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皐月雛乃の探索#1

今回と次回は皐月雛乃視点になります!

数日後。

朝日が第五ゲヘナ第一居住区を柔らかく照らし始める頃。

皐月雛乃は、いつものように白銀亭の部屋で目を覚ました。

「……よし。」

小さく気合いを入れ、制服代わりとなった探索装備へ着替える。

窓を開けると、朝の冷たい空気が頬を撫でた。

居住区では既に探索者たちが活動を始めている。

武器を手入れする者。

仲間と作戦を確認する者。

宿を出て協会へ向かう者。

最初に第五ゲヘナへ来た頃は、その光景を見ているだけで緊張していた。

自分は本当にここでやっていけるのだろうか。

第四ゲヘナとは比べ物にならない強者たちの中で、生き残れるのだろうか。

そんな不安ばかりだった。

しかし今は違う。

もちろん怖さはある。

それでも、毎日少しずつ経験を積み重ねることで、自分にもできることがあると分かってきた。

「今日も頑張ろう。」

そう呟いて部屋を出る。


◇◇◇


白銀亭の食堂では、朝食の準備が始まっていた。

焼きたてのパンの香りが漂い、探索者たちが思い思いに食事を取っている。

雛乃も朝食を受け取り、空いている席へ腰を下ろした。

ふと視線を向けると、少し離れた席には神代蓮と一条恵の姿があった。

「あ……。」

二人も朝食を食べながら、その日の探索について話しているようだった。

恵が楽しそうに何かを話し、蓮は静かに頷いている。

その穏やかな光景を見ていると、不思議と安心する。

(今日も二人は森林地帯かな。)

今では協会中で知らない者はいない。

S+レートの飛竜《迅影竜イヴガルム》と遭遇し、生還した探索者。

さらに、その素材から魔剣まで作り上げた少年。

それでも本人は何一つ変わらない。

協会ですれ違えば普通に挨拶を返してくれるし、自分のような新人にも気さくに接してくれる。

(本当にすごい人なのに……。)

そう思うたびに少しだけ尊敬の気持ちが強くなる。

すると恵がこちらへ気付いた。

「あっ、雛乃ちゃん!」

笑顔で手を振ってくれる。

「あ、おはようございます!」

雛乃も慌てて頭を下げた。

「おはよう。」

蓮も微笑みながら挨拶を返す。

「今日は草原?」

「はい!」

「先輩たちと東側を探索する予定です。」

「そうか。」

蓮は静かに頷いた。

「無理だけはしないで。」

「はい!」

短い会話だった。

それでも、その一言だけで肩の力が抜ける。

「ありがとうございます。」

二人は食事を終えると協会へ向かっていった。

その後ろ姿を見送りながら、雛乃は小さく微笑んだ。

(私も頑張らなきゃ。)


◇◇◇


探索者協会前。

今日も多くの探索者が集まっている。

「皐月!」

「おはようございます!」

声を掛けてきたのは、ここ数週間ずっと一緒に探索している臨時パーティーの先輩探索者たちだった。

「今日も頼むぞ。」

「はい!」

協会で依頼を受け、一行は東門から草原地帯へ向かう。

第五ゲヘナの草原は広大だった。

どこまでも続く草原。

吹き抜ける爽やかな風。

遠くではホーンディアの群れが草を食み、空には鳥型魔物が旋回している。

一見すれば平和そのものだ。

しかし、その一歩先には命懸けの戦いが待っている。

「右前方。」

先頭の探索者が小声で言う。

「ホーンディア三体。」

全員が静かに武器を構える。

「皐月、援護を頼む。」

「はい!」

雛乃は杖を前へ向けた。

「風精よ、刃となれ――《ウィンドエッジ》!」

淡い緑色の魔法陣が展開される。

放たれた風刃が先頭のホーンディアの脚を切り裂いた。

「ブルルッ!」

体勢を崩した瞬間。

前衛二人が一気に距離を詰める。

「せいっ!」

「はあっ!」

数分後。

三体とも討伐完了。

「よし。」

先輩探索者が笑う。

「今のタイミング良かったぞ。」

「ありがとうございます!」

以前なら魔法を撃つだけで精一杯だった。

今は味方の動きを見て、最適なタイミングで援護できるようになってきた。

ほんの少し。

本当に少しだけだが、自分も成長している。

そう思える瞬間だった。


◇◇◇


昼前。

木陰で休憩を取る。

雛乃は水筒を口へ運びながら、ぼんやり空を眺めた。

青い空。

流れる雲。

穏やかな風。

その景色を見ていると、自然と神代たちのことを思い出す。

(今頃は森林地帯かな。)

フォレストベアが普通に現れ、さらに奥にはイヴガルムのようなS+レートまで存在する危険地帯。

それでも二人は、その森を探索している。

もちろん強いからだ。

けれど、それだけではない。

慎重だからだ。

以前、宿で話した時のことを思い出す。

『焦らなくていい。』

『自分に合ったペースで探索すればいいんだ。』

あの言葉。

決して才能があるから言える言葉ではなかった。

無理をして命を落とす探索者を何人も見てきたからこそ出る言葉だったのだろう。

(私も……。)

焦らない。

一歩ずつ進む。

それが今の目標だった。

「何考えてる?」

先輩探索者が笑いながら尋ねる。

「あっ。」

雛乃は少し照れ笑いを浮かべる。

「神代さんたちのことです。」

「はは。」

先輩も苦笑した。

「今じゃ第五ゲヘナの有名人だからな。」

「S+レート飛竜と戦った探索者なんて聞いたことねぇ。」

「しかも高校生だろ?」

別の探索者も頷く。

「けど、一番すごいのはそこじゃねぇ。」

「え?」

「強くなっても変わらないことだ。」

その言葉に雛乃は静かに頷いた。

確かにそうだった。

あれだけ有名になっても、蓮は今まで通りだった。

新人にも優しい。

受付職員にも礼儀正しい。

誰かを見下すこともない。

だから自然と人が集まる。

(私も、あんな探索者になりたい。)

心からそう思えた。


◇◇◇


午後。

再び探索を再開する。

今度はグラスウルフ五体との戦闘になった。

「囲まれるぞ!」

「皐月!」

「はい!」

雛乃は冷静に魔法を選ぶ。

「水精よ、流れとなれ――《アクアバインド》!」

水流が一体の脚へ絡み付く。

動きが止まる。

「今です!」

味方が一気に仕留める。

さらに、

「火精よ、槍となれ――《フレイムランス》!」

炎の槍が別の一体を牽制。

味方が安全に立ち回れるよう支援を続ける。

戦闘終了。

「お疲れ!」

「ありがとう!」

先輩探索者が笑った。

「最初に比べたら見違えたな。」

「本当ですか?」

「ああ。」

「魔法を撃つだけじゃなく、ちゃんと周りが見えてる。」

その言葉が嬉しかった。

認めてもらえた。

少しだけ、自信になる。

「この調子なら、森林地帯に行ってもいいかもな。」

その一言に雛乃の目が輝いた。

「本当ですか?」

「もちろん無理は禁物な。」

「はい!」

嬉しかった。

森林地帯。

神代さんが歩いている場所。

目標。

でも、不可能ではない。

そう思えた。

夕暮れ。

帰路につきながら雛乃は空を見上げる。

(もっと強くなろう。)

(いつか神代さんや恵さんと、一緒に探索できるくらい。)

焦らず。

少しずつ。

自分の歩幅で前へ進んでいく。

それが今の自分にできる、最高の努力なのだから。

誤字脱字等御座いましたら指摘お願いします!

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