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目覚め

前回のおさらい

遂にイヴガルムとの因縁の戦いに終止符が打たれる。

数日後。

第一居住区探索者協会・医療棟。

白い天井をぼんやりと見つめながら、蓮はゆっくりと目を開けた。

「……ここは。」

身体を起こそうとした瞬間、全身に鈍い痛みが走る。

「いっ……。」

「まだ起きちゃ駄目。」

聞き慣れた声だった。

隣の椅子には恵が座っている。

目の下には薄く隈ができていた。

「恵……。」

「三日も寝てたんだよ。」

「三日?」

蓮は思わず聞き返した。

《刻の支配者(クロノスリング)》の反動は以前よりも大きかったらしい。

魔力枯渇。

筋繊維の損傷。

全身打撲。

肩と肋骨を骨折。

臓器へのダメージ。

医師からは「あと少し無理をしていたら命が危なかった」とまで言われたという。

「みんなは?」

「大丈夫。」

恵は安心させるように微笑む。

「皐月ちゃんたちも助かったよ。」

その言葉に、蓮はようやく肩の力を抜いた。

「……良かった。」

「神代さん。」

病室の扉が開く。

皐月雛乃だった。

腹部にはまだ包帯が巻かれているものの、自分の足で歩けるまで回復している。

「ありがとうございました。」

病室へ入るなり、深々と頭を下げた。

「私たち……神代さんが来なかったら。」

その先は言葉にならない。

蓮は苦笑しながら首を振った。

「間に合って良かった。」

「それだけだよ。」

皐月は目を潤ませながら頷いた。

「あの時……。助けを求めたんです。神代さんなら来てくれるって。」

蓮は少し驚いたような顔をした。

「そうだったんだ。」

「はい。」

皐月は照れくさそうに笑う。

「本当に来てくれました。」

恵も微笑む。

「蓮ってそういう人だから。」

病室は穏やかな空気に包まれた。


◇◇◇


さらに一週間後。

蓮はようやく探索許可を受けた。

まだ激しい戦闘は禁止。

それでも普通に歩けるまで回復していた。

協会本部では、多くの探索者が蓮へ視線を向けていた。

「いたぞ。」

「イヴガルムを単独で討伐した神代だ。」

「本当に高校生か?」

「第五ゲヘナ史上S+を単独で討伐したのは初じゃないか?」

以前よりもさらに大きな騒ぎになっていた。

S+レート迅影竜イヴガルム討伐。

その功績は第五ゲヘナだけでなく、日本中へ広まり始めていた。

「相変わらず落ち着かないね。」

恵が苦笑する。

蓮も困ったように笑うだけだった。

そこへ桐生が近付いてくる。

「よう。」

「退院祝いだ。」

机へ一冊の資料を置いた。

「これは?」

「イヴガルムの解体結果だ。」

蓮はページをめくる。

そこには膨大な素材一覧が記されていた。

尾骨。背骨。翼骨。牙。爪。逆鱗。心臓。魔石。鱗。

どれも最高品質。

「協会の査定じゃ全部売れば、とんでもねぇ額になる。」

桐生が苦笑する。

「下手すりゃ一生遊んで暮らせる。」

恵が思わず目を丸くした。

「そんなに……?」

「S+レートだからな。」

しかし蓮は資料を閉じる。

「売りません。」

「……ほう?」

桐生はニヤリと笑う。

「お前ならそう言うと思ったぜ。」

蓮は静かに頷く。

「あのイヴガルムは、命を懸けて戦った相手です。簡単に素材として売る気にはなれません。」

「それに。」

腰の《黒迅》へ視線を落とす。

「もっと強くなりたい…この先、もっと強い敵が現れる。あの素材なら、そのための装備を作れると思う。」

桐生は満足そうに腕を組んだ。

「それでいい。俺も売るより、その方が価値があると思ってた。それに……」

恵の方を見る。

「恵のレイピアもこれを機に新しくしようと思って。」

恵は驚く。

「え?」

「恵の武器も強くしたいと思ってたんだ。一緒に戦うんだから。」

その一言に恵は嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう。」


◇◇◇


その日の午後。

二人は鍛冶街を訪れていた。

「親方。」

工房へ入ると、あの豪快な鍛冶師が振り向く。

「おう。戻ってきたか。」

そして収納袋から取り出された素材を見た瞬間。

親方は言葉を失った。

巨大な牙。

黒曜石のような逆鱗。

鋭い爪。

巨大な翼骨。

魔石……その他イヴガルムの素材。

「……全部持って帰ってきたのか。」

「はい。」

蓮は頷く。

「討伐できました。」

親方は静かに笑った。

「ニュースは聞いた。だが実物を見ると違うな。」

職人としての血が騒いでいるのが分かる。

「今度は何を作る?」

蓮は答えた。

「まず俺の装備です。」

「黒迅を最大限活かせる防具。」

「軽くて動きやすく、防御力も高いもの。」

親方は頷く。

「飛竜の鱗ならできる。胸当てだけじゃねぇ。肩、籠手、脚甲まで全部作れる。重量も軽い。しかも魔力伝導率は最高クラスだ。」

蓮は続ける。

「それと。」

恵を見る。

「恵の新しいレイピアもお願いします。」

親方の目が光る。

「ほう。」

恵は少し緊張しながら前へ出た。

「できれば……。速さを活かせる武器が欲しいです。突きに特化していて、魔力も流しやすいもの。」

親方は腕を組む。

しばらく考え込む。

やがて口角を上げた。

「面白ぇ。任せろ。飛竜の牙を芯に使う。鱗を刀身へ圧着。魔石を組み込めば……。普通のレイピアじゃ終わらねぇ。お嬢ちゃん専用の一本になる。」

恵の表情が明るくなる。

「本当ですか!」

「ああ。」

親方は笑った。

「神代の魔剣に負けねぇ相棒を作ってやる。」

蓮は素材を見つめる。

迅影竜イヴガルム。

命を懸けて戦った飛竜。

その力は終わることなく、自分たちの未来を支える新たな力へと受け継がれていく。

工房の奥では、再び炉へ火が入れられる。

ゴォォォォッ――。

赤く燃え上がる炎を見つめながら、親方は静かに呟いた。

「さて……。」

「俺史上最高の装備を打つとするか。」

こうして、迅影竜イヴガルムの遺した力は、新たな伝説を紡ぐための武具へと生まれ変わろうとしていた。

誤字脱字等御座いましたら指摘お願いします!

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