第十八話『熱中症にはご注意を』
「あーつーい…。」
縁日の次の日の朝。
ソファの上で寝ながら、白羽はぐったりとしていた。
朝の時点での気温は昨日よりも高い。
だが、霊である怜斗はやはり元気である。
「人間って大変だなあ。俺もそんな時があったんだなあ…。」
「私も霊になれば暑さから解放されるのかなあ…」
「あんまり面白いものでもないぞ。嗅覚と触覚はほとんど薄まるし…。なんか生きてる気がしないんだよなあ…。」
「いや、死んでるでしょ。」
「やはは、まあそうだな。」
白羽のツッコミにもあまりキレがなく、そこからもバテ気味なのが伺える。
「暑いなあ…。なんか飲もう…」
「熱中症気をつけろよー。室内だからって油断してるとやられるぞー。」
「うん、気をつけなきゃ…」
そんな話をしながらノンビリとした昼下がりを過ごしていると、白羽の家の電話が鳴る。
「はい、もしもし。仁科です。」
例のハイテンションな母が、部屋から出てきてハイテンションじゃない口調で電話に出る。
「はい、はい、あらまあ、大変ですねえ…。はい、はい、白羽に伝えます」
と、徹頭徹尾ハイテンションじゃない母親が電話を切り、白羽の方を向く。
「白羽ー、青葉ちゃんが熱中症で倒れて入院だってー。」
「えっ!?」
「うわあ…。いつもハイテンションな母親がハイテンションじゃないと思ったらすごく深刻な内容をすごい軽い感じで言ってきた…。」
怜斗が、母親の謎の生態に衝撃を受ける。
「大変そうだからお見舞い行ってきたら?」
「う…うん、そうする…。」
白羽は、心配よりも混乱が先に立ったような表情でそう言うと、お見舞いに行く準備を始めた。
-数分後-
「行ってきます…。」
「行ってらっしゃーい。」
かくして、いつもはハイテンションな母親の軽い見送りの声を背に、白羽は青葉のお見舞いに向かう。
「青葉、大丈夫かなあ…。」
「大丈夫だろ、熱中症だろ?亮も憑いてるし、大丈夫だ。」
「うん…。」
怜斗が元気づけようとするものの、白羽はどこか上の空で怜斗の言葉を聞き流している。
不安な表情のまま、白羽は病院に着く。
その病院は、彼女が事故のあとに入院していたのと同じ、伏吹病院であった。
それは今回の件とはあまり関係ないのだが。
「あのっ!?青葉…。二音青葉の病室はどこですか??」
「二音青葉様は1144号室です。」
「ありがとうございますっ!!」
受付で青葉の病室を聞き、白羽はかなり焦ったように移動する。
「白羽、病院だぞー、あんま焦るな。」
「だって!!」
「大丈夫だから。ほらほら、落ちつけって。」
そんなやり取りをしながらも、結局白羽が落ちつくことはなく1144号室に着く。
一刻も早く、という思いがこもったようにガラッと勢いよく扉を開く。
「青葉っ!!」
「白羽…?」
大声で名前を呼びながら部屋に入った白羽を迎えたのは、熱中症で倒れた直後にしては元気なような、そうじゃないような。なにはともあれ体調の悪そうな顔色をした青葉であった。
「よかったあ…。生きてた…。」
「やだなあ、ちょっと熱中症になっちゃっただけだよー。」
「体調はどう?」
「まだちょっと怠いかなあ…。」
「そっか……。熱とかは大丈夫?」
「多分大丈夫だと思うけど…。」
そんな会話をしている二人の上で、怜斗と亮が話をしていた。
「少し青葉の様子がおかしいんだ。」
「どういうことだ?」
「ここに来るまでに体調は回復傾向にあったんだ。だけど、この病院に入ったくらいから全く回復しない。いや、それどころかジワジワと衰弱してるんだ。」
「霊の力は?」
「正直いろいろな霊がいすぎて感じない。」
「そうか…。病院だしそうだろうな…。」
「ちょっと熱測るね?」
そう言いながら白羽はグイッと青葉の前髪を上げる。
『っ!?』
そこにあったものを見て、白羽と霊ふたりは驚愕の表情を浮かべる。
「どうしたの?白羽?」
「青葉……。おでこ!!」
そう言われて、青葉は鏡で自分の額を見るが――
「何もないよ。変な白羽。」
クスクスと笑いながらそう答える彼女の様子で三人は確信した。
そして、素早く念話で意志疎通をする。
『これは…。』
『この病院のどこかにいるのかな…?』
『だがどうにも気配が掴めない……。場所が悪いな……。』
『どうしよう…。』
『もちろん、見つけて叩き潰すしかないだろ。』
『ああ、早く見つけないと手遅れになる。』
厳しい顔をしている白羽のことを小首を傾げて不思議そうに眺める青葉の額には、禍禍しく光る黒いマークが浮かびあがっていた。
そう、まるで彼女を呪うように…。




