パーティーとレート
前回のおさらい
新装備完成。その性能に驚く人々。
新装備を受け取ってから数日後。
蓮と恵は《黒影》と《翠牙》の調整を兼ね、森林地帯で軽い探索を終えて第一居住区へ戻ってきていた。
夕暮れに染まり始めた協会前。
討伐素材を換金し、白銀亭へ戻ろうとしたその時だった。
「あの……神代さん。」
聞き覚えのある声に振り返る。
そこには皐月雛乃が立っていた。
以前より表情は引き締まり、探索装備にも使い込まれた跡がある。
腹部を負傷したあの日から数か月。
もう傷はほとんど癒えていた。
「皐月さんこんにちは。」
恵も笑顔で手を振る。
「雛乃ちゃん久しぶり!」
「はい。」
皐月も笑顔を返したものの、その表情にはどこか緊張が滲んでいた。
「少し、お時間をいただいてもいいですか?」
蓮はその様子を見て、小さく頷く。
「もちろん。」
三人は協会裏手の人気の少ない広場へ移動した。
夕日が石畳を赤く照らしている。
しばらく沈黙が続いた。
皐月は一度深呼吸すると、真っ直ぐ蓮を見つめた。
「神代さん。」
「お願いがあります。」
その瞳には迷いがない。
「私を……。」
「お二人のパーティーへ入れていただけませんか。」
静かな風が吹き抜けた。
恵も驚いたように目を丸くする。
「雛乃ちゃん……。」
皐月はゆっくり頭を下げた。
「あの日……私は神代さんに助けられました。もし来ていただけなければ、今ここにはいません。」
あのイヴガルムとの戦い。
命を失いかけた恐怖は、今でも夢に見ることがある。
「最初は、ただ憧れていただけでした…強くて、優しくて、誰も見捨てない探索者。でも今は違います。」
皐月は拳を握る。
「隣で戦える探索者になりたいと思っています。」
「助けられる側じゃなく、助ける側になりたい。」
「だから。私を鍛えてください。」
「お願いします。」
再び深く頭を下げる。
その姿に、恵は優しく微笑んだ。
蓮は少しだけ考え込む。
皐月の実力は知っている。
第五ゲヘナへ来た頃とは比べものにならないほど成長した。
魔法の精度、判断力、精神力。
どれも着実に伸びている。
しかし。
蓮は静かに口を開いた。
「皐月さん。俺たちがこれから向かう場所は、森林地帯より危険です。その先には、まだ誰も踏破していない雪山もあります。」
皐月は頷いた。
「分かっています。」
「命を落とすかもしれません。」
「それでもです。」
蓮は続ける。
「今のまま連れて行けば。皐月さんは死ぬかもしれない。」
その言葉は厳しかった。
しかし責めているわけではない。
仲間になる以上、命を預かる責任がある。
だからこそ、誤魔化しは許されなかった。
それでも皐月は顔を上げる。
「それでも諦めません。今の私では足りないことも分かっています。だから強くなりたいんです。」
その目は揺るがない。
蓮はその瞳を見つめた。
あの日、第五ゲヘナへ来たばかりで不安そうだった少女は、もういなかった。
そこに立っているのは、一人の探索者だった。
隣で話を聞いていた恵が、小さく笑う。
「蓮。」
「うん。」
蓮も頷く。
そして皐月へ向き直った。
「一つ条件があります。」
皐月の表情が引き締まる。
「条件……ですか?」
「次の探索…俺たちは雪原地帯へ行く予定です。その前に…森林地帯最深部まで、一緒に探索しましょう。」
皐月は息を呑む。
「そこで。実力だけじゃなく。判断力。連携。危険への対応。全部見ます。それで仲間として十分だと判断したら。」
蓮は静かに微笑んだ。
「正式にパーティーへ迎えます。」
一瞬、皐月は言葉を失った。
そして。
「……はい!」
今までで一番大きな返事をした。
その目には涙が滲んでいた。
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げる。
恵も嬉しそうに笑う。
「これで終わりじゃないよ?」
「試験だからね。」
「はい!絶対に認めてもらいます!」
力強い返事だった。
蓮はそんな皐月を見て、小さく笑みを浮かべる。
「じゃあ…三日後。」
「はい!」
夕焼けに照らされた協会前。
こうして、新たな仲間候補を迎えるための試験が決まった。
そしてこの試験が、神代蓮、一条恵、皐月雛乃という新たな三人のパーティー誕生への第一歩となるのだった。
夕暮れ。
皐月と別れた蓮と恵は、そのまま探索者協会本部へ立ち寄っていた。
討伐報告を終え、帰ろうとしたその時。
「神代、一条。」
低く落ち着いた声が二人を呼び止める。
振り返ると、黒崎が立っていた。
「少し時間をくれ。」
「はい。」
二人は頷き、黒崎の後に続いて協会奥の応接室へ入る。
部屋へ入ると、机の上には数枚の書類が並べられていた。
黒崎は椅子へ腰を下ろし、真剣な表情で口を開く。
「まずは改めて言わせてくれ。迅影竜イヴガルム討伐、ご苦労だった。」
「ありがとうございました。」
蓮が静かに頭を下げる。
「お前たちのおかげで第五ゲヘナ森林地帯の脅威は大きく減った。」
「協会としても感謝している。」
黒崎は一枚の書類を手に取った。
「今日は、その件について正式な通達がある。」
蓮と恵は自然と姿勢を正す。
「神代蓮。」
「現在の探索者レートはA。」
「しかし今回、お前はS+レート魔物《迅影竜イヴガルム》を実質単独で討伐した。」
恵は黙って蓮を見つめる。
あの戦いを最も近くで見ていたのは自分だ。
皐月たちを守りながら、最後まで一人で戦い抜いた。
救援部隊が到着した時には、既に決着はついていた。
あれは紛れもなく単独討伐だった。
黒崎は静かに続ける。
「協会本部でも何度も協議を重ねた。」
「討伐記録。」
「救援部隊の証言。」
「《黒狼》の報告書。」
「全てを確認した結果――。」
一度言葉を切り、蓮を真っ直ぐ見据える。
「本日付で、お前の探索者レートをSへ昇格とする。」
部屋に静かな空気が流れた。
蓮は少し驚いたように目を瞬かせる。
「……S。」
黒崎は頷く。
「第五ゲヘナでも数えるほどしか存在しない領域だ。年齢を考えれば異例中の異例だが、実績がそれを証明している。」
恵は自然と笑みを浮かべた。
「おめでとう、蓮。」
「ありがとう。」
蓮は照れくさそうに笑う。
しかし、その表情はどこか複雑だった。
黒崎はそんな蓮を見て、小さく笑う。
「浮かない顔だな。」
「……まだ実力不足だと思っています。」
蓮は正直な気持ちを口にした。
「イヴガルムには勝てました。でも、勝ったというより、ギリギリ生き残れたという感覚です。」
その言葉に、黒崎は満足そうに頷いた。
「だからこそ、お前はSに相応しい。」
「自分の力を過信しない探索者ほど、生き残る。その姿勢を忘れるな。」
そう言って、一枚の新しい探索者証を机の上へ滑らせた。
漆黒のカードのには、金色の文字でSと刻まれている。
それは第五ゲヘナでも限られた者しか持つことを許されない、最高位探索者への第一歩を示す証だった。
蓮はその探索者証を静かに受け取り、小さく息を吐く。
「……はい。これからも、一歩ずつ強くなります。」
「そしてそれに伴い、《絆》のパーティーレートをA+とする。」
「ありがとうございます。」
その瞳は、新たな目標――雪原地帯、そしてさらに先に待つ未知の強敵へと、すでに向けられていた。
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