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レイト・デイズ  作者: 有栖
第三章『病院の幽霊』
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第二十話『事件の終わり、そして始まり』


「亮、青葉はどんな調子だ?」

「ああ、大丈夫だ。今は寝てる。それで、首尾は?」

「わかった。多分犯人はこの部屋にいる。」

「何?」


亮がキョロキョロと辺りを見渡す。

だが、どこにも何も見当たらない。


「白羽お姉ちゃん、多分呼べば出てくると思うよ?」

「う、うん。誰か知らないけど出てきてよ。青葉を苦しめてるの、わかってるんでしょ!」

「そうだ、出てこい!俺が成敗してやるっ!!」


その二人の声が響く、病室内の空気が威圧するように重くなり、凶悪な霊が出現――


しなかった。


「い…痛いこと…しませんか…?」

『はい?』


事件の犯人が放つには、あまりにも弱弱しい声が響く。

その想像とそぐわない状況に、白羽、怜斗、亮の三人の頭にハテナマークが浮かぶ。


「うん、やっぱりそういうことだったんだ。」


アイだけが頷き、自分の想像と状況が合っていることを確信している。


「痛いこと…しませんか??」


もう一度放たれたその言葉に困惑しながら、白羽と怜斗は再度声をかける。


「よ、よくわかんないけど出てきてよ!!」

「そうだ!!姿を見せろっ!!」

「っ!?」


何処からかビクッとし、引っ込んでしまったような気配が。



「白羽お姉ちゃん、怜斗お兄ちゃん、落ち着いて。ごめんね、大丈夫だよ。アイたちはあなたに痛いことしないから出てきて?」

「は、はい…。」


アイ優しい声に反応した霊は、あろうことかベッドの下から出てきた。


しかも、その姿は――


『子供っ!?』


10歳にも満たないようなあどけない姿に、白羽達はさらに驚く。


「あなたはこの病室で亡くなった園崎歌恋そのざきかれんちゃんで間違いない?」

「はい…。園崎歌恋です。」

「ねえ、歌恋ちゃんは、この人を傷つけてようとしてる?」


アイが、青葉を指さしつつそう問いかける。それを聞いた歌恋は不思議そうな顔で答えた。


「ううん?私、何もしてないですよ…?」

『えっ!?』


またも三人が驚愕する。

理解が追いつかず、口をはさむこともできない。


「でもね、多分歌恋ちゃんの存在がここの病室に入院する患者さんに影響を与えちゃってるの。」

「え……?そうなんですか…?」

「うん、歌恋ちゃんが抱えてる疑問は危ないものなんだよ。だから成仏しよ?」

「そっか…。ここで死んじゃった人は…。私、たくさんの人を……殺しちゃったんですか…?」


歌恋が恐々とそう尋ねると、アイは否定はせず、事実を答える。


「結果的にはそうだね。でもいいんだよ。ごめんなさいすれば。死んじゃった人がいく黄泉はね、悪い所じゃないから。だから、歌恋ちゃんもごめんなさいして、バイバイしよ?」

「はい。私、じょーぶつします。」


そう言って、歌恋は三人と、眠っている青葉の方を見て頭を下げる。


「ごめん、なさい。私、いっぱい、いっぱい迷惑かけました。」

『ああ…いや、あんまり気にするなよ(しないで)?』


三人は怒涛の展開をよく理解する間もなく、そう答えるしかなかった。

「ごめんなさい、でした。さようなら。」


そう言った歌恋の体が、優しい光に包まれて、スウッと空気に溶けるように消えていった。


『なっ!?』

「黄泉で幸せにね、歌恋ちゃん。」


そんなアイの呟きとともに、最後の光が空気に溶けてから一拍起き、三人の疑問が爆発する。


『つまり、どういうことだったんだ(の)?』


よくわからないうちにサラッと解決したアイに疑問をたたえた視線が集中する。


「歌恋ちゃんは、早く死ぬことになった自分に疑問と悲しみと未練をもって、その感情で霊になった類の子だと思ったんだよ。『どうして、自分はこんなに早く死んじゃったんだろ?』って。その疑問が呪いになって、無意識に患者さんに悪影響をって感じだと思う。」

『はあ…。』

「よくあるんだよね、こういうこと。話してみたらいい子だったから、そのまま成仏させちゃった。ゴメンね、主人公の見せ場貰っちゃってっ!!」


テヘペロッと舌を出しながら、アイがそう言う。

てか、主人公見せ場言うな。なお、なんのことかはわからない。


「青葉お姉ちゃんはこれで大丈夫。一件落着だね!!」

「なにはともあれ…よかったのか?」

「青葉…よかった…。」


病室が、安心したような雰囲気に包まれる。


「あら、園崎歌恋は成仏なさいましたの?」


と、そんな雰囲気があっという間に知らない声にぶち壊された。


「誰だっ!?」


怜斗が鋭く叫ぶ。

その声の先には、金髪を靡かせるひとりの少女が立っていた。

見た目は16歳くらいだろうか。だが、年相応ではない圧力を持った眼光が怜斗を捉え、少女は嗤う。


「あらあら、これはこれは"大罪人"八潮怜斗様。偶然ですわね。自己紹介が遅れまして……。わたくしは、黄泉の者ですわ。」

「黄泉…。」


怜斗が、『しまった…。』という表情を浮かべる。


「名は、鬼崎桃華おにさきももかと申します。以後、お見知りおきを。」


そう名乗り、桃華は優雅に一礼する。


「大罪人…?」


彼女の言葉の中に気になる単語を見つけ、白羽が首を傾げつつ呟く。


「あら。白羽さんはご存知ではなくて?意外ですわね。まあ、いいですわ。わたくしが彼を捕縛すればわたくしの手柄に…。」

「桃華"ちゃん"?」


自分の世界に入ったような桃華の独り言に、アイの声が割り込む。

その声は、いつもの無邪気なものではなかった。


「アイ…さん…。」

「怜斗お兄ちゃんは"私"が見てるから…ね?桃華ちゃんは自分の任務をこなしちゃえば?」

「しばらく黄泉で見かけないと思ったら…。こんなところにいましたのね。あなたが肩入れしているとなれば仕方ないですわ…。今日は彼には手を出しませんことにします。」

「あれ、桃華ちゃん。今日“は”なんて……。何か勘違いしてないかな?」


脅すような口調のアイに、少し冷汗を流しながら桃華はその真意を問う。


「……どういうことですの?」

「私は"手を引け"って言ってるんだよ?」



そう言うアイの雰囲気には、いつにもまして"凄み"があった。


「…ですが、もうすぐ"あの方"が到着するとおもいましてよ?」


アイの言葉に、溜息をついた桃華がそれまでの引いたような言葉とは一変して、諭すように言った。


「うん、わかってる。だから、それまでは…ね?」

「わかりましたわ…。」


アイとの問答を終えた桃華は、怜斗の方をまっすぐ見据える。


「今日のところはアイさんに免じて見逃して差し上げますわ。ですが、あの方が到着した時には……。覚悟なさいまし?」

「…ああ。」


どうやら茅の外に追いやられた白羽は、ただただ困惑するしかなかった。


「これからわたくしは、この町で起きている霊と人間の大量失踪事件の操作に向かうとしますわ。よろしければ、八潮怜斗とアイさんもいらっしゃれば?手はいくらあっても損ではないんですの。それではまた。」


桃華はそう言って一礼すると、窓から飛び降りた。


『…。』


病室を静寂が支配する。

白羽は混乱したような、説明を求めるような表情で怜斗を見る。

見つめられた怜斗は、いつになく厳しい顔で考え込みながら浮いている。



「ふぁ…。あれ?どうしたの?白羽…そんな顔をして…?」


と、不穏な空気を破るように、目覚めた青葉が声を出す。


「ううん、何でもないよ。体調はどう?」


白羽は、不安を振り払うように気丈な様子で青葉に駆け寄る。

青葉は無事に助かった。

それだけで良いはずなのに大きな影を落としつつ、この事件は幕を下ろしたのであった。

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