっ!!」
アイの答えに満足し、白羽は桃華の方をジロッと見る。
「ビクッ!?なななななんですの?」
ビクッとした。ビクッと言った。
プルプルしてる。相当ビビッている。
てか、泣きそうだ。
お漏らしは大丈夫だろうか?
恐怖に震える桃華をジッと5秒程見つめてから白羽は言う。
「……特になしっ!!」
「ないなら呼ばないで下さいましっ!!」
明らかにホッとした顔をしながら桃華が叫ぶ。
そして、鬼白羽は怜斗の方を向く。
「おい怜斗。」
「白羽…まあ一旦落ち着けよ。な?話し合おう?」
怜斗は必死に諭そうとする。
だがこの諭し方は浮気男のそれである。
「正座。」
「…はい?」
「怜斗、正座。」
「…はい。」
怜斗は、剣幕に負けて白羽の前にちょこんと正座する。
そして白羽は腕を組み、怜斗の前に仁王立ちする。
「おい怜斗。」
「…はい。」
「お前何様だよ。さっきから自分が消滅するから私だけは助けろとか。」
「…はい。」
「私の事勝手に決めてんじゃねえよ。」
「…はい。」
「そもそも、なに私を助けてんだよ。勝手に死なせとけばよかったじゃねえか。」
「…はい。」
「――白羽お姉ちゃんそれはっ!!」
『はい』しか言えない怜斗に変わってアイが口を開く。
「あ゛ぁ゛?」
「…ごめんなさい。」
が、肩越しに睨まれて引き下がる。
「とにかく、お前は私の事を勝手に決めた。私はそれに怒ってる。」
「…はい。」
「最初から最後まで勝手に決めてさあ…。勝手に私を助けるなっつーの。最後くらい私に選ばせろ。」
「はい…。」
そこで言葉は切れ、怜斗は酷く落ち込んでいる。
そんな怜斗に、白羽は鬼のような表情から普段の表情に戻って語りかけた。
「でも、ありがと。怜斗君。」
先ほどまでとはうって変わった優しい声に、怜斗は顔を上げる。
「え…?」
「もし事故の時に怜斗君が助けてくれなかったら、私に今日はなかったんだよね。」
「白…羽?」
正座しながら見上げてくる怜斗に、白羽は微笑んで続ける。
「怜斗君がわたしの死を“遅らせて”くれなかったらもうお母さんとは話せなかった。青葉とか弥呼子とも話せなかった。七不思議のみんなには会えなかったし、亮君とかアイちゃんにも会えなかったかもしれない。」
「…俺は?」
「スサノオお兄ちゃんは黙ってよっか?」
なぜか少し寂しそうな顔をするスサノオに、アイが笑顔でツッコむ。
今日の今日会ったばかりの敵役が何を言っているのか。
「だから、ありがとう怜斗君。私に嬉しい出会いと、楽しい“日々”をありがとう。理不尽な死じゃなくて自分から選べる死をありがとう。そして――」
白羽は、光り輝くような最高の笑顔を浮かべながら言う。
「これからもよろしくね、怜斗君。」
「白羽…。」
思わず見惚れる怜斗。
白羽は、スサノオの方を見て宣言する。
「私は、怜斗君と一緒に罰を受けます。死んで、黄泉の取締官になります。」
「そうか。仁科白羽、お前の意志は受けとった。八潮怜斗、お前の意志は?」
「…白羽がそう言うなら、俺もそうする」
「よし、これでこの契約は成立だ。」
言おうか言わまいか迷いつつ、白羽は意を決したように質問する。
「あのっ!!」
「どうした?」
その表情は不安げだ。
「この場合、私ってどうして死んだことになるんですか?行方不明とかでみんなに心配かけることになりますか?」
「いや、俺が適当にでっちあげる。まあ、病気か何かで突然死くらいの感覚にしておこう。」
「わかりました。なら、大丈夫です。」
白羽は、スサノオの答えに安心し、決意に満ちた表情を浮かべる。
「白羽、本当にいいのか?」
「うん、怜斗君もいるし、アイちゃんも桃華ちゃんもいる。怖いことなんてないよ。」
怜斗の問いかけに白羽は迷うことなくそう言う。
「そうか…。ごめんな、白羽。」
「ううん、私は怜斗君達と会えて幸せだよ。これでいいの。」
「ありがとう、白羽。」
そのふたりの会話の間に、スサノオは祭祀用の剣を取り出して宣言する。
「では、これより仁科白羽の肉体と魂を切り離し、同時に八潮怜斗と共に黄泉に送る。」
スサノオが、真剣な表情で剣を構える。
「八潮怜斗、仁科白羽から離れろ。」
「…ああ。」
怜斗は、少し躊躇いながらも白羽から離れた。その時に、白羽に憑くのもやめた。
「あっ…。」
白羽は、自分の体から何か大切なものが無くなっていくのを自覚する。
怜斗の渡していた力の供給がなくなり、体を動かせなくなっているのだ。
「安心しろ、痛くはない。」
ヒュッとスサノオは剣を振り、白羽の体を斬る。だが、見えた光景は斬ったというよりはすり抜けたという感じだ。
「あれっ!?」
そして白羽は、気がつくと地面に倒れている自分を見ていることを自覚した。
白羽は霊となり、宙に浮く。
「成功だ。」
スサノオが剣を消しながらそう呟く。
「黄泉への道を開く。アイ、桃華、お前達も一度帰還しろ。」
「うん、わかった。」
「わかりましたわ。」
空に黒い穴が開く。
闇の奥では星のようなものが瞬き、光り輝いている幻想的な穴が。
スサノオ、アイ、桃華は慣れた様子でその穴に入って行く。
白羽は、穴に向かいながらチラッと自分の肉体を見る。
「生きてる間、ありがとう。」
そして、学校の方を見て、自宅の方を見て、友人と家族を想う。
「みんな、今までありがとう。行ってきます。」
そして、横で穴を見上げている怜斗に手を伸ばし、笑顔で言う。
「行こ!怜斗君!!」
「ああっ!!」
ふたりは、一緒になって穴に向かう。
黒い光に満ちていた穴が、明るい色に変わっていく。
まるで、手をしっかりと“握って”穴の中を進んで行くふたりの霊を歓迎するように…。




