皐月雛乃の探索#2
引き続き皐月雛乃視点です。
前回のおさらい、臨時パーティーでの草原地帯も慣れ始め、森林地帯を視野に入れ始める皐月一行。
一週間後。
皐月雛乃は、森林地帯の入口に立っていた。
朝靄に包まれた森は、草原とはまるで別世界だった。
高くそびえる巨木。
地面を覆う苔。
昼間だというのに薄暗い木漏れ日。
湿った空気が肌へまとわりつく。
「緊張してるか?」
先輩探索者が笑いながら声を掛ける。
「……はい。」
雛乃は素直に頷いた。
今日が初めての森林地帯探索。
もちろん奥深くまで入るわけではない。
入口から数百メートル程度。
草原地帯より一段階危険な場所へ慣れることが目的だった。
「大丈夫だ。」
前衛の男性が剣を肩へ担ぐ。
「今日は入口付近だけだ。」
「フォレストベアが出ても一体程度。」
「俺たちが前に出るから、お前はいつも通り援護だけ考えろ。」
「はい!」
深呼吸を一つ。
雛乃は杖を握り直した。
(神代さんも最初はここから始めたんだよね。)
そのことを思うと、不思議と勇気が湧いてくる。
◇◇◇
森へ足を踏み入れる。
草原とは音が違った。
葉擦れ。
鳥型魔物の鳴き声。
どこか遠くで枝が折れる音。
何がどこにいるのか分からない。
その未知への恐怖が、草原とは比べ物にならない。
「止まれ。」
先頭が小さく手を上げた。
「アサルトエイプ二体。」
雛乃もすぐに魔法の準備へ入る。
「風精よ、刃となれ――《ウィンドエッジ》!」
風刃が木の陰から飛び出した一体の腕を切り裂く。
「ギャアッ!」
怯んだところへ前衛が飛び込み、一撃で仕留めた。
もう一体も数分とかからず討伐。
「いい援護だ。」
「ありがとうございます!」
草原とは違う。
木々が視界を遮り、魔法も通しにくい。
それでも落ち着いて戦えた。
(私……ちゃんと戦えてる。)
少しだけ自信がついた。
◇◇◇
その後も慎重に進み、フォレストベアとも遭遇した。
巨大な体躯に一瞬息を呑む。
しかし先輩たちは慌てない。
「皐月!」
「はい!」
「火精よ、槍となれ――《フレイムランス》!」
炎槍が熊の視界を塞ぐ。
その隙に前衛が横へ回り込み、脚を斬る。
「今!」
「《アクアバインド》!」
水流が足へ絡み付き、動きを止める。
最後は全員の連携で討伐成功。
「やった……。」
雛乃は思わず笑顔になる。
森林地帯でも戦えた。
まだ先輩たちに守られてばかりではある。
それでも役には立てた。
◇◇◇
昼を過ぎた頃。
「もう少しだけ先まで行こう。」
隊長が地図を見ながら言う。
「この辺りなら問題ないはずだ。」
全員が頷いた。
森は相変わらず静かだった。
風も穏やか。
鳥の鳴き声も聞こえる。
異変など何一つない。
「神代たちは、このもっと奥まで行ってるんだよな。」
誰かが呟く。
「化け物だよな。」
「イヴガルムと戦って生きて帰ってくるんだから。」
雛乃も苦笑する。
(本当にすごい。)
そう思いながら歩いていた、その時だった。
ピタリ。
雛乃の足が止まる。
「……え?」
森が静かすぎる。
さっきまで聞こえていた鳥の声が消えていた。
葉擦れもない。
嫌な静けさ。
「隊長。」
雛乃が小さく声を掛ける。
「何か変です。」
「……。」
隊長も周囲を見回す。
その瞬間だった。
ズァァァァッ!!
黒い影が巨木の間を駆け抜けた。
「!!」
誰も姿を視認できない。
ただ風圧だけが通り過ぎる。
次の瞬間。
ガァァァァン!!
最後尾にいた探索者が吹き飛ばされた。
「がはっ!!」
巨木へ激突。
血を吐き、そのまま動かなくなる。
「敵襲!!」
全員が武器を構える。
しかし見えない。
どこにもいない。
「どこだ!」
ズァァァッ!!
再び黒い影。
今度は前衛の肩が切り裂かれた。
鮮血が舞う。
「速い!」
「見えない!」
雛乃は震える手で周囲を見回す。
その時。
巨木の上。
翠色の双眸がこちらを見下ろしていた。
全長八メートル。
漆黒の鱗。
巨大な翼。
そして半分ほど失われた尾。
「まさか……。」
雛乃の顔から血の気が引く。
「迅影竜……イヴガルム……。」
その名を口にした瞬間。
隊長が叫ぶ。
「救難信号だ!!」
「今すぐ撃て!!」
「は、はい!」
震える手で魔道具を空へ掲げる。
赤い光が一直線に空へ昇った。
ピィィィィィッ!!
救難信号。
だが。
それを放った瞬間。
イヴガルムが動いた。
「ギャァァァッ!!」
爪が隊長の胸を切り裂く。
「隊長!!」
「逃げろ……!」
血を吐きながら叫ぶ。
しかし逃げられない。
速すぎる。
ガァン!!
前衛が吹き飛ぶ。
ドゴォン!!
別の探索者が尾で薙ぎ払われる。
わずか十数秒。
パーティーは壊滅状態になった。
雛乃も炎魔法を放つ。
「《フレイムランス》!」
しかし。
イヴガルムは首をわずかに傾けただけで回避。
次の瞬間。
鋭い爪が雛乃へ迫る。
「っ!」
咄嗟に杖で受ける。
バキィッ!!
杖が真っ二つに砕け防具も裂け鮮血が舞う。
衝撃で身体が吹き飛ぶ。
「きゃあぁっ!」
巨木へ激突。
肺から空気が押し出される。
全身が痺れた。
右腕が動かない。
肋骨も折れている。
視界が霞む。
「はぁ……はぁ……。」
立てない。
イヴガルムがゆっくり近付いてくる。
翠色の瞳。
あの日、蓮たちを襲った飛竜。
(いや……。)
怖い。
まだ死にたくない。
涙が溢れる。
(助けて……。)
先輩たちは皆倒れている。
誰も立ち上がれない。
救援はまだ来ない。
(神代さん……。)
自然と、その名前が浮かんだ。
(助けて……神代さん……。)
もう届くはずもない願い。
そう思った、その瞬間だった。
森の奥……
高速で接近する一つの魔力反応。
イヴガルムと同等勢いで一直線にこちらへ向かってくる。
ズァァァァァッ!!
木々を駆け抜ける黄金の閃光。
次の瞬間。
イヴガルムが振り下ろした爪を、黄金色の盾が真正面から受け止めた。
ギィィィィィン!!
凄まじい衝撃が森中へ響く。
黄金色の魔力が周囲を照らす。
「……間に合った。」
静かな少年の声。
雛乃は震える瞳をゆっくりと上げた。
そこには、漆黒の魔剣《黒迅》を構え、イヴガルムと対峙する神代蓮の背中があった。
「ここからは……俺が相手だ。」
その一言と共に、黄金の魔力が森全体を包み込んだ。
誤字脱字等御座いましたら指摘お願いします!
続きが気になる!面白い!と思ってくださったら評価、ブックマークをお願いします。励みになりますm(_ _)m




