第十五話『夏休み初日-朝の動乱-』
ピピピッ!ピピピッ!
白羽の部屋に、電子音が響く。
「んん…。味噌汁が…味噌汁…。」
しかし、白羽は目覚めが悪い。
いつも、母親が起こしに来るまで起きないのだ。
「イタリアン…味噌汁ご飯…。」
そんな得体の知れない寝言を呟いている白羽のことを、怜斗がジト目で眺めている。
「こいつ、どんな夢を見てるんだ…。イタリアン味噌汁ご飯…??そういえば2時間くらい前に和風のキムチがどうとか言ってたな…。和風のキムチって何だ…?」
白羽は、どうしても料理に特殊なアレンジを加えたいようだ。
ちなみに、怜斗は寝ていない。
そもそも霊は寝なくてもいいようだ。ただ、人間であった頃の癖で寝ることもあるが。
そして、白羽の脳内は食べ物だらけなようだ。
白羽の脳内のことはどうでもいい。
「おい白羽、起きろー。目覚まし鳴ってるぞ?」
「ううっ…。味噌汁が迫ってくる…。」
「白羽!お前は何に終われてるんだっ!!」
「ハッ、味噌汁!」
白羽が、パッと目を開けた。
「俺は味噌汁じゃねえよっ!」
「あ、怜斗君だぁー。おはよぉ。」
「おう、おはよう。お前…どんな夢見てたんだよ」
「んー…?覚えてなぁい…。」
朝の白羽はいつにも増して緩い雰囲気である。
「お腹すいたぁ…。ごはぁん…。イタリアン味噌汁ご飯…。」
「お前絶対夢覚えてるだろっ!?」
しかし、白羽は怜斗のツッコミを無視して、フラフラしながらリビングに入る。
「おかあさんおはよ…。」
白羽が母に挨拶をする。
「おはよう、しら……は?」
白羽の母は、カチャンッと手に持っていた洗い物を落とす。
「白羽が自分で起きてきたっ!?今日は嵐かしら?台風かしら?もしかして天変地異……??いいえ、違うわね、成長ね…。成長なのねっ!?知らないうちに大きくなって……うぅっ…。」
ハイテンションに叫び出した母親が、うってかわってジワリと涙を浮かべる。
「おかーさん……ご飯あるー?」
白羽はそんな母親を無視する。
手慣れたものだ。
「はいはい、ちょっと待ってね。」
そう言って、母親はテキパキとご飯を作る。さっきの涙はどこへやら。
キッチンに戻った母親の手にあったものは、こんがりと焼けたチーズが食欲をそそるリゾットだ。
「いただきまーす。」
白羽はスプーンを手にとり、リゾットをすくう。
チーズの奥から出てきた物は――
「味噌汁ご飯…だとっ…!?」
後ろから見ていた怜斗が戦慄して思わず声を上げる。
白羽がイタリアン(作者の主観)な味噌汁ご飯を食べながら携帯をチェックしていると、電話が来た。
「ん、青葉だ。もしもしー?」
『もしもしー?おはよう白羽!』
「おはよー。どうしたの??」
『よかったら、今日アタシの家で夏休みの宿題やらない??』
「あ…宿題…。うえー…面倒…。学生最大の敵だよー…」
『だから早めに終わらせよーよ!もう弥呼子も呼んであるからさ!!』
「わかったー。」
『あ、あと夕方から縁日行かない??』
「伏吹神社の??いいよー。じゃあ浴衣も持ってくねー!」
『うんアタシも準備する!それじゃあまた後でね。』
「後でねー。」
電話が切れた。
恐らく勉強はついでで祭りが本命である。
「よし、そうと決まれば朝ご飯食べて準備しなくちゃ!」
白羽は、そう言ってパクパクとイタリアン(作者の主観)な味噌汁ご飯を口にほうり込む。
怜斗は、恐る恐る尋ねる。
「なあ…それ、美味いのか…」
「ひょひひーほ!!へいほふんほはへふー?」
「え…何て…?」
直訳すると、『おいしーよ!怜斗君も食べるー?』だ。
口に物を含んだ人が話す世界共通言語、ハ行語である。
ハ行語では、怜斗が某赤と緑なブラザーズの敵キャラみたいになっている。
「ゴクンッ!怜斗君も食べる??」
白羽がわざとらしくゴクンッと飲み込む。
なぜかはわからない。
「いや、俺はいいわ。てか物食えないし、霊だし…。」
「あ、そっかあ…。こんなに美味しいのになあ…。」
そんな会話をしていると、台所から母親の声が――
「白羽ー?なにか言ったー?誰かいるの??ハッ!?まさか白羽…空想の男の子と…おしゃべりを…。白羽っ!現実を見るのよ、白羽っ!!」
聞こえたはずなのだが、それと同時に母親が白羽の目の前に現れ、白羽をガクガクと揺する。こいつ、超能力者か……。
しかも、微妙に的中した予想である。
こいつ、預言者か……。
「あーうー…。おかーさんやめてえ…。違うのーっ!!」
「あっちゃあ…。ミスッたなあ…。質問しちまった……。」
揺すられている白羽を見ながら、怜斗はわざとらしく『やっちまった』と額に手を当てている。
「白羽!戻ってきて!現実はここよっ!!白羽ーっっ!!!」
「あうあー…。」
白羽の朝は、賑やかい。




