Sレート
今回短めです!
夕日に照らされた第一居住区では、多くの探索者たちが行き交っている。
「パーティーレートがA+になったことで、お前たちが受けられる依頼も変わる。」
そう言いながら、一冊の資料を机へ置いた。
「これが?」
蓮が手に取る。
表紙には大きく『第六エリア調査資料』と記されていた。
「第六エリア……。」
恵が小さく呟く。
黒崎は頷く。
「ああ。森林地帯のさらに北側に広がる雪原地帯だ。」
蓮はページをめくる。
そこには白一色に染まった大地の写真と簡易地図が載っていた。
一面の雪。
吹き荒れる吹雪。
氷に覆われた湖。
巨大な氷柱。
そして遠くには白銀の山脈が連なっている。
「綺麗……。」
恵は思わず見惚れていた。
しかし黒崎は真剣な表情を崩さない。
「景色に見惚れていられる場所じゃない。」
「最低気温は氷点下十度。吹雪になれば視界は数メートル。」
「魔力で身体を保護し続けなければ、凍死する可能性もある。」
恵の表情が引き締まる。
「そんなに……。」
「森林地帯とは危険の種類が違う。まぁ《寒冷耐性アンチコールド》があれば話は変わってくるが…」
黒崎は資料のページをめくる。
そこには雪原に生息する魔物が並んでいた。
《アイスラビット》Bレート
《ホワイトスケイル》B+レート
《ブリザードイーグル》Aレート
《クリスタルゴーレム》A+レート
「ほとんどが氷属性だ。しかも雪へ潜る魔物も多い。」
「《探知》最大の神代でも油断はするな。」
「はい。」
蓮は静かに頷く。
さらにページをめくる。
最奥部分だけが黒く塗り潰されていた。
「ここは?」
「未調査区域だ。」
黒崎が短く答える。
「雪原のさらに奥。」
「雪山地帯への入り口だ。」
部屋の空気が少しだけ重くなる。
「現在判明しているのは入口付近まで。」
「その先は誰も帰ってきていない。」
「つまり情報はゼロだ。」
蓮は資料を閉じた。
「だから調査隊が必要なんですね。」
「その通りだ。」
黒崎は腕を組む。
「今回、お前たち《絆》には雪原地帯の調査依頼を正式に任せたい。」
「調査が最優先。討伐は二の次。未知の魔物や地形、危険区域を記録してきてくれ。」
「分かりました。」
黒崎はふっと表情を緩める。
「それともう一つ。」
「神代。」
「はい。」
「お前がSレートになったことで、これからは周囲の見る目も変わる。」
「期待する者。」
「利用しようとする者。」
「妬む者。」
「全部増える。」
蓮は静かに聞いていた。
「力を持てば責任も増える。今まで以上に自分を律しろ。」
「……はい。」
短い返事だった。
しかしその声には強い意志が宿っていた。
黒崎は満足そうに笑う。
「よし!話は終わりだ、今日はゆっくり休め。明日からまた忙しくなるぞ。」
「ありがとうございました。」
二人は頭を下げ、応接室を後にした。
◇◇◇
協会を出ると、外はすっかり夜になっていた。
石畳の道には魔導灯が灯り、探索を終えた人々の笑い声が響いている。
恵は歩きながら蓮を見上げた。
「Sレートかぁ。」
「まだ実感ない?」
蓮は苦笑する。
「全然。」
「イヴガルムに勝てたのも紙一重だったし。」
「でも。」
恵は嬉しそうに笑う。
「私は嬉しいよ。」
「蓮が努力してきたの、一番近くで見てきたから。」
蓮は少し照れたように視線を逸らす。
「ありがとう。」
しばらく並んで歩く。
すると恵がふと思い出したように口を開いた。
「三日後。」
「雛乃ちゃんの試験だね。」
「ああ。」
「どう思う?」
蓮は少し考えてから答える。
「実力は十分伸びてる。」
「でも、それだけじゃ仲間にはできない。雪原は今まで以上に危険だから。」
「誰か一人の判断ミスが全滅に繋がる。」
恵も真剣な表情で頷く。
「だから私もちゃんと見る、戦い方だけじゃなくて、周りを見られるか、冷静でいられるか、助け合えるか…全部。」
蓮は微笑んだ。
「さすが副リーダー。」
「えへへ。」
少し照れ笑いを浮かべる恵。
白銀亭の灯りが見えてくる。
蓮は夜空を見上げ、小さく息を吐いた。
「まずは皐月さんの試験だ。」
「その先に雪原地帯。」
「忙しくなりそうだね。」
恵が笑う。
「ああ。」
二人は歩幅を合わせ、白銀亭への帰路を歩いていく。
三日後に控えた新たな仲間との試験。
そして、その先に待つ未知の雪原地帯。
新たな仲間と新たな装備を得た《絆》の次なる挑戦が、静かに幕を開けようとしていた。
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