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スイート・スイーパー  作者: やまじゆう
鉄組壊滅作戦編
3/18

鉄組壊滅作戦3

  調査開始1日目。

  総介は、まず大徳寺涼音の行動パターンを探ることにした。

  涼音が通う『聖グレゴリウス女学院』は、日本でも有数の『お嬢様学院』として知られるミッション系スクールだ。

  母体は、イタリア・ローマに本拠地を置く『聖ベネディクト女子修道会』だが、校舎がイタリア政府の管轄敷地内にある為、治外法権が認められている。従って、イタリア国民と学院関係者以外は、基本的に立ち入り禁止となっている。

  現在、涼音はその学院の高等部1年に在籍している。

  7時00分、起床。涼音は、意外と寝起きが良く、朝の支度をテキパキと(こな)す。

  8時00分、自宅を出発。当然、運転手付きの高級外車での登校だ。

  8時20分、学院到着。お嬢様学校なだけあって、送迎車専用の駐車場も完備されている。

  朝礼後、9時00分、授業開始。涼音はクラブ等には在籍していないので、15時30分には下校となる。

  下校の際には、やはり運転手付きの高級外車で16時00分には帰宅する。

  そして、夕食を摂り、22時00分、就寝。

  これが、涼音の一日の行動パターンだ。

  涼音の一日を追っていた総介が、ある事に気が付いた。

  虎之介から受け取った涼音の顔写真には、可愛らしい笑顔の涼音が写っていたのだが、今日の涼音は、表情が暗く、周りの者を敵視している様にさえ伺える。

  22時20分、大徳寺邸を見張っていた総介が、裏門から外出する人影を見つけた。

  大きめのトートバッグを肩に掛け、自転車をこいで行く涼音の姿だ。

  総介も、美里亜から借りたママチャリに乗って、涼音の後を追った。


  「君、ちょっと待ちなさい!」


  総介は、不意に顔面を懐中電灯で照らされた。


  「ここで何をしてるんだ?」


  総介の前には、2人の警察官が立ち塞いでいる。

  どうやら、近所の住民から、『大徳寺邸の周りをうろつく不審者がいる』との通報があった様だ。

  一人の警察官が自転車を調べていると、登録証の名義が美里亜の名である事に気が付いた。


  「この自転車、どうしたの?アンタのじゃないよね!?」


  警察官は、完全に総介を疑っている。

  他人名義の自転車で、他人の家の周りをうろついている男を怪しまない訳がない。

  総介は仕方なく国際公認スイーパーのライセンスを提示した。

  警察官は念の為、PEPTで総介の身分を照会してみた。


「……うん、間違いないね」


  警察官の言葉に、総介はホッと胸を撫で下ろした。


  「でもアンタ、とても公認スイーパーには見えないなぁ。頼りないっていうか、ヘラヘラしてるっていうか……」


  言いにくい事をはっきり言う警察官だ。


「ははは……、よく言われます」


  結局、総介は涼音を見失い、今夜は調査どころではなくなった為、調査を明日へ持ち越す事にした。


 ・

 ・

 ・


  調査2日目。

  総介は、学院から帰宅後の涼音を張り込むことにした。

  実は出掛けに美里亜が、『張り込みも大変でしょう?』と、手作りの弁当を持たせてくれたのだ。

  総介は、美里亜の優しさに胸を熱くさせながら、ステンレス製の弁当箱を開けた。


  「……何ですか、これは?」


  中には『あんぱん』が、でんっ!と1個だけ入っていた。

  そして、蓋の裏には何やらメモが張り付いている。

 

  『張り込みと言えば、やっぱり、あんぱんですよねぇ』


  「…………」


  総介は、あんぱんを噛み締めながら、じっくりと味わった。

  しかし、この弁当箱。あんぱんが1個だけ入っていた割りには、デカくて重い。

  よく見ると、弁当箱は上げ底式となっている。

  底蓋を取ると、何と拳銃が入っているではないか!そして、メモが……。


  『護身用です。持っていて下さいね』


  これも、美里亜の優しさなのだろうか?

  22時20分、涼音は、昨夜と同じ様に大きなトートバッグを肩に掛け、自転車をこいで出て行った。

  総介も、周りに注意を払いながら涼音の後を追った……。


 ・

 ・

 ・


  涼音は、駅前の駐輪場に自転車を止めると、足早に駅構内の女子トイレへ入って行った。

  総介は、女子トイレの出入り口が見える所で涼音が出て来るのを待った。

  10分経過。涼音は未だ中だ。

  20分経過。人の出入りは多いが、涼音は未だ出て来ない。

  30分経過。女子トイレの方をチラチラと見ている総介に対し、周りが不信感を募らせ始めたその時……。

  金髪のツインテールに黒のひらひら衣装を着た少女が、女子トイレから颯爽と現れた。


  (変ですねぇ……、あんな娘が入った憶えはありませんが……)


  総介は背格好からして、あのゴスロリ娘が変装した涼音であると確信した。そして、夜の繁華街に消えて行く涼音の後を追った。


 ・

 ・

 ・


  涼音は、目的地がある訳でもなく、夜の駅前通りをただ歩き回っているだけだった。

  途中、擦れ違う若い男達に声を掛けられていたが、相槌を打つだけで、ひたすら歩き続けていた。


 

  (彼女は、誰かを探しているのでしょうか……?)


  総介は、涼音が周りをキョロキョロと見渡しながら歩き続けている事が気になった。


  「おい、アンタ!キャサリンに何の用だ!?」


  突然、総介は背後から肩を掴まれた。いつの間にか、10人程のヤンキー達に取り囲まれていたのだ。

  しかも、ヤンキー達は金属バットやら鉄パイプやら物騒な武器まで持っている。


  「キャサリン……ですか?」


  ヤンキー達の後ろには、キャサ……もとい、涼音がこちらを見つめて立っていた。


  「懲りないなぁ、アンタ等も。キャサリンを付け狙う奴は、俺達が徹底的に排除するって言っただろ!」


  (なるほどねぇ……)


  総介は合点がいった。ゴスロリ娘に変装した涼音は、この辺では『キャサリン』と呼ばれており、父親が雇ったボディガードや探偵達は、この取り巻き達によって袋叩きに遭っていたのだろう。


  (これじゃあ、2日ともちませんよねぇ……)


  「困りましたねぇ。ここは何とか話し合いで……」


  「済まねーよ!」


  いきなり、ヤンキーの内の1人が、鉄パイプで殴り掛かって来た!

  総介は、鉄パイプをヒョイと避け、ヤンキーの足を引っ掛けて転ばせた。

  それを見た他の連中は、総介目掛けて一斉に殴りかかって来た!

  総介は、ブンブンと振り回される金属バットや鉄パイプを巧みに(かわ)しながら、相手の懐に入り、鳩尾(みぞおち)に向かって打ち込む!打ち込む!打ち込んだ!!!

  僅か、2分足らずの出来事だった……。地面には、約10人のヤンキー達が腹を押さえながら、のたうち回っている。


  「大丈夫ですよ。手加減していますから」


  総介は呆然と立ち(すく)んでいるキャサリン……いや、涼音にゆっくりと近付いた。


  「コラ、何してる!?」


  聞き覚えのある声だ。

  総介が声のする方へ振り向こうとした時だった……。


  バチバチバチ……!


  何と、涼音は総介の下腹部にスタンガンを当て、50万ボルトの電圧を放ったのだ!


  「がっ……!?」


  総介は、足下から崩れ落ちる様に倒れた。


  「助けて下さい!この人、ストーカーなんです!」


  そう言うと涼音は、その場から走り去って行った。

  後から2人の警察官が近付いて来て、地面に(うずくま)っている総介の顔に懐中電灯を当てた。


  「またアンタか……?」


  昨夜の警察官だ。

  通行人から喧嘩の通報を受けて、駆け付けたのだという。

  警察官は、周りの状況を見渡した後、深い溜め息をついた。


  「はぁ……、喧嘩にストーカー行為か……。さすがに今回は、見逃す事が出来ないよ!」


  総介は、今回ばかりはと諦めかけた……。


  「悪いが、その男への手出しは無用だ!」


  高級ブランドのスーツをビシッと着こなし、モデル並みのスタイルを持つ美女が、野次馬を掻き分けて近付いて来る。


  「警視庁広域犯罪対策本部の神崎警視だ。彼は、我々が極秘捜査を依頼している人物だ。速やかに身柄を引き渡して欲しい!」


  もちろん、『極秘捜査』というのは嘘だ。

  彼女が提示した身分証には、確かに『神崎茉里華警視』と記載されている。


  「これは警視殿、御苦労様です」


  警察官は、素直に総介を引き渡すと、倒れ込んでいるヤンキー達を集めて、最寄りの交番へ連行した。

  茉里華は、神崎三姉妹の長女であり、次期神崎家当主となる人物だ。

  英国ケン〇リッジ大学卒業後、スコットランドヤードことロンドン警視庁への2年間に渡る捜査研修を経て帰国後、新たに設置された『警視庁広域犯罪対策本部』の初代本部長に就任したほどの女傑だ。


  「……それで、お前は何をしている?」


  「よ……夜遊び娘の……素行調査を……。はは……」


  総介は、未だ下半身が痺れて身動きを取る事が出来ない。


 ・

 ・

 ・


  『喫茶店ひだまり』脇の駐車スペースには、茉里華の愛車、黒いフェ〇ーリが止まっている。


  「まったく……。人だかりが出来て、何かと思って見に行くと、まさか、お前が警官に確保され掛かっていたとはな!」


  「茉里華さんのお陰で助かりました」


  時計は、既に夜中の2時を回っていた。

  茉里華は、まともに動けない総介を車に乗せ、『喫茶店ひだまり』まで連れて来た。


  「全く、お前という男は……、私達に恥をかかせるな!」


  茉里華は、以前から事ある毎に総介の尻拭いをして来た。その為、茉里華にとっての総介は、トラブルメーカーとも言える存在なのだ。


  「大丈夫ですよ、茉里華姉様。総介さんには、いつも色々な意味で助かっていますから。あ、どうぞ召し上がって下さい!」


  美里亜が、厨房から焼きたてのピザを運んで来た。


  「そうだよ茉里姉。総ちゃんだって頑張ってるんだよ!」


  なぜか、聖理奈までいる。しかも、ちゃっかりピザをつまんでいる。


  「お前達が、そうやって甘やかすから、コイツはいつまで経っても、うだつが上がらないのだぞ!」


  「ははは……」


  「ヘラヘラするな!シャキッとしろ、シャキッと!」


  茉里華が喝を入れる。


  「元デリーターが、聞いて呆れる……」


  「……」


  茉里華の何気ない一言に、美里亜と聖理奈は反応を示した。


  「デリ……、何でしょうか?」


  「茉里姉、今『デリーター』って言ったよね?何の事!?」


  「い、いや……、何でもない。今担当している事件のキーワードの一つだ。失言だった。気にするな……」


  茉里華は、何とか誤魔化したつもりだが、2人は怪訝な表情を浮かべている。

  2人は総介に顔を向けたが、『何の事だかさっぱり』というゼスチャーで返されてしまった。


  「とにかく2人共!総介をあまり甘やかすな。本人の為にならんからな!」


  茉里華は、それだけ言うと足早に店を出た。


  (あの子達に総介の過去を知られてはいけない。もし、知られてしまったら……)


  (総介の居場所が、なくなってしまう……)

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