S+レート
前回のおさらい
イヴガルムとの戦闘が始まる。
恵が倒れた巨木へ一瞬だけ視線を向ける。
《天眼》が状態を映し出す。
生命反応、安定。
《盾神の守護》健在。
意識消失。
「……生きてる。」
蓮は小さく息を吐いた。
ならば今、自分がやるべきことは一つだけだった。
「絶対に……あそこへ近付けさせない。」
剣を構え直す。
イヴガルムもまた、蓮だけを見据えていた。
翠色の双眸。
獲物を値踏みするような視線。
先ほどまでとは違う。
城壁も盾も突破できず、自分へ傷を付けた相手を「敵」と認識したのだ。
「グルルル……。」
低い唸り声と共に、前脚がゆっくりと地面を掻く。
次の瞬間。
ズァァァッ!!
漆黒の影が一直線に駆けた。
速い。
《天眼》が追えているからこそ分かる。
一般人なら、消えたとしか思えない速度だった。
「《魔法盾》!」
ガギィィィン!!
爪と黄金の盾が激突する。
火花が飛び散る。
しかし今度の攻撃は一撃では終わらない。
イヴガルムは巨木を蹴り、地面を滑り、四方八方から連続で襲い掛かってきた。
ガァン!!
ギィン!!
ドゴォン!!
衝撃が休むことなく続く。
蓮は《天眼》で軌道を読み、《魔法盾》を寸分違わず差し込んでいく。
だが…。
「重い……!」
一撃ごとに腕へ痺れが蓄積していく。
《魔法盾》は壊れない。
だが、受ける蓮の身体までは無敵ではない。
足元の地面は削られ、木の根が砕け散る。
それでも一歩も退かない。
「グァァァッ!!」
イヴガルムが吠える。
次の瞬間、尾が大きくしなった。
「来る!」
ブォォォォン!!
巨大な鞭のような尾が横薙ぎに振るわれる。
「《前方城壁》!!」
黄金の壁が立ち上がる。
轟音。
しかし。
イヴガルムは城壁へ尾を当てる直前、身体を捻った。
「……!」
フェイント。
尾を途中で止め、その反動で一気に上空へ跳び上がる。
「しまっ――」
蓮が見上げた時には遅かった。
真上。
木々の隙間から薄らと光る太陽光を背にした黒い影。
両前脚を揃え、一直線に落下してくる。
「《魔法盾》!!」
ズドォォォォォン!!
凄まじい衝撃。
地面が陥没した。
蓮は両腕で盾を支えながら耐える。
「ぐっ……あぁぁっ!!」
全身へ衝撃が突き抜ける。
口の中へ鉄の味が広がった。
それでも盾は砕けない。
イヴガルムは着地すると同時に後方へ飛び退く。
翠色の瞳が細くなった。
まるで。
「……学習してる。」
蓮は息を整える。
城壁は突破できない。
盾も破壊できない。
だから今度は、防御そのものではなく、蓮の体力を削ろうとしている。
知能まで高い。
「厄介だな。」
その瞬間。
《天眼》が新たな動きを捉えた。
イヴガルムの魔力が尾へ集中していく。
「尾か。」
長い尾がゆっくりと持ち上がる。
空気が震えた。
直後。
ブンッ!!
一本ではない。
高速で連続してしなる尾。
残像が幾重にも重なり、どれが本物か判別できない。
「《魔法盾》!」
ガン!!
ガガガガガン!!
連続で叩き込まれる。
蓮は必死に防ぐ。
だが五撃目。
盾を動かす。
しかし。
「違っ……!」
それは囮だった。
本命は真後ろ。
イヴガルムが音もなく背後へ回っていた。
鋭い爪が振り下ろされる。
「《反射パリィ》!!」
ギィィィィン!!
辛うじて間に合う。
しかし衝撃を完全には殺し切れず、蓮の身体が吹き飛んだ。
木へ激突。
幹が大きく軋む。
「がはっ……!」
肺の空気が一気に押し出される。
それでも立ち上がる。
イヴガルムは追撃してこなかった。
十数メートル離れた場所で静かに見つめている。
「試してるのか……。」
どこまで耐えるのか。
どこまで反応できるのか。
まるで遊ばれているようだった。
その事実が蓮の胸へ重くのしかかる。
「だったら。」
蓮は剣を握り直す。
「俺も試してみる。」
《魔力付与エピテマ》。
剣がギリギリ耐えれる魔力を流し込む。
黄金の輝きが一段と強くなる。
イヴガルムが動いた。
同時に蓮も踏み込む。
真正面から。
互いに一直線。
「はあぁぁぁっ!!」
「グァァァァッ!!」
《魔法盾》と爪が激突する。
ギィィィィン!!
火花が森を照らす。
イヴガルムはそのまま爪を滑らせ、横へ流す。
蓮も《魔法盾》返し、剣で斬り上げる。
だが飛竜は後脚だけで跳び、紙一重で回避。
着地と同時に尾。
「読んでる!」
蓮はしゃがむ。
尾が頭上を通過。
そのまま懐へ潜り込む。
黄金の剣が胸部を狙う。
だが。
イヴガルムは翼を地面へ叩き付けた。
大量の土砂が巻き上がる。
視界が遮られる。
「くっ!」
《天眼》だけが頼り。
魔力反応を追う。
右。
いや違う。
「上!!」
ドォォォン!!
飛び掛かったイヴガルムの体当たりを受け止める。
凄まじい衝撃。
しかしその瞬間だった。
イヴガルムとの距離は、ほんの数十センチ。
翠色の瞳と蓮の視線が真正面からぶつかる。
その一瞬。
飛竜の瞳に映っていたのは、獲物を見る目ではなかった。
「……!」
驚愕。
この小さな人間が、自分の攻撃を何度も凌ぎ続けていることへの驚き。
そして蓮もまた悟る。
「この距離なら…届く!」
黄金の剣を握る左腕へ、これまで以上の魔力が集まり始めた。
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